巣穴は宝箱
炭酸泉の癒しの後は、シルバ達の案内と狩りで美味しいBBQを味わい、緊張感のあまりないまま、疲労することなく近くの村へと近づいてきた。
数日かけて共に行動していたモンスター達とはこの辺りでお別れです。
獣型のモンスターが多い団体だったので、ペットと離れるような心苦しい状況です。
ま、弱いモンスターはお頭も弱いので、感情的なものはあまり持ち合わせておらず、別れるにしてもあっさりいきますが、少し強くなってくるとそれなりに感情があるようで、俺からあまり離れません。
ブルーノすらもたまに押しのけられてます。
動物に好かれるのはとても嬉しいこと。
でも、モンスターだからたまに力加減おかしくて押し潰されそうだけどね!
普段ならあるはずもないことだが、モンスターとの距離も縮まるほどゆっくり進んでたんだから、きっと村に兵士がいるでしょう。
追ってなんてコソコソしたもんじゃなくて、はっきりバッチリ兵士を配置しているはず。
下手したら手練れの騎士がいそうだよ。
遠目から見ても中規模の村だから暴れてしまったら被害はとんでもないことになる。
俺は、この数日で魔力が回復しているけど、相当なピンチがない限り魔法を使うことはない。
どうするか考えていると、ポールが意外なことを言ってきた。
「シルバに、俺とサラの鎧を預けようと思うんだが…この鎧は身分証明にもなるほど目立つものだろ。
これから先、あまりいざこざを起こさずに行動するなら身分を偽る方がいい。
しかし、この鎧は特注品だから放置するわけにはいかない。悪用される可能性がある。
シルバに預ければ、悪用されることもないし、巣穴の風よけくらいにはなるだろ。」
「確かにそうだな。剣は何かあった時の為に持っていても問題はないだろうが、龍の鎧は邪魔だし思い入れもない。」
二人がそう言ってくれるならこっちも願ったりかなったりだな。
龍の鎧が一番ネックだったからシルバが持って帰ってくれたら万々歳だ。
「シルバ、お願いできるかな?ブルーノを返す時まで預かってもらえる?」
《それはかまわん。ならば、この近くの巣穴にある鎧を代わりに着ていけ。業物ではないが、ないよりはマシだろ》
そう告げると村とは少し離れた方へと歩き出した。
ブルーノの話だと縄張りが広い為、あちらこちらに巣穴兼物置が点在しているそうだ。
その中には、ダンジョンも混ざっているらしい。
《この森は、表の通りを通らずに何故か、人間が集団で入ってきては、我々と敵対して命を落としていく。
そういった者たちは、下級モンスターに躯は食われ、荷物もそのままになっている。
だが、そのままにしておくと邪魔でな…荷物は巣穴に運ぶように言いつけているのだ…狩りをしているときに鎧など置いてあったら邪魔だろ…》
「あのさ、役立ちそうなもんがあったら持って行っていいか?」
《そうだな…ああ、エルに役立つものが確かあったな…》
《ちちうえ!えるにあれをあげたいの!》
《巣穴に着いたら持って来てやるがいい。》
あれ?おかしいな…ブルーノがやる気だすと嫌な予感しかしない。
きっと全裸事件が俺のトラウマになりつつあるんだろう。
考えないようにしようとブルーノの毛をもふり倒した。
シルバや他のモンスターに跨り、獣道を楽々移動していると禍々しいほどの嫌な気を出している洞窟を発見した。
魔力の波動とは違う体に纏わり付くような空気。
アンデットドラゴンが出た時に感じたもののミニ版って感じだな。
でも、巣穴から変な気が出てるって相当変なもんが収納されてるんじゃないのか!?
「俺たちが入っていったら良くない気がするな…」
「そうか?そこまでじゃないだろ?」
「うっ!…私はココで待ってます。これ以上近寄ることが出来ません。」
引き攣った笑みを浮かべ、ポールが腕組をして洞窟前に仁王立ちしていると、サフランの顔が一気に土色になり、口元を抑えながら少しずつ離れていった。
二人とも大げさだな。
やれやれと息を吐いて振り返ると、他の3人も顔を顰めていた。
「あー…俺、大丈夫そうだから中に入って見てこようか?」
『お願いします!』
なんて根性のない人たちなんでしょう!
ブルーノとシルバを引き連れて洞窟の中へと入っていった。
薄暗いが、点々と光るコケや小石が落ちていて何とか見渡せた。
「この洞窟、なんでこんなに嫌な感じがするんだ?」
《ここには色々なものが集められているから原因がわからん。》
《巣穴は大抵こうなっているよ。多分でしか言えないけど、魔国のものがあったりするのかもしれない。》
ん?
ぶぶぶぶぶぶぶりゅーのたん!?
怖い!振り返れない!巣穴に入ってから気配が違うんだけど!
モフモフの気配があんまりないんだけど!!
肩越しにソッと振り返ると薄明りの中、手足が毛に覆われ、体はマッチョな爽やかイケメンが二人立っていた。
人と違うのは薄明りでもわかる肌の色でしょうか?
毛むくじゃらな手足でしょうか?
3mくらいある巨体でしょうか?
ひぃぃぃぃいいいいい!
嫌な感じは、お前らだったんじゃないのか!?
