表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村長さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 奴隷大国ホフタ
63/82

★ハロウィン企画 感謝祭前夜 ★

番外編で明日、ハロウィン当日編を上げます。火曜日になったら本編の続きを上げます。

ここはとある町。

賑やかな一行が、長い旅の疲れを癒すために連泊を決めた極々一般的な宿。

壁は薄く、一回に泊まれる人数は15名ほどの小さな建物に、貸切る形で宿泊を決めた一行は、いそいそととある支度を始める。

それは、一行のリーダー的存在の美しい少年の話から始まった。

彼の話では、異国の地では秋の収穫を祝い、悪いものを追い出すの祭りの一環として、子供たちがお化けや空想の魔物の格好をして家々を訪ねて、悪戯をされたくなかったらお菓子を寄こせと言って回る行事があるという。

更に歴史が進むと子供だけではなく、大人も仮装を楽しみ、お菓子を寄こせと回らないけれども賑やかなパーティーを企画して飲み明かして騒ぐという。

一行の中には精神的にも子供であったり、身体的にも子供がいたりしたので、その楽しそうな話に喰いついた。

村や町を挙げての祭りではなく、個々でも楽しむことのできる祭りであるということで、今回みんなで楽しむという話になった。

ただ、今回のパーティーはただ収穫を祝うだけのハロウィンではなく、毎日リーダーとして皆をまとめている苦労人の少年の為にやろうと内緒で進めることになった。

宿に着いた時点で、その計画は少年の兄によって進められることとなる。


「さて、エルにはベルベリのパイを食べてもらってぐっすり眠って貰っている。皆予定通り恙無く(つつがなく)動いてくれ。」

『了解。』


エルは、ベットでぐっすり寝ていて、食べた量からして半日は寝ている。

ライル指揮官の元、料理を用意するグループ、飾りつけと衣装調達グループに分かれる。

料理用意係は、ポール・サラ・カンバー・イヴェコ・ストラトス。

衣装調達係は、アジュ・サフラン・フィアット・リブラ・ダッセル。

総監督は、ライル。助手はブルーノとアクアで死角なしの布陣である。

今回、宿貸し切り状態という事で、こじんまりとしているキッチンを借りれることになったので、商店へ買い出しに行った料理担当係。

おやおや、何か揉めているようです。


「エルは、パプに似たものを使った料理って言ってたんだからパプは買わないとダメだよ!」

「アレは甘いんだから料理じゃなくて菓子に使えばいいだろ。」


どうやらカンバーとポールが揉めています。

奴隷とサラしかいないので誰も仲裁に入ることが出来ないようです。

パプとは、見た目カボチャで味はサツマイモに近い穀物。

ライルが、騒ぎに気が付いて動きます。


「パプを使ったスープをエルは好むよ?」


まさに鶴の一声。二人は、和解して買い物に出かけていきました。

皆共通してエルを喜ばせようと考えているから、エルを一番知っているライルの言葉はとても有効的なもののよう。


「みんなの分の衣装を早く決めて、部屋の飾りつけにも取り掛からないと!」

「しかし、拙者は皆の好みが分からない故、制作致しても気に入らないと言われたら…取り掛かることが困難でござる!」


こちらは、衣装係のアジュと新顔のダッセルが揉めています。

ダッセルは職人で何でも作るのが早くて上手いですが、職人気質故、完璧を求めます。

アジュは、深く考えなくても卒なくこなす天才タイプなので、言葉で上手く臨機応変にやってもらいたいと伝えたいのに伝わりません。

ここでやはりライルの出番です。


「アジュは、部屋の飾りつけでダッセルは自分の感性を信じて用意してくれてかまわないよ。要は、エルが楽しむことが大切なんだから。」


二人ともエルの名前が出ると目の色が変わります。

一人は、愛する人の為。一人は、敬愛する主の為。

持ち回りがきっちり分担されたので迷いなく動き出しました。他の者も自己判断で動き出します。

やはり総監督は違いますね。


《える、しあわせそうにねんねしてる。》

「そうだね。明日になったらもっと幸せな気分になってくれたらいいのだけど。」

《だいじょうぶ!》

《皆が楽しそうに準備してんだし、エルなら泣いて喜ぶんじゃないか?》


彼らに根拠はありませんが、エルは喜んでくれると確信しています。

実際のエルは日頃から、ふとした時に思っていたんです。

