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村長さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 総ての始まり
32/82

贅沢は敵ではなく憧れ


夕飯はリビング的な広い部屋で取ることになった。

一時間位してから、美男美女が代わる代わる食事を運び込み、親切丁寧にサポートしてくれた。

俺たちは、あまり経験のない豪華で上品な夕飯に舌鼓をうった。

この世界は、保存食以外かなり薄味で、調味料や香辛料の使用量が少ない。その分、素材で勝負したり、量の多さで勝負している。

ジャンの宿は、少々濃いめで量少なめの品数多めという、貴族や王族向きの料理の出し方だった。

一般的な村では、こんな出し方やもてなし方はしない。

金がとてもかかることだからだ。

軽く見積もっても、一週間で俺がさっきまでつけていた髪飾りの片方くらいの値段はとられるんじゃないか?

他愛もない会話を楽しみながら、みんなチラチラとポールの頬についた小さなモミジの後を見て笑みをこぼしていた。

今回は、遠慮なく瞬間的に身体強化の魔法を使ったからね!

じゃないとポールみたいな頑丈な奴には響かないし、俺の手も痛くなってしょうがない。


「黒、美味しいかしら?」

「ああ…頬が痛くなかったらもっとおいしかったな。」


一斉にみんな噴き出して笑い、一方ポールはむっすりとした表情で酒を煽った。


「そう、怒るなよ。酒が美味しくなるまじないをかけてやるから。」


隣のポールが持つジョッキに手を伸ばし、指先を触れさせて微笑んだ。

周りにわからないように、少量の魔力をジョッキを通じて、中に入っている酒に流す。


「仕方がないな…可愛い婚約者がそう言うなら機嫌を直すことにしよう。」

「一言余計なんだよ!」


冷たくなった酒を飲むほして上機嫌なポールに、呆れて一息つき、食事の続きを楽しんだのだった。



食後の紅茶を楽しみながら、仕事が終わって訪ねてきたジャンとイアンに色々な話を聞くことにした。

この二人の手伝いは、この宿の調理場で腕を振るう事だったそうだ。

若いのに大したものである。

俺も料理は一応できるが、ニンジンの皮むきだけは苦手だ。


二人にまず聞きたいのは、この宿と村の現状だった。

何故、こんなに兵士や騎士が泊まっているのか。

通常だったらどういう状態なのか。

その次に聞きたいのは、この村で注意することはないか等々だ。


「兵士や騎士が多いのはよくあることだけど、今回は特別騎士の方が多いよ。

なんでも、国が捉えていた重要人物が複数逃げ出したとかで大変な騒動になってる。

噂によると、大地を腐食させる魔王のような力を持った人間なんだって。

本当だったら怖い話だよね。」


はい、怖い話です。

なんか変なところが誇張されてるんですけど!

酷い話だ!絶対に掴まらないぞ!亡命だ!亡命!

精霊使いを見つけて村に舞い戻って大地を回復して貰ったら、元の生活はできないにしても、このワンピースで騙し通してやる!

そうなったら、村長さんちの次男じゃなくて長女になっちゃうのかな…ちょ!結婚とかできなくない?


やめよう。今、あれこれ将来を考えすぎると深みにはまってしまう…


「怖い話ね…どれくらい前に居なくなったのかしら?それによってはこの村を通り過ぎてる可能性もあるわよね?」

「うん。騎士の人たちも言ってたよ。そろそろ、他の村へ移動して探した方がいいかもしれないって。」

「なら、少し安心ね。着いたばかりなのに怖い思いはしたくないもの。」


紅茶で喉を潤して微笑みかけると、ジャンもイアンも頷いて微笑み返してきた。


―コンコン―


「あら、こんな時間に何かしら?ライ、出て頂戴。」

「はい、お嬢様。」


ジャンとイアンが来てからは、怪しまれないようにアジュとサフランと立って見守っていた兄ちゃんに、申し訳ない気持ちを押し殺してお願いした。

はぁー…早くいろいろ聞いてお引き取り願わないとな。

サフランがフラフラしだしてる。器用だなぁー…立って目を開けながら寝てるよ。


「はい、どういったご用件でしょうか?」

「夜分遅くに申し訳ない。こちらに美しいご令嬢が宿泊していると聞いて、挨拶だけでもと思い、参ったのだが…」

「大変申し訳ございません。ただいま、お嬢様は婚約者同席の元、こちらの宿のご子息と大事な話をしていますので、また後日お尋ねください。」

「婚約者!?…では、今、巷ではやっている婚前旅行中なのですか?」

「はい、そちらも兼て旅をしています。」

「そうでしたか、失礼いたしました。」


ジャンが、兄ちゃんとドア越しに声が聞こえる騎士と思われる人物との会話に目を見開いていた。


「ジャン、嘘も方便よ。話した通り、お父様のお使いで隣国に行くだけなのだから。」

「そ…そっか!」


ぱあああああっという効果音が聞こえそうなほど安堵した表情で紅茶を一気飲みしていた。

ジャンには旅の途中で真実を書いた手紙を送ろう。

俺を女だと信じて青春を棒に振ってしまっては、あまりにも可哀想でならない。

ここに滞在中は、申し訳ないけど利用させてもらおう。


―どたんっ!!-

ドアが閉まって、兄ちゃんが戻ってきたので話を続けようと口を開いたとき、背後から大きな音が聞こえた。

なんだ!?

慌てて振り返ると床にサフランが倒れ込んでいた。


「どうしたんだ!?」


つい、慌てて素が出てしまったが、皆もあわてていたのでセーフ!


「お嬢様、心配には及びません。こいつ寝てます。」

「おい、踏んづけて起こすか…」

「ダメだって!俺達ちょっと長居しちゃったみだいだから、また明日来るよ。可哀想だから寝かせてあげてくれ。」

「優しいのね、イアン。有難う…明日、村の案内を頼んでもいいかしら?」

「ああ!これから朝の仕込みも昼の分もやっちゃうからいいぜ!」


サラが、サフランを抱き上げて一礼してから自室へ入って行き、それを見送ってから少年二人を見送った。



「明日は、俺と兄ちゃんで村を回ろう。アジュとポールは別口で情報を集めてくれ。サラとサフランは部屋で休んで貰おうか。」

「それがいいと思う。サフランは、そんなに体力がないのに、ここのところ無理してついてきていたからな。」


明日の方針も決まったし、各々寝室へと戻ってベットに入るのだった。

はー…ベット落ち着くわー。

家のベットよりもふっかふかで軽くて…すぐに意識が遠のく。

明日は、たくさん散策するぞ!

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