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HEROってなんだっけ?  作者: 落胤
マリシャス復活の章
23/30

【外伝】 英雄の軌跡


 お久しぶりです。

 大学生活やバイト生活で忙しく長らく投稿で来ておりませんでした。

 本日、投稿するのは外伝です。

 それではどうぞ。

――あの時なぜ僕は、全力を出さなかったのであろうか?


「死ね!」

「えっ」


 ソレは、いつものように自分達と敵対する悪と戦い相手を倒した後の出来事、相手が武器を投げ捨て命乞いをし、自分はそれを受け入れた。

 殺すまでもない、彼にも変わる権利はあるはずだと自分は剣をおろした。

 そして、彼に背を見せた瞬間に背後からの殺気と声が聞こえ、振り返る。


――たった一瞬の情けが……僕と言う存在から全てを奪った。


 振り返った俺の前で鮮血が空を舞う。何が起こったか理解するのに10数秒ほど時間を有した。


「ちっこの女! 離せ! こいつ」

「離さない」


 僕の目には、黒髪を伸ばした華奢な少女が彼の隠していた刀をその身で受け止め、華奢な手で刃を掴む事で取り押さえている光景だった。彼女は、僕を背後から狙う男に気付き、僕と男の間に咄嗟に飛び込んだのだ。

 両手で掴んでいる刃物の位置と彼女の背中から突き出ている刃から、刃物は彼女の体を貫通しているのが理解できる。


「貴様!」


 僕はすぐに男の顔に蹴りを入れることで彼女から男を引き離す。

男が離れると、少女の柔肌を突き刺していた刃物が抜け地面に転がる。刃が抜け落ちると同時に刺された少女が糸の切れた人形のように、力なく地面に倒れる。 


「○○! しっかりしてください!」

「ふふ、油断したな……私ともあろうものが四方やこのような所で命付き果てようとはな」


 彼女に駆け寄り、上半身を右腕で支え左手で彼女の傷口からの出血を抑える。剣を投げ捨てたためにガランと剣が地面に転がる。

 力を入れたので苦痛の表情を浮かべる彼女……しかし、僕の手で抑えても、血が止る事はなくドクドクと生暖かい血が彼女の傷口からあふれる。彼女の身を包んでいた白い帯が血で赤く染まり、物の数秒で深紅の帯へと変化する。それほどまでに出血は激しい。

 ふと、視界の端に逃げていく男が見えたが追うなんて言う余裕などなかった。

 自分の胸の中で彼女の血が、命が、彼女の体から零れ落ちていく……


――僕の善意が、僕の期待が、彼女をこんな目にあわせてしまった……


「今すぐに病院に……」 


 少女の体を抱きあげ、すぐに病院に行こうとしたが此処は、周りに街一つない荒野、病院なんて人の足で行ける位置にはない。頭で理解できていてもそんな現実を認めたくなくて無我夢中で走った。

 腕の中で力なく身を預けている少女を救いたい一心で息が切れ、足は棒になり、それでも気力のみで走る。


「うわ……くっ」


 雨が降り始め、ぬかるんだ地面に足を取られ僕は、地面に転ぶ。咄嗟に背中から地面に倒れたので彼女を落す事はなかったが息が苦しくもう立ち上がれそうにもなかった。

 唯一出来たのは、自分の腕の中に居る死にかけの少女を強く抱きしめる事くらいだった。

 勢いよく降り注ぐ雨が僕と少女の体にあたり、流れ落ちる。


「姫……」   

「私の事はそう呼ばない約束だっただろ? まぁいい。どうやら私はリタイアらしい」


 胸に抱いた彼女に呼び掛けると彼女は、自分に微笑んで手を僕の頬にあてる。

 まるで子供をあやす母親のように優しい、そして哀しい笑みをしながら。


「死なないで……くださいっ」

「元はと言えば、私がお前をこの世界、この旅に巻き込んだと言うのに……お前を置いて命付き果てようとは……すまなかった」

「何を謝っているんですか? あなたの言うとおり僕を巻き込んだのはあなたですよ。なら最後まで巻き込んでくださいよ……あなたがこんな事で死ぬたまじゃないでしょう?」


 僕は、少女に大きな声で言い募った。そうでもしなければ少女は、すぐに死んでしまう気がしたからだ。少女は、表情を崩さぬまま最後の力を振り絞り青年に言葉を告げる。

 死に行く自分の最後の望みと思いを伝えるがために。


「聞いてほしいことがある」

「聞きたくありません……聞いてしまったら、あなたが居なくなる気がする」


 今すぐにでも耳を塞いでしまいたいと思いながらも、青年は少女の遺言に耳を傾ける。


「私が死んだあと、私をお前の剣にしてほしい」

「なにを、馬鹿な事を……そんな戯言があなたの言いたかった事ですか!?」

「喚くな、うるさい。確かに戯言だ。なぜなら私は、愚かで救いようのない願いを叶えるために貴様を呼び覚まし、旅に出た馬鹿な女だ。そんな私の遺言がまともな筈がないだろう? 平和な世界を作りたい……愚かしい願いを本気で実行し貴殿を巻き込んだのだ」

「……」


 彼女は、青年の怒りをあざ笑う。それは少女の強さであり、弱さでもある。


「私は、死してなお、平和な世界を望む。だからこそお前の剣となり永遠に存在したいのだ。平和な世を築くためなら死肉であるとも利用するそれが私のやりかただ。今回は自分の死体を礎にするだけのことよ」

「僕は、あなたがいない以上世界を変える気なんてありません……」

「ふん、死にかけの人間の言葉を無下にするとは、祟るぞ。冗談はこれくらいにしよう、もう限界だしな……」

「もう、生きるつもりもないのですか? 生きたいとも思わぬのですか?」

「思わぬな、この戦乱の世界に居たいとは思わぬ。もし仮に、この世が私の望む物となれば再び転生してもよいがな。さて、遺言を残そう……しかと聞け私の最後の命令、そして、我儘だ」


 彼女の徐々に小さくなる声に僕は、彼女の死期が眼前に迫っているのが判った。

 唇を動かすのにさえ、辛いはずなのに……涙を堪えながら彼女の手をとり 強く握る。握った手の冷たさに直の事、心が痛む。


「私は、嘘吐きだ」

「えぇ……僕との約束守った事なんてありませんもんね」

「捻くれているし、歪んでもいる」

「全くその通りです……」

「そんな私が、死ぬ間際に本当の事を言わねばならないなんて……さっきの礎云々は、嘘だ。平和な世界を望んでいるのは真実だけど、それ以上にお前が私は欲しい。愛という感情が私に備わっていた事に驚きだ。でも私は、お前が好きだ。だから、いつまでもお前の傍に居たいのだ……だから頼む」

