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HEROってなんだっけ?  作者: 落胤
マリシャス復活の章
26/30

楽な戦いなんて認めない

轟々、パチパチと焼ける建物。

 もう、一日中燃えていると言うのに、崩落すら起きていない建物。

 悪しき者が封じられていた建物。

 そう此処は、神殿。

 封じられていた、ということは、封印はすでに過去の物。


 神殿の最も深い部分。

 悪しき者が封印されていた広場にて、銀色の鎧に身を包んだ男がいる。

 その男の眼前で、余裕の笑みを向けている存在。


「それで終わりってわけないですよね~.えぇ?HEROさんよ」

「あぁ!俺が手に入れたこの力が…この程度の筈はない!」


 少年が舌を出し、蔑むような目で挑発。

 その挑発に迷いも無く乗った男、手を握りしめ兜の中から、歯軋りの音が聞こえる。


 少年が腰をおろしているのは、巨大な角を持つ骨の怪物の頭部。

 怪物となった柊の頭部に座りながら、少年は目の前のHEROを見下ろし、笑みを浮かべる。

 その笑みに触発されてか、鎧の彼が目にもとまらぬ早さで駆けだす。


………

…………

………


「見ていて虚しい物だな、HEROの最期って奴はよ」

 少年が骨の怪物の頭上にて、呟く。

 彼の目の前で、膝をつき微動だにしない鎧の男。


「世界を救うためとか言って、手に入れた力で俺を倒せないんだもんな。そりゃ絶望もするか」

 ズブズブと黒い沼に沈みゆく男、すでに身体の半分が沈みこんでいる。


「………」

 終始無言のまま、黒い沼に呑み込まれていくHERO。

 何かを思い悩む少年、彼の頭の中は悪意しか無く、彼が何かを思いついたと言う事は、必然的に悪意のあるアイディアだった。


「良い事おもいついた~ヘヘ」  

 自分のアイディアに自分で拍手し、満面の笑みの少年から黒い霧が吐きだされる。

 黒い霧は、意思を持ったかのように沼に沈んでいくHEROを包みこむ。


「気が変わったので、もうちょっと無様に踊っておいてくれや、HERO殿」

「…」


 霧に包まれながら、鎧から覗く瞳から光がドンドン失われていった。

 悪意は拡散し、どこまでも広まっていく、徐々に世界を飲み込もうと侵略を開始する。


★☆★☆


「あぅ~。どんどん人が多くなってきた…」 


 早起きした僕は、シャーロットと一緒にテレビを見て時間を潰していたのだけれど、思わぬところでアノ人を発見して無我夢中で飛び出して来てから早2時間。

 衝動にかられてバスや電車を乗り継いだんだけど…、迷子になっちゃったよ。


「僕って本当にドジ」


 人ごみに流され、歩き続けた結果。

 歩き疲れてベンチで一人寂しく落ち込む。


(カイザさんについて来てもらえばよかったよ)


