危機は突然に
何にもなく順調に綺麗な景色を眺めながら旅を楽しみ、異国の地って感じの場所に着きました。
建物とかも国が違えば全く違うんだなって驚いてますよ。
だって、門とかうちは木製が当たり前だったのに、ここは綺麗な石とかで立派にできてます。
言うなれば御影石的な綺麗で頑丈そうな石です。
毎日磨いてんじゃないのかってくらいぴっかぴかで俺の顔が歪むことなく映る。
更に驚きなのが、行き交う人の多さ。
アルズトの城下町くらい人が行き交っている。
これで只の町だってんだから、この国は相当潤っているんじゃないかと思う。
これだけ人が多いのに、奴隷や闇の商売が平気で横行してるんだから恐ろしいものだ。
「人がこれだけたくさんいるのを初めて見たよ…圧倒される。」
村育ちの俺でも驚いているんだから、集落くらいしかあまり行き来してないカンバーにとっては、かなりの衝撃だろう。
目を真ん丸くしたまま辺りを見渡しているからお上りさん丸出しだ。
俺も都であんな騒動がなかったら、同じ状態に陥っていたに違いない。危ない危ない。
奴隷たちはとても慣れたように俺たちの後ろを歩いている。
周りの人たちは、奴隷が珍しくはないんだろうけど、耳を切られていたり、喉元に酷い傷跡があったり、デビルハーフを従えているんだから俺を見る目がとても冷たい。
俺がやったわけじゃないけど、世間一般から見たらそう見えるわな。
町に入って一気に敵だらけ状態なのは仕方がないか…せめてハーフビースト二人を治療出来たらまだ違うんだろうけど…魔法怖がっちゃうからそうもいかないし。難しい問題ですな!
「ご主人様、申し訳ありません…私たちのせいで。」
「いや、気にすることはない。どうせ、通り過ぎていくだけの者たちだ。お前たちが気に病むな。」
ストラトスは、町に入ってから俺の名前は口にしなくなっていた。
よくできる子ですね。
ってか、出来る子と出来ない子の差がデカいのは気のせいではないはずだ。
こういう時無意識にサラを見ちゃうんだよね…あ、半泣きになってるから知らん顔しとこ。
最近感が冴え渡ってるから余計めんどくさい。
「ん?あれが、冒険者のギルドか?」
「ああ、アルズトとは違って色んな組合が一手に入っている施設だ。」
「立派だな…ってそういや、二人ともギルドに用事があるんじゃなかったか?」
「忘れないうちに済ませておくか…俺一人で十分だから皆はここで待っていてくれ。」
「はぐれたら会えそうもないから、ここらで固まって待ってる。」
町の店や施設的なものは、皆石造りで頑丈そうだ。
ポールが吸い込まれるように入っていった建物なんか、彫刻が至る所にされていて高級感半端ない。
これが、ここの通常だってんだから本当に凄い。
アルズトとの格差がはっきり出てるんじゃないか?
ポールが戻るまでの間、問題が起きないように固まって入るものの人数が多いから不審に思う町人もいるようで、目深く被っているフードの中身を見ようと屈んだり近づいてきたりする者もいた。
感じ悪いな!
って言っても、この町には沢山の人が出入りするから用心するに越したことはないのかもしれない。
俺が、町民でも気にするわな。
こんな団体で、酷い仕打ちをされているであろう奴隷しか連れていなかったら。
「お嬢様…ここから先、荷物持ちの奴隷なんてご入用じゃないですか?」
「随分、堂々と正面から聞いてくるのだな。」
「へい、これだけの奴隷をお持ちなんですから奴隷の使い方がお上手なのかと…」
要するに奴隷好きのドSお嬢様に見えてるのか…
人混みを上手い具合に通り抜けて、まるでそこにいないかのような気配の消し方で俺に接触してきたこの男…奴隷商人か。
金がないわけじゃないが、これ以上大所帯とかサーカスでもやるのかってくらいの団体になるな。
荷物は、魔道具の肩掛け鞄があるから、そんなに苦労してるわけじゃないし…
でも、見てみるだけ見てみるか?
「エミル様、旅をしていくのに護衛役の物に荷物を持たせているのは、あまり得策ではないように思います。」
「ご主人様、申し訳ありません。私達奴隷も力仕事は不向きに御座います。」
なるほど。兄ちゃんもストラトスも奴隷商人についていけという事か。
二人の意見なら考えがあるとみて間違いないだろ。
恐らく、他の奴隷も見れる可能性もあるから、緑人族や精霊使いがいるかもしれない。
「貴方達に言われて行くのは、癪に障るけど…丁度新しい奴隷が欲しかったからいいわ!…どんな奴隷がいるのか楽しみ。」
高飛車でドSお嬢様ってこんな感じでいいのかな?
久し振りの演技に不安を覚えながら商人へと先を行くよう促した。
「お前たち、黒が遅いから先に行くと伝えなさい。」
暗躍スキルを持つフィアットとリブラ二人の肩を付けている指輪でノックし、護衛としてサラを付けてその場を離れた。
へこへこ頭を下げ、いやらしく笑う商人の後を優雅に歩いて付いていく俺達。
さっきまで俺たちを見まくっていた人々が一気に見なくなっていたのがとても不思議だった。
魔道具でも使っているのだろうか?
「お嬢様、こちらの地下になっております。暗いので足元をご注意くださいませ。」
「そうなの…アンジュ、私の足を照らして頂戴。」
「はい、エミル様。」
すっかり侍女ポジションなアジュは、戸惑う事もなく俺の側にきて、火魔法で足元を照らした。
奴隷商人は、その一連の動きを見て上客だと判断したのだろう。
醜い顔をますます醜くゆがめて笑みを深くした。
「お嬢様は、姫君のようですな。」
「いいえ、姫ではないわ。」
「そうですか?では……何故、竜騎士を二人も連れているのです?」
竜騎士の名詞が出た瞬間、全身の血が一気に沸騰したように沸き立った。
この奴隷商人…殺すしかない!
俺の殺気に釣られたように、一気にこちらの仲間が殺気をみなぎらせて戦闘態勢に入ると、商人は笑いながら両手を振って後ろへと下がった。
「おやおや、気が短いお人達だ……そんなことでは、命を縮めますぞ?」
得体のしれない奴隷商人に、うっかり騙されてついてきてしまった自分を殴りつけたい気分だぜ。
着いたばかりで正体がバレるなんて最悪じゃないか!!




