欲しいものは空飛ぶ馬車
窓の外から聞こえてきた大人数の騒がしい声に叩き起こされ、怠さの残る体を何とか起こして目を擦った。
霞んでいた視界が徐々に鮮明になってきて一番初めに目に入ったのは…ポールの引き締まった尻でした。
「おいぃぃぃぃいいい!!俺にどれだけケツを見せれば気が済むんだ!」
「逆に問おう…お前は何度俺の全裸を鑑賞したら気が済むんだ。」
「バカなの!?なんで寝てる俺の隣で全裸なの!?全裸待機するほど俺に何を求めてるんだ!?」
「はいはい、エルは起き抜け早々元気だね…目が覚めたなら体を拭いて身支度を整えてね。」
「毎回毎回こんなことばっかり、朝からやってるなんて元気そのものだね…あ、そうそう!サフランとサラは、先に支度を終えて出国証書の申請に行ってるよ。」
呆れモードの兄弟と、お構いなしでフルチン晒して体を拭くポール。
いつもの光景に、心が少し軽くなった。
イケメンサンドの具にされていた俺は、気を失って赤いイケメンに抱きかかえられ、そのまま宿屋へと連れて行かれた。
幸い、宿屋は一階部分の物が壊された程度で済んでいた為、その日の夕方からは通常営業することとなったので助かった。
あれから数日間は、何度も眠っては起きての繰り返しで、3回ほどホムンクルス作成的な夢を見た。
あまりにもリアルだったので、神の使い的な奴らにも話をしておこうかと思っていたが、2度目に目が覚めた時には、共に過ごしていた奴隷たちの罪等を見て数人解放して帰っていった。
そういえば、ポールと兄ちゃんに伝言を残していく辺り抜かりがないと思ったな。
ちゃっかり、任務を残していくんだから…また会うことがあるだろうから仕返しをしなくては!
「すごい人の数ですわー。」
「整理券貰うだけでも、一苦労だったー。」
兄ちゃんに言われたまま、体を拭いて着替えを整えていると、豆腐コンビが、ボロボロになって戻ってきた。
まさに文字通りの格好である。
いつも身なりはきちんとしている二人だが、整理券を貰う際に押し合いへし合いで髪も服も乱れっぱなしになったそうだ。
二日間、村の出国作業が滞っただけで、この人の多さである。
隣国の奴らがあと一日長く占拠していたら、反乱が起きるところだったな。
隣国の奴らといえば、操られていた駐在騎士団にガッツリ拷問された上、縛り上げられて門前に貼り付けの刑にされていた。
オカマボスはといえば、斬首されて遺体を隣国へと叩きつけたそうだ。
国内で緑人族を集団で攫い、村の一つを占拠した上、国民を操り、傷つけた重罪人であり、国交間の法令に基づき処刑し、遺体を返還すると書状に騎士団が認めたそうです。
騎士団は仕事が早いね!
ってことは、都からも今回のことで調査騎士団が来ちゃうよね!
俺の体調が戻るギリギリまで兄ちゃん達は待っていてくれたけど…今日あたりが限界です。
駐在騎士団は、今回の件で騎士コンビが竜騎士であること、サフランが巫女であることを知らないふりしてくれたが、調査騎士団はそうもいかない。
「エル!そろそろ奴隷の事決めてくれないと!証書を貰ったらすぐに出るんだから。」
「そうだな…アイツらが解放した奴らは緑人族に頼んだけど、後の奴らがなぁ…あんまり団体で連れ回すこともできないし…」
「残ってるのは、デビルハーフの成人2名とハーフビースト成人2名。あの人たちの話だと、デビルハーフはエルに任せる方がいいって判断で、ハーフビーストは…解放してもって感じだって。俺が見てもそう思うよ。」
「アジュに言われて会っては見たけど…確かに、誰かに任せるのは難しいよな。デビルハーフってだけでも嫌がられるし、ハーフビーストは身体的欠損があるからな。」
「私の魔法が優れていれば良かったんですけど…申し訳ありません。」
「仕方がない。サフランがへっぽこだってのは皆知ってる。奴隷魔法が、闇魔法ってのも違ったしな!」
「うぐっ!確かに私はそう聞いたことがあったんです!」
「大方騙されたんだろ…」
「ふぐぅぅぅうううう。」
「エルは、旅立つ前にサフランをイジメないの!すぐ泣くの知ってるでしょ!?ほら、サフランもサラも身支度整えて出る支度してね。」
アジュとサフランは仲がいいから最近じゃ、いじるとすぐに割って入ってくる。
もしかして…このまま二人の仲が進展したら恋人同士になんてことも!?
どうしましょう!お兄ちゃん複雑!サフランが妹とか!!
在らぬ妄想にヤキモキしていると、返答を待ちくたびれたカンバーに肩を叩かれて、そのまま宿屋隣のギルド地下牢へと引き摺って行かれた。
外の喧騒から切り離されたかのように静まり返っている地下牢は、少し異様な空気が流れている。
ハーフビーストは、熊獣人と人間のハーフと猫獣人と人間のハーフで、熊の方は毛深くガタイがいい大男。猫の方は、しなやかな体つきの小柄の女性。
二人とも意思を伝えることは何とかできるが、酷い仕打ちをされたせいで猫の方は吃る。熊の方は声が出ないので字を書いて伝えてくる。
精神的に病んでしまっているところもあり、アイツらも精神までは治せないといって何も魔法を使わなかったそうだ。
魔法を使われることが極端に怖いらしく、怯えて逃げ回るのも原因の一つだ。
そして、二人に共通していることは、耳がない。
聞こえてはいるが、ふかふかの耳がないのだ。
見た目も酷いし、精神的にも脅えがひどい。
これでは、誰かに任せるのも躊躇われる。
デビルハーフは、浅黒い肌と真っ赤な唇を持つ双子で、兄と妹だそうだ。
子供のころに攫われて、あのオカマボスにずっと奴隷として使われていたのだという。
こちらは、妹だけ怯えが酷い。
兄の方は、人間が相手だと殺気と警戒が強い。
俺とカンバー、ブルーノとは話してくれるが、俺の兄弟と女子には、とても警戒して口を開かない。
魔国以外では、魔族の血を引いている者に対して容赦がなく、物以下として扱われる。
発見され次第焼き印を押されるのは常識で、魔国に返すことは出来ないので飼い殺していくのだ。
この二人だって焼き印を解除しても意味はない。
「はぁ…四人とも連れて行くしかないだろ…」
「そういうと思ったよ。」
「カンバーも俺をお人好しだと思っているだろ…」
「僕だけじゃなくて、エルと会った人は皆そう言うんじゃないかな?」
「隣国では人数増やさないように行動を自粛しなくっちゃな。」
「無理だと思う…」
主の居なくなった奴隷と契約するには、焼き印に主となるものの血を擦りつける。
ちゃんとした契約ではないけど仮契約は結べるそうだ。
ギルド長をカンバーに呼んできてもらい、第三者立ち合いの元、4人と契約を結んだのだった。
12歳にして、奴隷を4人従える美少年になりました…でも、ハーレムなんてほど遠いね!ヤになるね!
ケモ耳のない獣人ハーフだよ!あんまり凄みのないデビルハーフだよ!
誰得だよ!!!!!RPGでもこんなに人を引き連れて歩かないよ!ノー馬車だしね!
実際のファンタジーって厳しいなー…せめて馬車欲しい!でも、獣道ばっかりだからあっても困る!
分かっています。自己責任です。厄介事を背負い込んでしまう性質なんです。愚痴なんて言ってられません!
さて、証書貰って次行くべ!調査騎士団まで来たら大変だ!




