兄弟喧嘩は仲がいい証拠
本編続きです。
可愛い奴隷をあわよくば手に入れようとしていた俺の考えは、見事に失敗に終わり、再びとんでもない問題物件を掴まされることになった。
奴隷一人とペット一匹が増えて、宛ら大家族です。
年末とかにテレビで特番組めそうなくらいの大所帯です。
どうやってこの先やっていくか考えているとあっという間に地上に着きました。
すると、兄ちゃんとアジュとサフランが申し訳なさそうな顔をしていて、後から合流したポール達は少々あきれ顔です。
いや、確かに初めは一人で逃亡生活とか考えたし、寂しいから誰か一緒にってのは思ったよ?
でも流石にこんなに増えるなんて思ってなかったもん!
意外に面の皮が厚いのか、肝が据わっているのかわからないが、おかしな空気の中一人一人に自己紹介していっているダッセルと新しいペットのアクア。
俺だったら絶対にこんな空気の中で笑いながら自己紹介とかしていけない。
「宿決めてとっとと引きこもりたい…」
「合流組が良さそうなところを聞いてきたらしいからそこにしない?」
「………」
兄ちゃん…俺は怒っています。
珍しく怒ってるんだからね!
眉間に皺を寄せたまま、兄ちゃんを無視してポールの側へと近づいた。
俺と兄ちゃん、アジュの様子を見て不審に思ったのか、ポールが難しそうな顔をして首をひねっている。
「ポール、宿に行こう。」
「珍しいな…喧嘩したのか?」
「ノーコメント。色々と話したいことがあるから場所を移動しよう。」
「ああ。宿に着いたら仲直りするんだぞ?」
「ノーコメント。」
やれやれと零してからポールが先を歩きはじめる。
俺達は皆フードを目深く被り、奴隷商人に別れを告げて裏路地を後にした。
宿に行くまでの間に、アジュに何度か話しかけられたが無言を決め込んだ。
大体、俺達兄弟の喧嘩は毎回こんな感じだ。
三人そろって喧嘩するってことは少なく、2対1になる。
殴り合いをすることは数えるほどしかないが、口を利かなくなることはよくある。
今回もそのパターンだとすぐに分かった兄ちゃんは、さっき話しかけてきて以来話しかけてきていない。
俺たち兄弟の雰囲気が悪いと自然と他の仲間の口数も少なくなっていき、宿に着くころには何だかお葬式状態で、誰も口を開かなくなっていた。
宿に入ると、いつも兄ちゃんが率先して受付を済ますのだが、変に気を利かせたポールが受付をした。
なんとなくだが…嫌な予感しかしない。
人間関係スキルが、奴隷たちよりも底辺なポールのことだ。
仲直りさせるために、俺たち兄弟を同じ部屋にすることだろう。
「ポール…部屋なんだが…」
「ああ、兄弟一緒の方がいいかと思ったんだが、ストラトスが今日は離した方がいいだろうって言ってきてな。」
なんてできた子なんざましょ!ストラトス偉い!
思わず、ポールとストラトスにサムズアップ!
こういう喧嘩は、一晩おけば自然に仲直りできるものです!だって、兄弟だからね!
チラッとポールの影から兄ちゃんとアジュの様子を伺うと怖いので目を背ける結果になりました。
いやー、無視したりして顔を見ないようにしてたから気が付かなかったけど…暗殺者みたいな人相になってたよ!
なんか、俺が怒ってるはずなのに逆切れされてる!?
見なかったことにして割り当てられた部屋に行こう!
「今日の部屋割りは?」
「借りられた部屋が、大部屋と中部屋3つだな。大部屋に女性陣全員。中部屋は、俺とエルとブルーノとアクア、アジュとカンバーとイヴェコ、ライルとストラトスとダッセル。」
「その部屋の割り振りしたのは、ストラトスだな?」
「おお、よくわかったな。」
「ポールじゃ、そんな気の利いた部屋割りになんてできないからな。」
「無理だな。こんな空気悪い状態でさらに色々察しろとか、俺の容量を越えている。」
ポール!おまえ大人だろうが!無駄に年取った大人だな!
