無題
交差点には信号待ちをしている小さなトラックだけが止まっている。
ここだけ見ればどこにでもあるありふれた光景のはずだ。
だが信号が青になったにもかかわらず、少女は首をもたげながらオロオロと立ち止まったまま動かない。
このままだとあれが後ろの車に落ちちゃうかも!
だって見たもん、この前ニュースで!わーん、なんで誰も気がつかないの!
そうこうしているうちに
信号は赤へ。ゆっくりと件のトラックも走り出してしまった。
あ〜いっちゃった〜。
・・・・・・
ま、そんな事故なんて
起こるわけないよね。
私ってば恥ずかしい。
ミキがいてくれれば、なにかしらつっこんでくれるのにな−。帰ってプリン食べよ。
件の車はゆっくりとだが走りだした。
あ〜いっちゃう。
こうなったらもうじたんだを踏むしかない。
「急いでいたから結び忘れたのかもしれないね」
へ?
慌てて振り返れば、ついさっきまで少女しかいなかったのに、1人の女性が手で額をかざしながらトラックを眺めている。
何もしゃべらずにつったっていたせいか、視線は少女へと移っている。
もしかして、このまま逃げちゃおうと思ってたのばれた?怒られちゃうかも!
「気になる?」
「へ?」
「トラック」
「あっ気になるっていったら気になるんだけど、 何か起こるわけないし、それにゆっくり走ったから・・・・・・」
「貴方走れる?」
この人もう少し待ってほしい、つっかえちゃう。
「走れますけど、そんなに速くは・・・・・・」
「だったらいいね、行こう。まだまだ追いつくよ」
女性が指した先には、トラックがもう次の交差点に捕まっている。
どんだけゆっくりなの。
「ほら早く」
女性は言うやいなや少女の手掴んだ。
怖い。
「いやっ」
それが正しい事だとしてもすぐに受け入れられるはずがない。
瞬間的に手を振り払い女性とは逆に走って逃げた。
ここは・・・・・・。
どうやら自宅まで無事に
帰りついたようだ。愛犬のぽん太がお出迎えだ。
あの人も追いかけてこなかったみたい。何だったんだろ、今日1日。あ〜も〜プリン食べよ 。
少女は頭をがしがしかきながら自宅の門をくくるのだ。
「ほら早く」
女性は少女の手をとった。
そんな事言われても。
視線はトラック、女性、トラック、女性。
女性は少女の手を持ったまま目がくるくると踊っている。
そんな可愛い顔しちゃって。
こちらとしては単語一言を理解するのもやっとなのだ。
あ〜も〜、うーうー。
「わかりました!行きましょう!」
少女は女性の手を握りかえし先に走りだした。
あ、青になっちゃった。
トラックは走り出してしまう。
ゆっくり走ってるって思ってたのに、結構速い。
こんなんじゃ声もでない。
途端ぱっと手が離された。え、なんて思う間もなく少女を追い越し荷台に飛び乗ると笑って腕を伸ばしている。
「なんなのも〜」
慣れてきてしまったのか少女も諦めて腕を伸ばした。女性らしからぬ力強さで容易く引っ張りあげてしまう。
「さ、とっとと結んじゃおうか」
「も〜走れるぐらいなら声でるんじゃないですか?
「そか、そうだね。」
「笑ってません?」
「いや、ごめん」
「・・・・・・いいですけどね、諦めました。それよりも私結び方がわからないよ」
「大丈夫」
こりゃまた可愛い顔。
やりかたを教えてもらいながら一緒に結ぶ。
変なの。初めて会った女性とトラックの荷台でまったり、だなんて。せっかく教えてもらたのにこれももうつかう事はないんだろうな。
「終わったー」
一息ついて座り込む。
「上手に結べたね」
「そうでしょ、えへへ」
その後、おくればせながら運転手のおじさんに報告し、道路のすみっこに止めてもらい事なきをえた。(おじさんは大変恐縮しお礼まで言わせてしまった)その女性にはもといた交差点まで連れていってもらってから別れた。(道がよく分からなくなっちゃって)
道路のど真ん中に落ちたゴミ。
ゴミいっぱいのごみ箱。
あれがない。これがない
いつも通りなら見てみぬふりをしてしまうのに。
今日の私をうんと褒めてやりたい。
よ〜し。
帰ったらプリン食べよ。