怒りは真実を歪める
兄ちゃんに言われて、ボスみたいなオカマを護送馬車に乗せて、重力魔法で軽くしてから戦いや救出劇が繰り広げられている村の中心部へと移動した。
移動の最中、緑人族が俺のことを魔族を見るような眼で見ていたが、檻から出てしばらくすると態度がかなり軟化してきた。
そんなに言葉を交わしたわけではない。
一体どういう風の吹き回しだろうか。
「やっと理解できた。お前たちは、森が遣わした守り人なんだな。」
「違います。」
「即答だな。草木たちが煩い位にお前のことを言ってくるぞ。」
「エルは、森に求婚されてるんだっけ?」
「違います!」
檻から出て、また草木の声を聴けるようになったという事か。
この檻も魔兵器の一つなのかな?
護送馬車という名称ではあるが、ぶっちゃけ鉄が重すぎて馬では引けない。
まぁ、いつぞやかの特殊モンスターが乗ってた馬なら引けるかもしれないが…
動力源は魔石だ。
だから、あまりにも重たいものを運ぶとすぐに劣化して、魔石を交換しなくてはならない。
消耗された魔石は、そこらへんの小石と変わらなくなる。
色も灰色だし、形も歪だから使い終わった後、河原に投げてしまえば見つけることはできないわけだ。
ゴミにならないからエコですな!
「なんで、檻から出たら声が聞こえるようになったんだろ。」
「それは、この金属に秘密があるんだよ。檻に使われている金属をよく見ると、鈍色よりも少し赤みがかっているだろ?」
「ほんとだ。でも、この金属って何?」
「お嬢ちゃんは、紅蓮石を知らんのか。」
「紅蓮石?」
「紅蓮石は、魔石と違って特殊鉱物なんだ。触れている者の特殊な力を吸収して、その先にある動力源の魔石や他の鉱物に力を流す。採掘するのにも加工するのにも厄介なものだから、確かドワーフでも一部のものでしか扱えないものだ。」
「ドワーフも奴隷として抱え込んでる可能性もあるわけだ。」
ホフタは、色んな種族の反感をものともしないほどの魔兵器があるのだろうか?
そうでなければ、ユニコーンやドワーフみたいな能力のある種族が狙えるわけがない。
結束が希薄な魔族ならいざ知らず、4大陸に棲むその他の種族は結束が強いからな…
中心部に着くととんでもない光景が待ち受けていた。
これは、ちょっと俺的予想外展開だ。
「兄ちゃん、俺の目には額に角の生えた人達がくっそ暴れてる気がするんだけど…」
「間違いなく暴れてるね。」
「おい!!!こいつらを何とかしろ!!」
「そうです!!防御一方でしんどいんですから!!!」
「それが人にものを頼む態度か!!!!!」
「「言ってる場合か!!」」
「ですね。」
二人が押されまくってるなんて、あんまり見られないから、からかって見ててやろうかと思ったけど、見た目ほど余裕がないみたいだな。
さて、二人を省いてあと皆浮かせるか!
重くするのは…ほら、ね?トラウマ半端ないから!
護送馬車の重力魔法を解除して、一気に全員に魔法を放って浮かせた。
はい、全員です。
つまり、騎士コンビも浮かせてしまいました。
戦いをやめさせる為にやるんだから、省くとか一応考えたけど、気を遣う魔法ってしんどいよ!
騎士コンビが、しらっとした目で俺を見ているけど気にしない!!
「えっと、なんで戦ってるんですか?」
―グゥウウウウウウウウウっ!!!-
「唸られても分からないんですけど…」
ダメだ、全員頭に血が上ってて話にならない。
よし!しばらく浮いたまま冷静になるまで待とう!
