★ハロウィン企画 感謝祭当日★
小話なので短いです。
ハロウィンに似せた感謝祭当日。
エルは、一人で宿の一番簡素な部屋で目を覚ました。
いつもなら、宿に泊まると同室になる全裸大王ポールが居ない。
そのことを不思議に思いながら部屋を見渡した。
やはり、姿も気配も感じられない。
まだ完全に覚醒していない体を引きずりながらベッドから這い出ると、水を飲もうとテーブルへと移動した。
テーブルには、花とメモが残されていた。
”おはよう。今日は、皆で先に食堂に行っているから、クローゼットにしまってある服を着て集合”
「クローゼット?」
首を傾げて寝ぐせの付いたままの頭をガリガリと掻いてクローゼットへ向かった。
新しい服でも用意してくれたのだろうかと、気の抜けた欠伸を一つしてから扉を開ける。
「なんだこれ…カボチャパンツ?白いタイツ?なんだこれ??」
疑問符ばかりが浮かぶが、クローゼットの中には、この王子様服一式以外何も入っていない。
パジャマで出るわけにもいかないので仕方なく服を身に付けることにした。
笑われたのならば、怒ったり拗ねたりすればいい。
字から見てライルの字だったから、笑われるような悪戯ではないだろう。
エルは、兄をとても信頼している。
これがポールだったら話は別で、決して服を着ることはなかった。
「こんな服を着させて一体何を始める気なんだ?」
一式身に付けて、最後に簡易的に作られた王冠を被って部屋を出ると、猫の被り物をしたブルーノが廊下に座っていた。
エルは、ブルーノに飛びかかっていき、全身をくまなく撫でまわした上、顔をふかふかの毛皮に擦りつけた。
瞬時に興奮して、なかなか興奮が納まらない様子。
影で見ていた魚の着ぐるみを着たアクアがムスッとしたまま飛んできた。
《ちょっと!オイラだって可愛い格好してるんだから!!》
「おお!アクアは、魚か!可愛い、可愛い!」
《ぶるーののほうが、かわいいの!》
「二匹とも可愛い、可愛い。二匹とも仮装して俺も仮装させられてるんだが…何かのお祭りが町であるのか?」
《まぁ、祭りだな!皆、それぞれ面白い格好してるぜ!》
可愛らしい仮装をした二匹を引き連れた王子様は、セクシーな格好をした三人組に出会いました。
着替えが終わって丁度部屋から出てきたところのようです。
サラは、白いレースと皮で出来たコルセットミニドレス。
サフランは、露出度の高いメイド服。
リブラは、黒の皮で出来たキャットスーツで胸の谷間がガッツリ見えている。
いつもと違いすぎる格好に、エル少年は動きを止めました。
「お前たち…」
「あっ!どうですか?思い切ってみたんですよ!」
「どこまで残念なんだ!」
「「「なんで!?」」」
「服のチョイスが間違ってる!服はいいんだ!お前たち、サラがリブラの来てるヤツで、サフランがサラの来てるヤツで、サラがサフランの着ているメイド服のほうが似合ってていいだろう!」
「「「我が儘!」」」
おやおや、女性陣が肩を怒らせながらみんなの居る食堂へと入っていきました。
デリカシーのない主人公です。
こういうところが、ハーレムにならない原因の一つなのかもしれません。
食堂へ入ると、色々な野菜や穀物が部屋中の壁や窓に飾られていました。
更に、壁にチョークで大きく文字が書いてあります。
”ハッピー ハロウィン エルグランに感謝を込めて”
エルは、鼻の奥がジンッと痺れるような感覚に襲われ、つい俯いて顔を皆から隠しました。
色々な思いが小さな頭に巡ります。
一人一人との出会いを思い出します。
最後に、みんな自分の話にしっかりと耳を傾け、心に留めておいてくれているのだと感動しました。
他愛もない話。
食事中にぽろっとした話だったのに、いい仲間達です。
ブルーノとアクアが心配して顔を覗き込むと、涙をぽとぽと零しているエルの顔が目に入り、オロオロと回りを飛んだり、歩き回ったりしています。
そんな時は、いつものように兄であるライルが、そっと肩を抱いて自分の方へと引き寄せます。
「エル、喜んでくれたかな?」
「兄ちゃん…もちろんだよ。ありがとう…みんな、本当にありがとう。」
「こっちこそ有難うだよ。」
『いつもありがとう!』
その日は、遅くまで騒ぎました。
テーブルに並んだ料理は、どれもエルの好きなものばかり。
ライルとダッセル、アジュからのブレスレットも何とか間に合い、今ではエルの腕で光っています。
むくれていたセクシー3人娘も機嫌を治して料理を貪って頬を膨らませている。
アジュとライルの二人は、ピエロの格好であれこれエルの世話を焼いています。
やっぱり、全裸に近い格好のポールは、ゴブリンの仮装だと言い切り、コック姿のカンバーとテーブルゲーム。
執事姿のイヴェコとメイド姿のフィアットは、何も言わずにニコニコ笑ってエルの側に立っています。
雪だるまの着ぐるみを着たダッセルと鍛冶職人の格好をしているストラトスは、皆へ料理を取り分けたり、飲み物をコップへ注いだりと何故か給仕のまねごと中。
とても楽しい感謝祭。
窓の外に、気配を感じたエルは、表情を思いっきり曇らせます。
窓の外には、青いグラデーションがかった髪の男と赤いグラデーションがかった髪をした男が、呼んでもいないのに鹿とウサギの格好を覗いる。
「折角いい雰囲気なのに、なんでお前たちがいるんだよ!!帰れ!!!!!」
「酷いなぁー。こんな楽しいことしてるんだから混ぜてくれたっていいだろ?」
「神の仕事は暇なのかよ!!!」
《忙しいに決まっている。しかし、エルの感謝祭なら参加しなくてはならない。》
普段から多い人数なのに、さらに増えてますます賑やかになりました。
はじめは鬱陶しいと喚いていたエルですが、適応力がここでも発揮されて先ほど同様、パーティーを楽しみ、終始幸せそうな笑顔でした。
この日のことをエルは、一生忘れないでしょう。
皆に感謝される祭りが、いつの間にか自分が皆に感謝する日になったのですから。