「なんで、なんでこんなタイミングで……あなたって人は……」


 彼女の死の間際の一言は、僕の心のダムを崩壊させる。ポタポタと雨とは違う雫が彼女の顔にかかる。

 涙が止まらない……止められない。


「もう一つは、お前についてだ……お前の幸せを心から……望んでいる……愛しい人よ。だから……生きてくれ」


 それが彼女の残した最後の言葉だった。言い終えると少女は僕の腕の中で息絶える……刺されて死んでしまったのに酷く穏やかで幸せそうな顔のまま。腕がダラリと地面におち、ぬかるみのせいで濡れるが彼女は気持ち悪いとも冷たいとも感じなくなった。

 熱を完全に失った身体が僕の腕の中で……光り輝く。


「あなたの望み……確かに叶えた。だが、僕はあなたの意思を継いでやる」


 僕の腕の中に居た少女の体は、一本の剣に姿を変えていた。刀身は紫で鍔は赤の何の変哲もない剣。俺は、彼女ほど苛烈で奇想天外で掴みどころの無い女性がこのような昨日の実を求めた剣に変わったことに驚きはしたが同時に納得もした。 


「あなたは、曲がる事などなく、常に真っすぐに生きていた。そう言うことなんですね」


 雨がさらに強まり、滝にうたれている感覚がする。この雨は僕の心と同調しているのではないかと思うほど、僕の感情を表現してくれていた。


「ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 雨に涙が混じって頬から顎に滴り、高らかに上げた叫びとも取れる声は、滝のような雨の音にまぎれる。もはや意味はないのに、声をあげて泣かずにはいられない。

 心にぽっかりと穴が開いた痛み、損失感を誤魔化す為に泣いた。

 世界の中では、一人の人間が死んだだけと言うちっぽけな事でも、僕にとっては世界そのモノが死んでしまったと同じだった。


――――――――――――――この日を境に僕は……契約を完終するための存在へと変わった。


 名を捨て、全身を彼女の使っていた【不可侵の聖域】で覆い、姫の剣を腰にさす。感情と感覚の全てを使命に費やし、慈悲の心など押し殺し尽くした。そして、今まで彼女の禁じられていた私本来の力を押しみなく使った。


―――――まず、手始めに 彼女を殺した奴の所属する組織に斬り込んだ。奴らは、強き悪であったが私の敵にあらず。隠れ家を突き止めすぐさま駆除と言う名の殲滅を行った。

 奴らは抵抗するが私は、その全てを無視し斬り、身を守ろうとした者をガードごと一刀両断した。逃げようとした者達には、容赦なく背後から剣を投降して殺した。

 根城一体が死体と剣のみになると一番奥に居た親玉らしき人物現れる。


「何者だ? よくもまぁ~これだけ一遍に殺せたな。ツワモノを集めてたはずなんだけどな」

「まぁ、手こずりはしたな。だがそれだけだ。次はお前だ」


 俺はボスらしき人物に剣の切っ先を向ける。すでに血でべったりな剣だが切れ味は落ちていない。男が手元にある巨大な斬馬刀に手を伸ばす前に斬り殺す。

 地面を踏み込み、一気に男との距離をちじめ、反応すらさせる事の無いまま剣を振り下ろす。 


「はやっ」


それが男の最後の言葉になる。  

 不意打ちに対処できないボスの身体を剣が脳天から真っ二つに裂く。

 二つに枝分かれした男の身体は、左右反対方向に倒れ血をぶちまける。それを確認した彼は、血に塗れた剣を背中の全身を包むベルトにひっかけその場から去ろうと出口に足を進める。

 ベルトで顔を覆っているため、表情は読み取れないが僅かに外界を覗いている瞳には、虚しさが垣間見えた。


「おいおい、HEROさんよ。もう帰っちまうのか?」

「ほう、確かに斬ったはずなのにくっついているときたか……私は残像か幻でも斬っていたのか?」


 彼の背後でムクリと起き上った男は、身の丈の倍はあろうかと言う巨大な剣を持ち上げ、その切っ先を今度は名を捨てた彼に向ける。その表情はしてやったりと言った得意気な顔である。

 切っ先を向けられている彼は、虚ろな目で男を見続ける。 


「なんだよ、わかったよ。仕方ないから冥土の土産に教えてや」

「結構だ。私は先を急ぐのでな」 

「てめ――!」


 話の腰を折りながら、再び高速で前に飛び出す彼。しかし、今度は男は武器を構えていたので当然、反撃される。巨漢と言っても差し支えない男の倍はあろうかと言う黒く煌めく大剣を奴は、自慢の剛腕から繰り出される怪力で音速を超えた速度で彼の胴体を横からなぎ払う。

 容赦なく振り回された鉄の塊、彼の持つ細い剣では、受け止めようとすれば先程自分がやっていたようにガードごと身体を両断される。攻撃面で優れていても防御には向いていないのだ。


「死ね」

「断る」 


 真横から来る攻撃に彼は、躊躇せず上に飛び上がり、自らの真下を通過する大剣を足場に更に駆ける。

 高速から加速し、神速の域にたどり着いた彼は、己の手を包むベルトを緩め素手を外気に晒す。彼の素肌が唯一表に出た掌を剣の重さと遠心力で体勢を崩した男の顔に目掛けて突き出す。

   

「ぐっ」


 突き出した掌は、男の顔面を鷲掴みにし力任せに地面に叩きつける。後頭部から地面に叩きつけられた男は、一瞬目の前が真っ暗になった。

 だが、すぐに意識を取り戻し巨大な掌で自分の上に居る白いベルトの彼の顔を鷲掴みにする。 

 ギリギリと力を入れそのまま圧殺しようとする男だが、白いベルトの彼は一切動じず逆に睨みつけ眼力のみで男の動きを止める。


「貴様の能力は、不死か再生といった辺りだろう、まぁ怪力も含むのならリビングデッドあたりだ」

「それが判ってるんなら俺が殺せないのは承知だよな!」


 目線での威圧が弱まると同時にもう片方の手で地面に転がっている彼の落した剣を見つけそれを掴んだ。

それを手に男を突き刺そうとすると彼は、掌に力を込め男に聞こえるように語りかけた。


「俺の手持ちには確かに不死殺しの剣はない。だがそんなもの関係ないのだよ。冥土にも持っていけんから土産としては不適切だが、私も貴様にネタばらしをしてやろう」

「あん?」

「私のみが課せられたくだらない力――俺の触れた者を永遠に剣と変える力」


 その言葉を聞いた途端、男は嫌な汗を掻きながら僅かに震える。武者ぶるいのようなに奮い立っているのではなく、単純に自分の未来を悟り恐怖から震えだしたのだ。


「お、おい、やめろ」

「貴様が不死と言うなら、その不死俺がそのまま使ってやろう」


 男の悲鳴がすでに屍と剣しかないアジトに響いた。だが数秒もしない内に声は無くなり、彼の手の中に無骨な一本の剣が握られていた。刀身の複雑な輝きは、躍動していてどれだけ強い生命力を持っていたのかが見てとれる。


