少年は美少女がお好き
俺達は、話し合った結果、少年達の後に続いて歩いていた。
尾行していた事を優しく問うと、ジャンの家がやっている宿に泊まらないかと誘おうと機会を伺っていたそうだ。
なんでも、ジャンの家が経営している宿は、都でもあまり無い位大きいのだという。
だから、いきなり大人数でも問題無く受け入れられる。
食事もレストランを併設しているから問題ない。
ちょっ!かなり村の定義から離れてないか?
探りを入れてみるか…変な黒い陰謀渦巻く経営者だったらマズイ。
これ以上のゴタゴタは、処理しきれないからな。
「村規制がこの国にはあったはずだけど…そんな大きな宿って大丈夫なのかしら?」
「心配ないよ。うちは、国公認宿の1つだからね。」
「国公認宿?」
「エミルは、旅を始めたばかりなのかな?
国公認宿っていうのは、国の仕事で来ている人が滞在する宿で、ギルドや一般の宿とはまた違うんだよ。」
ヤバいな。陰謀感よりももっと警戒すべき案件勃発だ。
国の仕事で来てる奴=現在一番多いのは騎士、兵士だろ。
その中にお尋ね者の俺達が泊まるってやばくないか?
いくら変装してるからって、同じ屋根の下に居たらボロが出るだろ。
それに、宿くらい気を抜いていたい。
「そんな立派なところに泊まれないわ。私たちは一般の宿を取る方がいいみたい。」
「息子である俺の紹介だし、そこは大丈夫だよ。
それに、エミルはさっきミルクティーが飲みたいって言ってただろ?この村だったらうちが一番美味しいミルクティー出せるよ!」
おふぅ…過去の自分を殴りたい!お嬢様はミルクティーを飲むもの先入観のせいで断り辛い!
しかも、紅茶って結構な値段するものだぞ?俺だって特別な時に、母さんから飲ませてもらうくらいなのに…
くっ!田舎の村長の息子よりも都会近くの宿屋の息子の方が格が上という事か!
「お嬢様の言う通り、そんな立派な宿では、贅沢から少し離れたいとおっしゃっていたお嬢様の考える旅の目標から逸れてしまいます。」
「そう、そうなの。私は、贅沢をあまりしないで旅がしたいの…」
兄ちゃんナイスアシスト!しかし、俺は贅沢できるものならしたい!でも、我慢なんですね。分かります。
「この村くらい、いいんじゃないか?お嬢様は、今日お前たちのせいで疲れているのに、ずっと待っていたのだから。」
ん?なんだって?ポール、何言っちゃってんの?
サラも鎧を鳴らしながら頷いている。
二人には何か思い当たることがあるのかもしれないな。
「申し訳ございません。私達のせいですわね。お嬢様、この村くらいは、お言葉に甘えてゆっくりいたしましょう?」
「ええ…ジャンもみんなもこう言っていますし…甘えることにいたしましょう。」
「やった!うちの宿でもとっておきの部屋を格安で用意するからね!エミルは、俺にとって特別だから!」
サフランまで言ってきたってことは、ここは乗っておくべきだな。
それにしても、ジャンの奴分かりやすいなー。恋愛に鈍感な奴でも分かるくらいわかりやすい。
顔を真っ赤にして、鼻歌歌いながら歩いてるよ。
俺の手まで握って。
兄ちゃんとアジュの目がかなり怖いけど、仕方がないから我慢してやるか。
まさか、あのバカでかいレンガ造りの建物じゃないよな…
足を進めれば進めるほど、迫ってくるように近づく立派な建物に頬が引き攣った。
博物館か図書館かなんかか?
サフランの神殿よりは小さいけど、宿にしてはデカい。
あー、そうだ!前の世界のホテルだよ!
「ここだよ。今、父さんたちに言ってくるから待ってて!」
「んじゃ、その間に俺がエミルの相手をするな。」
「イアン!変なこと言ったりするなよ!」
豪華絢爛な入口に立たされ、呆然と二人のやり取りを見ていた。
おい、国公認宿ってこんなに凄いのか?