自分のせいでみんなを巻き込んで連れ回しているんじゃないか。

自分のせいで毎日何かに警戒しながら生きているんじゃないか。

そんな自己嫌悪に陥ってしまう彼が、自分のことを大事に思って、仲間たちが動いてくれることを嬉しく思わないハズがありません。


「みんな順調に作業しているようだから、俺達も自分たちの仕事にかかろうか。」

《プレゼントの石探しだな!》

《えるのおめめみたいな、おそらのがいい!》

《は?オイラみたいに青い方がいいに決まってる!》

「二匹とも喧嘩しない。石は今回決まっています。」


そう二匹に告げて、ライルは微笑みながら部屋を出ていきました。

二匹も置いて行かれまいと慌てて後を追います。

ライルのもうひとつのお仕事は、ダッセルとアジュと協力して作った新しいブレスレットに付ける石を探すこと。

この辺りには、一定の時間になると虹色に光る石が、極たまに見つかるというのです。

虹色の石は、ノームティアーズというもので、露と光と少量の魔素が岩の隙間に少しずつ溜まり固まった結晶のこと。

身に付けると病気しにくくなると言われている。

ここに来る少し前の旅路で、エルは高熱を出す風邪をひいて、数日簡易テントから出られなくて立往生状態になってしまった。

過労と心労で体がストライキを起こしたのだ。

追われて生活するだけでも神経を使うのに、兄弟や奴隷、従者達のことを常に心配しているのだからそうなるのも無理はない。

エル達の国では、子供や危険な仕事をしている家族に無病息災を願って、お守り代わりにブレスレットを贈る風習がある。

エルがずっとつけているブレスレットも兄であるライルが作成したものだが、既にボロボロでいつ切れてもおかしくない。

そこで、ライルと火を得意とするアジュ、物作りが仕事のダッセル三人で作成することにしたのだ。

そして作成中に、ダッセルから耳寄りな情報を得た。

国に伝わっている風習の根本の話。

昔、戦場へ武器の調整係として駆り出された職人が、置いて行く恋人を心配して作ったブレスレットが切っ掛けだったという。

ある日、戦場から帰らない恋人を待っていた娘は体調を崩して寝込んでしまった。

娘は、病で心が弱くなり、縋るような気持ちで恋人を思ってブレスレットに嵌め込まれたノームティアーズに唇を寄せると、一気に体調が戻り、元気に回復した。

その話が広まり、当時安価で手に入ったノームティアーズが爆発的に売れて、品薄状態に。

現在は、ブレスレットの話だけになってしまった。

ノームティアーズは、現在レア扱いになっているが、この近辺の森ではつい最近まで手軽に取れていたのだという。

何故、最近までかというと、小さいダンジョンが出来始めてしまったので小規模のスタンピードが起こったのである。

スタンピードのおかげで森は荒れ、町も一気に寂れてしまった。

エルは、スタンピードの話を聞くや否や、病み上がりの体に鞭を打って皆を引き連れてスタンピードを止めにいった。

到着前に起こったスタンピードを止めるのは不可能だったが、エルの機転で、起こりそうだった第二波は森の中で止めることができた。

その際、森の中で光る石をライルが見かけたのだ。


記憶を頼りに町を出て、森の中へ躊躇なく入っていくが、どこも変わりない木々の並びに足を止めた。


「さて…この辺りだったんだけど…ブルーノ、アクア、七色に光る石を探してきてくれるかな。」

《なんだ、ノームティアーズか?》

《える、またおねつ?》

「違いますよ。というか、貴方達ノームティアーズについて知ってたんだね。」

《皆知ってるに決まってんだろ。俺たちの中じゃ常識だぜ。》

《もんすたーは、からだへんだとなめるの》

《人間達が乱獲したから一時無くなっちまって大変だったんだぜ?》

「モンスターとこうやって話す機会がなかったから意外だね。薬になるって話は本当なんだ…」

《でもからだ、すっごくたいへんだときかないの》

《一応、この間エルが熱出した時に探しに行ったんだけど見つからなかったんだよな…》

《あるかもしれないなら、いってくる!》


ブルーノとアクアが、ライルの元から風のように競いながら駆け出していきました。

当のライルは、探知で周りの気配や魔力を探ります。

しかし、スタンピードの後で何だか探知が落ち着きません。

色々なものの反応があるので整理しきれないのです。


ハロウィンの準備は始まったばかり。

眠り王子が目を覚ますまでには、まだまだ時間があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