隠密は増員されてます
砦がまだ見える位置で団体休憩しているので、時折視線を砦から感じる。
言い訳はいくらでもできるけど、あんまり時間をかけると難癖つけられそうで嫌だな。
苦い顔をして待っていると、隠密コンビが戻ってきた。
今回は思っていたよりも時間がかかったな…こういうときっていい話絶対ないんだよな。
さっき、オウさんも言ってたけど…こりゃ、心構えしとかないとダメみたいだ。
二人が神妙な顔をして、バラバラに座っていたみんなを集めた。
「最悪な話ですわ。私とアジュの話はほぼ一緒。解決の糸口になりそうな話はないかと先の団体まで足を延ばしてみたんですが…」
「あそこで証書に書かれた名前と人相を書類に書かれたものは、貴族や王族が好きそうな人種で、三日に一回その書類が兵士の手によって城のとある機関へと送られるんだと。」
「それが、貴族や王族へと伝達され、声を上げたものがいた場合、裏の仕事をする者たちがあの手この手でリストに書かれたものを奴隷へと陥れるのだというのです。」
「エルは、女の子に見えるし、身綺麗だからフードを被っていても目立ってしまったのかもしれないね。」
「みんな暗い色のフードなのに、俺だけ真っ白だから覚悟はしてたけど…目を付けられるの早くない?」
男装に戻ろうにも、色んな人たちが話しかけてくるからタイミング逃したんだよなー。
それにしても金髪幼女の需要とか…王道だよな。
そういや、アジュ達先の団体まで行ったって魔物大丈夫だったのかな?
「アジュ、サフラン、前の方まで行ったって言ってたけど、魔物の気配とかあった?」
「魔物の気配?」
「ああ!そういえば、ギルドの冒険者グループが嫌な感じがするから一旦止まろうって言ってましたわ。」
「あー、なんか言ってたな。それで追いついたんだもんな。」
「ブルーノが言うには、魔物の群れがいるそうだ。ちょっと退散いただこうかと思うんだが…」
「奴隷リストの件はどうする?」
リストが、城に届かなかったら危険第一段階はクリアするんだよな…
でも、先を急ぎたいのもあるし…二手に分かれるか。
「ここから少し二手に分かれよう。」
「リスト奪還と魔物対策だね。奴隷はどうする?」
「実力が分からないし、怯えもまだまだ強いから今回は戦力外とする。」
「その方が賢明かもしれない。」
兄ちゃんと二人で色々なことを想定して考え、アジュとサフランから詳しい追加情報を貰い、俺グループと兄ちゃんグループに分かれることにした。
俺のグループは、リスト奪還。身軽に動けるものを連れて行く。ブルーノ、アジュ、サフラン、カンバー、フィアット。
兄ちゃんグループは、魔物対策。戦力重視で行ってもらう。ポール、サラ、イヴェコ、ストラトス、リブラ。
「兄ちゃん、ちょっと奴隷が多いんだけど大丈夫?」
「エルこそ、フィアット連れて行くんだから…」
「少しよろしいですか?」
「ストラトス…どうした?」
「あの、私たちは主からあまり長い時間離れることができないのですが…」
「「忘れてたね。」」
「でしょうね…申し訳ないと思っていたのですが、耳がいいもので聞こえてきたんですけど…リスト奪還は、私と妹で行えるかと思います。」
「大丈夫なのか?」
「私たち兄妹は、こういった事もよく命じられていたので…機密書類を盗み出すとかは日常茶飯事でした。」
「ふむ…ならば、奴隷たちとカンバーだけで大丈夫かな?」
編成しなおさないといけないな。
顎に手を当てて軽く息を吐くと、ストラトスが怯えたようにその場で正座をして頭を地面に擦りつけた。
「な?な?ストラトス?」
「申し訳ございません!!!お決めになった後だというのに惑わすようなことを!」
「ええ!?そんな気にしないでよ!むしろ言ってくれて助かったんだから!」