「まぁ所詮はなまくらだろうな。散々使い倒してすぐに廃棄してやる」


 彼は立ち上がり、手に持った剣をなんと小さくして自身の袖のたもとに入れる。剣を縮める作業中に口にした言葉は、恨みがこもっていて目には憎悪の念がこもる。

 この一連の殺戮により、彼は姫の仇を一夜にて滅ぼすことに成功した。


「これであなたも少しは救われたのでしょうか……」


 自身の腰に下げたベルトに包まれた一本の剣、彼女が死んだ直後にこの世に生まれた剣は当然のことながら彼の問いに反応しない。

 それがわかっていながらも彼は、問いかけずにはいられなかった。


 沈黙で時が流れ、彼は再び剣を白いべルトで丁寧に包み腰に刺す。


「まだまだ、狩らねばならない。次は、銃聖国家ネバン……銃士の国か。気乗りはしないな」


 彼は、覆面の中で苦笑を浮かべ歩み出す。その進む先に再び死屍累々が広がろうとも、彼は止まらない。もう二度と同じ過ちを繰り返すことの無い、手加減や情けで人が死ぬのなら殺される前に止めを刺す。彼本来のスタイルにようやく帰還した証。


――――――――――その後、銃聖国家はたった一人の侵略者によって多大なる戦火に包まれていた。


 その男が現れたのは、日が沈んだ直後だった。その者の姿を国境の警護が捕えた瞬間に、国中に無数の同形状の剣が雨のように降り注いだ。

 まさに国中が蜂の巣を突いたかのような大騒ぎだった。

 国境沿いの警備は全滅し、空から剣が降り注げば当然の反応ではある。あちらこちらで爆発が起き火災が発生していた。


 この事態にすぐさま王宮から騎士が派遣され、対象の迎撃に繰り出した。

 ネバンでは、剣よりも銃器が発展しておりその技術力を持って他国を次々と攻め落としてきた強国であり、騎士は皆銃を使うため銃士と呼ばれ各国で有名だった。 


 すぐさま出動した銃士に国民は安心したのもつかの間、まるで戦争のような銃声が響きそれが一向に止まないことがネバンの住民の恐怖を掻きたてた。

 この時、状況を確認に向かった国王の密偵が目にしたのは信じがたい光景であった。 


 銃士たちに囲まれ全方向から一斉射撃の弾丸を白いベルトでぐるぐる巻きにした者が、手に持つ剣を目にも止まらなぬ速さで振り回す事で全てを弾いていたのだ。

 それだけでなく更に剣速をあげる事で銃弾の雨の中を疾走し、手当たり次第に銃士達を切り裂く姿は、鬼神の如き姿だった。


 銃弾は、弾かれ、大砲は、刃で方向をずらし、散弾銃は、全て交わす。

 そして、攻撃に転じれば剣を投降し遠くにいる銃士を串刺しにし、近場に居るものは迷うことなく一刀両断にする。


 その様に銃士たちは、まるで自分達は得体の知れない物と戦っているのではないかと言う恐怖に段々と腰が引け出す。

 今までどんな相手であろうと銃を使い戦ってきた銃士達が初めて相まみえる銃で殺せない怪物。 

 その驚異的な力の前に、一刻と立たぬ内に討伐隊は全滅してしまう。そんな前代未聞の事態に一人の英雄が駆けつける。

 偵察に来ていた密偵を発見した後に剣を突き刺した存在に目掛けて手元の銃を容赦なく発砲する。今までとは違った弾速が彼の肩と脚を貫く。

 それでも倒れる事は無かったが、彼の注意が銃弾の持ち主に向けられる。


「貴様、さっきまでの剣捌き……騎士の国の者か?」 


 振り向いた彼に一際存在感の強い男が話しかける。男の両手には銃が握られていたが、なにやらワケ有りな雰囲気の違う2つの銃であった。

 左手には、真っ赤なモーゼル型の拳銃。右手には金色のワルサー型の銃。そうほう共に銃から赤い煙のようなオーラが立ち上っており、あきらかに普通の銃とは一線を置いて違っていた。それに銃の持ち主も少し変っていた。白い袴のような服装に西部劇にいそなブーツに赤いマフラーといった服装である。


「………」

「だんまりか……別にいいけどな。これから嫌でも殺し合うんだ。ぺちゃくちゃ話すのは、戦士の仕事じゃないな」


 そう告げると銃を構えた右手を高く上げ、銃を握った左手を彼に向け、足を大きく開いて腰を深く落とす。まるで拳法でも披露するかのような構えに名を捨てた彼も両手の剣を構える。

 二人の視線は、お互いしかとらえておらず二人の間の空気は、まさに一触即発である。

 だが、銃を構えた男の顔には笑みがあり、この状況を楽しんでいる様に彼には見えた。 


「一応、名乗っておこうかね。俺の名はハヤテ、愛銃は、黒金と紅桜。」

「……私に名は無い。騎士のしきたりに応える事は出来ぬ、悪いがな」 


 まさかの返答にハヤテは、驚くが直ぐに笑みを顔に入りつける。少なくとも目の前の相手が騎士としての戦いに応じる気があることに喜びすら感じていた。誇りの無い相手と戦って勝った所でそれは戦いではない。相手と誇りをかけて戦うからこそ、決闘なのだ、目の前の相手はそれに応えてくれる。国を襲った賊であるはずなのに、どこか仲間意識すら芽生えた。


「名前がないか……なら俺が付けて勝手に呼ばせてもらおうかな」 

「戦士は、話すべきではないのでは無かったのか……」

「俺はおしゃべりが好きなんだよ。そうだな……お前さんバロンなんてどうだ? 世界最強の騎士の名前だが……名乗る覚悟はあるかい?」

「私の国の言葉では【体現者】か……かまわない。元からそうなるつもりだった」

「即答かよ。では、いざ尋常に……」


 軽い会話の中にも、思いプレッシャーがお互いにかかっていた。それは、今目の前に居る対象が自分と同じかあるいはそれ以上の強さを秘めていると感じているから。力が拮抗する者同士がお互いに感じるシンパシーを受け、お互いに気を引き締める。

