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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第一章 狩人の村
12/101

11話 『魂を持つ事』

「Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Celui qui est courageux est finalement détruit.

Détruiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiit!!!!!!!!!」


「何がサンキエム(五号)よ! オンジエム(十一号)より何倍も強いじゃない!」


「エリク! エリク!」


「大丈夫だ!」


 行方知れずのサンキエムがいずこかで謡う破滅的な詩の一節がオーケストラめいて大広間に反響し、元素を貫き光を反射する白銀のパイプ触手が天井をぶち抜かれ巨大広間と化した地下基地内を縦横無尽に駆け巡る。

小細工一切無しの自殺的力技だが、強い。

聖騎士団内で通称“怪人”と呼ばれているベルトラン製改造戦士を今までに何人も葬ってきた“勇者”エリクと“聖女”ジョゼではあるが、これほど人型からかけ離れた存在を相手にするのは初めてのことだ。

そもそも展開されている触手が多すぎ、どこが本体なのかすらわからぬ有様。

だが、四人も単に追い込まれているわけではない。

各々のスタイルで耐元素触手に対抗し、解決策を模索している。


「っがあああ!」


エリクを巻き込んでいた触手群が鋭い爆発音と共に爆砕され、金属片が飛び散った。

しかし、リュミエラ達の方に被害はない。指向性爆発!

カランカランカラン、白い煙の中から、千切れ飛んだ触手を振り払ったエリクが姿を現した。

鎧と服はずたずただが、貫かれた傷は半分ほど修復されている。

恐るべき“勇者”の生命力だ。

そして、エリクの体が鈍い金属光沢を放ちはじめた。

地肌に発生した謎の金属結晶がタイル装甲状に成長し、広がってゆく。

そこに殺到するのは当然、新たな白銀パイプの束。

エリクは避けようとはせず、床に剣を突き立て力強く構えた。

触手群がエリクの胴に激突し、そして。


「かかったな!」


 エリクは更に前へと爆発した。

まるで人間クレイモア、“勇者”の知識と魔法能力が合わさった攻防一体の攻撃性爆発装甲である!

爆発は衝突した分だけではなく、近くの白銀パイプをもまとめて粉砕した。

優雅に剣を引き抜いたエリクがサンキエム本体を探す。

ジョゼはそれを見守りつつ、聖光で触手を弾いていた。

彼女は攻撃性能も十分高い、しかし破壊に関しては当然にエリクのほうが上手だ。

無論、防御のみを行っているわけではなく、エリクやサンカント、リュミエラに活力を送る。

“聖女”が聖女たる所以、強力なサポート能力は一度に三人をカバーする程度朝飯前なのだ。


「くっそー! どこだよ!」


 一方、サンカントは力技で触手を捌く。

饑(ひだる)の力と強靭な改造皮膚で攻撃を止め、砕き割る。

彼の目的はサンキエムの魂と核(コア)であり、倒さない事には力が増えない。

しかし、彼は不器用だ。

壊し、喰らい、進む。

それしかできることは無い。


「むむむ……」


 広間の一角が、灼熱の蒸気を噴いている。

熱の中心部では、固有形質を内向きに使い超高熱物体と化したリュミエラが竜牙剣(ドラゴンキラー)を脇構えしつつ黙考していた。

サンキエムとその白銀触手群は、収束光線(レーザー)には耐性があるものの単純な熱まで無効化できるわけではないらしく、他三人に比べリュミエラを襲う触手パイプはかなりまばらだ。

しかし、彼女の様々な波長を見分ける眼をもってしても、暴れ始めてすぐにどこかへ消えたサンキエムの本体は見つからない。

エネルギー残量にはまだいくらかの余裕があるが、得意技が通じない以上迂闊な行動は取れぬ。

だが、この場で最も索敵に長けているのは彼女ではない。


「下ですわ! 床を破壊して!」


 ジョゼが叫んだ。

細かく張り巡らせた聖光粒子の網が、ようやく結果を出したのだ。

三人の動きは素早かった。

爆発が、強力が、熱と刃が床に叩き付けられる。

KABOOM! KABOOOOM!! KABOOOOOOM!!!

地の裂け目から魔力が噴出し、霧散し、白銀パイプ触手が次々抜け落ち、部屋が崩れ落ちてゆく。

サンキエムは地下にマグマじみて溜まった魔力を吸収し、エネルギーとして使用していたのだ!