 ベンチでお茶を飲みながら目線をあげれば、ドス黒い雲が空一面に広がってた。

 そういえば、ニュースで此処から少しした建物が火事とか言ってたね。


「人が随分多かったけど、みんなそれを見に行ったのかな?」  


少し興味が湧き、少しその現場を見に行こうと思った。

 やみくもに探しても見つかる訳が無い。なら、人の多い場所にいれば武兄たけにいが偶然そこにいるかもしれない。

 僕だって主人公なんだ、絶対にこの行動が吉になるはず。

 ベンチから立ち上り手に持っていた空き缶をゴミ箱に投げ入れ、颯爽とその場から去った。


 また一人、悪意の導く運命に巻き込まれようとしていた。


★☆★☆★☆


 小一時間が立ち、単独行動中の竜華。

 昔、このあたりに住んでいたとはいえ4~5歳の頃、正直のところ地理には疎い。

 とりあえず、煙が出ている方向に真っすぐに歩いて行った結果、どうにか辿り着くことが出来た。

 目の前には、すごい勢いで燃え続ける建物。その建物の周りを警察が立ち入り禁止のテープで囲い一般人が入れないように警備されていた。

 だが、ただの火事にしては警察官たちの警備が厳重で表情が酷く曇っている。


「ん?なんだい?」

「あの、ただの火事じゃないんですか?」


 目の前にいたお巡りさんの裾を引っ張り、振り向いてくれた人の良さそうなお巡りさんに問う。

 僕の質問に少し悩んだお巡りさんは、膝を曲げ目線を合わせながら。


「なんでもないよ、ただの火事なんだけどちょっと規模が大きくて危ないから警備してるだけだよ。お譲ちゃんも危ないからお家に帰った方が良いよ」

「えっとあの…はい――!」



 お巡りさんが竜華に優しくその場から離れる事を促される。

 促されて戸惑っている時だ。燃え盛る建物から耳を塞ぎたくなるような大きな音、爆炎と爆風が竜華と竜華の周りにいた大勢の人間を丸呑みにする。


「いやぁああああ」

「あぁ…あああ」

「うぅ」


 爆発が大勢の人を飲み込んだ後、竜華が目を開けた時見た光景は地獄絵図そのものであった。

 爆風で多くの電信柱や車などがなぎ倒され、衝撃波で辺りのガラスが割れ、炎にまかれ多くの人が燃えていた。

 その光景を見ている竜華は幸い、頬に擦り傷を作ったのみ。


「お譲ちゃん…大丈夫かい?」

「あ、お巡りさん」


 軽傷の理由は、竜華の体を咄嗟に護るように倒れこんでいたお巡りさんのおかげである。

 ただし、爆発から少女を守ると言う勇敢な行動を取った警察官のおじさんは、竜華からは見えないが…その背には大きな傷を負っていた。


「はやく…お家に帰りなさい…ぐっ」

「お巡りさん!お怪我は大丈夫ですか?…うっ」


起き上った竜華が爆発から庇ってくれた恩人の傷を直そうと患部を見た…その後、言葉を失う。

 お巡りさんの背中は、炎から少女を守るために身を張ったせいで焼けただれ、皮膚が剥がれていた。

 だが、何より竜華の言葉を失わせた物は、背中に突き刺さった鉄骨である。

 爆発の衝撃で飛んで来たであろうソレは、お巡りさんの背中腹部を貫き貫通し後、数十センチ深く刺さっていたら竜華ごと串刺しにしていたかも知れない。


「今、治療しますから」

「…」


 竜華が声をかけるも、お巡りさんから返答が返ってこない。

 それどころか、ピクリとも動くこともなかった。


「お巡りさん…」


 竜華は、目の前で恩人を救えなかったことに悔しさと悲しみから涙を流す。