あー…もしかして、企業の保養所的な認識でいた方がいいのかもしれないな。まぁ、この場合国だけど。
「エミル、ジョンは良い奴だから、あんまり冷たくしないでやってくれよ…アイツ、女の子にこんな風に接することないからさ…わかるだろ?」
「ええ。冷たくなんてしませんわ。彼もあなたもいい人だもの。ただ、私には婚約者がいるから心苦しいですわ。」
「「婚約者!?」」
アジュ!お前まで驚くんじゃない!嘘に決まってんだろ!
思わずアジュの頭を軽く撫でてから一睨みし、左手をイアンの前へ差し出した。
指に燦然と輝く青い宝石。利用しないわけにはいかないだろ。
「この通りです。それにこの指輪は、外れないよう魔法を掛けられているんです…」
「そんな、相手はどんな奴なんだよ!?外れないようにするなんてまともな奴じゃない!」
「それは…」
困り顔で俯き、スカートをいじりながらチラッとポールを見る。
うん!意図的にね!
今日の調子のってる分をここで晴らさせてもらうぜ!!犠牲になるがいい!!ロリコン騎士!!
ポールの顔がみるみる蒼白に変わっていく。
「あんた、おっさんなのに、こんな小さな女の子相手に恥ずかしくないのか!」
「いいえ!責めないでください。こんなポンコツでも変態でも私の婚約者なのです!」
胸の前で両手を組んで、笑いを堪えて沸き上がる涙で瞳を揺らし、イアンの顔を覗き込んだ。
その様子を見ていた皆の反応が酷かった。
アジュと兄ちゃんが顔を背け、肩が小刻みに揺れている。
サフランとサラは、涙目で口元を手で覆っている。
ブルーノは、丸くなって震えている。
うん!全員笑ってるね!それにポールを助ける気はないね。
ポールは、オロオロしていたが何を思ったのか俺の肩を抱いてきた。
「恥ずかしくなんてありません。エミルお嬢様は年の差など気にしていません!彼女は年上好きなので!
それに、この婚約は彼女から申し出てきたものです。」
「んなっ!!」
こいつーーーーーー!!こんな美少女が、お前のようなモブ騎士に求愛するわけないだろうが!
現実見ろよ!仕返しとは上等じゃないか!
「エミル…その人と婚約しているのかい?」
「ジャン!婚約はしているけど、私から申し出たわけじゃないわ!こいつが勝手に…「お嬢様、下品な口調はおやめください。」すいません。」
戻ってきたジャンにまで勘違いされたんじゃ敵わん!
しかし、ヒートアップしすぎて地が出そうになってしまい、兄ちゃんに注意されちゃった。
「お嬢様、少しお口を閉じていらしてください。黒もこれ以上言うなら部屋でお話をしなくてはなりませんよ。」
「「はい…」」
奥歯をギリギリ鳴らしながらポールを睨むと、涼しげな微笑みを俺に返してきた。
よし、部屋に入ったら殴ろう!
「ジャンさん、お部屋の方はどうでしたか?お嬢様のことでお心を痛めているとは思いますので、正規の値段でお願いいたします。」
「え…いえ…部屋の方も値段も大丈夫です。お泊りいただいている騎士の方々も貴方方の噂を聞いていたそうで、快く応じてくれました。」
「ジャン…落ち込むなよ…エミルは人のものでもさ…あの二人なら人のものじゃないかもよ?」
イアンが、ジャンの肩を慰めるように抱いてからアジュとサフランを指さした。
当然、二人は微妙な面持ちでその様子を見ていた。
「私は、お嬢様命!!例えお嬢様に婚約者が居ようとかまいません。なので無理です。」
アジュは、きっぱり言い放つと落ち込んでいたジャンが勢いよく顔を上げた。
「そうだ!エミルが好きなら諦めることはないんだ!」
骨のある若者ですね。
婚約者がモブ騎士だからダメだったのかもな。
兄ちゃんだったら即効諦めただろうに…失敗、失敗。