 ハヤテの開合の合図とともにお互い全神経を戦いに集中し、目の前の敵を打ち果たすことのみに全力を注ぐ。


「まいる!」

「っ!」


 両者が合図とともに地面を蹴り、跳んだ。だが、違うのは跳んだ方向である。

 ハヤテは、後ろに跳びながら両手に持った銃の銃口を名を捨てた彼……今また名を得た騎士、バロンへと向け容赦なく引き金を引く。

 前に跳んだバロンは、後ろに跳んだハヤテを追うようにもう一度地面を強く蹴る。自分に向けて放たれた恐ろしく速い弾丸を剣の刀身で受けるのだが……


「ぐっ」

 その弾丸は非常に重たく、バロンの持つ両手の剣が彼の手から零れる。

「そこだ」 


 その隙を見逃してくれるハヤテではない。すぐさま引き金を複数回引く事で弾幕を張り、バロンの逃げ道を塞ぎつつ必殺の弾丸を放つ。

 真っすぐにバロンの眉間に飛ぶ弾丸だが、何処からともなくバロンが取りだした剣から繰り出される稲妻が弾を呑み込み、蒸発させる。

 必殺の弾丸を蒸発させた稲妻は、音速より速い速度でハヤテをも呑み込もうと進む。

 まさに攻守が逆転した瞬間ではあったが、それすらも予期していたハヤテの行動は実に迅速だった。


「甘いぜ」 


 眼前に迫る稲妻に恐れる事など一切無く、銃の引き金を引く。今度、銃口から発射された弾丸は、高速で回転し竜巻を起こしながら稲妻を逆に呑み込む。

 竜巻と稲妻の混じり合った弾丸が見事にバロンの身体を喰らい、遠くに吹き飛ばす。弾丸本体は、剣で受け止めた物の竜巻により肌を切り刻まれ、稲妻により肉を焼かれるといった余波のせいで全身ボロボロであった。

 常人なら動けないであろう重症にもかかわらず、バロンは立ち上がる。その目から闘志は、消えておらず目の前の強敵の危険度を認知した上で挑もうとする目であった。


「まだ、立てるのか……今のは勝ったと思ったんだがな」

「私は、すでに死を超越している。あの程度の傷ならこの刃の力で完治済みだ」


 そう言った彼の手の中には、数ヶ月前に生れた無骨な剣が握られていた。その剣に宿った力を持ってしてバロンは、戦闘に復帰する。

 今度は、全長70CMにも満たない短剣二本を構える。その構えは先ほどとは違い完全な突撃の構え、小細工と防御を捨てて相手を殺すためだけの型。

 歴戦の勇士であるハヤテには、それが見て取れた。その瞬間にハヤテも構えを大きく変える。ハヤテの能力は、銃弾の変質という銃にのみ特化したスキル。さっきの戦いでは、超高速で威力の高い銃弾で弾幕を張り、相手の出方に合わせて適した弾丸をコンバートすることで小細工の争いに勝利したと言っていい。

 彼の生み出す弾丸に対応する事が出来るのが手に持つ二丁の銃である。小細工の争いであれば状況に応じてコンバートできるハヤテの方が膨大とはいえストック数に限りのあるバロンよりは、有意である。

 が、しかし、所詮は小細工。本気で向かってくる相手には、どうしても勝てない。

 あくまでハヤテの見立てでは、バロンが持つ二本の短剣の持つであろう能力は、想像がついた。自分と同じ事を考えているのであろう……と。


「………」

「………」


 構えを変えてから二人の睨みあう時間が続く。ハヤテも無駄口一つたたけぬほどの緊迫した状況がお互いの体力と気力を削る。

 だが、睨みあってても勝負はつかない。まずバロンが飛び出す。

 今度の速度は、今までとはわけが違った。両手に握った剣に変えた奴らの能力は、時間が止るほどの加速と不死殺しの呪弾、スピードとパワーのみの組み合わせだが、今のバロンの中で最強となる組み合わせ。   

 小細工など一切ない純粋な強化で強敵を討ち倒すはずだったが、この時バロンは本気で驚くこととなった。

 周囲の炎の揺らめきが止まり、空に立ち上る黒煙も止まる、上空の雲も動く事をやめ、ただ静かに時が流れ始めるのを待つ。

 これは、時間の停止が引き起こした現象。それを引き起こし、この世界で活動できる者がいる。

 そして、停止した世界でバロンは驚愕した。すべてが停止するほどの光速の世界で、ハヤテまでもが自分と同じく動いていたからである。

 それも後ろに飛ぶのではなく、前に出てである。


「いくぞ! 奥義・銃王!」

「来るがいい! 最強の銃士!」


 ハヤテが、コンバートした弾丸は、想像を絶する高速弾と触れるもの全てを砕く鉄鋼弾とバロンと似たり寄ったりな弾。同じ能力で争うのであれば、必然的に優れている方が勝つ。シンプルかつ奥が深い勝負となる。奥義・銃王、シンプルに速く破壊力のある弾丸を超至近距離で相手に(打ち)込む必殺の技。

 前に出てくるハヤテに剣を振るうと右手の銃で弾かれる。逆に斬りかかって来るバロンに零距離から発砲すれば身体をひねって交わされる。撃っては弾かれ、斬っては弾かれる。

 停止した時間の中での高速戦闘で、二人の戦いは熾烈を極める。もしどちらかが武器以外で相手の攻撃にかすりでもすれば勝敗が決まるのだ。

 お互いに零距離で技を繰り出し掻い潜る光景は、洗練された舞のようである。体力、集中力、気力、どれか一つでも尽きれば確実に死に繋がる。


――――――停止時間の中で43時間も激戦が続いた。そして、ようやく終わりが訪れる。 


「うぉおおおお!!!最終奥義・銃王魔弾」


 長い緊迫状態の末にハヤテが高速で動かす腕を止め、二丁拳銃の銃口を真っすぐにバロンに向け始めに右手の銃、続いて左手の銃の引き金を引く。

 時間差で発射された魔弾は、後で撃たれた弾の方が速く、前の弾丸を後ろの弾丸が追いかけぶつかる。

 後続の弾にあたった前の弾は、急加速する。その速さはバロンの反応速度を完全に超える。弾に弾を当てると言う神技こそが最終奥義・魔弾。相手の虚をつくために一度しか効果の無い戦法。

 完全にハヤテは、勝ちを確信し、バロンの勇士を胸刻みつけようと誓う。 


「くっ」


――――――完全に不意をつかれすでに剣を振り切っているので、弾丸を弾くこともかなわない。もう片方の手は、思わず握ってしまった彼女の形見。

 平和な世界を築く、彼女の野望を自分が引き継ぎ、散々殺し勝手に戦争や犯罪を終わらせてきた。私の剣の数は、私が終わらせた人生の数に比例する。これだけの罪を犯してもなお、平和など訪れず、私は此処で敗れる。 

 私が犠牲にした命を私の弱さがすべてを台無しにしてしまった。


――――――再び僕の弱さが原因で姫の命どころか夢まで殺してしまうのか? 

