表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HEROってなんだっけ?  作者: 落胤
マリシャス復活の章
22/30

運命回避なんて認めない。

お久しぶりです。


ようやく生活のサイクルが戻りました。


それではどうぞ。




ビュゥと風が吹き砂埃が宙に舞う。


「なぜ、なぜお前を倒せない!!この力はありとあらゆるものを越える力じゃないのか…」

「……ぶっちゃけ、あなたの方が僕の数十倍強いですよ」


 砂埃の舞い上がった場所、多くのビルが倒壊し残骸が盛り上がった瓦礫山の上で銀色の鎧を纏い拳を突き出している人物…その名を阿剛(あごう) 武光(たけみつ)

 おなじく瓦礫の山の上で武光の拳を同じく、片手で受け止めているカイザの姿…、受け止めている右腕から出血があり…拳を受けている掌は血まみれで、指は全てあらぬ方向に沿っていた。


 そして、2人が立っている瓦礫の山の周辺には、激しい抗争の結果敗北し地面に倒れ込む大勢の英雄達が無残な姿で倒れている。

 


「これでは、まだ足りない…もっとだ…もっと。俺の求める正義のために…」

「あなたも正義を掲げる口ですか。あなたの正義とやらがどんなものか知りませんがね…、僕からしたらくだらないの一言です。竜華さんを傷つけなきゃいけない正義なんてね…。ごたくはもう良いんで…ソレを返せ、お前には過ぎた物だ」


 速すぎて摩擦熱により発火した拳。

 腕時計の機械からでる蒼いエネルギーのみなぎった拳。

 互いが互いに向かって突き出される。

 次の瞬間に爆風が発生し、砂埃がまわり全ての視界を覆った。


☆★☆


時を遡り、2日前。


カポンと何故か聞こえてきそうな、湯気の上がる露天風呂にて。

 

「ふふ~ふふ」

「なんでそんなにご機嫌なの?」

「温泉なんて久しぶりでさ~それに…うふふ」

「なに?教えてくれたまえワトソン君」


 露天風呂。頭に手拭をのせ、お湯につかりながら何やら鼻歌を嬉しそうに歌っている竜華のようすに疑問を感じた…。

 同じくお湯に口まで浸かり、手拭をブクブクと気泡で膨らませて遊んでいたシャーロット。

「実はね、昔この近くに住んでてね…その時によく僕と遊んでくれたお兄さんがいてさ」

「ふむふむ」

「それでね、久しぶりに連絡取ってみたら 遊びに来いよって言って暮れて明日遊びに行くんだ」

「それでご機嫌なんだ……どんな人?」

 

 ウフフと嬉しそうに話す竜華にシャーロットは聞いてはいけない事を聞いた…その質問によって開かれた竜華の口、パンドラの箱と同等だった。


「じつはね…………」


★☆★☆★


 次々に竜華の口から出てくる「遊んでくれたお兄さん」の話は裕に1時間にも及ぶ。

「それでねそれでね………シャーロット?」

「………ワトソン君…ギ、ギブアップ」

 顔を耳まで真っ赤っかにしながらニッコリほほ笑むとブクブクと湯船に沈んでいく。湯あたりである。

「うわ!シャーロット!!」

 

 慌てて竜華が湯船からシャーロットを引きずり出し、クーラーの効いている脱衣所のベンチに寝かせ介抱した。

「あつい…」

「完全に湯あたりしたね、シャーロット」

「…お兄さんの話長いよ……」

「え?僕のせい!……いやだって……」

「お熱だね」  

「ん?あ、確かにシャーロット熱あるかも」

 シャーロットの言葉に竜華が反応し、額に濡れタオルを載せるとシャーロットは「違うよ」といい竜華は首をかしげる。


「私じゃなくてワトソン君だよ…」

「ぼ、僕?」

「ワトソン君にしては珍しく、乙女な表情してたよ」

「お、乙女!」

 シャーロットが急に悪戯気に笑ったために動揺する竜華。

「その人の事、好きなんだろ?正直に言いたまえよワトソン君~」

「いや、ちょやめあははははははははは、やめっきゃはははははは」

 獲物を狩る目になったシャーロットからじりじりと距離を取って背中を見せた瞬間に背後に回っているシャーロットがわき腹をくすぐった。

 あまりのくすぐったさに床を転げ回ったのだが魔の手からにがれる事は出来ずに…すべてを自供させられ、ようやく解放されたシャーロット息切れをし疲れ果てていた。


「やりすぎてしまったようだ」

「……おぼえて…ろ……」


★☆★☆★☆


「それで…竜華さんは怒ってると言う訳ですか……」

「…………」

「怒られてます……」


 竜華の願いで旅館に泊まり、夕飯を食べているのだが竜華は口をとがらせたまま無言でモグモグしかっ面のまま食事しておりシャーロットと夕飯は同じ部屋で食べるカイザは気不味い気分のまま食事をしていた。


