宝石は人を狂わせる
薄暗い巣穴から出ると外の眩しさに目を細めた。
世界は、こんなに輝いているんですね。
あ、俺の指にも美しい光が!!
そうです、青い宝石が燦然と輝いています!!
だってシルバもブルーノもいらないから何でも持っていっていいって言うもんだからさ…ほら、くれるものを余り遠慮すると逆に失礼になるからね…
村のばーちゃん達もよく言ってたし!
風呂敷には入りきらなかったからつけちゃった!
うん、嘘です。
ふざけてセレブごっこをあれからブルーノと一人と一匹でやったんですよ。
だって兄ちゃん達の姿が遠くに見えてきたんだけど、歩いてる途中で目が慣れてきたせいか、行きに見つけられなかった宝箱とか出てきて、ブルーノが力づくで開けたら宝石がいっぱい入ってたんだもん!
流石に俺も持っていきすぎは、よくないと思ったから一瞬セレブごっこをしたんだよ…ほら、俺村長さんちの次男でも辺境の土地にある村だったから庶民なんです!
一度は、宝石を体中につけて高笑いとかしてみたいじゃないですか!
こっそり洞窟の岩陰に隠れて、ネックレスをアホほどつけて、指全部に指輪をゴロゴロはめたんですよ。
子供の指だから全部サイズゆるゆるで、テンションマックスだったおかげか、それもなんだかおかしくてゲラゲラ笑ってて気が付かなかったんです。
薬指についた指輪だけが徐々にフィットしていくことに…
ブルーノは、俺と一緒になってゲラゲラ笑いながらセレブごっこを楽しんでいたが、父親の生暖かい視線に気が付いて、俺に告げてきた。
《える、そろそろいこう?ちちうえがまってる》
「おっとそうだったな!」
そして、ネックレスや指輪をジャラジャラ元の宝箱に戻し、ふと手を振っても抜けない指輪に気が付いた。
おっふ…ジャストフィット…
そして、現在に至るわけです。
うん!俺は誰かの婚約者になったみたいですよ!よりによって薬指!!この世界でも薬指は婚約や既婚を表しているんですよ!
反省してる!
海よりも深く!
後悔もしてる!
海よりも深く!
兄ちゃん達に何言われるんだろうな…スルーする形でやりすごそう!
スルーするのに使えそうなもの沢山持ってきたしね!
呪いの指輪だったらやだなぁ…この世界は、魔道具とかあるんだからもうちょっと警戒しないとダメだよなぁ…
宝石は人を狂わせるものなんですよ、きっと!
金の髪を靡かせて、優雅に表れた俺にみんなの反応は様々だった。
ポールも兄ちゃんもあまり反応しないで普通に俺と分かって受け入れた。
チッ!もう少し反応があってもいいんじゃないだろうか…
あれか?ちょいちょい変わってたから今更な感じなのか!?
イメチェンばっかりして職場でスルーかまされるOLさんなのか!?
アジュは、喜ぶかと思ったら顔面蒼白で俺を見ていた。
二人の女子は、はしゃぎながら俺の周りを囲み、髪やスカートを触る触る。
剥げそうだからやめて頂きたい。
「アジュ、どうした?大丈「大丈夫なわけない!!なんなの!?この指輪!!!!」おっふ」
ダメでしたか…そうですか…
「熱くなるなよ。どうせ、ドジなエルは遊んでて抜けなくなったんだろ?」
「きぇえええええ!!当たってるけど!当たってるけどお前に言われたくない!!!」
ポールのくせに生意気な!!全力で飛び跳ねて鎧を脱いでる途中のポールにクロスチョップをくらわせた。
「おまえ、相変わらず俺に酷いな!!」
痛いとすら漏らさずに受け止めた此奴のチート身体能力にジェラシー!
「エル!スカートなんだからパンツ見えてるよ!」
「いやん!」
慌てて捲れ上がったスカートを引き下ろすが、サフランの手によって再び捲られた。
「おいこら!何捲ってんだよ!痴女か!」
「違いますよ!エルさんのパンツが真っ白なんですよ!何でですか!?」
「お前、一々俺のパンツチェックしてんなよ!充分痴女じゃないか!」
「だって、この間、湖でご一緒したときにパンツは生成でしたよ!」
「は?今だって生成だよ!」
「いいえ!女の私たちを侮っていらっしゃる!こんなに真っ白で生成なんてありえません!」
スカートを捲られたままされる女子との下着論争。
凝視してくる男子。
なにこのプレイ…怖い!