――――――生きて。


 走馬灯だった、死の間際に過去を思いかしていた中で、彼女の最後の言葉が頭をよぎった瞬間にドクンと彼女の形見が脈を打った気がした。


(生きろ……か)


 もう数センチという回避不可能の距離にある弾丸に絶望したが故に切り開けた未来がある。

 彼女の形見を強く握った直後、世界が大きく歪む。気持ち悪い。

 だが、歪みが修正された瞬間、私の立ち位置は、ハヤテの前からハヤテの背後へと変わっている。 


 

「?」


 眼前からバロンが消え、必殺の弾丸が標的を失い空振り。ハヤテは周囲を見渡そうと振り返った途端、腕に激痛を感じた。 


「ぐっ」


 激痛を感じた腕に目を向ければ手首から先がなくなっており、血が掌のあった場所から滴り落ちている。激痛の正体は、これだった。

 さらに視界を移せば、自分の前でバロンが紫の刀身の剣を両手で握り、振り下ろした姿が目に入る。

 どんな手段かは、謎だが停止時間の中での超高速戦闘中に自分ですら認識できないほどの速さで自分の必殺を空振りさせた上に自分への一撃を決めたのだ。

「バロン!」


 逆に不意をつかれ右手を失った直後だが、戦士としての本能からか後ろに飛び、残った左手で銃を撃つ。しかし、我武者羅に放った一撃が当たるはずもなく身体を逸らす事で躱される。


(予想通り……だが、せめて距離を取り直せれば、なんだ?)


 少しでいい、ほんの少しだけでも時間を稼げれば持ち直せる。そう考えながら行動に移したのだが……所詮は苦し紛れの策に過ぎない。彼が後ろに飛ぶのと同時にバロンは、右手で何かを強く引っ張る。

 其の手に握られていたのは白い硬質のベルト、バロンが自身を包みこんでいるベルトの一部。その手から伸びる白いラインは、ハヤテの右足に巻きついていた。

 当然、引っ張られたベルトは、ハヤテの身体をも巻き込み引き寄せる。  


「貴様は強い、だが私の目指す者は、もっと先にある」 


 引き寄せられたハヤテにバロンは、二度斬りつけた。一度目はハヤテのもう片方の銃を両断し、武器を奪い最後に渾身の一太刀を浴びせた。そのニ撃に、さすがのハヤテも遂に力尽きる。

 最後の一閃は、容赦なくハヤテの人生を終わらせた。命尽きたハヤテの身体が糸の切れた人形のようにその場に倒れ込み、ピクリとも動かない。


「終わったか。いや、まだ終わるはずがない、コイツは目的を阻んだ存在なだけだったな」


 彼女の形見を再びベルトで包み腰に括りつけた直後に、周囲の炎はバチバチと揺らめきながら手当たりしだいに物を燃やし、煙は高く中に上がり空を流れる雲と合流し黒雲となる。


「今日の目的を果たすとしよう……もう、かなり働いた気がするがな」 


 彼はそう言いつつ、懐から取り出した真っ赤な短剣を掴み、それをハヤテの亡骸に向かって振るう。すると途端にハヤテの身体を包みこむように炎が発生しハヤテを飲み込む。

 それを見届けたバロンは、疲弊した身体に鞭を打ちながら前に進んだ。


―――――――最強の銃士を失った銃国家は、戦力の総崩れの末にバロンによって現国政は完全に壊滅した。しかし、銃聖国家は、崩壊はしなかった。先代の王は、国の技術と軍事力を過信し各国に攻め入り侵略してきたが国民はすでに疲れ切っておりバロンの侵略行為のおかげで国は平和を取り戻したと言っても過言ではない。侵略者、大量虐殺犯と語られる一方で英雄視する者も現れた。


――――――この事件を発端として彼の伝説は加速する。


――――――銃聖国家の崩落から5年の月日が経った。この期間で世界中の戦争幇助国や犯罪組織の9割が全滅していた。数々の能力者や猛者がバロンの行く手を阻み、抗い、争い、散っていった。

 天体を支配する能力者、あらゆる魔法を使う術師、最強の槍を持つ戦士、数多の英雄を殺してきた化け物、愛する世界のために人類を絶滅させようとした創造神、この世を黒に染め上げようとした百鬼夜行。ありとあらゆる強敵をバロンは持てる力の全てを目的を達成することにのみ捧げ勝利してきた。


 そして、今も。


「ごふっ、英雄ぅうううう!!!」

「うるさい」


 血を吹き、断末魔をあげた男。地球の磁力すらゆがめるほどの強い磁力使い、剣を使い戦うバロンの武器を手当たり次第、磁力で横取りし、ありとあらゆる鉄をバロンに射出し彼を追い詰めようとした。

 だが、数々の修羅場をくぐりぬけている彼に対しては、力不足といえる。

 すべての武器を取り上げ利用する戦法は、有効だったが決定打にならず、一瞬の隙に距離を詰められあろうことか剣を使わずに手刀のみで鎧ごと心臓を突き刺され命付き果てた。その様に周囲の騎士たちは、驚きと恐怖を感じ剣を構える手に汗握る。


 今死んだ男は、この国のナンバー30位の戦士である。いきなりだがバロンが今いる場所は、広大な王宮の広間である。煌びやかな装飾が施され壁や天井にはそれはそれは素晴らしい絵が描かれている宮殿だが、今は彼に斬られた者たちの血で血塗れとなり、大理石の床も戦闘の余波で削れている。

 大勢の騎士に包囲されつつも彼は、はるか後方の玉座に居る二人の姿を捕えていた。一人は神々しい黄金の鎧に身を積んだ剣士、もう一人は銀の甲冑を身にまとう戦乙女を彷彿とさせる女王。

 二人に対して、バロンは彼女の形見の切っ先を向け、宮殿中に響くかというほど大きい声で宣言した。


「英雄の国ファルカンの王と妃よ。此処に改めて問おう。各国の戦争に正義の名のもとに参戦していたが本当の意図はなんだ?」  


 侵略者の質問に女王は答えない。周囲を囲む若い騎士たちは、なぜ答えないのか疑問に思った者もいた。熟年の騎士たちは黄金の騎士と女王が答えない理由を知っていて逆にバロンが暴露するであろう事実を喰い止めようと数名の騎士がバロンに斬りかかる。


