再会は期間限定
目の前で珍しいユニコーン族が、お礼にと村の修繕を手伝っている。
人間とユニコーン族が笑顔で対話しながら労働に精を出しているのに、神らしき奴らとうちの仲間たちはのんびりお喋りをしています。
手伝いを申し出たけど、これ以上世話になるのは申し訳ないと、村人もユニコーン族も手伝わせてくれなかった結果なんとなく申し訳ない状態になっている。
これだけ暴れてしっちゃかめっちゃかにしちゃったし、国境も目の前だから変装しないでもいいんじゃないかなって気がするんだけど…コイツの前で女装したままとか、かなり嫌なんだよね…
「あのさ、俺ちょっと変装解除してくるわ…」
「エル、それはやめた方がいいかも。考えてみてごらん?」
「ライルの言う通りだぞ。みんなお前が乱暴な言葉遣いの生意気な女の子って認識なのに、今姿を戻したら…女装好きの男の子だぞ?」
「どっちも最悪な印象じゃねーか。」
「でも女装が趣味だと思われるよりはいいんじゃないのか?」
うぅ!なんてこった!!!早くこの落ち着かないスカートから解放されたいのに!スカートって色々心もとないんだぞ!スース―するし!
不満いっぱいの顔をしていたらサフランが、珍しくドヤ顔でドロワーズを差し出してきた。
「こちらをお召しになった方がよろしいかと思いますわ。ふふふ。」
「あ…ありがとう…」
くっそおおおおおおお!このドロワーズってばフリル半端ねー!リボンまで付いて本当に恥ずかしいが、このスース―した感じにはもう耐えられない!
履いているところを見られるってなんだか恥ずかしい気がするので、草むらに隠れてドロワーズを着用する。
はー…下着一枚じゃ心もとなかったから助かった…ってアイツは本当に侍女が板についてきたな。
ドロワーズを履き終えて草むらから出てくると、青と赤の長身イケメンに挟まれた。
「あのさー、あと半日しか君に側にいられないんだけど…何かして欲しいこととか聞きたいことある?」
《我らは、存在時間も制限されている。この世界でいうと最長2週間ほど滞在すると暫くは、またこの世界に来ることができない。》
「期間限定かよ…あっ!精霊使いの情報が欲しい!」
「それは、教えられませーん。」
「ふっざけんな!聞きたいことないかって言っただろ!」
「あのね、君自身に関してないのかっていう事だよ?本来だったら何でも知ってるんだけどね…現在の私は、実はとっても忙しいから君目線君中心でしかこの世界を見れないんだよ。だから、君が会っていない人物に関しては分からないんだよねー。」
《多忙な原因は、我らの空間に迷い込んできてしまった者たちが何故が急増してしまっていることだ。今回来た目的は、エルの手助けと、空間に迷い込んでくるものが何故多いのか調査して欲しいという旨を伝えに来た。》
「あの空間って…仮死状態とか死んじゃった奴らがいっぱい来てるってことか?」
「それだけじゃないんよね。異世界から異世界への生物召喚もあの空間を経由するんだけど…なーんか多すぎんだよ。」
《通常なら一日に一つの案件くらいだったのが、一日に数十件になっている。》
「あの空間は、特別に選ばれた者しか来れない仕組みになってんだよ。転生とか転異ってのはこっちも力を使ったり、事務的な手続きもあるし大変なんだよ。時空の関係もあるし…部下とか使ってんだけど捌き切れなくてね。」
「そんなクソ忙しいのに、なに感動の演出をしようとしてるんだよ。てか帰れ!」
「酷いなぁー…あ、人物の場所は分からないけど、君が次にやるべきことは分かるよー」
「いや、それは知りたくないから結構です。」
嫌な予感しかしないことを言い出すんだから!早く帰れよ!ってかさりげなく俺に負担をかけるようなイベント事持って来てんじゃねー!
肩を怒らせてイケメンサンドから脱出しようとすると両肩を逃がすまいと掴まれてしまった。
逃げるコマンドが利かないとかラスボスか!それかどっかの王様か!
嫌だという感情を抑えることなく二人を睨みつける。
「君ね…この世界では仮にも神の使いなのよ?私。」
《粗雑に扱われているところを初めて見ました。》
「逆に扱われていないことに驚くわ。まぁいいや…俺に関してって限定的なのしかダメなんだろ?
それじゃ、俺の秘められた能力的なものを教えてくれよ。」
「あー…それも断ったら君、本気で怒りそうだから一つだけ教えておくね。闇に関する魔法は全部使えるよ。催眠魔法も重力魔法も闇属性だから。」
「それじゃ、奴隷ってのは?」
「奴隷は闇じゃない。神聖属性かな?適正人種が少ない特殊なものだね。」
《エルは、使うことができないが…解放ならできるかもしれない。》
「そうだね…ただ、魔力の属性が真逆だから倍以上の魔力と副作用が出るってことを覚悟しておいてね。」
部下が俺の頭に手を置いて目を閉じると、足の裏から一気に力が電流のように走り、頭まで抜けると目の前がぐらついて意識が落ちていった。底が分からない深く暗い闇へ。
全身が針に刺されたようにチクチクと痛い。瞼は眼球と結婚しちゃったのかなって感じるほど重く開かない。
使ってもいないのに副作用ですか。
眠っているのか、意識が回復しているのか全く分からない状態で気持ちが悪い。
少しすると眩しい光に包まれた。
視界がはっきりしてきたが、夢の中なのだと感じた。
全く見たことのない景色に立っている。
周りに人が沢山いるのに、誰も俺に気が付いていない。
人々はフードを目深く被って、不気味に輝く魔法陣に向かって祈りを捧げている。
魔法陣へと向けると陣の真ん中には、肉の塊。
丸々形を残している者もあれば、切り刻まれてなんだかわからない遺体まであった。
不気味な闇の儀式。
気が触れているのではないだろうか。
音は聞こえないが、フードの下から見える口は頻りに何かを叫び散らしている。
魔法陣の光が納まると、側に置いてあった巨大な棺に遺体を放り込んでいく。
闇の儀式だという事は分かった。
けれどわからないの棺に遺体を入れたことだ。
すべて遺体を収容し終わり、白衣を着た集団がその遺体を奴隷に指揮して運ばせる。
ホムンクルス作成…そんな…まさかな。
ホムンクルスは、死者蘇生同様禁忌だ。
悲惨な末路しか待っていないというのは、この世界の常識で誰も手を出さない。
胸糞悪い夢だな。
自然と眉間に皺が寄っていくのが分かる。
目を覚ましたいけど身体が言う事を利かない。
こういう時決まって俺を助けてくれる人がいる。
「エル…もう起きる時間じゃないの?」
「んぅ…兄ちゃん…もう少しだけ…」
「もう…大丈夫みたいだね…」
耳心地のいい兄ちゃんの優しい声と労わる様に髪を撫でてくるいつもの手の感触に、今度は悪趣味な夢ではなく、幸せな暖かい夢を見たのだった。




