お人好しはスキルかも
薄暗い廊下を無言のまま歩いていると、ふと奴隷商人が俺の指輪に目を止めて、徐に凹凸の激しい醜い手で俺の手を取った。
セクハラかと思っていたが、真剣な顔をしていたので声をかけることなく歩いていた足を止めて、じっと見つめてから継接ぎだらけのポケットへ片手を突っ込んで小さな球体の付いた魔道具を取り出した。
これはギルドでも見たことがある。
アイテム鑑定用の魔道具だ。
小さな球体は、三つ付いているのがよくあるものだが、商人の持っている物は二つしかついていない。
シンプルで、装飾も何もない筒の先に球体をはめ込んで、鑑定したいものを覗き見る。
顕微鏡のようなものだ。
見るものや種類、大きさによって球体を変える。
奴隷商人は、大き目の球体を取り付けて、再び俺の指輪を見た。
暇があれば、ギルドに持ち込んで鑑定を依頼したかったが、バタバタしてたり、へばったりでなかなか時間が取れなかったので、勝手に鑑定されて不本意だが、正直持ち込むことをしなくていいから助かる。
「おっさん、勝手に鑑定してるけど、当然これが何か教えてくれるんだよな?」
「なんだと?アンタ知らないで付けていたのか!?」
「ふざけて付けたら取れなくなっちまったんだよ。」
「……呆れたやつだ……」
「自分が一番分かってるっての。いちいち言うなよ。」
「はぁー…これをどこで手に入れた?」
「アルズトの森だ。俺の相棒の父親が何でも持って行っていいってんで、その延長線で宝石箱を開けてふざけて付けたんだ。結果取れなくなって貰ってきちまった。」
「この指輪は、カーバンクルリングだ。」
「カーバンクルリング?」
「意志を持つ宝石だ。それも普通は血のように真っ赤なのだが、コイツは真っ青だ。ワシも聞いたことしかないが、これは東の大陸のものかもしれん。」
「ほかの大陸の意思を持つ宝石……んで、外す方法は?」
「知らん。そもそも、カーバンクルリングを身に着けて歩いている奴に会うのが初めてだ。本来なら真っ赤なカーバンクルでも魔道具である金庫に入れておくもんだ。」
「そんなに高価なもんなのかよ。」
「様々な薬の原料になったり、術の材料になったり、高級魔道具の材料にもなったりする…極めて貴重なものだ。」
チラッと見ただけで分かるとか…金儲けを超考えてる国ならではだな。
手袋とか買って隠しておかないと俺ごと攫われそうだ。
手袋買うまで手をマントで隠すようにしよっと。
商人は鑑定が終わったのか、俺の手を放して再び足を進めだしたので後ろをついて歩く。
「大陸それぞれにカーバンクルの特徴がある。詳しくは、これから会わせる人物に聞くといい。」
「奴隷商人ってんだから、これから会う奴を俺に売りつけるんだろ?買わなかったらどうすんだよ。」
「買う買わないは双方の自由だ。ワシは、無理には契約させん。」
「双方って奴隷サイドからも断れんのかよ。」
「当たり前だ。これから会わせるのは保護を必要としている。犯罪奴隷とは違うからな。」
「俺は、犯罪奴隷とかいろんな奴隷を見せてもらえると思って付いてきたんだぞ。」
「半魔族の方は、俺に何か感づいてオマエをここへ促したと感じたが。」
「ストラトス…どういうことだ?」
「この商人は、客を選ぶことで有名です。奴隷の質も裏ギルドで商売をしているものとは格が違います。きっとエルグラン様のお力になると…」
「わかった。別に責めている訳じゃないからそんな顔するな。」
イケメンのしょんぼり顔に弱いんです。
慰めようと背伸びをして、よしよしと頭を撫でてやると、はにかんだ様な笑みを浮かべ、嬉しそうに目を細めていたので安心した。
商人が少し歩いてから大きくて立派な扉の前で足を止めると、腰からぶら下げていた鍵の束を外して、扉の真ん中にある鍵穴に指して回した。
大きな扉からはギシギシギャリギャリ歯車が嚙み合って回るような音が響いた。
「言っておくが、奴隷だと思わないことだ。この方は、この国の幹部に目を付けられ攫われてきた少数民族で、職人としての腕も民族の中でずば抜けている。」
「おいおい、堂々と連れて歩いたら完全に目を付けられるパターンじゃないか。」
「アンタなら大丈夫だろ。いざとなったら国を滅茶苦茶にして逃げることができる力がある。」
「俺はそんな好戦的な人間じゃないからね。言っておくけどかなり平和主義者だぞ。」
「はいはい、そういうことにしておいてやる。ここであれこれ言っても始まらんから会ってみろ。」
商人がトントンっとリズムよく叩くと扉が横にスライドして開いた。
ここは、からくり屋敷かなんかなのか!?