「……私は、知っているぞ。よもや彼女の生まれ故郷こそが戦乱を引き起こしていたとは思いもしなかったがな!」


 バロンは、玉座に一歩一歩歩みながら迫りくる騎士を次々に切り捨てる。だが声を上げる事をやめようとはしない。秘密を守ろうと騎士として忠誠を誓った国を守ろうと斬りかかる数々の英雄を斬り伏せ、バロンは、おそってこず困惑する若輩の騎士たちにも聞こえるように話す。


「若き騎士たちよ、この国は腐敗している。太古から戦が起こるたびに早期終結の実績から英雄と呼ばれたこの国も時が経つにつれ魂から腐りきった」


「ヤメロ!若造どもは耳を貸すな!」

「いいや、若きも騎士たちこそ現実を受け入れ選ばねばならない。聞くがいい」


 老齢の騎士が若き騎士たちに聞く耳を持つなまやかしだと怒声を上げ、バロンに炎を纏った一閃を加える。バロンは先程殺した磁力使いを剣に変えた磁石の剣で受け止め真横から逆に斬り伏せる。胴体を真っ二つにされた身体は地面に転がる。 


「この国が現在行っているのは、紛争をあえて引き起こす他国のテロ行為の援助、そしてテロ行為によって勃発した戦争にあたかも正義面して介入し数多の戦利品と他国との不平等条約を結ぶこれが真実だ。宮殿に描かれた数々の英雄の絵は、今の血塗れの姿こそが真実だ」


 彼の声に若き騎士たちは、完全に動きを止める。事情を知っている騎士たちは、嘘だ出鱈目だと声あげる事で揺らぐ忠誠心をつなごうとするが意味を成さなかった。

 すでに千人近い英雄がバロンに倒され、残るは数名の英雄のみ、誰が必死に縋るような英雄の言葉に耳を貸そう。憧れた英雄は侵略者に次々と負け、忠誠を誓った国は腐りきっていると言う恐らく事実であろう事、どこかで皆が感じていた違和感が実感に代わっていく。

 逃げ出す者、剣をおろす者まで現れ始める。偽りの騎士道がガラガラ音を立てて崩れる。  


「若き騎士たちよ。腐ったこの国を捨て真の正義を求めるのなら追いはしない。逆にこの国のために死に偽りの英霊になりたいなら掛ってこい。斬り伏せてやる」 


 挑発気味に囁くバロンの声と覇気に騎士たちの戦士は喪失してゆく。そして、多くの騎士が最後の頼みである黄金の騎士と女王に目を向ける。

 終始無言を貫いていた銀の女王が無言の催促に応じ声を上げる。


「皆の者、聞け。その者が何物かは知らん……いや、恐らく名高き英雄バロンでろうと思っておる。数々の戦争を終わらせてきた貴様が唯一残った騎士の国をおそうのは当然かもしれん。だが、我らファルカンの魂は未だ孤高よ。貴様が言う真実など事実無根なるぞ、今こそその英雄とやらに真の英雄の力を見せつけよ!」


 女王が手に持つ銀色の剣を掲げ、高らかに宣言すると同時に多くの騎士たちが雄たけびを上げ剣を掲げる。場に士気が戻り国を見限った者たち全員が彼に向かって剣を構える。

 バロンも両手にエメラルドの色の剣を構え、周囲の警戒に神経を注ぐ。


「ならば、真の英雄の力とやらを拝ませてもらおう!」


 多くの騎士たちが高速で縦横無尽にバロンに遅いかある。バロンが取った手段は袖から伸びるベルトに合計100本の剣括りつけ、激しく身体を回転させた。

 彼を軸に遠心力でベルトに括りつけられた剣が激しく回転し、彼に迫る騎士たちを次々と斬り裂き肉片に変える。近づけばミンチになると察し、足を止めた騎士たち。

 しかし、回転が止まると同時にバロンは、100本の剣を振り回し、鞭のように先端の剣で離れた距離の騎士を頑強な鎧ごと斬り裂く。

 数で圧倒的に勝っていても、質で圧倒的に劣っていた。この国の騎士たちは、間違いなく英雄であろう。例え騙され偽の栄光に浸っていたとしても彼らを英雄と崇める物が居る以上、英雄だ。救ったものだっている……それをバロンは理解していた。

 そして、覆面の中で奥歯を噛み締める。 


「しかし、救わなければいけない状況を作ったのは、この国だ!」


 英雄を次々に剣の錆に変え、地面に死体を増やし、壁や天上を血で汚す。大勢に囲まれながらもバロンは善戦を続ける。

 ある程度、殺し尽くした後に、バロンは玉座に向かい走る。道を阻む存在を無数の刃で斬り裂き、遠方からの攻撃もすべて対処する。光の斬撃が複数飛んで来れば同じく光の斬撃で返す。

 さらに、追撃で近くに居た騎士を能力により剣に変え、それを投擲する。光の斬撃に紛れ込ませた剣は、見事に遠くの騎士の鎧の隙間に突き刺さる。 

 卓越した技術により国を支えてきた騎士たちの歴史が、今終わろうとしていた。


「これで残ったのは、あなた達だけだ。女王に黄金の騎士」

「おのれ!」


 壇上まであがってきたバロンに女王が手に持つ剣を横に振り、もう片方の手に持つ鋭利な杖を突き刺そうとする。


「気が済んだか?」


 バロンは、女王の攻撃を防ごうともせず、躱ことすら放棄して攻撃を受け止める。白いベルトに包まれたからだから噴きでる血。それは、刺されたバロンの傷口から白いベルトを赤く染めていく。

 滴る血が刃を流れ、女王の銀の籠手を血で汚す。


「おまえは、お前は何者なのだ?」 


 自身に刺さった剣と杖を掴み、力強く握る事で王妃が抜こうとしてもビクともしない。その様に女王は、恐る恐る声を張り上げて問う。

 その質問を待ってたいたと言わんばかりに覆面の中でバロンは微笑む。


「私か? 私の事を忘れたというか……」 


 バロンは、杖を掴む手を離し覆面を脱ぐ。覆面が剥がれると身長をゆうに超える黒髪が垂れる。そして、黒眼の女の顔が其処にはあった。体系も背の高い男のものから、背が低めだが女性らしいラインをしていた。