 こんなつもりじゃなかった。ただ、自分は人を探しに来ただけだった。たまたま、この場所に来てしまっただけ。

 ありとあらゆる葛藤が竜華の頭で繰り広げられる。

 死んだ人間を生き返らせる事は、ランクの低い竜華には不可能。


「あぅ…うぅ」


 目の前が涙でゆがむ。

 悔しさから自分の服の裾を握りしめ、辺りを見渡し生存者を捜す。 

 しかし、竜華の希望を絶つかのように現実は絶望を持って応える。

 竜華の周りは、爆発に巻き込まれた死者しかいなかった。


「ん?お前、竜華か?」

「え…」


 炎の中から人影が姿を現す。

 人影は炎から出て来ると言うよりも炎の発生源がその人物であるかのように炎にとり囲まれている。

 あまりの熱気に竜華は、息が出来ず人影を目で捉えるのも難しい。

 肌が乾燥し、咽が乾く、それでも竜華は、その人影から目を離せなかった。 


「久しぶりだな、鎧を着ているから分からないか?」

「その声…」


 炎の中からようやく姿を現したのは、鎧の人。

 鋼色の鎧には、黒い紋章が刻まれており禍々しさしか感じない。

 竜華は、鎧の男から発せられる声に懐かしさと胸に湧き上がる不安から、その鎧の装着者の正体をすでに感じ取っていた。


「もしかして、武ちゃん?」

「覚えてくれてたのか、ずいぶんと大きくなったな。だが、なぜお前がこんな場所にいる?」


 鎧の男が竜華の頭に手を優しく置いた。

 先ほどまで燃えていたと言うのに、竜華はゴツゴツと硬い籠手の感触のみで熱は一切感じない。

 それを疑問に思いつつも、今この時までは会いたかった人に出会えたことに歓喜していた。


「武ちゃんもこの火災を消しに来たんだよね?」

「いいや、違う」


「なら、あのニュースのことは?あんなの嘘だよね?僕、それを確かめたくて此処まで来たんです」

 竜華のその言葉に、男は少しの間沈黙を貫く。


「…アレは真実だ」

「う、うそだよね?あれ…」


 竜華は戦慄し言葉を失う。

 自分を撫でている手とは反対の手に、焼け焦げた人間だったモノを男が掴んでいたからである。

良く見れば、鎧に返り血が付着しており、あきらかに人間だったモノを殺したのは、目の前の人物であると竜華の頭に認めたくない事実が浮かぶ。


「武ちゃん、その人は…?」

「こいつか…。弱いくせに俺に向かってくるので殺処分した、それがどうかしたか?」


 その言葉を聞いたとともに、竜華は男の手を払いのけ、逃げるように走り出す。

 顔は青ざめ、瞳には大粒の涙があふれ出している。

 認めたくない想像が現実であり、自分が好いていた人物と目の前にいる人物は、もはや別人。大好きだった人はもういないのだと思う竜華。

 彼女の知っている人物は、弱者を平然と殺すような真似は決してしない。

 過去に、自分と彼は、弱いものを救いたいという共通の思いがあった。だが、時の流れとは残酷な物で人をどうとでも変える。


「うそだ…うそだ…」


 変わってしまった幼馴染みの姿を見たくなくて足が勝手に動く。

 頭でもよく理解できていない。


「きゃ」


 足元も見ないで走り続けていたために瓦礫に足を取られ、顔から地面に倒れ込む。

 地面に転んだせいで衣服はボロボロ。膝も思い斬りすりむき血が出る。

 ジュクジュクと膝に痛みが走るが竜華は、止まらない。すぐに起き上ったかと思えば血塗れの足で走り出す。


 誰かに助けを求めるべき?カイザさんなら助けてくれる?でもそれって武ちゃんを裏切るってことになるんじゃ…カイザさんに武ちゃんと戦って貰う?

