お人好しはチートかも
俺達が建物の中に入ると、その問題の奴隷二人が起き上がっていた。
他の奴隷たちはスヤスヤ心地良さそうにまだ眠っているのに…本当に嫌な予感しかしません。
アレに近づかないと話にならないけど…額からシカのような角が2本生えており、海のようなグラデーションがかった長い髪を揺らし、満面の笑みでこっち見て手を振ってる一人には近寄りたくない。
俺の本能が言っている。
回れ右するなら今!
背を向けて建物から出ようとすると背後からものすごい勢いて寄ってこられ、手首を掴まれた。
「酷いなぁー。君と会えるように、わざわざ来たって言うのにー。」
「…あの、人違いじゃないでしょうか?これにて失礼します。」
ぬぁあああああああああ!!こいつ知ってる!!!超知ってる奴だ!!!やばいやばい!
なんで此奴がいるんだよ!!俺死んでないんだけど!仮死状態でもないんだけど!てか、こいつこんな格好だったのかよ!
あわあわしている俺を不思議そうにブルーノが見上げてくる。
《える?どうしたの?しってるひとじゃないの?》
「エルっていう名前なのか。」
「それも知らないのかよ!!!やだ!もう帰れよ!ってか何、奴隷とかになってんの!?バカなの!?」
「帰れとかバカとか酷いなぁー。感動の再会を演出しようとしたんじゃないか。」
「奴隷を助けて、実はあの時の…!って感動しないよ!ドッキリでしかない!つか、どうすんだよ!焼き印奴隷になってんだから自由きかねーだろ!」
「誰だと思ってるんだい?こんなのちょいちょいのチョーイだよー!」
そういうと、一緒にいた髪が炎のようにグラデーション掛かっている背の高い男が近づいてきた。
おいおい、まさか他の奴も連れてきてんのかよ…
「あ、紹介してなかったね。こいつは、私の部下。一人で来たかったんだけどさー、色々制約があって上手くいかなくてね…だから有能な部下も連れてきたんだ。そうしたら制約も半分だからね!」
「無理しないで帰れ!」
逃がすまいと完全に俺の手を掴んだままでいると、部下が神的なこいつの焼き印に手を翳した。
するとみるみるうちに焼き印が消えていったのだ。
部下スゲー!マジスゲー!こいつが本当は神なんじゃないか?
そう思っていると頭に拳が降ってきた。
「いたい!何すんだよ!」
「君、私に対して失礼なこと考えていたでしょ。読心術がなくても分かるような態度取らないでもらえないかな…これでもガラスのハートなんだよ?」
「防弾ガラスだろ?」
「もう一回叩かれたいのかな?」
「暴力反対!…って奴隷の焼き印解除できるなら、ちょっとお願いしたいんですけどいいですか?」
俺は、おそらく神であろう奴の手を振りほどいて、部下の手を両手で包んで見上げた。
この人に頼めば、ユンユンは解放される。
そうすれば、ユニコーン族は帰ってくれるはず!
期待に目を輝かせて返事を待っていると俺の視界に神であろう奴がしかめっ面で入ってきた。
「あのさ、まず私に聞かない?」
「焼き印消せるの部下だろ?」
「そうだけど、私の部下だからね?分かってるのに、なにすっ飛ばしちゃってんの?」
「使えない上司に、なんの許可を得なきゃいけないんだよ…」
「使えなくないもん!」
「”もん”いうな!イラッとする!」
「前にも似たようなこと言ってたよね…成長しなよー。」
「お前が言うな。」
俺達が騒いでいる間に、部下は自分の印も消して、建物から出ていった。
無言で行動に移るとは渋いな。
「そういや、部下は何で話さないんだ?」
「制約だよ。部下は、声が出ない。それと魔法的なものがこの世界の半分の種類しか使えない。私は、耳が聞こえ辛い。だから唇を見て話すようにしている。魔法的なものは、部下が使えないあとの半分の種類しか使えない。私と部下は二人で一人前の神といった感じだ。」
「あのさ…部下は、モンスターとか一部の奴が使える念話は出来ないのか?」
「………わかんないなー。」
「俺にあれこれ試せって言っておきながらお前らも試してないんじゃないか。」
へったくそな口笛を吹きながら俺から距離を置いて、部下の後をごまかす様に追っていった。
アイツマジで何しに来たんだよ。
つか、暇なのか?
呆れてため息をついていると、慰めるようにブルーノが手に擦り寄ってきたので、思いをぶつけるように無心でモフモフ撫でまわした。
かわゆい!うちの子は、かわゆいよ!
暫く現実逃避をしていると外から地響きがするんじゃないかってくらい大きな歓声が沸き起った。
きっとあの二人がユンユンを解放したのだろう。
兄ちゃんとアジュに報告に行かないとだな。
アイツらの事なんて説明したらいいんだろう…
考えを巡らせながら騒がしい中心部へと急ぐと、兄ちゃんとアジュもその中にいた。
拷問はもう終わったのかな?