「お前……なぜ、死んだはずでは?」

「っ」


 バロンの覆面から出てきたのは、バロンが守り切れなかった姫の顔だった。その顔を見た時、女王の顔が大きく強張り、となりで静観を決めていた騎士も驚きの声を上げる。 


「安心しろ、私はこの顔の持ち主本人ではないよ。ただ、見せしめに顔を変えただけだ」


 覆面を取ったバロンは、声まで生前の彼女の者である。変装ではなく変身能力を持った剣の力で肉体を変化させただけである。

 してやったりと言った姫の顔のバロン。彼は彼女の姿を借りたまま、黄金の騎士と現在の自分と色違いだが非常に似通った容姿の女王に話しかける。


「もう、私が何物かは関係ない。誰の意思で此処に来たかと言うのが重要だ」

「あの呪われた黒姫の復讐か! 忌々しい女の代行者というわけか」


 彼の言葉に女王が高笑いしながら、バロンに刺さって剣の引きぬく。

「あの忌々しい小娘が……よもや我が国を此処まで崩壊させたんだ。さぞかし草葉の陰で喜んでいるだろうな、この国を滅ぼし世界を戦火に包みこむ災悪の予言を受けた黒眼黒髪の魔女め」  


 女王は、現状を見まわし悔しさと怒りで端整な顔立ちを見難く歪め、杖と剣を力いっぱい握る。

 その表情と言葉にバロンの表情が暗くなる。そして、何かを決心したかのように憐みを込めた目で呟く。


「なぜ、実の娘……しかも、たった一人の娘を其処まで言えるのだ女王」


 その言葉に王妃は、クツクツと笑い方を振るわせる。

「私の娘? 冗談じゃないわ。呪われた娘など産んだ覚えはない。あの魔女は、いつのまにかこの城に湧きでた害虫よ。英雄の国に湧き出た害虫! 子どもゆえに殺すこともままならず、地下で生かしておいてやったと言うのに宝具を盗み魔物の封印を解いて国に反逆した悪魔よ」


 女王の目は、実の娘の話をしていると言うのに何処か他人事で狂気に満ちていた。 その様子にバロンの目が鋭くなり、手に持った剣に力が込められる。  

「彼女は、少なくともあなたを母として慕ってたとしても、彼女を蔑むか女」 


バロンの目に怒りがこもる。次の言葉と同時に女王の首を切り落とすのもやぶさかではないといった風に。 

「蔑まれて当然の女を蔑んで何が悪い!」  

「っ!!」


 バロンが王女に剣を振るった直後に、黄金の騎士が立ちあがり鞘から虹色の剣を抜き、バロンの刃を受け止める。


「ほう、最強の騎士自らが相手をしてくれるというわけか……」

「私は、巫女を守る者。巫女を傷付ける貴様を許しはしない」


 黄金の騎士がバロンの剣を力技で払いのけ、渾身の蹴りをバロンの腹部に入れる。思わぬ攻撃でバロンの身体が宙に浮き、玉座の下に着地する。そして、バロンは再び覆面を付けると女性の体形から元の長身の 


「英雄バロンよ。死んだ黒き魔女の最後の災いがお前であるのなら、私は、黄金の騎士として貴様を排除する!」  

「っ」


 黄金の騎士が剣を構える。その瞬間に身の毛がよだち、剣を掴む手に汗握る。

 ハヤテとは違う、今まで戦ってきたどの強敵よりも凄まじい覇気。3000年近くこの国を守り抜いた太古の英雄、その歴史と戦歴と強さ全てが、自分より上で、本能的に負けるのだと感じた。それに気押されそうになるが踏みとどまる。その程度で止まれる道ではない。

 いや、むしろ、敵が強過ぎるという理由だけで挫折できるのなら、既にしている。故にバロンは本能的に感じた敗北にさえ、正面から向き合う。わずかにでも勝てると信じ込む、逃げず戦うために。

 なぜなら、バロンは英雄であり、多くの犠牲を払い、それでもなお無くなった彼女の夢を叶えるために彼は逃げるわけにはいかない。


「古の伝承により実の娘を殺した女に、狂った王女の色に染まったかりそめの英雄を生み出す戦争助長国家、その全てを俺が断つ。平和のため……姫のために、ホリー姫とともに!」


 白いベルトを覆面以外すべて脱ぎ去った英雄バロン。するとベルトの裏に縫い付けられていた無数の剣が王妃と黄金の英雄の周囲を取り囲む。それはまるで決闘の場のように。

 天上から注ぐ明りが無数の刀身に反射して、虫めがねで光を集中するかのようにバロンの持つ彼女の形見に集まる。


 虹色の剣を抜いた黄金の騎士と光り輝く紫色の剣を掲げる白い英雄がお互いに飛び出し、影が重なる。


―――――それからの戦いは、実に凄まじかった。二人の剣がぶつかり合うたびに衝撃波が起こり、宮殿のステンドガラスや天上のガラスを砕き、片方が振り切れば斬撃が飛び、建物に切れ込みを入れる。虹色の剣で黄金の騎士は、次々とバロンの必殺を剣ごと叩き斬る。対するバロンは、彼女の形見を片手に次々に剣を破壊されながらも消耗品と割り切り、手元にある剣を引き抜き、数多の戦法で黄金騎士を追い込む。

 そして、遂に勝敗が分かれた。虹色の剣が、バロン右腕を斬り落とし、止めを刺そうと踏み込んだ瞬間、カウンターに鎧の膝関節部分を斬られ片膝をついた時、容赦なく片腕のバロンの回し斬りが黄金騎士の首を切り落とす。ボトンと地面に首が落ちたとき、遂にバロンの手が止る。


「はぁ、はぁ」


 すでに息は切れ、汗だくになっているバロンは、彼女の形見を地面に突き刺し身体を支える。すると、視界の端に、一人走っていく人物が目に入る。

 王妃だ。最強の騎士が敗れた事でようやく自分の危機を感じ、無様にも逃げ出したのだ。


「何処に行く?」

「ひっ」


 全力で走る女王、多くの者を魅了した美貌も全力で走り恐怖におびえている今では形無しだ。バロンは、姫の形見の力によって女王の目の前に移動したため、彼女が尻餅をつく。


「だれか、誰か残っておらぬか!? 誰か!」


 周囲に助けを求める女王。しかし、すでに彼女の味方は全てバロンを迎え撃とうとして逆に殺されている。誰が助けに来るものか。すでに国の悪行は、触れ渡っている。国民も彼女を助けようとはしないだろう。なら、何処に逃げるのだろうか? 逃げ場などないというのに。