「兄ちゃん、村の制圧済んだからアジュ達に移動できないか聞いてきてもらえる?」
「そうだね…その方が早そうだ。」
「俺達はなんで浮いたままなんだ?」
「あのね、魔力は大丈夫なんだけど、細かな調整すると気力を使うんだよ。ほら、めんどくさいからさ!」
「最後にぶっちゃけたな…仕方がない。俺とサラは慣れているからいいか。」
この二人、よく俺の魔法訓練に付き合ってもらってるから慣れるのも無理はない。
兄ちゃんは、苦笑しながらも手を振ってアジュ達の元へと走っていった。
数時間経っただろうか。
空が白みだしてきた。
ユニコーン族の末裔達は、やっと冷静になって目の色が戻ってきた。
怒りに目がくらむと真っ赤になるのかな。
今は、ピンク色になっている。
「んで?なんで襲ってきたの?」
「…我らを脅かすもの達に話す口はない。」
「よし!埒が明かないからこのまま放置していこう!」
「エル、めんどくさがっちゃダメでしょ。」
「この子を迎えに来たことわかってるくせに…人が悪いな。」
「カンバー、お前もここに置いて行かれたいのか?」
「うっ!意地悪だな!」
兄ちゃんが俺を宥め、押し問答しているうちに、カンバーが気を利かせて、手当の済んだ子供をブルーノの背に乗せて連れてきた。
こいつ、段々俺に馴染んできたな。
「ユンユン!!なんて姿を…」
「これでもよくなった方だと思うぞ。俺たちが会った時は、もっと酷かったからな。」
「もっと酷かっただと!?そんな…」
みんな怒るよりも悲しみと悔しさで涙を流していた。
手を必死に子供へと伸ばしている大人が居たので、魔法を解除してやった。
当然のように地に足が付いた途端走り出して、子供をきつく抱きしめた。
「言い辛いが…その子供は焼き印が押されている。俺の仲間が聖魔法を掛けて綺麗に直してやりたいが、下手をすると印が発動してしまう可能性がある。」
「ど…奴隷にされているのか!!なんてことだ!」
「なんて惨い…」
もう、攻撃をしてくることもないだろうと全員の魔法を解除し、ブルーノとカンバーへ手招きをした。
一族だけでしばしの再会をしてもらおう。
「焼き印解除…どうにかならないものなのかしら。可哀想で見ていられませんわ…」
「確かに、これだけの焼き印を付けられた奴隷なんてなかなか見ないよ。」
「アジュ、全員で何人いた?」
「16名。そのうち、人間3名、ユニコーン族1名、デビルハーフ2名、ハーフエルフ3名、ハーフビースト5名、その他種族が分からない者2名。」
「その内、子供6名、成人8名、不明2名。」
「あのさ…種族不明なのと年齢不明って同じ奴?」
「「その通り」」
焼き印解除出来たら全員治療してそれぞれ返しに行かないとダメなの?
先が長すぎて眩暈してきたよ。
しかも、種族分からないって顔合わせるの怖い!
俺の第六感が言っている!
俺達が現状把握を話している間に、ユニコーン族の一人がこちらへと歩み寄ってきた。
「どうやら、ユンユンを助けてくれたのはお前たちのようだな。」
「いや、正確には助けていない。まだ、その子には焼き印という厄介な枷がついている。」
「そうだな…」
「これが付いている間は、勝手に連れ出すことはできないぞ。」
「奴隷の主か…」
「これだけの奴隷すべてに焼き印を付けるようなゲスい奴なんだから、口で言っても無駄だ。」
「どうすれば…」
「カンバー、森は何か知らないのか?」
森は永く存在してるから知識もあるだろうとふんで聞いてみたが、首を横に振られてしまった。
人間社会の魔法だから感知してないとの事。
森なんだから納得するしかない。
諦めかけていた時にサフランが口を重々しく開いた。
「あの、今思い出したんですけど…奴隷の印は、闇魔法属性らしいんです。だから、エルが何とか出来るんじゃないですか?」
はい、無茶ぶり!
奴隷に縁の無い俺には、解放のイメージがつかねーよ!!




