ブルーノは賢い
短めです。
サラに髪を結い上げて貰い、皆の身支度が整ったのを確認する。
そういえば、あれだけバタバタしてたのにジャンとイアンが来なかったな。
それに、側にいたはずのブルーノが起きてからずっと姿を見ていない。
ポールの全裸事件ですっかりブルーノを忘れてた…怒られそうだなー。
「なぁ、ブルーノ見なかった?」
「ああ、ブルーノなら夜中にフラッとエル達の部屋から出てきて、ドアを開けるようにせがんできたから開けてあげたら、廊下で寝だしたよ?」
「え?寝るとき一緒だったのにどうしたんだろ?」
身支度もすっかり整っていたので、ブルーノを迎えに廊下に続くドアを開いた。
「ブルーノ、一体どうし……なるほどね。」
ブルーノは、気絶しているジャンとイアン、それに見たことないこれまた気絶してる男女を積み上げて、その上に座っていた。
―オン!-
大方、俺たちに夜這いを掛けようとしたところをブルーノに見つかって叩きのめされたんだろう。
あの父にしてこの子ありだな。
俺を見るなり、犬のふりをして俺にすり寄ってくる。
なんていい子なんでしょう!
廊下だという事は頭からすっぽ抜けてブルーノをデレデレとモフり倒した。
「立派な騎士ですね。」
後ろからきた兄ちゃんがブルーノへのご褒美に、甘い果物を差し出してきた。
しっかり皮をむいて綺麗に盛り付けているんだから流石である。
ブルーノも満足げにその果物を平らげていった。
「俺の騎士と名乗ってる奴は、朝から全裸で体拭いていたのにな。」
「ブルーノが廊下の不審者退治で、俺が窓から入ってくるかもしれない不審者を退治する役だとなんで思わないんだ?」
「お前自体が不審者だよ。」
「失礼な奴だな。」
ポールは脳筋だからすぐに俺の頭を無遠慮に撫でてくる。
髪型が乱れるからやめてもらいたい。
「そろそろ起きて、食事を運んでもらわないとな…みなさん、朝だから起きてください!」
―パンッ!パンッ!-
大きめの声を出しながら、手を思い切り叩いた。
するとみんな紐で引っ張られたようにシャキッと立ち上がり、眠い目を開こうと何度も瞬きをした。
まるで訓練を受けた軍隊みたいだな。
「あ…エミル…ここは…」
「私の部屋の前ね。」
「え…ええ!?」
「上の方に報告されたくなかったら、皆さん早く朝食を持って来てくださるかしら?それと、今後このようなことがないように願いたいです。」
全員に脅しをかけるように笑みを浮かべ、早く動けと廊下の先へと指を指す。
従業員たちは一斉に顔面蒼白になって駆けだしていった。
ジャンの親は苦労してんだろうなぁ…ダメ従業員どもめ!
ため息をついてドアを閉め、ブルーノと兄ちゃんとリビングへ戻った。
「さて、飯が来るまで時間があるだろうからブルーノと散歩に行ってくるかな。」
「ブルーノと一緒なら安心だね。俺とアジュは換金する宝石を見繕っておくことにするよ。」
「俺とサラは訓練だな。」
「兄ちゃん、サフランも入れてあげて…あそこの隅でいじけててうざったいから。」
サフランも豆腐メンタルなので鬱陶しい。
部屋の隅で膝を抱えているサフランの頭を軽く小突いてからブルーノと部屋を後にした。
「それにしても広い宿だな…」
部屋を出たので、犬のふりをしている間は尻尾で返事を返してくれる。
なんて可愛らしいんでしょう!
俺、絶対親バカになる自信がある。
今の時間は、皆部屋で朝食をとっているのだろう。
独り言でも響き渡る。
手にブルーノの頭が触れたので笑いかけようとしたとき、轟音のような怒鳴り声が客の居ないロビーに響き渡った。
「馬鹿者!!!!!全員クビだ!!!!!」
おやおや、失態がばれてしまったようですね。
そりゃそうか。6人くらい廊下で伸びてたからな…朝の忙しい時間に居なかったら捜索出るな。
見つかる。
犬にのされている。
報告。
怒鳴られる。
手に取るようにわかる図式だな。
可哀想に、ジャンなんか一人正座で大きい花瓶抱かされてるよ…拷問だ。
「朝から騒々しいのは、廊下の前だけで願いたいですわね…」
涼しい顔をしてブルーノの毛を撫でながら宿主の前に歩み出た。
だって、助けないとなんだか後味悪いじゃん?
村だって案内してもらうわけだしさ。
「これは、申し訳ございませんでした。改めてお詫びにお伺いいたしますのでご容赦ください。」
「いいえ、詫びなど不要です。ただし、事を公にしない代わりに私の我が儘を聞いてください。」
「なんと!?…可能な限りお聞きいたします。」
「まずは、この方々のクビを取り下げてください。この方々を惑わせてしまったのは、私や私の従者たちが美しいからですわ。
それと、ジャンとイアンを私達専属にしていただきたいの。
代わる代わるでは、落ち着きませんし、彼らとは仲もいいですから。」
少しずつ歩み寄って距離を縮め、胸の前で指を組んで下から上へと視線を上げ、首を少し傾けておねだりポーズ完成!
くらえ!俺最高の愛想笑い!!!
「お嬢様は…お優しいんですね…私の息子や従業員の為に…」
「優しいんじゃありませんわ。責任の一端は私にもあると思うのです。それに、図々しくも我が儘を聞いてもらおうとしているんですから。」
「エミル様のお顔を立ててこの場はこれで納めます。息子とイアンを専属にする話もお受けいたします。」
「ありがとうございます。では、早速食事がすんだら村の案内をお願いいたしますわ。」
ジャンとイアンに合図を送るようウィンクして笑顔を向ける。
これは、貸しだぜ。