いつもなら嚙みつくところだが、兄ちゃんと喧嘩中だから大人しくすることにした。
暗殺者兄弟から逃げるよう、後をポールに任せてとっとと鍵を握り締めて部屋に向かった。
俺が悪いわけじゃないのに、俺が悪かった!って謝っちゃいそうだからね。
今日一日は、俺からのお仕置きなんだから!
客室のある二階へ駆けあがり、鍵についているプレートと同じマークの部屋の前に立った。
食事も部屋まで持って来てもらおう…ポールに!
「さて…どんな部屋かな~?」
ドアは、彫刻の施されている木で出来ていて軽く開く。俺の居た国だったら結構ドアも重たかったけど、素材が違うのかな?
ドアを開けると驚くほど白と薄茶色で統一された部屋になっていた。
なんとなくラグジュアリー。
裕福な国は、町の宿も高級感溢れていますな!
植物の蔦を乾燥させて編まれている椅子なんか天井からぶら下がっている。
ブランコのような椅子に胸が高鳴らないわけがなく、目標に向かってはしゃいで走り、壊さないようにとそっと腰を下ろした。
初めはおっかなびっくり揺れていたが、慣れてくると全身の力が抜けて心地よく身を揺れに任せていた。
「はー…なにこれー…すごーい…」
「俺が神経をすり減らしているのにいいご身分だな。」
《あー!える、いいなー!》
《ズルいぞ!オイラもそれに乗りたい!》
「二匹で仲良く乗りなね。」
いい気分に浸っているとポールが、今まで見た中で歴代トップ5に入りそうなほどぐったりしていた。
お、俺悪くないもん!!!…でも、一応飛び火しちゃってるから悪いのか…
ブルーノとアクアにブランコ椅子を譲って、不機嫌顔のポールの元へと歩み寄った。
「ごめんなー?ダッセルと契約するときに、俺じゃなくて他の人でもって考えてたんだけど、三人に読まれちゃってさ…三人とも俺を残して逃げたんだ。」
「そりゃ、酷い話だな。他の奴隷もお前と契約したんだろ?なら一人くらい…なぁ?」
「そうだろ?まぁ、嫌にしても逃げることないよね…」
「でも、ダッセルだったら俺でも逃げるかもしれんな。」
「いや、ポールだったら確実に逃げてるだろ。それに、筋肉マッチョポールが、更に筋肉マッチョ巨人を奴隷にしてるとか見るに堪えない。
それと俺は、サフランが逃げても仕方ないとは思ってる。だって、一応女の子なんだからダッセルみたいな巨人を連れているなんて確実に婚期逃すじゃん?」
「今でも危ういからな。」
「兄ちゃん達ならいいかなって思ったんだけど…でも、逃げることないじゃん!?」
ポールと思い出しながら話しているうちに、冷めていた怒りが沸々と湧き出してきた。
それに気が付いたポールが、徐に俺の口へドライフルーツを押し込んで、苦笑を漏らした。
「甘いものでも食べて落ち着け。」
「ん…あんまーい!これってハニーフルーツ?」
「ああ、美味いだろ?この宿で作ってる名物の乾燥菓子だと言っていた。」
「へー。ハニーフルーツを乾燥させるなんて贅沢だね。…誰に持っていけって言われた?」
「………ん?」
「とぼけるな!お前がこんなしゃれたものを俺に薦めるわけがない!!」
「何故そう言い切れる!!」
「お前なら市場で売ってる果物を買ってくるのが関の山だ!大体、こんな美味いものを持っているのに、ブルーノとアクアが俺の方に来ないなんておかしい!!」
「ぐっ!」
「兄ちゃんか!?アジュか!?」
「……二人に渡された…」
「きえええええええええええ!!敵の手先め!!!!」