だがそれは今、解放された。

崩壊に次ぐ崩壊。

地下基地の外壁が思いのほか堅牢なことだけが全員にとって救いである。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「うふ、ふ、お付き合い頂き、どう、も、050……皆様……ハカ…………。

……Celui qui est、げほ、 courageux est、ア……あ、finalement!」


 ぼろぼろ、ぼろぼろ。

床下の地下空洞に固定されているサンキエムからでたらめに伸び広がる無数の白銀パイプ触手が、節々ごとに崩れながら落下してゆく。

整地されておらず、ごつごつした岩そのままの床に着地したリュミエラ達は、難しい顔でその様子を眺めている。


 ぼろぼろ、ぼろぼろ。

金黒の瞳から銀青色の血涙が零れ落ちる。

上半身だけの状態で散々に暴れまわったサンキエムの機械の体は崩壊しつつあった。


「一応、倒した……ってことになるのかな」


 エリクがあまり嬉しくなさそうに呟く。

敵であるとはいえ、若い女の肉体が崩れてゆくさまはあまり気分のいい光景ではないだろう。

特に、彼のような人間にとっては。


「あれの消失を確認したら、戻りましょうか。

資料の類は本当に無いみたいですわ」


 少し遅れて、ジョゼがローブをはためかせてゆっくり降下してきた。

彼女はサンキエム本体の在り処以外にも、探し物をしていたのだ。

しかしどうやら、目的のものは見つからなかったらしい。

四人には知る由もないことだが、実際にこの地下基地には何も残されていないのだ。

全ての資料は破棄され、資材等はサンキエムの燃料として食い潰されている。

ジョゼとエリクには既知であるが、“ベルトラン博士”はようよう用心深い人物らしい。

他の三人同様に色々と考え事をしていたリュミエラはふと違和感に気付いた。

振り向き、口を開く。


「ねえサンカント、あれは前のみたいに食べないの?」


「う……ん……」


 サンカントの様子が不審だ。

敵の命に感傷を覚えるような性格ではなかったはずなのだが。

リュミエラが首をひねっている間にも、サンキエムの崩壊は進む。

今やほぼ頭しか残っていない。

掠れた機械音声の呟きが響く。


「さ……あ……わ……の、力を……50。

Auu……Au revoir……jeune frère charmant……Disette! 」


 そして白銀の顔が、砕けた。

中から薄赤く煌くごく小さな霊的物質が現れ、サンカントの胸部に吸い込まれてゆく。

異変を察知したエリクとジョゼはそれを止めようと素早く振り向いたが、遅かった。

霊的物質の移動は早かったし、なによりリュミエラが立ち塞がったからだ。

張り詰めた空気。

エリクが威圧的に警告する。


「それ(Il)は危険だぞ」


「大丈夫よ、前回も問題なかったわ。

……ん、あら、どうしたのサンカント」


 リュミエラは気軽に返し、“牙”を煌かせた。

一方、サンキエムの残滓を取り込んだサンカントは動かず、何かを見上げたままぼうっと立ち尽くしている。

直後、絶叫が迸った。


「ア……アあ……Regagnez……Regagnez……ああ……AAAUGHHH!!!」


 ドシン、叫ぶサンカントが膝から崩れ落ちる。

重い音は、動揺で質量コントロールが働いていないせいだ。

サンカントは唐突に遮光バイザーを剥がし取り、虚空に、サンキエムが崩れ落ちた先に焦点を合わせた。

その禍々しくも美しい金と黒の瞳から涙が溢れ出す。

リュミエラは首をひねった。

前回、オンジエムとかいうエルフ怪人を喰らった時は何もなかったのだ。

どう考えても、ごく断片でしかないサンキエムのものより丸ごとのオンジエムの方が情報量で勝るはず。


「どうしたのかしら」


「ううむ」


エリクとジョゼも困惑し、顔を見合わせる。

怪しいが、少なくとも暴走という感じではない。

“勇者”エリクは容赦なき破壊工作員だが、直前まで共に戦っていた協力的存在を怪しいというだけで葬るほどには壊れていなかった。

サンカントは叫び続ける。

涙はじきに涸れ、瞳からは血が滴り始めた。

色は、赤い。

それは、怪人である彼がまだ一度も死んでおらず、地続きの肉体を持っている事を意味している。

しばらくの間泣き続けたサンカントは、最後に掠れた声で一言呟いて倒れ伏した。


「……さん」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



(Regagnez.)


 わかってる。


(Regagnez.)


 二つ目になったぞ。


(Regagnez.)


 しつこい。


(Regagnez.)


 ああもう。


(Regagnez.)


 いくつ要るんだよ。


(Celui qui est courageux est finalement détruit.)


 滅びるにはまだ早い。


(C'est le même comme un tremblotement de la bougie dans le vent sérieusement.)


 塵なのは、お前だ!


(Regagnez.)


