パンツは大事だろ
カーテンの隙間から入る柔らかな光で目が覚めた。
上等なベッドに羽毛で作られたであろう、軽いが暖かい掛け布団。
なんの素材で出来ているかは分からないが、頭が程よく沈む枕。
優雅!!超優雅!!
なのに窓側に全裸のゴッツイおっさんが立っています!!
台無しだよ!!パンツ履けよ!誰かが言ってたけどパンツはモラルだぞ!
朝から頭にきたので枕を変質者に投げ付けたが、あっさり片手で受け止められてしまった。
「なんで朝からお前のヌード見なきゃならないんだよ!」
「慣れないその掛けるもので汗を搔いたから、ベタベタ気持ち悪くてな。
部屋に置いてあった布と水で拭いていたんだ。それで、一部がさっぱりすると他が気になってな…この通りだ。」
「振り返るなよ!!ブラブラ見えるから!!絶対わざとだろ!」
ニヤニヤとからかいが分かるように、ムカつく笑いを浮かべて真正面に向いてきた。
傍から見たら少女に全裸を見せる変態だ。
しかし、事実は、大人げないおっさんが、朝から幼気な少年に体を張ってからかっている。
ん!紙一重!いろいろ紙一重!!
「それにしても…体が拭けるっていいな。俺も拭こうかな。」
「そうしておけ。ついでに、この桶にたまった水をぬるま湯に変えてくれ。」
「俺の使い方をマスターしてんじゃねーよ。ったくしょーがねーな。」
言われて視線を移すと、桶とは言っても装飾のされている盥のような豪華なものだった。
何の躊躇いもなく、これに体拭きようの水を入れて体拭いてるとか…此奴がちゃんと地位も名誉も金もあったことを実感する。
俺だったら怖気づいちゃうもん。現に、ポールが使ったから使いたくないってのもあるけど、なんだか使いずらい。
盥の水をぬるま湯に変えて、俺も全裸になった。
やっぱり、ワンピースを脱ぎ捨てると元の髪に戻る。摩訶不思議だ。
「あのさ、男二人で全裸とか誤解生みそうだから早く済ませて服着てくれ。」
「どうせ誰も入ってこないんだから問題ないだろ。」
「やめろ!そういうフラグ立てるな!!」
ギリギリ奥歯を鳴らしてポールを一睨みしてから、ふと思いついたある魔法の使い方を試してみることにした。
念のため、鍵を閉めてカーテンもしっかり閉めてから自分に重力魔法を掛けて浮かび上がった。
「何を始める気だ?」
「ふっふっふっ…重力魔法と水魔法のコンボで風呂に入るぜ!!!」
「なんだと!?ズルいぞ!!」
「はーっはっはっはっ!!吠えて羨ましがるがいい!!」
水魔法で温かな湯の球を出して浮かせ、お湯が床に落ちないようにそっと中へと潜った。
温くって気持ちがいい…手で体を擦ってから水球から顔を出した。
「羨ましい…が…ここで俺を放っておいていいと思っているのか?呼ぶぞ?仲間を呼ぶぞ?」
「んな!?くそ…モンスターよりたちが悪いな…子供を嚇すとは騎士の名が泣くぞ!」
「残念だが、お前の騎士だから平気だ。」
「なんたる!!!!」
ポールにも同じ魔法を掛けてやることにした。
別に脅されたからじゃない!
ポールとのやり取りの後、重力魔法で花石鹸を手元へ手繰り寄せ、水球の上へと浮いて全身泡だらけにしてから再び水球へと飛び込んで、そのまま水球の外へと通過した。
ピッカピカです。床も汚していません。
身体も髪も水を蒸発させる魔法で乾燥させました。
ポールも同様です。
さっぱりフローラルになった俺たちは、水球の前に真っ裸で仁王立ちしてます。
流石に、この水球を蒸発させたら部屋がとんでもないことになるくらい知っています。
「処理方法考えてなかったな…村じゃ外でしか風呂やらなかったし…」
「少しずつどっかに運ぶか?」
「んー…窓の外から超高速で蒸発させながら遠くに飛ばすか!」
「ちょっと、外を見てくる。」
カーテンを開いて窓を開けると周囲を確認してから戻ってきた。
「どうだった?」
「村が良く見えた。」
「ダメじゃん!!」
「なら、水球を細く糸みたいに変形させて窓から蒸発させていったら?時間はかかるけど見つからないと思うよ?」
「「それだ!!」」
なんて素晴らしい案なんでしょう!確かに時間かかるかもしれないけど、長ーく遠くへ伸ばしていけば時間短縮もできるかも!
流石だなぁ。俺の兄ちゃん…うん?
「兄ちゃん?」
「なんだい?」
「俺、鍵かけたよ?」
「こんな鍵、ちょろいよ?」
「鍵ってかかってたら開けちゃダメなんだよ?」
「アレだけ騒いでたら心配で開けるよね?」
「「すいませんでした!!」」
絶世の眼鏡美青年に、むさ苦しいモブ顔のおっさんと女顔の子供が全裸で土下座です。
ドアからはアジュが呆れた顔で覗いていて、女二人は水球と俺たちをポカンと口を開いてみていた。
お嬢さんたち、俺達全裸なんだけど気にしてないね。
「サラ…なんてことでしょう!とうとうエルとポールは一線を越えてしまったようですよ!!」
「こんなドキドキ初めてですね!しかし、私はライルさんとエル派なんですけど!!」
「バカなの!?お前たちは前々から俺らをそういう目で見てたな!!」
さりげなく兄ちゃんが、部屋備え付けのガウンを着せてくれ、脱全裸したことで堂々と二人の前に立って頭を小突いていった。
「大体、俺とポールで変なこと起きるわけがないだろ!まったく!」
「先のことは誰も分かりませんわ…」
「私も同感です。ポールがなくてもライルさんなら…」
腐女子につける薬がないことは前の世界でも知っています。
取り敢えず、無言で再び小突いてから兄ちゃんに言われた通り水球を処分しましたよ。
しっかし、俺がからかわれてる間、ポールは何も話さないでただ笑いながら服と鎧を身に着けていたな。
これが、大人の対応というものなのだろうか。
何を考えてるかわからないな…そういえば、昨日この宿に決めるのも勧めてきている感じがあったな。
あれも謎だから聞いてみるか。
「そういえば、この宿に泊まるのになんでお前たち反論しなかったんだ?」
「ああ、それはこの宿の方が、変な詮索をされることがないと思ったんだ。一般の宿だと食事が皆一緒の場所で食べたりするのが一般的だから話しかけられる率が高くなる。
この宿は、都でも聞いたことがあった宿で、金持ちや国からの使者が多いから個室主義で詮索されることもない。
それに、探し物が手元にあったら気が付かないだろ?」
「木は森に隠せってとこだな。人を隠すなら人が多いところの方が分かり辛い。」
やっぱり有名宿だったんだな。
引っかかりも解決したし、水球の処理も済んだから身支度整えるかな。
都では見て回ることが出来なかったけど、自分の村以外だと初めての散策だ!