「「ももも申し訳ございません!!」」
真っ青な顔をしてリブラとフィアットとイヴェコまですっ飛んできてストラトスの隣に並んで土下座をしてきた。
ちょっとちょっと…前のご主人との違いを分かってくれる日っていつになるのかな…
「全員立って!早く!」
『はい!』
「あのね…怒ってないんだよ?むしろ人員的に余裕が出てきてどうしようかなって、新しいことを考えてるくらいなんだから。これからもストラトスみたいに意見があったらちゃんと言ってね?それが俺にとってはプラスになるんだから。」
『はい!』
どうしたら俺を理解してくれるのか分からなかったから、母さんが俺たち兄弟によく言っていたことをしてみることにした。
俺たち兄弟は、今はあまり喧嘩をしないけど、ちょっと前まではよく喧嘩をしていた。
それでお互いに何も言えなくなって気まずくなった時によくしたこと。
それは、相手を抱きしめること。
相手の暖かさと自分の暖かさを伝え、互いに生きている者同士だという事を実感させる行為だった。
ストラトス、リブラ、フィアット、イヴェコと全員ぎゅっと抱きしめてから微笑みかけ、よしよしと頭を背伸びをして撫でた。
「エルグラン様…有難うございます。」
「有難うは俺のセリフだよ。リスト奪還頼むね。」
「はい!兄妹全身全霊を掛けて!」
「そこまでしなくていいからね!危なくなったら戻ってくるんだよ?怪我とか少しでもしたら作戦中止で戻ってくること!わかった?」
「……は…はい」
「返事が小さい!!!」
「はい!!!」
「監視役としてカンバーを付けるからね。」
カンバーを呼び、リスト奪還部隊の隊長に任命した。
フィアットとイヴェコも奪還任務はこなしたことがあるそうで、5人に任せることにした。
魔物対策に俺たち全員だと目立ってしまうので、ポールとサラとブルーノが先行して行くこととなった。
俺達は、先行組が遅かったら様子見がてら合流する形。
奪還組は、俺から携帯食料と俺特製の水筒を驚きながら受け取ると、一礼してから霧のように目の前から消えた。
「兄ちゃん…これってどういうスキルなんだろうね…」
「アジュとサフランも修得してたじゃないか。暗躍スキルの一つだよ。」
「世の中には知らないことがいっぱいあるね。」
「旅に出てよかっただろ?」
「兄ちゃんと二人っきりだったらよかったなー…なんてね。」
兄ちゃんの腕に自分の腕を絡ませて密着してみると、後ろからジタバタ暴れる音が聞こえた。
振り返らなくても分かる。
豆腐メンタル組とアジュだ。
「サラ…早く帰ってこないと兄ちゃんと俺のこれ以上のイチャイチャは見れない…」
「ポール!!!ブルーノ!!!何ダラダラしてるんですか!行きますよ!!」
俺も分かってきましたよ。
サラとサフランを効率的に使う方法を。
兄ちゃんも分かっているようで笑いながらも俺の作戦に乗ってくれている。
サラは、ポールとブルーノを引き連れて身体強化魔法であっという間に遥か彼方に行っていた。
「あいつもやるときはやるんだな…方向性間違ってるけど。」
「エルも中々だね…それにしてもこれ以上のイチャイチャってなにかな?」
うおっ!兄ちゃんの笑顔が眩しいです!直視できません!イケメンオーラ半端ない!
うっとりしそうになっているとアジュが不機嫌マックスの表情で割って入ってきた。
まだ、俺を狙っているのか…サフランと早くくっついてくれれば俺も安泰なのに。
「エル!兄さんばっかりズルい!俺ともイチャイチャしてよ!」
「そうですわ!ポールさんともイチャイチャしてください!」
「しないからね!!特にポールは!!!」
おっさんはおっさんでも、ポールとイチャイチャするくらいならイヴェコとイチャイチャする!