「あの、竜華さん?」

「…………なんですか」

「…シャーロットさんも反省してるようですし…そろそろ許してあげては如何でしょうか…」

「…」

「すいませんでした」


 なんともいたたまれないシャーロットの様子を見てカイザが助け船を出そうとすると、幼い容姿からは想像つかない……鋭い視線に言葉を失い謝罪と同時に土下座してしまう。

 役立たず!

 そう言う思いがこもってある視線で今度はシャーロットに睨まれるが「無理なものは無理なんですよ」と力ない笑顔で返すカイザ。

 しばらく、無言で食事が進み…3人とも食べ終わる直前に…。

「……本来ならゆっくりしてられないんですけど……見当もつかないで騒いでも全く意味がない……時間は余っているので連れて行ってあげましょうか?」


 カイザが突如口を開き、竜華にそう言うとさすがに竜華が箸を止め、先ほどとは180度違うキラキラした目線でカイザを見る。


「その…今回の原因になった人の場所に連れて言って差し上げますよ」

「まじ?」

「ええ、嘘は言いません…少なからず女性にはね」

「やったー!」

 カイザの言葉を聞いてとたんにご機嫌になった竜華。

 喜びからか幼子のようにピョンピョンとび跳ねそうになる。


「食事中に跳び跳ねないの…お行儀悪いよ」

「え、あ、はい」

「とりあえず、機嫌を直してくれたようなので食べ終えてしまいましょう」(このコンビってどういう上下関係なんだろうか…今めっちゃシャーロットさんがデキる人オーラ出してたし)


 その後…。ご機嫌なためシャーロットとすぐに仲直りした竜華は、キャッキャと恋する少女の顔であまりのハイテンションのままシャーロットの浴衣の襟を鷲掴みにしながら自室へ帰った。

 手を振りながらその様子を見届け、木製の窓枠にもたれて外を眺めカイザはふとテレビのリモコンを掴んで呟く。


「なにかニュースでもやってないですかね」

 

 ピッと手に持ったチャンネルで備え付けの少し古びた哀愁の漂うテレビの電源を入れる。

 ヴゥゥンと昔のテレビで電源を付けた時になる独特な音がテレビの年代を感じさせ、画面がようやく映像を映し音声が同時に発せられ、予想以上に大きな音が出たのですぐに音量を下げる。

 画面にはバライティー番組が映し出され、番組の中では笑い声が広まっている。

 いつもならそれを見て自分も笑いたいのだが、そういう気分ではなかったのでリモコンを使いニュースを探す。


『ただいま入ったニュースです』

「お、あったあった」


 数回チャンネルを回してようやく見つけたニュース番組でようやくリモコン操作をやめ画面に集中する。


『えーただいま現場にたまたま取材に向かってたスタッフからの通達で…今日午後18時頃、何者かが観光名所としても有名な聖地ウォーターパンクに侵入。内部から火災が発生し現在内部の状況は掴めませんがスタッフの話によると多くの死傷者が出ているとのことです。』

「ふーん、大変ですね」


 HEROとは思えない他人事思考である。

 しばらくボーっとキャスターが詳細を話しているように聞こえるが実は同じ事しか言っていない時間稼ぎを眺めているとテレビの枠から突如キャスターに手が伸び、手には紙が握られそれをキャスターが受け取ると時間稼ぎが終了を迎える。


『ただいま、現場に中継が入りました。現場の高田加田広田さんそちらはどうですか?』


 突如、画面が変わり写されて居るのは火災、パチパチと建物が焼け、20階はある高い建物の10階から上部から黒い煙がもくもくと上がり空を黒く染めていく。

 もしその場にいれば煙で目と喉を傷め、熱に身体を焼くことになるだろう。

 

 現場のレポーターも熱を浴びて額から汗が止らない様子が見て取れる。

(というか、レポーター近寄り過ぎでしょ……もう煙でほとんど何も見えないんじゃ?)