「兄ちゃん、アジュ!」
「エル!あの二人は一体何者なんだい?アジュの話だと奴隷だったみたいだけど…」
「俺と兄さんが、あの敵の大将を拷問してもダメだったのに、あの二人がふらっと来て〈エルに頼まれたから〉って言ってユニコーンの子供を奴隷から解放したんだよ!」
「あー…あのね?あれは…」
おいぃいいいいい!何にも思い浮かばねーんだけど!
頭を掻き毟って転げまわりたい衝動にかられながらも、表に出さないように視線を彷徨わせて考えていると、両肩を兄ちゃんに掴まれて真正面から笑顔で覗きこまれた。
逃げられないよ…
真実を言うのも怖い気がするし、嘘を言っても怖い気がする。
沈黙って答えじゃ納得してくれなさそうだし…
「あれは…伝説の話としてでしか知らないが、風貌や魔法の使い方から見て、神に使いじゃないのか?」
「ポール!?」
意外なところから助け船が!モブ騎士のクセに!カッコいい!好き!
救いの手に目を潤ませ、両手の指を組み合わせながらポールに感謝を向けた。
ところが、ポールは胡散臭いものを見るのと同じように渋い顔をして俺を見てきたのだ。
「エル…やはり、お前といると本当に退屈しないな。」
「もっと良い顔して言えよ…そうでなくてもモブなのに。」
「よし、わかった。これ以上口を開くまい。」
「ポール様、神の使いの話をお聞かせください。」
「初めからそう言え。」
兄ちゃんから解放され、三人でポールの話に耳を傾けた。
その間に、兄弟は俺が二人の正体を知らなかったのだと知ったのだ。
正体は粗方知ってるけど、あの姿とかこの世界でのアイツらの位置が分からないから変な説明できないっしょ。
流石ポール。歴史ある竜騎士なだけあるね!
神の使いとは、額に枝のような角があり、髪が一色ではなく多色が交じり合って自然を思わせる。
身体の所々には、鱗や毛が生えており、この世のものとは思えないほどの美しい容姿を持っているという。
魔法に至っては万能ではなく、得意不得意がとてもはっきりしているが、多種の魔法を極めている。
現れる時期は決まっておらず、気まぐれに現れては、生き物を助けて消えていく。
ポールの話を簡単にすると、そんなところだった。
アイツらチョイチョイこの世界に来てんじゃねーか。暇人め!
そんなことをまた思っていると視線を感じたので目を向ける。
やっぱり、神であろう奴の方が俺を見て手招きをしているではないか。
絶対に近寄らねーよ。
舌をべっと出して知らん顔を決め込むと、ふわっと体が浮きあがった。
これって…俺の重力魔法と一緒だ!
焦った次の瞬間、気が付くと赤い部下の腕の中にいた。
一体どうなってんだ?瞬間移動したみたいだ…それと目が回ってグラグラする。
《大丈夫か…目が回っているようだが…》
「ふえ…気持ち悪い…」
「呼んだ時にすぐ来ないからだよー?ちょっと回復させてあげてくれる?」
気分が悪くなっている中、「やっぱり念話が使えるんじゃねーか。」とか、どうでもいいことを思いながら、意識を手放しそうになっていると、一気に楽になって、頭がはっきりしてきた。
兄ちゃん並みのイケメンに抱かれながら気を失いそうになるなんて、豆腐メンタルコンビ以外誰も得しないだろ。
気持ち悪さから解放されても、体に力が入らないので、そのまま赤い人に凭れながら視線をムカつくやつへと向けた。
「こんな強制的に呼んでなんだよ…下らないことだったら口利かねーからな。」
「そんなに怒らないでよ。あのね、この子たちが君にもお礼を言いたいって言うからさ。」
言われた先には、ユニコーンの一族と意識を取り戻したユンユンが頭を下げていた。
こんなくだらないやり取りの間中、頭を下げていたのだろうか。
だとしたら大変申し訳ないな。
「あの、気にしないで頭上げてもらっていいですか?」
「そうはいきません!」
『この度は本当にありがとうございました!』
「分かりましたから!だから顔を上げてください!」
お礼を言われるようなことを俺自身はしてないから、すんごい気まずい!
なんか、他人の手柄をうっかり横取りしちゃったみたいな気まずさがある。
《エル、おまえが動かなければ事態は最悪な結末を迎えていた。》
「そうだよ。君は、なんだかんだ言って究極のお人好しってのがチートスキルなんじゃないかな?
私は、そんな君だから会いたくなってしまったし、助けの手を伸ばすんだよん。」
「だよんって言うな。」
「「イラッとする。」」
「でしょ?」
神らしき奴が、俺の反応を見て、とても温かな笑顔を向けてきた。
俺のしてきたことは正しかったのだろうか。答えは分からないけど、肯定してくれる奴がいるから花丸ではないかもしれないけど、丸ってことかな。