扉すら普通に開かないとか…それだけVIPってことか?
部屋の中に入るように手で促され、中へと入るとそこは…めっちゃくちゃ汚い!!
「きったな!なにこの物の散らかり方!足の踏み場あるの扉前だけじゃん!」
「おー、申し訳ない!物を作るとどうしても片付けることを忘れてしまって…」
「作るにしても整理整頓した方がやりやすいだろ…………え?」
本や布、木材や鉄材の山の中から現れたのは、今まであった中でダントツにデカい一つ目の鬼だった。
肌の色は、青くて顔の真ん中にある目は、はっきり二重の大きい黒目。
髪は生えていなくて額に角が三本生えている。
角の大きさは、某お菓子くらいのサイズ。小さめだ。
こんな種族一つしか知らない。
「キュクロプス…」
「おお、この少女は拙者のことを知っておるのか。幼いのに感心だ!」
「……おい、奴隷商人…こいつ、デカいんですけど…顔も体も特徴の塊だよな?」
「…フードマントの巨人サイズなら本人が作ったからあるぞ。」
連れて行かせる気満々じゃねーか!
デカいだけでも厄介なのに、単眼で鬼と肌の色真っ青とか無理じゃん!即バレだろ!
これは多分仲間達も文句言うだろ…俺なら言うね!
そっと窺うように振り返るとみんな平然としてる。
ん?どうしてかな?
再びキュクロプスへ視線を向けると満面の笑みである。
俺は…NOと言えない典型なのか!!!
苦悩に奥歯を鳴らしていると、肩を優しく抱いてくる兄ちゃん。
「エル、皆面倒事慣れてきてるよ。」
「でも、この案件は無理ではないでしょうか!?」
「拙者の保護者になってくれるのではないのか!?」
「こんな大きな子の面倒見れません!うちはそうでなくても沢山いるのに!」
「沢山いるんだから一人増えても何も言わないよ…うち、特殊なのばっかりいるんだから箔が付くんじゃない?龍騎士二人と巫女と特殊モンスター、緑人族とエルフのハーフ、ハーフビースト、デビルハーフ…ね?」
「アジュまで…」
「仲間で話し決まったなら問題ないな。今回は保護目的だから金銭は、この方から貰っている。」
話が、俺を無視してトントン拍子に進んでいる。
まるで親同士が決めた結婚のように!酷い!小さい子ならいいけど、現状うちは大きい子ばっかりだから困る!しかも男率が上がった!ハーレムからまた遠退いたじゃないか!
ん?ハーレム?
「わかった…この大きい子の面倒を見ます…だから、可愛い女の子の奴隷を紹介してください。」
「あー、うちには今いないなー…アンタ達のレベルに合う女の子なんて見つからないんじゃないか?」
「ですよね!国に目を付けられている集団に、か弱い女の子なんて難しいですよね!わかります!」
血の涙が出るなら今出ているんじゃないだろうか…うちにいる女性陣皆なんだかんだいって強いもんね!
巫女だったサフランすら体術覚えちゃったからね!