 あまりに突撃しすぎてレポーターがすでに火災に巻き込まれているようにしか見えない。

 テレビの向こうでは、【あっつあっち、や、やける。ギャー天上が!!】などとお茶の間の皆さまに見せるにはあまりにもリアル過ぎる惨状を実況してくれるのだが…内部にまでは入って行くのは、遣り過ぎだと思う。


 お茶の間でその放送を見ている大勢の人々の心の声が重なりあった瞬間だった。

 漢字で書くと全てが苗字に見える変わった名前のレポーターが映る画面…レポーターの背後の炎と煙の中。とてつもなく大きいナニカが映り込む。


『な、なんなのでしょう…これは…』


 レポーターが煙に隠れた巨大な何かを指差し震えた声で話す。

 同じく同行しているカメラマンも正体不明の巨大な影をカメラで写してはいるが人間の本能から来る恐怖から画面が大きく揺れる。


 ガタンっとテレビから何かを蹴飛ばしたような音が聞こえ、画面の向こうから「なにやってる!」「す、すいません」などと声を殺しながらも話しているのが聞こえその情報だけでスタッフの誰かがら怪物を見て恐れを抱き、さがった瞬間に何かを蹴ったのだとわかる。


『オ”オ”オ”オオオオォオオオオ』


 黒いシルエットの怪物がどうやらテレビクルーの視線を察知し、ドドドドと巨体を引き摺りながら迫る。

 その迫力と言ったら特撮やCGの比では無く、実物にしか醸し出す事のできない。

 そして、ソレは…カメラクルーたちだけでなく…テレビを見ていた人間全てを震撼させよそ見する事すら許さない緊迫した空気を作り出した。


『うわぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

 レポーターたちの悲鳴と共にブツンっと画面が黒く染まること数秒…画面が切り替わり再びスタジオへと場面が変わるがキャスターやアシスタントも先ほどの中継に言葉を失う。


 しばらくの沈黙のさなか、カイザはメガネを外して目を凝らしていたために一瞬しか映らなかった怪物の姿を偶然ハッキリと捕えていた。


「なんなんでしょう…あの骨の化け物みたいなの…」

 カイザの目に映ったのは身体のほとんどを骨状の白い物体で覆い、巨大な2本の角を持った謎の怪物である。


「……どう見てもデッカイし………僕じゃあれには勝てないな」


 もし自分が戦うことを想定してみたものの…勝率以前にやる気が1%もなかったためか早急に思考を切り上げすぐさま『柊』の手掛かりを探そうとチャンネルを回す。

 だがしかし、どの局でも神殿のニュース速報しか報道しておらず。カイザはテレビの電源を落した後に部屋の照明を落とし完全に就寝の準備に取り掛かる。


 羽毛布団をまだ新しく特有のにおいのする畳に敷き、布団の上に寝転がり天上を眺める。

天上のシミを数えるわけでなく…ただ、眠れないのだ…。


(この胸騒ぎ…なんでしょうね……)

 ムクリと上半身を起こし窓から外を眺める。

 目に映るのは星の光で照らされ明るい夜空、流れていく雲、そして、最も印象が強いのがかなり距離があり小さくしか見えない地上から空に伸びる黒い何か…先ほどニュースでも見たが本当に火災が起こっているらしい。

 だが、カイザにはそれが火災で発生した煙だけとは思えなかった。

 天に伸びていく黒煙は、見ているだけでなぜか鳥肌が立ち、なおかつ胸の奥にジワジワと染み込んでいく悪意を感じカイザは眼を逸らした。

 本能的に察したのだ…あれは非常によくない物だと言うことに。


「第六感とか鈍い僕がこれじゃ…この街もHEROだらけになるな」

 カイザは、危惧した。

 最近では珍しい、悪の大きな活動、それに喰いつかないHEROは少ない。

「巻き込まれたら面倒ですね。明日は、早めに出ましょうか」

 


 彼は、出来るだけ不幸に見舞われないように祈りながら眠る。

 当然、巻き込まれる未来を知る訳もなく。



以上です。


次回から この章の終わりへと進んでいく予定です。


それではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