増えるときは増える
森じゃないのに仲間が増えました。
森で出会いそうな感じだけどね!
出会ったら即効逃げる!
現在の俺達は、いそいそと支度をしている巨人待ちです。
どうやら、新顔はダッセルといい、基本鍛冶職人なんだそうだ。
だけど、道具や環境が整わない期間が長引いたので、すぐに作れる環境が整う、服や帽子、手袋、鞄なんかも作れるようになったそうだ。
更にビックリなのが、ちょっとした魔道具なら制作可能なのだという。
これは、いい拾い物をしたかもしれません。
ここでこいつに恩を売って、とっとと故郷に返してたっぷり魔道具と武器を作ってもらおう!
「なぁ、こいつを元住んでたところに連れて行けば任務完了なんだよな?」
「誰もそんなこと、言っていないぞ?」
「はい?何言ってんだよ…保護だろ?」
「ああ、そうだ。」
「え?こいつどうしたらゴールなの?」
「ん?」
おいおいおいおい、ヤな予感するんだけど!
なに商人のオッサン、慌ただしく契約の準備進めだしてんだよ!
俺は、作業を止めさせようと奴隷商人の手を全力で掴んだ。
「ちょっと待とうか…まさか、戻すところもなけりゃ、期限もないんて言うんじゃないだろうな!」
「いや、期限はあるぞ!………此奴に目を付けていた幹部が居なくなるまで…」
「バカなの!?半永久的じゃねーか!」
「エル殿!拙者は、大人しくしていますぞ!それに、作れと言われればなんでも作ります!」
「お前の身長が小さくなる道具を作れ!!!」
「そ…そんな!!」
なんで俺はこんな厄介事ばっかりを…って待てよ!
コイツの契約者、俺じゃなくてもいいじゃないか!
兄ちゃんもアジュもサフランだっているんだし!
俺の考えってそんなに御見通しなのかな…名案を思い付いて満面の笑みで仲間の方を見ると、兄ちゃんもアジュもサフランも部屋からいなくなっていた。
「エルグラン様…皆さま、寒気がするからと部屋を出て行かれました…」
「んがぁああああああああ!!!」
裏切られた感満載で、悔しさとぶつけられない苛立ちで、両手で頭を掻き毟りながら雄たけびを上げて蹲った。
そんな俺を心配して、イヴェコが俺の丸まった背中を優しく何度も撫でてオロオロしている。
ブルーノは、俺の側をぐるぐる回っている。
ストラトスも不安そうに廊下へ出て兄ちゃん達の姿を探すが、無言で戻ってきたので見当たらなかったのだろう。
三人と今日口利かないことに決めましたよ!
すっかり膨れっ面で不機嫌マックスの俺の様子をあまり気にすることなく、契約の術を奴隷商人は遂行した。
いくら腕のいい職人だからって…リスクしかないのに!
「エル殿…ご迷惑をかけることになるのは重々承知しております。しかし、拙者はあなたにピンと来たのです!運命です!」
「どこら辺が運命なんだよ。」
「整理整頓した方が作業しやすいと提言して頂いたところでしょうか。」
「アレだけ汚かったら誰だっていうよ!」
契約もなんだかんだで済んだことだし、とっととここを出てポール達と合流しないとな。
部屋を後にしようと足を踏み出そうとするが、床に足の裏が引っ付いたように動けなくなった。
「ちょっ!どうなってんだ?」
「エル殿?」
「エルグラン様、どうかなさいましたか?」
足が動かなくてもがいていると、今度はガラクタの山へと指輪を付けた指が折れそうなほど強引に引っ張られた。
「うあああああああ!!!」
「エル殿!!!」
―ガッシャアアアアアアッ!!-
引力が働いたように体が浮いてガラクタの山へと腕から突っ込んだ。
まるで指輪が何かを訴えるように光りながら。
ガラクタの山の中で、ふにっとした柔らかいものが指先に触れた途端、部屋中を眩い青い光が埋め尽くした。
柔らかいものが何なのか、無意識に山から引きずり出して両手で掴むと、柔らかいものの正体が、龍の形をした愛らしいぬいぐるみだとわかった。
「それは…拙者がこの部屋に匿ってもらって初めの方に作ったものですな。素材にも拘って龍の皮の端切れと角、中の素材は綿花です。可愛らしくも立派でしょう。」
「無駄にクオリティー高いな…それにしても…指輪がなんか騒がし…ええ!?指輪が!!」
指輪がぶるぶると震えていて無音なのに落ち着かない。
かと思えば、指からするっと抜けて溶け込むようにぬいぐるみへと入っていったのだ。
カーバンクルの高級リングが!!
資金に困ったら売ろうかと思っていたのに!なんてことだ!
《売ろうだなんて酷いこと考えてるな!》
「ぬいぐるみが…念話で話しかけてきてる!呪い!?」
《呪いじゃない!!はー、やっと話かけられるようになった。洞窟からずっと話しかけてるのに全然聞こえてないんだもんな。》
「ふおおおおおお!これは、職人冥利に尽きます!自分の作ったものに魂が宿るとは!!」
《確かにこれを作ったアンタは凄いけど、別にオイラはこれに永住するつもりはないからね!》
「カーバンクルドールか…伝説でしか聞いたことがないが…」
「カーバンクルドール?」
「本当に稀にだが、精巧に作られた人形とカーバンクルの波長が合わないと起きない現象だ。」
《本当に時の運って感じだよね。でも、エルの側に居たらいつか出会う気がしてたんだー》
「………また騒がしいのが増えた…此奴だけここにおいていけないだろうか…」
《酷い!!エルの役に立つよ?多分、他の誰よりも役に立つよ!》
《だまったきいてたら…えるのやくにたつのは、おれ!!》
「はいはい、もうここから出よう…」
これ以上ここに居たら、奴隷商人まで付いてきそうだ。
次の町に行くときは、男の格好に戻って旅芸人の集団だって言い張ろうかな…
美青年、美少年、力持ちの男女、ちょっとだけ占い出来る巫女、一つ目鬼、特殊モンスター、動くぬいぐるみ、半魔族兄妹、ハーフビーストの雑用係、歌えないエルフ…何かできそうですね。
そして、どれもイチャモン付ける隙だらけですね!
はー、これからどうするかなぁー。悩みは尽きません。




