ブルーノは特殊モンスター
建物が立ち並ぶ村の内部へと足を踏み入れると、戦場と化していた。
二人の騎士に対して、持ち慣れていないであろう武器を手にした、軽装の村人たちと見たことがない鎧で揃えられている兵士たちが襲い掛かってしっちゃけめっちゃかになっていたのだ。
流石というべきだろう。
二人の騎士は、村人は切らずに鳩尾や首元を叩いて気絶させ、隣国の兵士は問答無用で手足を切りつけている。
攻撃の手を変えているのにもビックリするけど、手足を鎧ごとすっぱり切って動きを止めるんだから恐ろしい。
味方で良かったー。
豆腐メンタルのサラが別人に見える。
正直、こんな風に助けられたら惚れちゃうね!
あ、普段豆腐メンタルだから即効冷めるけど。
一際大きい建物には、ボロボロの服を身に纏った一団が取り囲んでいた。
どう見ても奴隷だよね。
よくもまぁ、アレだけの奴隷を連れて歩いてるな…
《える、あのなかからいっぱい、ひとのにおいがする。》
「なるほどな…アレだけ多い奴隷にあそこを見張らせてるってことは…アジュが言ってた護送馬車の方にボスが居そうだ。」
奴隷たちへ目を向けると数人と目が合ったが、すぐに反らした。
奴隷の自我を奪ってはいないようだな。
恐らく、あそこへ近づくものが居たら排除しろ的な命令しか受けていないのだろう。
「ユニコーンの子供と同じで焼き印が押されてるな…くっそ!眠らせることができれば楽なのに…騎士コンビはあっちで手一杯だしな…」
《える、やってみたら?》
「おっふ…俺にできると思うか?」
《やってみなくちゃわからないよ?》
「ブルーノ…それもそうだな!…試してみるか…」
右手に魔力を流してイメージし始める。
暗く、穏やかな夜のイメージ。深く深く闇の中へ意識が落ちるように。
手から霧のように薄く藍色の靄のようになった魔力が奴隷たちへと放たれた。
《これでよるねむれないとき、えるにいえばみんなねれるね。》
「俺は、睡眠薬になるつもりはないんだけど。」
バタバタと音を立てて奴隷たちが、地面とお友達になっていく。
その中に、寝ちゃダメな人が入っていたのを見逃さなかった。
馬鹿なの?アジュは離れてたのに、なんで近くにいるんだよ。
サフランは、やっぱりまだサフランでした。
アジュが、涎を垂らして寝ているサフランの頬を容赦なく往復ビンタして、寝ぼけ眼のサフランを引きずって中へと入っていった。
アジュ、一応サフランも女の子なんですよ?
村人と兵のことは片付きそうだから、俺とブルーノは護送馬車がありそうな奥へと走っていった。
《えるは、やみのまりょくがつよいから、できるとおもったよ。》
「買いかぶりすぎだ。でも、信じてくれてありがとな。」
可愛いブルーノに言われて調子に乗り、ヘラヘラにやけながら護送馬車に到着した。
護送馬車には、緑色の肌をしたでっかいマッチョな美丈夫が7人ほど乗っていた。
カンバーもこうなるのか!?今、あんなに可愛いのに!下半身以外!
助けようと周りを見回そうとすると、背後から抱きしめられ、気配すら感じなかったことに背筋を寒くしながら、がっちりホールドされているため、振り払う事が出来ず首を動かすことしかできなかった。
肩越しに感じる生暖かい感触に暴れたくなったが、一息ついて冷静になり、相手を睨みつけた。
「悪趣味極まりないな…」
「そうかしらん?こんな可愛らしい女の子とワンちゃんが、村を訪ねてくるなんて…嬉しくてつい抱きしめちゃったわ…」
「…なんで…お色気満々な声なのに、オカマ感半端ないんだよ!!!努力の方向どこで間違ったんだ!」
顔がとてつもなく大きく、化粧をしているのに青々とした髭の跡が残っている。アイシャドウもまつ毛も口紅もケバケバで香水臭い。
髪もいじればいいのに、何故かスキンヘッド。
おい!美的感覚がおかしいんじゃないか!?あ、俺をかわいいとか言ってんだから美的感覚は間違ってないのか…範囲が変に広いだけかもしれない。
苦手な身体強化魔法を使って、丸太のような腕をはねのけて、前へと飛び退いた。
「やっぱり、ただ者じゃないわねん。」
「まぁな…一応聞いておくが、なんでこんなことしてるんだ。」
「そんなこと話すわけないじゃない。」
「ですよね。なら、こちらも力で出るしかないな。」
「ふふふ…これをごらんなさい!」
ゴッツイ手からぶら下げられたのは、一つのリング。
細いチェーンが通され、ゆらゆらとゆっくり左右に揺れている。
これって…古典的な催眠術じゃないか!!!
