カイザなんて認めない
前回までのあらすじ
カイザが英国にて、ちびっ子探偵団に依頼。以上。
今回も不定期投稿のお時間です。
それではどうぞ。
「うあーーーー!」
…それは、無骨な男の最後に発した声。
「キャーーー!」
…それは、可憐な女性の最後の悲鳴。
「グァアアアア!」
…それは、逃げ惑った末に殺された者たちの断末魔。
「やったよお姉ちゃん!僕アイツらやっつけたよ!」
ピョンピョン跳ねる全身血だるまの少年は、両手に臓物も掴みながら嬉しそうに後方で力尽きて倒れている柊に駆け寄る。
「………がんばったね……私ちょっと動けないから待って…」
駆け寄りしゃがんでいる少年を横たわりながらも撫でる。
痩せ細り以前の面影がないほど身もそして心も衰弱している自分の事など構わずに少年のことしか勘気ていなかった…まるで何かから目を逸らすかのように…。
その少年に執着し、自らの安定を求める。
「大丈夫だよお姉ちゃん…僕が守ってあげる」
「……ありがと」
ありがとうと告げる前に柊の意識は闇に沈む。
「ねちゃった……あぁ~あ、この女もそろそろ限界か…とっととあそこに行かなきゃまた振り出しに戻っちまうな……めんどくせぇめんどくせぇ!」
先ほどまで無垢な笑顔だった少年の顔が見難く歪み気を失っている柊の頭を踏みつけながら呟き自らが踏みつけている柊の体を蹴る。
死んだように眠る、柊はそれでも起きない。
「後、一週間もありゃ俺の非願はかなうんだ。それまで精々死なないでくれよ…ククククお姉ちゃん」
少年は笑う、笑顔とは180度違うと言ってもいい…悪意に満ちた表情のまま柊の体を担ぐ。
優しさでも気遣いでもない、ただ利用するためだけに…。
………
…………
一方その頃
闇夜の満月が栄える、とあるビルの屋上。高い場所特有の強い風が吹き荒れる中、黒金 兜は佇んでいた。闇夜…それは彼と言う人種(狙撃手)においては最高の時間。
兜は闇夜で銃を構え気配を殺しながら同時に標的を殺す。
パンという発砲音が響いた瞬間に500M程離れたビルの住人が一人、額に風穴を開けて死んだ。
「……いつまでもこんな仕事ばかりさせやがって…俺はあいつを殺してぇのに……?……はい、もしもし何だよミヨちゃん?」
仕事を終え愚痴りながら帰宅しようと夜でも賑やかな繁華街を闊歩している最中にポケットに入れていたケータイ(サイレントマナーモードだった)を覗くと着信履歴があり、かけ直してみる。
「はーい、兜さん今日もお仕事御苦労様~★さっそくで悪いけど再びボスからお仕事の依頼にゃのだ~★」
電話の相手はやたらとテンション高く、耳障りなほど甘ったるい声なので耳から話しながら兜は話を続ける。
「依頼か…内容を早く言えよ…俺眠たい」
「はいな~★実はですね、兜さんおめでとうございます…次のターゲットはなんと!悪の少女を護る裏切りのHEROさん、あなたに屈辱を与えた人ですよ」
電話から聞こえた言葉に兜の足は止まり、その眼には憤怒の色が現れている。
「あのクソメガネを殺せるチャンスがこうも早く来るなんてな…ボスにありがとさんと伝えといてくれないかミヨちゃん」
「はーい★と言いたいのは山々なんですけど、あなたをけちょんけちょんにしたHEROさんは、サードセクションでセカンドのあなたより格上さんなんですー★だ・か・らパートナーを付けるとのことですよ」
先ほどまでリベンジに燃えていた兜はとたんに不機嫌になる。
「パートナー付けるって?いらねぇよそんなもん」
「ダーメーデース、兜さんよりランクが上の先輩さんがパートナーに付くそうなので失礼のないようにアデュー」
プープーと耳元では通話が勝手に切られた事を告げる音がなっており兜はイライラしたまま足元に転がっていた空き缶蹴飛ばす。
「なんだよ…」
「まぁまぁそうカッカせずにミヨちゃんらしい可愛らしい連絡じゃないか」
「ッ!」
一方的に切られた通話、無駄になり続けるケータイをポケットに押し込む。兜は、再び家に帰ろうと繁華街を闊歩しようと前に足を踏み出そうとした瞬間に後ろからの声に迷うことなく懐から拳銃を抜く。わずかコンマ一秒の動作だったはずなのだが、後ろに突如現れた人物によって兜の手にあったはずの銃は、後ろの人物が持っており銃口は兜の喉に押し当てられていた。
「君がパートナーか…」
真っ黒い髪を肩に届く程度に伸ばし、右側をピンで留めている。前髪は所謂アシメトリーで、左側目が隠れ一見すると性別が分からない。目は『生きた死体』のようなイメージを抱かせ服装は、ジーンズにTシャツの奇妙なオーラを纏った男が兜に銃を押しつけながらそう呟く。
「お前がパートナーかよ…」
「そうだね、実にその通りだ……故に残念でもあるね、実に残念だ」
お前には誰も救えない 救ったつもりで実は苦しめているのになぜ気付かない お前のせいでお前の大切な人は傷つく お前の努力などただの時間の浪費
(な!?なんだ?)
急に額を押さえながらつぶやく道化に兜はいらだつ、しかし男が何かをつぶやいた瞬間に…兜の頭に…多くの言葉が直接響き…兜の意識は闇に落ち、意識が戻った時、失っていた時間は数秒間だけであったのにもかかわらず全身が上手く動かなくなり膝をつく。
「か、は…なんだいまの…」
「ほう凄いな、実に凄い。俺の補正でまだ心が生きてるなんて主人公はあなどれないな…合格だ」
「てめぇ……」
「まぁ、先ほどの事は水に流して仕事を頑張ろうじゃないか…ターゲットの男、一度だけ会った事があるけど……正直彼は強いよ」
「んなことは、判っている…」
「そうかならよかった……では良い事を伝授してあげよう」
「良い事?」
「そ、カイザと呼ばれるあの男の欠点さ」
男の言葉に兜が喰いつくが男は一切気にせずに語る。マイペースという面において熊先生を越えるほどのツワモノであるという事は、誰も知らない。
カイザの欠点を知るという今だ未知数の男、その男と組むことになった凄腕スナイパー兜…カイザの運命はいかに…。
つづく
今回は、何かが始まる兆候のお話でした。
作者的にお気に入りのスナイパーが再び登場。彼と新たに現れた男が一体何をしでかすのか…。
それではまたノシ




