冬眠なんて認めない
前回のあらすじ
最後の楽園が崩壊、今までにない絶望と殺意から柊はさらなる怪物へと悪化を遂げる。以上。
さぁ不定期更新のお時間です。
今回はなかなか時間がかかりました…夏バテ夏風邪って本当にヤになりますよね。
ではどうぞ。
カイザ=ガブリエルは、病院から再び退院し心底自信を無くしていた。
退院した直後にすぐに柊を探して一緒に行動しようと思った矢先…妄想の世界に浸っていたために目の前で起こった事故にすばやく対処できず、わざわざ飛びこみ…無茶な回避運動のせいで傷が開き再び入院と言う馬鹿丸出しな行動を取ってしまったためだ。
「落ち込むな~柊さんとも連絡取れないし…」
彼がベンチでうなだれているとヴーヴーとポケットの携帯電話がメールを受信を確認する。メールの発信源は HOJ(HERO of ジャスティス)の略称で呼ばれる主人公のサポート機関からであった。
「またいつものみたいな悪出現情報……」
その内容を見て思わず立ち上がるカイザ…その手は震え、激しく動揺していた。
『先日、3名のサードセクションで構成された【悪狩りの賞金稼ぎ徒党】が戦死しました…非常に強力で凶悪なクラス【悪】の仕業とみて調査中。
褐色肌に角の生えた少女タイプの【悪】が確認されている。これまでの情報から最近、力をつけてきている小早川柊の仕業ではないかという情報が有効。ヒーローの皆さんはくれぐれも注意してください』っと言った内容のため…。
カタン
思わず手の持っていたケータイ電話を手から落とし力なく両膝をついて、拳を地面にぶつける。
「離れるべきじゃなかった…僕と一緒にいる方がまだ、ましだったんじゃないか?…だがこの展開は誰のシナリオだ?どう考えてもこんな展開…僕の主人公補正の因果に関係ない」
すぐに起き上りメガネに手を当てて考える。
シナリオとは、主人公達の主人公補正が起こす一瞬の運命の悪戯とも言える現象である。
自分または他人が巻き込まれ…最悪の場合死亡する事もある。
「とりあえず、アイツの所に行って柊さんを探そう…誰か他のHEROに柊さんが遭遇する前に…」
カイザ=ガブリエルは、あわただしく公園の脇に止めたオートバイに跨り、ヘルメットを装着すると目的地に向かって風を切りながら走りだす。
その名は一切の迷いもなく…紛れもなく真剣な表情と…心の中にふと脳裏をよぎった違和感。
(なにか柊さんの身に起こっている気がする…急ごう)
公道でアクセルを最大にし、車の隙間を縫って駆け抜ける。
………
…………
………
-----------うぇええんうぇえええんーーーーーーーーー
少女の泣き声が聞こえる…。
ーーーーーーだしてだしておうちかえりたいよ~ーーーーー
必死に壁を叩きながらもがいている少女が居た…。
ガラララと鉄の扉が開き…強い光が差し込む…。
光の中から手が伸びてその手は、少女に伸ばされ…。
涙ぐんでいる少女がその手を掴むと…。
ーーーーーーもう大丈夫ーーーーーー
顔が見えないのに…その声と見えない筈の表情がすごく優しくて泣きついたのを覚えてる。
懐かしいような神秘的過ぎて夢のような光景…それが一気に黒い何かに飲み込まれる。
まるで邪悪な思念に呑み込まれたかのようだった。
〔『{(死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね死ね師ね死ね死ね)}』〕
ーーーーーいやーーーーーー!!!!!-------
ユサユサ…ユサユサ
「…… ………ちゃん……お……ちゃん……おね…ちゃん…おねえちゃん!」
「キャァアアアアアア!!!!!………ハァ、ハァ……(ゴクン)…ハァ…え…あれ…ごめん、私寝てしまってたか…(何だ今の夢だ…)」
この日この時、柊は、人の居ないビルの屋上で一人の少年に起こされる…。
「おねえちゃん、今日は8時起きって言ってたのに…もう九時だよ?」
目元に紫の文様がある【悪】の少年…シャスティモに起こされてようやく目を覚ます。
「……え、あ、シャス!?私が寝てる間に何かなかったか!?大丈夫?」
「うん大丈夫、お姉ちゃんこそ大丈夫?」
眼が完全に覚めた柊は、酷くあわてながら少年の身を案じる…その光景は、どこか優しげで感動的であり……なにか異常な光景にも見える。
少年がほほ笑みながら抱きしめ返す柊の表情は酷く無表情で、痩せ細り…病人のように見えるほどやつれていた…。
少年の安全を確認した柊は、一安心し落ち着く。