「ブルーノ、あの輪をぶっ壊せ。」
《わかったー!》
「うふっ…できないわよん。ワンちゃんを操るのは得意だからー。」
「ご期待に沿えなくて悪いな…俺の可愛いコイツは、ただの犬じゃない。」
うちの子はワンちゃんじゃなくて…特殊モンスターだから。
沸き上がる笑いが抑えきれずに、高笑いしながら全身に魔力を巡らせ、藍色の光を身に纏って浮き上がる。
《える、とってもたのしそうなの。えるのためにがんばる!!》
ーグォオオオオオオオオンッ!!!-
ブルーノが、モンスター特有の咆哮を上げ、オカマ催眠術師に突進していく。
その様子を満足げに見つめ、腕を組みながら追加指示をすることにした。
「ブルーノ、体当たりで遊んでやれ。絶対に殺すなよ。」
《わかったぁ!》
大型犬の大きさでもスピードと筋力があるブルーノは、やはりモンスターなので体当たりをするたびに相手が、ゴムでできた人形のように跳ねて飛んでいく。
敵は、ブルーノに任せて、浮遊しながら緑人族の前へと移動した。
うん!怯えてるね!そうだよね!俺も知らなかったら怯えると思うもん。
「緑人族だな?」
「くっ…人間の次は魔族か…」
「違うからね!人間だよ!失礼しちゃうな。」
「こんな禍々しい魔力をもった人間など見たことがない。それに、あれは特殊モンスターじゃないか!」
「俺は、生まれた時からこの魔力だし、ブルーノは特殊モンスターだけど俺の相棒だからね。」
「だったらなんで…やはり、俺たちの力が欲しいために、ホフタから横取りする気か。」
「なんで助けにきたって選択肢がないんだよ。」
「助けにこられる筋合いがない。」
「……もしかして、アンタ達草木の声が聞こえないのか?カンバーは、草木から聞いて俺たちのことを知っていたぞ?」
「なに!?カンバーの知り合いなのか!?」
「ああ、カンバーなら村の入口でケガ人の手当てをしている。」
強張っていた緑人族の表情が和らいできたのが、ありありとわかった。
俺の方もそれを見て落ち着きを取り戻し、カンバーから聞いていた容姿の緑人族を探すが見当たらない。
「カンバーの母親がいないようだが…」
「俺達は、この側の集落ではない。二つ向こうの…恐らく、あのモンスターの親がいる森の集落のものだ。」
「カンバーの母親を探してるってことは、ここの集落も襲われたのか…」
森違いか…それに俺の情報で全員肩を落としてる。
待てよ?…シルバは何をしていたんだ?人間が、森に侵入してきたのに干渉しなかったのか?
「あのさ、そのモンスターの親は、アンタ達が襲われたときに出てこなかったのか?」
「出てきたら俺達も人間も死んでいる。」
「そっか…」
《えーーるーーー!これどうしたらいい?うごかなくなったー。》
やべ、話に夢中になってブルーノ忘れてた。
水魔法を水圧カッターのように展開して檻を切り壊し、ブルーノの元へと急いだ。
「ブルーノ…確かに殺さないように言ったけど…これ瀕死じゃない?」
《いうことまもった!》
「ですね。ある程度応急処置しとくか…」
褒めて褒めて攻撃のブルーノの頭をワッシャワッシャ撫でて、鞄から薬の瓶を取り出して、全身に引っ掛けて放置した。
これで死んでもしゃーないな。
緑人族を解放して、村の入口に行く容易に促していると兄ちゃんが走ってきた。
「エル、そっちは片付いた?」
「ボスっぽいの捕まえたよ。そういえば、こいつ気配消せるのに弱かったなぁ…」
《ぶるーのつよい!》
「ブルーノ嗾けたんだったらどんな強い奴でも敵わないと思うよ?むしろ良く生きてたね…この人?」
「兄ちゃん、一応…人間だよ。」
「あんまりにも醜いから豚の化け物かと思ったよ。」
キラキラ眩しい爽やかスマイルを振りまきながら毒を吐く兄ちゃん…素敵です。