 取り戻すのは!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「俺だアアアア!」


「ひゃあ?!」


 サンカントは目を見開き、牙を煌めかせて飛び起きた。 

最初に視界に入ってきたのは崩れかけの天井だ。

耳には、女性の驚く声。

勢いよく立ち上がったせいで、倒れたサンカントを守っていたリュミエラと激突したのだ。


「痛ったあ……ま、元気そうで良かったわ。

あんた、結構長いこと倒れてたのよ、そうねえ、ゆっくり食事してもまだ余るぐらいかしらね」


「あ、うん、俺は、ごめんなさい」


「本当、どうしちゃったの?

まあ、そういうことだからさ、こっちは大丈夫よ“勇者”様、“聖女”様」


 少し離れた場所で、エリクとジョゼがサンカントとリュミエラをじっと見ている。

彼ら二人の鋭敏な感覚をもってしても、今のサンカントは両頬についた血涙の跡以外、特に異常は認められない。


「ええ、それはもう。

なら、こんな薬臭い廃墟はさっさと脱出しましょ、水晶集め(クリスタルハンター)さん」


 やや不機嫌さを残しているリュミエラに声をかけられたジョゼが、実に彼女らしい柔らかな業務用微笑で返す。

とはいえ特に悪意や裏などは無い。

これが“聖女”の自然体なのだ。

連絡事項を最小限で切り上げたジョゼは、エリクのほうに向き直って囁いた。


「……それで勇者の力は、ツチヤさんは何と?

エリクなら当然、今の間に相談してますわよね」


「おっさん曰く、ほっといても問題ないってか、仲間に引き込む方がいいってさ。

ただ、僕には今一つ意味がわからないから鵜呑みにできないな。

どうも“彼の世界”では、ああいうのは必ず英雄(ヒーロー)になる法則があるらしい」


「ツチヤさんがそう言うんなら、平気そうですけど」


「どうかなあ……機械や鉄のことなら信頼できるんだが」


「ふむ、保留ですわね」


 謎の会話に首をかしげるリュミエラが知る由もないことだが、“ツチヤ”はエリクを勇者たらしめている魂の同居人だ。

超生命力の補給源であり、その魂に刻まれた異世界の記憶でエリクをサポートしている。

特に金属加工の素晴らしい技術は、エリクのゴーレムや奇妙な地属性魔法に大きな影響を与えていた。

もっとも、良いことばかりではない。

ツチヤはTPOこそ弁えているものの知識欲旺盛であり、休日ともなると隙あらばエリクの体を借りようとする。

なによりプライベートではどうしても邪魔だ。

今ではツチヤを外界から一時隔離することができるようになったが、初期は苦労したものである。

閑話休題。


「何言ってるの?

で、帰りはファルギ村にお寄りになるんですよね」


「無論だ、リュミエラ上級水晶集め(クリスタルハンター)さん」


「ええ、やはりこれ以上下には何もないようですし、完全攻略といったところですか」


「……俺も、最後にロドリグ師匠の顔見とこうかな」


「なんにしろさ、いい加減この辛気臭い地下から出ようか。

上で樹脂葉巻(バター)があたしを呼んでるわ」


 休憩を終えた四人が、地上へと向かって移動を開始する。

予定外の事象はあったものの、結果として地下基地は完全破壊され、ルキエル火山周辺の平和は“勇者”とファルギ村の戦士によって取り戻された。

しかし基地の処理は対症療法でしかない。

サンキエムをはじめとした怪人幹部は、非合法組織としては極めて異例な非常に高い忠誠心を持っており、彼らを狙ったところで黒幕ベルトランに刃は届かないのだ。

戦いはまだ続く。


怪人図鑑そのご


〔勇者試験体五番『サンキエム所長』〕

形質学者ベルトランの非人道的改造により新たな記憶と不可思議な肉体を得たゴブリン族の美しい女。

刻まれた魂に“先代勇者”の固有形質コードの一部を埋め込まれており、他の魔法生物や兵器と精神リンクを構築して複数体同時に精密コントロールする能力を持つ。

体の各所に機械接続穴が存在し、怪人特有の金と黒の瞳を持つ他は一般的なゴブリンと同じ外見だが極めて肉体改造度が高く、生身の部位がほとんど存在しない。

高い知性を持っていて、ルキエル火山横地下研究所の管理を担当していた。

サンカントと何らかの関係があるらしい。


・おおきさ

3フィート7インチ、80ポンド(ゴブリン形態)

12フィート、18800ポンド(戦車椅子形態)

3フィート以上3000フィート以下、40ポンド以上40000ポンド以下(デストロイ触手形態)

1フィート、20ポンド(頭部コア+兵器接続用短触手)


・装備

ベルトラン式クリスタル兵器接合可能神経系、鏡面結界装甲付き白銀パイプ触手。


・特殊魔法と能力

「ワンマインド・マルチタスク」

「ダンジョン魔力吸収」

「ベルトラン怪人基本セット」



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