「確かに、俺たちのとは違うね。」
「エル、これはスパイダーシルクじゃないのか?」
「なんか艶があるよ?」
凝視してきた男性陣から意外な答えが返ってきた。
スパイダーシルクは、大きな蜘蛛のモンスターから吐き出される糸を布にした高級品で、俺みたいな田舎の次男坊が身に着けるなんて恐れ多くてできるわけがない代物。
ふと、自分のパンツを見ると先ほどとはまた変わっていた。真っ白で品物の質が上がっている。
それじゃぁとブーツを見るとブーツまで質が上がっていた。
「このワンピースすげぇ…」
「ワンピースのせいなのかい?」
さりげなく兄ちゃんが、スカートを捲ったままのサフランの手を叩き落とし、甘い微笑みを浮かべて俺の頭を撫でた。
兄ちゃん…王子様みたいですね。
きっと、今の俺と兄ちゃんは、さぞかしお似合いでしょう。
「まさか…伝説の魔道具?」
「ふははははは!その通りだ!純白の蝶だぞ!羨ましかろう!!」
「「くっ!!猛烈に羨ましい!!」」
見せびらかす様にクスクス笑いながら二人の前でクルッと回り、ふわふわの金髪を後ろへと手で流した。
「しかし、ご覧の通り古いせいか髪型と目の色しか変わってない…魔力は微量吸われ続けているのに!」
「一気に羨ましさが半減ですね…それに、魔力がそんなにない私には初めから着用不可です。」
「落ち込むな、落ち込むな!!サラ、そんな君にはこちら!ホワイトシルバーの鎧を進呈します!これからは、俺ことあたくしの護衛として男として付いてきなさい!」
「ひいいいいい!そんな予感はしていましたが…仕方がありませんね…うぅ」
シルバが置いておいてくれた鎧を満面の笑みで指さしから、ガッカリ項垂れて四つん這いになるサラの肩を励ますように軽く叩いた。
ポールにも渡したかったが、既にシルバから受け取って身に着けていた。
兄ちゃんもサフランも同様にシルバが渡しておいてくれていた。
やはり、できる男シルバである。
ちゃんと俺にアジュ用のワンピースドレスを渡してくれた。
「アジュ…これ「嫌だ!」…アジュ!我が儘言うんじゃない!!」
食い気味で嫌がるアジュールにドレスを押し付けて、逃げられないように両肩を掴んだ。
正面から幼くも少し男らしくなった顔を見つめる。
「俺だって辛い…しかし、騒ぎを起こさずに旅をしなくてはならないんだ。」
「エルが、一人で女装したくないからでしょ!」
「そうだ!何が悪い!!諦めて早く着替えろ!!」
「酷い!開き直った!!」
騒ぎながらも力づくでアジュールにドレスを着せ、達成感で爽やかな笑みを浮かべながら額の汗をぬぐった。
流石、俺の弟だ。
奉公に出ている幼い女子って感じで実に可愛い。
本当にかわいい。
気が付くとげんなりしているアジュールに頬を擦りつけていた。
いや、本当に可愛いんだって!サフランよりも!
「エル、いつもと逆になってるよ?アジュが、かわいそうだからその辺でやめてあげなさい。」
「兄様!!!!!」
兄ちゃんの言葉で振り返ると素晴らしい光景が!
兄ちゃんもすっかり着替え終わっていたんだけどさ…もうね…執事じゃないの!
王子様だよ!すんごいかっこいい!
絵画とかで出てきそうなくらいの王子様だよ!
アジュから離れて、すぐさま兄ちゃんに抱き着いた。
俺にブルーノみたいな尻尾があったら千切れ飛んでるかもしれない。
「兄ちゃんかっこいい!!世界一かっこいい!!」
「エルも世界で一番可愛いよ?」
「「兄弟愛の域を越えてますわね。」」
俺たちの美しい兄弟愛に、何故か女子二人が涎を垂らしていた。
怖いし、はしたないから女子がそんな顔しちゃダメだぞ。




