仲直りはいつもの方法
敢えて言おう。食べ物に罪はないのだよ。
ってことで、あの美味しいお菓子はすべて俺の腹の中に入ったのでした。
ポールもペット達も俺からお零れを貰えると思って、いい子で待っていましたが…あげないよ!
俺もアジュとサフランを見習ってヤケ食いです。
目の前でバカスカお菓子を頬張るご立腹の俺を見て、一人と二匹は涎を垂らしながら諦めてふて寝してました。
甘ったるい口の中を自分で出した美味しい水で流し、ツンツンしたまま部屋を出た。
ポールもブルーノもアクアも味方だと思ったのに!
周りに構われれば構われるほど怒りが薄れていかないんです。子供だからね!!
気持ちと考えに折り合いをつけるのは時間が必要なんですよ。それも、一人の時間!
「はー…外食することにしようかな…」
行き先を告げないで一人で出歩くのは良くないと思い、大部屋の女性陣に告げて一人で行動することにした。
ふっふっふっ…誰も連れて行かないなんて初体験でドキドキしてきますな!
中部屋と変わらない扉の前に立ち、ドアに付けられているベルを爪で軽く弾いた。
すると、物音も足音もしないでドアが開いた。
「これは、ご主人様…どうかしましたか?」
「リブラ、悪いんだけど託を頼めるかな?」
「はい、私で良ければ…」
「今日の夕飯は、俺いらないから。」
「え?どういうことでしょうか?部屋でお取りになるのですか?」
静まり返った部屋から突然、鳴き声が響き渡り、バタバタと騒がしい足音が聞こえたかと思うとサフランが、涙と鼻水でグチャグチャになった顔で飛び出してきた。
嫁入り前の女性の顔とはとても思えない酷い顔だ。
「わわわわわ私がいるからですか!!!そんなに怒っていらっしゃるんですか!!!」
「いや、ぶっちゃけお前のこと怒ってない。むしろ怒る要素がない。」
「どういうことですか!?怒るほどの価値もないとおっしゃるんですか!?」
「ネガティブ巫女だな…お前は、あの場に残っても残らなくても何も変わらん。嫁入り前の女に巨人の奴隷をつけようだなんて思ってないからな。」
「……なんだー…そういう事なら早くいってくださいよー。」
「ご主人様…サフラン様が落ち込んでいて、サラ様までつられて落ち込んでしまって大変でした。」
「そうですよ!それにフィアットなんて怯えてベッドから出てきません!」
「怯えてるのは兄ちゃんとアジュのせいだろ。とにかく俺は一人になりたいから外食する。邪魔するなら捨てるからな。」
「「いってらっしゃいませ。」」
「即答だな!」
「あ、でも、ポールかブルーノを連れて行った方がいいんじゃ…」
「あいつらは…敵の手に落ちた…俺の味方じゃない。」
早口で呟いてからその場を後にした。
これ以上廊下で話していたら迷惑になるし、兄ちゃんとアジュが聞き耳を立てていたら嫌だからな。
宿を一歩出るとなんだか新鮮な気持ちになった。
フードを目深く被りなおして、服屋を探すことにした。
フードマント自体が目立つから暗い色のフードマントと普通の男子が着る服を探す為だ。
姿や顔を隠して行動するのが、この国では結構普通だから別に女装じゃなくてもいい。
女の子一人で外食したら絡まれそうだしねー。
そんなフラグバッキバキに折って燃えるゴミの日に捨ててやる!
あ、この世界ごみの回収なんてないけどね。多分!
「はー…立派な店構えだな…」
「入口で立ってるなんて邪魔だよ、お嬢ちゃん。」
「あ、すいません。」
確かにこんなところで立ってないで中に入るとするか。
人の波に押されるように店内へと入り、目新しいものを物色して歩いた。
本当に色々と珍しいものが揃ってるし、服一つ一つを取っても縫製が丁寧で、高いものになると刺繍がびっしり施されている。
高級なものは、後日何かに使うために見に来るとして、今回はありふれた服を購入し、試着室を借りて着替えた。
はー、フードマントって便利!
