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12星座別恋愛小説

12星座別恋愛小説 ~かに座~

作者: 黒やま

これはあくまで私の主観で書いたかに座像ですので

この小説を読んで気を悪くしたかに座の方がおられましたらご容赦下さい。

♋6月22日~7月22日生まれ Cancer♋


*世話好き

*母性が強い

*ヒステリック

*感情豊か

*防衛本能が強い


「あ~~~~~、全然思い浮かばない・・・。」


ぼさぼさの髪をさらに掻き毟りズレた眼鏡を元の位置に戻すと


小説家倉科(くらしな)羽舞(うぶ)は大きく溜息をついた。


もちろん羽舞という名は小説家という仕事をするにあたって


考えたペンネームである。本名の『生』という字はあまりに可愛くないため


本を出版するにあたって名前の漢字を変更したのだ。


名というのは人間が自分自身のことであっても決められない


人生最初のものだと羽舞は常に考えている。


自分で決められず親の悪意のない悪意によって付けられた不条理な名前によって


子どもがどれだけ迷惑するか少しは考えて欲しいものだ。


それに比べ今の『羽舞』は小説家のペンネームとしてはインパクトのある


いい名前だと我ながら己のヒラメキに酔いしれるばかりである。


羽舞が小説家として活動し始め早数年、処女作品がいきなり


名の知れた賞を受賞してしまい華々しいデビューを飾ったものの


その後は中々ヒットを飛ばせず低空飛行をし続けているところだ。


おまけに大学時代からずっと交際している桂木(かつらぎ)(あきら)