 勝手すぎる…。あの人にはあの人が護らなきゃいけない人がいる…。それに武ちゃんにカイザさんが勝てるとはとても思えない。


「武ちゃんは、元々強いのになんであんな鎧盗んだんだろう」

「あの程度では足りなかったんだよ。俺の望んでいた力に俺の力だけでは届かなかいんだよ。竜華」 


 息が切れ、足が止まったため胸に手を当てて呟く。

 すると、後ろに居るはずの無い人物の声が聞こえ振り返る。


「武ちゃん!?」

「凄いだろ。この鎧を着ければ光より速くだって走れる」 


 かなりの距離を移動したはずなのに鎧を着た幼馴染が背後に佇む。

 彼の言葉に驚く竜華だが、彼の移動したであろう道には炎の道標がひかれており彼が走ってきた事が見て取れる。


「このパワーとスピード、俺はこういう力を望んでいた。この限界すらも感じない底無しのエネルギーを全身で体感できる」

「そんな物のために強盗までしたの?」


 握り拳を作って自分の手に入れた力について語る幼馴染。

 彼の言葉に竜華は喰い付く。

 彼女らの周りは、火災の炎に呑み込まれているが竜華と武光だげがある意味で静かな空間で向かい合う。


「お前はまだ子供だからな、判らない事があるんだ。この鎧は保管しておくだけなんてどう考えても愚行以外の何物でもない…だから俺が有効に使うことにした」

「そのために犯罪まで犯して、街をめちゃくちゃにしてまでそれが必要なの!?」


 あまりにも的外れな意見を述べる幼馴染みに外気の熱を感じない程、竜華の怒りは激しかった。

 彼女と目の前の男との間にだけ交わされた約束。時間。記憶。その全てを否定するかのような言動に竜華の中で武光に怒りを覚え温厚な彼女は吠える。


「アナタは一体誰?本当に武ちゃんなの?ボクの知ってる武ちゃんは、乱暴だけどそんなこと絶対に言わない」

「だから言っただろう、子供のお前には理解出来ない事だと。夢は夢、本当に叶えるのなら己の信念ですら曲げてでも挑まなくてはいけない。俺の目的は昔と変わってないからこそ、今の俺がここに在るんだ竜華」


 竜華の膝が微かに震えている様を目のあたりにした男は、威圧しないように声を和らげ鎧の装着を解除する。

 先程まで身を包んでいた鎧は、武光のズボンのチェーンに形を変えアクセサリーになる。


「昔から正義と悪の両方、どっちつかずだった俺達だ。味方は多くない、だからこそ絶対的な力が必要なんだ。正義と悪、両方を守りとおすためにはな」


 彼の発言に竜華は、小さな体で体格のいい武光をドンっと押す。

 彼女の顔には、涙が流れ、怒りに満ちている。 


「守って無いじゃん!大勢のHEROに大怪我させてソレで何?これが守るってことなの?」 


 竜華は、周りの惨状を見ろといい。それに従った武光は周りを見渡す。


「これは俺が起こした訳じゃない。だが、俺でもこの状況は作ったかもしれないな。先人達の言葉にある通り…何かを成し遂げるには犠牲がつきものグ」

「そんな言葉!武ちゃんは絶対に言わない!」


竜華が手に持った杖で武光を殴ると、武光の口から血が流れる。

 小柄の少女でも武器を使えば大柄の武光に一撃を喰らわせることが出来るが、もちろんのことそんな物では武光の目を覚まさせることも倒すことすらできるわけがない。


「うぐ」

「ふっ竜華、今お前の状況こそが俺の言っていることの全てじゃないか?お前は非力だ。だからこそ俺の目を覚まさせる事も出来ずこうして惨めな目に合う。その心がどれだけ高潔で清らかだろうと所詮は無力。わかったか?」


 殴られた直後、竜華の細い首を大きな手で締めあげ、身体を宙に浮かす。

 首を掴まれギリギリと力を込められドンドン顔色が悪くなり、ジタバタと宙で足を動かす。 

 息が出来ずもがいている小さな少女に語りかける武光の姿は、HEROと思える物が居ないほど許し難いものであった。


「む、りょく…」


 意識が朦朧としはじめた竜華の頬を伝う涙。

 さっきまで輝いていた瞳から光が薄れていき、それに呼応するかのように燃え盛る炎から出てくる煙とは違う黒い霧が竜華の周辺に集まる。

 そして、竜華の体力が尽き手足をだらんと下ろした時、狙っていたと言わんばかりに霧が竜華を包みこもうと蠢く。


「あのーお取り込み中…くたばれ!」

「は?ぐ」


 男の声が聞こえるとカツーンと金属のぶつかる音が聞こえると、武光の体が大きく傾き拘束されていた竜華が力なく落下。

「おっと」

「貴様!」


 よろけていた武光が己の後頭部を殴ったであろう男を目でとらえる。

 男は落下する竜華をキャッチする。その隙をついて鋼鉄でも蹴り抜くような回し蹴りをお見舞いするがジャンプでかわされる。

ジャンプした男は、竜華を片腕で抱えながらバク転して後ろに飛ぶ。


「なんとか間に合いはしたようですが、際どかったみたいですね」


 武光の目の前で白髪に赤縁メガネで全身真っ白の服装の男は、気を失っている竜華が呼吸をしている事を耳を傾け、確認した所で竜華の体を地面に下ろす。

 するとその場に金髪の竜華と同じくらいの背丈の少女が息を切らしながら駆け寄る。


「カイザちん竜華は!?」

「大丈夫です。あなたの勘任せのナビゲートのおかげで間に合いましたよ」


 竜華の青い顔をみて外国人風の少女が慌てて隣にいる男の体を揺する。

 動じることなく少女を宥めた男は、武光を視界の端でしっかりと捉えながら「竜華さんをお願いします。後、お祖父さんの形見の拳銃お借りしてもいいですか?こんな場所ですし相手が相手ですしお願いします」と竜華を抱える少女に謝罪のポーズを取りながら右手を差し出す。 