真っ裸なマッチョを従える美少年。
背徳の香りがします。
《エル、どうしたんだい?暗いから選べないなら俺が取ってくるよ?》
《その方が早いかもしれないな。我は、鎧を持ってくるとしよう。》
颯爽と俺の横をシルバと思しき青年が、薄明りなど関係ないように駆け抜けていった。
「ぶ…ブルーノ…?」
《ん?さっきから様子が変なんだけど…具合悪くなったんだったら言ってね?》
「様子が変なのはお前らだ!!!!なんで4足歩行じゃないんだよ!!なんで人型なんだよ!!」
《…あ、言ってなかったね。巣穴は瘴気があるから本来のこの姿になるんだよ。俺も父上も魔国出身だから。巣穴の外は、瘴気がないから幼くなってしまうんだ。父上も一段階前の姿になってしまう。》
「瘴気…この嫌な空気はやっぱり瘴気なのか。
って俺はなんで大丈夫なんだ?本で読んだけど、瘴気は人間には毒なんだろ!?」
《あー…エルは特異体質なんじゃないかな?さ、早く決めて持って行ってあげようよ。》
なんとなく誤魔化された気がしたんだけど気のせいか?
まぁ、いいか。害があるわけじゃないから気にしても仕方ないか。
それよりも早く持って行ってやらないと外で心配してるだろうし。
「んで?鎧はシルバが持ってくるとして、俺たちは何を持っていくかな…」
《まずは服じゃないかな?エルは、これがいいと思うよ!》
尻から下がっていた長いふっさふさの尻尾を引きちぎれんばかりに振りながら荷物の山を漁り、艶のある漆黒の箱を取り出した。
よく見ると金箔が散りばめられている。
え?これはお宝じゃないですか!この箱だけでも売れるよ!!
「いい箱だな…綺麗…」
《ふふっ。エル、綺麗なのは箱だけじゃないよ。》
箱を開けるとシルクのような光沢のある布が出てきた。
ブルーノは、長い爪が引っ掛からないように器用に布を開き、中から純白のワンピースを取り出したのだった。
「ぶ…ブルーノ?これは女性が着るものじゃないかな?」
《そうだよ?》
「俺は男だよ?」
《知ってるよ?》
「おかしいだろおぉおおおおぉおおお!!!俺の服だぞ!」
やっぱりだよ!この犬!姿変わっても相変わらずだな!
ヒートアップした俺と対照的なブルーノ人型は、爽やかな笑みを浮かべたままドレスを左右に振って見せてきた。
《だからだよ。このワンピースは普通のワンピースじゃない。古い魔道具だよ。》
「魔道具?古いって言っても汚れ一つないワンピースじゃないか…」
《このワンピースは200年以上前に作られたもの。身に着けたものの姿を変えるんだ…って言っても昔ほど変化するかはわからないけどね。》
「まさか…伝説の魔道具の一つ…純白の蝶か?」
魔道具には色々あって、使用回数が決まっている魔道具が殆どなんだけど、伝説クラスの職人が作ったものだと半永久的に使えたりする。
本当に伝説の魔道具と言われるものは少ないけど、純白の蝶は女性には夢のような魔道具として有名だ。
ワンピース自体の形は変わらないが、サイズが着用者に合わせて変わり、汚れたり破けたりしても自然に修復される。
効果は、魔力を流すと着たものの姿を望むままに変える。
なんて不思議で素敵な道具なんでしょう!ワンピースじゃなかったら最高です!
《ワンピースだから性別も偽れる。バレる可能性も低くなる。ね?エルにはもってこいでしょ?》
うちの子はなんて賢いワンちゃんなんでしょう!
褒められる期待に目を輝かせ、頭を撫でてと言わんばかりに屈み込んで頭を差し出すイケメン。
満面の笑みでワンピースを受け取るとワッシャワッシャと頭を撫でて褒めちぎった。
「いいこだ!ブルーノたんは、なんていい子なんでしょう!!!早速着てみるか!!」
《着てみないとどれくらい変化するかも分からないと思うから、その方がいいと思うよ。もしも壊れちゃってたりしたら、他に何かいいものがないか探さないとダメだから。》
相当古い魔道具で、劣化している場合は見た目大丈夫だけど効果を発揮しなかったり、魔力を異様に使わないと効果が発揮されなかったりするからなぁ…
何年か前に、父さんが知り合いから貰ったっていう、映像を映す魔道具を使うとこ見たけど、古すぎて魔力吸われるだけ吸われて1分くらいしか稼働しなかったんだよね。
ただでさえ、父さんは魔力が多くないのに枯渇寸前まで頑張っちゃってたもん。
ボロボロの服を脱いで下着姿になり、ワンピースに腕を通した。
《ほう、やっぱりそれを渡したか。》
《エル達は追われる身ですからね。何着かあれば良かったんですが…》
《仕方あるまい、これはこの世で一着しかないものだからな》
「シルバ、ブルーノ!どうだ!?変わったか?」
開いている背中をとめようと手を伸ばすが、魔力が吸われ出すと自然に背中の開きが閉じた。
頭がむずむずして触れるとふっわふわの金髪が胸元まで伸びてきた。
しかし、手も足も変わっていない。
髪だけか?
《あー…やっぱり古いからかな?髪と目の色しか変わってないよ。》
《中途半端にしか変わらないとは珍しいな…魔力の消費はどうだ?》
「あんまり消費してる感じはないかな…ってか髪と目だけでも変われば十分だよ。」
早く確認したくて洞窟内にある水たまりに近づき、水面をのぞき込むと金髪の美少女がのぞき込んでいた。
うん、俺なんだけど髪型変わると変わるなぁ…元々女顔だったししょうがないか。