 彼女の形見の切っ先を向けながら、バロンは女王に語りかける。


「誰もいないさ、お前を助ける奴は俺が殺した」

「おのれ、おのれ~! 魔女め!」

「……屑が、今貴様が生きている理由がわかるか?」

「?」


 女王が首をかしげると、バロンが剣を女王に振り下ろした。だが、女王の身体の何処からも血が噴き出す事もなければ、女の悲鳴が宮殿に響く事もない。

バロンが振り下ろしたはずの彼女の形見は、母親を斬る事なく女王の前に瞬間移動する事で、護っていた。バロンが王妃を殺しにくい理由は、彼女の形見が激しく抵抗するが故。


「死してなお、剣になってもなお、彼女は貴様を母だと思い、守ろうとする。彼女のこの思いを聞いてさえ貴様は、ホリーを蔑むのか、本来彼女を愛し育てる立場であるはずのお前が、彼女を認めないのか」


 バロンは、涙を流す。もう泣く事も出来ない彼女ために。拳から血が出るほど強く握り、女王の言葉を静かに待つ。


「私は、私は……」

「もういい、殺す気が失せた。勝手に生き勝手に死ね」


 酷く混乱し、頭を掻き毟る女王。必死に首を振り、事実を受け入れない。その姿を見ていたら酷く馬鹿らしくなり、女王をおいて背を向け歩きだす。

 結局彼女の思いは通じず、自分の目的は達成された。世界を平和にするために偽の英雄を皆殺しにし、この国の戦力を壊滅に追い込んだ。もう、これ彼女の夢のための犠牲は払う必要はない。

 そう思い、立ち去ろうとした。


「私は、魔女の親などでは、ない!」


 バロンが立ち去るのを見た女王は、手元にある紫の剣。先程、バロンが自分の娘だといった剣を掴み、バロンに突き刺そうと走った。

 国を崩壊に追い込んだ男に対する恨みと憎しみの籠った目は、見るものを凍えつかせる事だろう。


「おっと、忘れてた」


 バロンが急に振り返る。するとズボっと何かが肉に刺さるような音がする。

「あっ、あ、く」

「これは返しておこう」


 音の発信源は、女王の胸。女王の胸からは、銀色の剣が突き刺さっている。傷口から血が噴き出し彼女の甲冑の下に着込んだ優雅なドレスを朱に染める。 


「こ、この剣」 

 女王は、自分に刺さっている剣に見覚えがあり引き抜こうとしながら、痛みに顔をゆがめる。


「その剣は、ホリー姫を殺した男が持っていた剣だ。後で調べてみて驚いた。その剣は、あんたが刺客に授けた必殺の呪いが籠った魔剣らしいな、刺された者に気絶する事すら許さない苦痛と激痛を与えながら内側から腐敗させていく武器を娘を殺すために使うとは驚いたよ」 


 刺さっている剣が怪しく輝き、女王の身体の身体の彼方此方から血液が血管を突き破って噴き出す。呪いが発動し女王の身体を蝕み始める。


「いyっつやぁあああああああああ■◆▼○!!!!!!」


 絶望的な苦痛が全身を襲う、そのため目の前の女は、醜い悲鳴を上げもがくがもう手遅れ。唯一そばに居るバロンは、姫の形見を手にとり、立ち去ろうとする。

 その間も苦しみら逃れようと本能的に足掻くが、決定した運命を覆す事は出来ない。内側から腐っていく恐怖と全身に走る激痛、もう気絶してそのまま死にたいのに苦しみが気絶すら許さない。

 最後の手段として、女王はバロンに縋りつき、「殺してくれ」と頼む。


「お前の血で彼女を汚すわけにはいかない」


 バロンはもう、彼女を殺す気すらない。正確には、楽に殺してやるつもりはない。苦しみもがき続ける場を傍目にバロンは優雅にその場から瞬間移動である場所に跳ぶ。


 ザッとバロンが移動した場所は、城の外。英雄の国の王城の遥か下に移動した。この国の王城は、古の魔法により城下町から遥かに上空に浮き上がっている。この陣形も英雄の国が歴代最強の国家であった由縁である。

 あの城がある限り、この国のトップは必ず戦争を起こすだろう。


「ならば、戦火の炎が広まる前に火種を絶やす。これでいいだよな、姫」


 空に浮かぶ城を見上げ、手元に黒く濁った剣を出す。その剣を大きく掲げ、野球のバッティングのような構えを取る。瞬間、黒い剣に周囲から魔力が集まり一瞬で台風のような魔力の渦が完成、その魔力を全て剣に込め、下から上に打ち上げるように剣を振るう。

 打ち放たれた魔力の渦は、真っすぐ複数の竜巻となり空中の城を襲い激しい爆音と爆発が城を飲み込む。

 爆発が収まり、煙が風で薄れていくともう天空の城は跡かたもなく消え去っていた。ようやく目的を達成できた喜びと犠牲にした命に対する罪悪感が同時に焦燥したバロンに起こる。

 彼は、覆面の中で微かに哀しい笑みを浮かべながら、その場を去る。


「何を俺は、安心しているのだ。もう、止まれはしない、突き進むだけだ。世界が平和を望み救いの手を求める限り永遠に……平和のために剣を振るおう」


―――――国一つをまた滅ぼした英雄は、歩み続ける。背に数多の罪と罰を背負い、その存在に幾多もの期待と希望を荷い、平和と戦争という人類の問題と向き合い抗い続ける戦いに赴く。

 彼は英雄バロン。いずれ、世界を救う運命に位置つけられた伝説の人物。人々の持つそれぞれの願いから起こる悲劇と戦う唯一の救世騎士である。

 バロンの戦いは、これからも続いて行く、永遠に。











 






名前:英雄騎士 バロン

性別:男

年齢:不詳。

悪or正:英雄。

ジャンルor種族:幾度となく世界を救った英雄。

クラス:エピローグ→フォース+

主人公補正or悪のスキル:【ザ・ソード

補正内容:自らの手で触れた人間を剣に変える。剣とされた人間は、二度と人には戻れず魂も剣の一部となり永遠にこの世に留まり続ける。もし、剣に変えた人間に何かしらの【力】が備わっていた場合。力は、剣の特性として使用することが可能。

容姿:全身を真っ白なベルトで覆い尽くしており、その上から紫色の外套を羽織る。顔面もベルトに覆われているが右目だけが外気に触れている。瞳の色はイエロー。背中のベルトに何本も剣がさしてあり、唯一一本だけがベルトに包まれ腰に刺さっている。身長は180前後。

性格:何かにとり憑かれたように執拗なまでに世界を救おうとする。手段を選ばず最も早く解決する方法を選択する現実主義。

武装:身体を覆っているベルトに絡ませた26本の剣(特殊能力有)+腰にかけている剣。他には無数の剣を異空間に保管している。

追記:剣術の腕前は、HEROの中でも上位に位置する。彼の目的は、世界を滅ぼす可能性のある存在。柊、カイザ、ノヴァなどのイレギュラーを狩ること。


以上です。

次回からは、本編を進めていきたいと思っています。

それではまた。


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