 少女は、ゴソゴソと古びた拳銃を取り出しそれを渡す。

 それを受け取った男は、拳銃の銃口を武光に向ける。


「ありがとう。此処は煙と炎は来ないようですね。今は御子にいてくださいシャーロットさん」


 そっとシャーロットの頭を撫で少女を護るように前に出る男。手に持った銃を武光に向けたまま、一歩また一歩と武光に歩み寄る。

 その男から感じる気配が自分に対する敵意だと認識した武光は、直ぐ様腰にあるチェーンに手を伸ばす。

 ザッザッと白い男の足音が武光の手前で止まる。



「率直に言わせてもらうと殴り合わずにそれをお返しいただきたい」

「新手のHEROか、ご苦労な事だ…。悪いが答えは…ノーだ」


 武光の返答と同時に戦闘が開始される。

 まず、白い服の男カイザが引き金を引き、火薬が爆発る音が二人の鼓膜に届く。

古びた拳銃から飛び出した弾丸は、狙い通り武光の眉間に向かって飛ぶ。だが、弾丸が武光の体に当たるより先に武光の体を光が包みこみ、その場から消える。


「はや」

「それを覚悟して来たんだろう! 」


 目の前で消えた武光を目で探すと、背後から声と同時に後頭部に拳が向かってきた。

 攻撃に気が付いていないカイザだが、持ち前の【回避】によりその攻撃を屈む事で避ける事に成功。

 身体の勝手な反応に驚きもあるが、何より驚いた事が避けた拳が地面にめり込み、爆弾が落ちたかのような衝撃波が発生し地面がめくれ上がる。

 飛んでくる瓦礫も空中で身体を捻り回避しながら、距離を取る。

 地面に着地した瞬間に両手両足で着地しズザーと地面を滑る。


 四つん這いのまま、顔をあげると目の前の光景は先ほどと全く違うものだった。

 自分の立っていた場所は、爆弾でも投下されたかと勘違いするほど荒れ果てて、其処には何も残っていなかった。

 アスファルトの道路はエグレ、土色の地面が剥き出しのまま、大きく窪んでいる。

 その光景だけで武光のパンチの威力が知れ、もし当っていたら……とカイザの頭に最悪のワンシーンが浮かぶ。

 掠りでもすれば体の一部は確実に消し飛ぶ、もし胴体や頭部であれば即死だろう。


「僕の撃った弾丸より、速く動いたんですね……。それにしても鎧の効力にあなた自身のパワーが加わってるみたいですね」


 カイザは、目の前の惨状から冷静に推測を始める。常に自分より強い人物を相手取る時は、観察し推測し隙を見つけると言う弱者特有の戦術のために眼鏡を外し全てを視る。

 カイザの頭の中で彼の着ている鎧の効果を思い出しゲンナリした。


 目の前のHEROが盗み我が物顔で使っているそれは、【鳳凰の業火鎧】といい途轍もない能力を宿した神創兵器である。

 恐るべき効力とは、敵の強さに合わせて、常に相手以上のパワーとスピードを装着者に与える。つまる所、常に敵(または、そう認識した物)より速く、常に敵より強くなれるという破格の代物である。

 100年前、強大なる悪との戦いのおり、神に与えられしこの鎧を着た英雄が強大な悪を幾つも打倒したとされている。


 その鎧を纏いし現代のHEROと戦う事になるであろう自分は、どれだけ運が悪いのだろうとカイザは心の中で項垂れる。

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