姿が変わってもこれなら分からないから騒ぎにもならない。
服とフードマントを肩掛け鞄に入れて、今度は表通りを歩きながら食堂を探した。
どこも凄いな…っとカンバーのこと笑えなくなりそうだ。
気を抜くとつい、足を止めて周りを見渡してしまう。
これじゃ、お上りさんだってバレて変なもん売りつけられたり難癖つけられる。
あまりキョロキョロしない様に、気を付けて散策していると公園のような場所へと辿り付いた。
芝生があって、レンガで整備された道、布を敷いて寝転んでゆっくりしてる人もいる。
そんな中、屋台がいくつか出ていて、一番いい匂いのする屋台へと足を向けた。
「ふはー…美味しそうな匂い。」
「おや、坊や一人かい?」
「ああ、大丈夫です。お金ならちゃんと持ってます。」
「いや、そうじゃなくて…これ買ったら親のところに戻るんだよ?」
「え…そんなに治安が悪いんですか?」
「悪いなんてもんじゃないよ…この間、悪名高い将軍が隣の国で暴れたらしくてね。それで、遺体を送り付けられたらしいんだけど、未だに両国ともピリピリしてるんだよ。それに乗じて犯罪も増えてきてるのさ。」
噂話をしながらもおばさんは、慣れた手つきで串焼きを焼いてたれをつけて渡してきた。
俺は、鞄から小袋を取り出して小銭をおばさんへと渡して、あったかい串焼きを手に入れた。
「心配してくれてありがとう。これを食べながら帰るよ。」
「そうしな…できれば、振り返らずに速足で帰るか、何処かのお店に入るといいよ。あんたのことを見てる連中がいるからね。」
おばさんは、こういった事に慣れているのだろうか。口元を首に巻いている手拭いで隠しながらこっそりと教えてくれた。
俺を見てるとは妙だな。
俺は、顔を出していないし途中で着替えている。
それなのに見てくるってことは子供を攫って奴隷にするのか?
おばちゃんへ一礼して、アツアツの串焼きを貪った。
うまし!このタレ美味いなー。肉も下茹でしてから焼いたのか、ほろほろと解けていく。
幸せ―…今、攫われたら相手を凍らせちゃいそう。
頼むから手を出してこないでもらいたいな…
リスのように頬を膨らませて串焼きを堪能しつつ、公園から離れて再び店の立ち並ぶ通りに戻った。
喉か沸いたから喫茶店的なもの探すかなー。
「坊主…変なのにつけられてるから振り返らずに逃げた方がいいぞ。」
たまたま足を止めた果物屋の主人に、いきなり忠告された。
驚いてオジサンの顔を見ると、人の良さそうな顔をしていても口元を布で覆っている。
「有難う…子供を攫う人って多いの?」
「この頃、特に多いな。なんでも城の幹部や貴族の間で流行っているそうだ。」
「すぐに、その流行が廃れてくれることを願うよ。」
お礼に果物を3個ばかり買って果物屋を後にした。
確かにパッと見ると俺よりも年が下の子供が一人で歩いているのを見ないな。
ふと、とある可能性に気が付いて、裏路地へと入ってみた。
俺の考えがあっていたら間違いなく慌てて、この路地に入ってくる。
路地に入ってすぐに身体強化の魔法を使って曲がり角へと姿を隠した。
「うあぁああああ!!!」
いや、別に何もないよ?何もないんだけどね?叫んでみたわけですよ。
「エル!!」
「兄ちゃん…やっぱり!!!」
「あ…何もなくてよかった…」
「何もなくないよ。兄ちゃんがつけてきてるのは問題です。」
「エルが、一人で見知らぬ町を歩くなんて危ないから…」
「やっぱり、廊下での話聞いてたんだ!もう!兄ちゃんとアジュのことで頭を冷やしたいから一人で行動してたのに!」
「だと思ったから黙って見守ってたんだよ?」
「町の人たちに注意されながら歩いてたんだけど!」
いっつもの俺なら路地の角から颯爽と助けに現れた兄ちゃんに、胸をときめかせて兄ちゃんイケメンカーニバルを脳内で開催するけど、今は違うからね!
兄ちゃんだけがここにいるなんてのはおかしい。
「アジュもいるんでしょ!」
建物の上から忍びのように現れたよ、うちの弟。暗躍スキル上がりすぎてない?
目の前に降りてきたアジュは、すっかりしょげている。
「エル…ごめんね…」
「俺もごめん。」
二人ともすっかりしょげてしまっている。
うう…こんなしょげてる二人を許せないほど、俺は鬼じゃないよ!
はー…ブラコンの辛いところです。
怒っていたはずなのに、反省してる二人を見てすぐに許してしまう俺。
溜まらずに二人共両手を広げて抱きしめて、二人の頬に擦り付いていました。
「俺も怒りすぎてごめん。」
俺たち兄弟のいつもの仲直り方法。
環境が変わってもこれだけは変わらないみたいです。