こちらが仕事で悩んでいる裏で浮気などという不義をはたらいていたものだから


口論を繰り返していたらいつの間にやら膠着状態にはまり込んでしまったのである。


今度こそヒットとまではいかなくてもそれなりに売れなくては


小説家という看板を下げてハローワークに通わなければならなくなる。


そうは思うもののアイデアは何一つ浮かばず手はなかなか動いてくれない。


左右にうず高く積まれた本や書類がまるで急き立てているようにしか思えない。


「あぁー!!今日はもうやめやめ、香帆(かほ)にでも電話しよっと。」


キーボードの前から離れると羽舞は子機の電話から


いつも愚痴を聞いてもらったり相談に乗ったり


それに晶とも大学時代から親しい友人を呼びだした。


「もしもし、香帆?」


『あっ!生?何々?』


電話越しに聞こえる音から彼女が人通りの多い場所にいることがうかがえる。


自分と違い卒業と同時に就職した彼女は帰宅途中なのであろう。


「あのさぁこれからウチで飲まない?」


『ふふ~やっぱり、そろそろ連絡くると思ってたわよ。

 もう生のマンションの前まで来てるから。』


香帆の言葉を聞き終わるや否や窓に近寄りカーテンを開け


通りを見るとそこにはスーパーの袋を提げた香帆がいた。


会社からそのまま来たのかスーツ姿のままである。



「あー暑い暑い、夜だっていうのにこの暑さは何とかならないの。」


ジャケットを脱ぎ捨てブラウスの袖を捲りあげると


香帆は生のマンションの近所で買ったビールを数缶とつまみを取り出し


残りは冷蔵庫へと移した。


また勝手知ったる他人の家といった感じで更に冷凍庫から


レンジするだけの枝豆と氷を持ち出してくる。


「にしてもここは冷房がよく効いてて気持ちいいわね。」


「まぁね、一応いいところのマンションなんだから。」


「で、また桂木君のことでしょ?」


いきなり本題を切り出されたことに羽舞は飲んでいたビールを


思わず吹いてしまいそうになってしまった。


「ゴホッ・・・、今更香帆の超能力には驚かないけど展開早すぎでしょ。」


「超能力じゃないわよ、生の話は仕事か恋愛のことばかりだから。」


香帆もまたビールのタブを持ち上げゴクゴクと喉仏を上下させながら


美味そうにビールを一気に飲み干す。


「・・・晶は絶対他に女がいるって―――――」


「あー、その前に生特製のミートスパ食べたいなぁ。」


「・・・香帆、私の話聞く気ある?」


「あるある!けどまずは腹を満たさなくちゃ、生の料理美味しいだもん。」


おだてられて気分を害する人間はいないだろう、羽舞もまたそんな人間の一人だ。


「しょうがない、じゃ座って待ってなさい。」


「それでさっきの続きだけど桂木君が浮気したの?」


冷蔵庫から材料を取り出しコンロに火をつける羽舞の背中越しに


香帆は先程の話を続ける。


「そうなの!!晶、あいつ連絡つかなかったり

 たまに会って話しても上の空だったりきっと浮気しているにきまってる!」


「ちょっと待って、それだけで浮気だっていって喧嘩しちゃったの?」


「それだけって、大問題でしょ!」


香帆の呆れたような言葉に仰天して羽舞は振り返る。


「まーたこれか。これで何度目の大問題よ。」


感情的な声を上げ目を吊り上げて香帆を睨む羽舞を


尻目に香帆はナッツの袋を開け皿に広げている。


「何回問いただしても違うの一点張りなの、

 そんなので私が騙されるとでも思っているのかって。」


羽舞は素早く調理を終え出来立てほやほやのミートスパゲッティを


2皿テーブルに並べると再びキッチンに向かい


レンジで解凍していた枝豆を器に乗せて戻ってくる。


「あっ!いや~、服に染みがついた。」


一足先にパスタに齧りついていた香帆が悲鳴を上げる、


見ると白いブラウスの胸元に赤いソースが一滴丸い円を描いていた。


「もう、ちょっと見せて。あー、これはウチで洗濯していけばいいよ。

 Tシャツこれ使って。」


香帆のおっちょこちょいぶりに羽舞は嘆息せずにはいられない。


軽くブラウスの染み抜きをしている間に香帆は「ちょっとトイレー。」と


言いながら部屋を出て行ってしまった。


さっきまでの騒がしい空間から一変して静寂さが戻ると


再び羽舞は悩みを思い出す。本が書けない小説家、そろそろ潮時なのだろうか。


そのうえ晶とも上手くいってないこの負の連鎖を断ち切れば


また起死回生の復活ができるのだろうか。


そんなことを思い巡らせていると何度目のインターホンだったのだろうか


玄関の方で鳴っているのが聞こえる。


こんな時間に誰なのか不可解に思いながらも玄関モニターを見る、


すると画面には久しぶりに会う恋人の姿があった。


「どういうこと?」


「あっ、桂木くーん。どうぞどうぞ入ってー。」


「香帆っ!?どういうこと・・・。」


玄関から扉1枚隔てた廊下から香帆と晶が姿を現すと羽舞は香帆に問い詰めると


彼女はサラッと会談の場をセッティングしたことを話した。


「喧嘩してでも何度でもこういうことは

 やっぱり当人同士がちゃーんと話し合った方がいいわよ。

 いつも迷惑かけてる生のためにたまには恩返ししてあげなくちゃね。

 まっ、ありがた迷惑とでも受け取っといて。じゃねー。」


言いたいことだけ言うとそのまま香帆は退出し、部屋には羽舞と晶だけになった。


気まずい沈黙が続く中、先に口を開いたのは晶であった。


「何度も言ったけど、俺お前が思うようなことしてないから。」


「思うようなことって・・・、何よ言ってみなさいよ。」


「だから、浮気なんてしてない。信じてくれよ。

 お前の目を盗んで俺がそんなことできるタマだと思うか。」


「出来ない、と思う。」


「だろ。なぁ、生の思い過ごしだよ。俺もお前が不安になるような行動は慎むさ。」


喧嘩をした際今の彼の言葉は何度聞いたことか数えきれないほどである。


腹立たしい限りだがそれでも羽舞は今回の立役者への義理立てをすることにした。


「分かった、今回は話し合いの場を設けてくれた香帆に免じて貴方を許してあげる。」


「ありがとう。」


晶も羽舞の癇癪が納まったことに安心しとりあえず今日は帰宅していった。


再び一人の部屋になると改めて飲み直す、ふと見ると携帯が光っている。


いつの間にか携帯にメールの着信があった、相手は香帆。以下が送られてきたメールの文面である。


『やっほー♪桂木君とは仲直りした?

 私もたまには役に立つでしょー。

 そうそう、かっこつけて出てきちゃったけど

 生の家にブラウス置いてっちゃったから

 明日の夜取りに行くね。

 その時にまた今夜の話聞かせてね❤

          生の一番の理解者より』


「全く、慌てん坊なんだから。」


今度のことで仕事が上手くいくわけでも晶と一生喧嘩しないわけではない、


だがこのことがなかったら何も分からなかったであろう。


生は口元に微かに笑みを浮かべながら理解者にお礼のメールを打ち始めた。

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