少年は、再び眠りに入りそうになる柊の手を掴んでグイグイと引き寄せる。
「お、おい、どうしたんだ?」
「お姉ちゃん今日も、【神の人】の神殿に向かって行くって言ったでしょ?」
少年は非常に強い力で柊をせかす、柊もやれやれと言った表情で立ち上がり、2人仲良く歩む。
柊は気が付かなかったが…二人のいた場所から資格になる場所に…10名ほどの男女混じった見るも無残な死体が壁にめり込んでいた。
その事は、柊は知らない。
「早くいこ!ね?」
柊に懐き急いでその場を去らせようとする少年の顔が少しだけ…ほんの少しだけ歪んでいた。まるでおもちゃで遊び終わった後の子供のような表情だった。
………
…………
………
「先生!先生!さっきメールで言ったように緊急事態!」
ドンドンとこう場の鉄の扉を叩く音と声がこう場に響く。
「なんだなんだ?春か?」
その声にとび起きたかのように焦り頭を掻きながら工場(巣穴)から出てきた熊…もとい熊先生。
いきなり出てきたセリフが「春か?」なこの巨体の熊に対してカイザは呆れて頭を抱えながら…。
「冬眠でもしてたんですか…『無論だ』……僕に渡すもん渡して来年の春まで冬眠してろ」
ただでさえ、切羽詰まっているカイザにマイペース熊さんの相手をしている時間も余裕もない。
とりあえず、手を差し出すと…熊はめんどくさそうに巣穴にもぐりこんでゴソゴソとガラクタの山を掘り下げて「あったあった」と呟きながらそれをカイザの手の上に置く。
以前、カイザが渡していた腕時計のような機械が再びカイザの元に帰る。多少古びたそれをカイザは迷うことなくポケットに入れる。
寝ぼけていた熊男は、ようやく眠気が消えたのかカイザの肩に手を置いて…。
「まぁ…なんだ、お前さんは随分と焦ってるみたいだが…なんかヤバいのか?」
「わかりません……少し不味い方向に向かってるのは感じますが…まだなんとも」
熊の質問に顔を暗くしながら答えるカイザ、その様子に熊は眼を細めながら…「はぁ」と溜息を落す。
「なんかよくわからんがお前さんの勘は、お前さんの主人公補正と合わさってよく当たるからな…それは直したがそれだけで大丈夫そうか?」
熊先生は頭を掻きながら不安そうにカイザに尋ね。
カイザは、少し不安そうな表情になる。
「僕が生きてきた中で、過去最大級の違和感を感じます…【あの男】とは、比べ物にならないとはいえ…まぁ、それなりに頑張るんで…」
カイザが工場から出ようと歩みを進めると、熊が後ろからカイザの肩をその巨大な手でつかみ、何やら悩みながらも告げる。
「本当は、いかんのだがな……アレをお前に貸してやってもいい」
「あれって……あれ貸せるものですか?……てか、アレはぶっ壊れてたんじゃ…」
アレっと言う物について心当たりのあるカイザは困りながら話すと…。
ドンっと自分の胸板を拳で叩いた熊は自信満々の表情で……。
「おうよ、普通は貸せん!だが、盗まれた」
「自信満々に言う事じゃねぇですよ!?今の今までのシリアスな雰囲気何処行ったんですか!?」
………
…………
………
「あの人、絶対に人間じゃないな…あの空気破壊能力は一種のスキルだろ…」
ぶつくさ言いながらも自分のバイクとは違い、獅子雄にチューンされた特殊な車両。
熊さん命名で【グリズリー】という灰色の何処か野性的なエアロパーツが目立つオートバイに騎乗しながら高速道路でなく、上空に敷かれた近未来的な空に浮かぶ国と国を検問無しでつなぐHERO専用レール…【ヒーローズベルト】の上を時速200キロオーバーで滑走する。
ちなみに、熊とカイザの話していたアレは、カイザが来る少し前にあろうことかあの熊男が一切何もできない内に気絶させられ、その間に奪われたらしい。
(あの野生の熊を瞬殺って…僕には、絶対に無理な芸当だな……よりにもよって【アレ】を盗むなんて……まぁいいです。どうせあの人に聞けば見つかるでしょうし)
カイザはある人物の元に向かっていた。
熊の先生からも「アイツの所行くんだろ?お前の探し物のついでに犯人を見つけて貰ってくれ」と頼まれたのでなるべくめんどくさい事にならないように急いで向かう。
彼が向かう目的地、それは英国イギリスのとある町。
そこに一件だけある探偵事務所、【シャーロット探偵事務所】にいざ赴かんとする。
つづく
今回は新キャラは居ませんね。
さてさて、何やら不穏な空気になってきたな…シリアスとコメディが入り乱れてる…由々しき事態かも。
次回はどんなキャラが出るのら…。
それでは、また会いましょうノシ




