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漆黒の魔に愛されて  作者: 亜瑠那
序章(前) 温かき日々
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四歳の秋、それは一つの音を響かせた

ゴリゴリゴリゴリ……


セレモニカ王国の国境線上にある、国の干渉を受けることなく存在する山奥の村に音が響く。

ログハウス状の家から鳴るその音は数時間に渡ってとまることなく一定の速さで鳴り響いていた。


石鉢の上に入れられたフォゲルの花とアキラスの実は木の棒ですり潰される事によって粉末状となり、混ぜ合わさって特別な粉末へと変わっていく。長い作業を少し手馴れた様子で行うのは四歳前後となった少女、フィンラ・オクレル。その単純だが、大変な労力を必要とする作業に没頭すること数時間。その様子をじっと見つめていた八十過ぎの老婆は口を開いた。


「そのくらいでいいわ、フィンラ。こっちに渡して頂戴」


「はい、おばあちゃん」


そう返事をしてフィンラはできた粉末を小さな鉢にいれて隣の老婆へと渡す。

作業に一段落ついたことでようやく緊張が解けたのか、フィンラはフゥッと息を吐く。そのままバタンッと後ろへ寝転がると大きく伸びをした。


秋とはいえまだまだ暑い日ざしの差し込む家でフィンラは軽く額に流れる一筋の汗をぬぐった。


「あ~、暑い……」


そう呟くとフィンラは自分の手を見やる。

フィンラが薬作りをはじめるようになったのは一年以上も前のことだった。二歳のときに交わした約束どおり、三歳から手伝うようになったのである。最初のころはそのあまりにもきつい作業に音を上げることも少なくなかったが、さすがに今ではそういうこともなくなった。

手の皮も少しずつ厚くなり、こすれて血がにじむこともなくなった。そう考えると成長したなぁ、とフィンラは思うのだった。


「よう、フィンラちゃん!精が出るねぇ!」


不意にかけられた陽気な声で振り返ると一人の男が二カッと笑いながら手を振っていた。


「ゴードンさん!お疲れ様です」


自分の数少ない知り合いに喜びの声をあげると体を起こし、フィンラもまた、手を振りかえした。

ゴードンはこの村唯一の配達屋で、オクレル家に来る数少ない人間の一人である。家と家の間が数百メートル離れていることも珍しくないこの村ではゴードンのような配達屋がどうしても必要なのだ。

大きく開け放たれた窓から男、ゴードンは家へと入ると、


「どうぞ、オクレル夫人。サキュアース夫人から手紙とお届けものと依頼です」


といってオクレル夫人へと一通の手紙と小さな袋を手渡した。


「まぁ、ありがとう」


あまり会う事のできない友人からの手紙に喜びをにじませてそうお礼を言うと、何かを思いついたのか、ごそごそとタンスをあさると、小袋を手に戻ってきた。


「はいこれ。いつもありがとうね。お礼といっちゃあ何だけど、受け取ってくれるかしら?」


「いつもいつもすんません。ありがたく頂戴します」


朗らかな笑みでオクレル夫人が小袋を差し出すと、ゴードンは照れくさそうに頭を下げた。

見かけによらず重い小袋をゴードンは難なく受け取ると大事そうに腰の小さなかばんへと入れた。


「じゃあな、フィンラちゃん。頑張れよ!」


「うんっ!ゴードンさんも頑張って!」


大きな窓から出て行ったゴードンへと満面の笑みで答えるフィンラに、ゴードンはまた二カッと笑うと手を振り、超人的な速さで駆け出した。見る見るうちに小さくなっていく背中へとフィンラは手を振り続けた。




「おおい、フィンラ!フォキラの薬ができるから取りに来てくれ」


不意に家の奥から聞こえた声にフィンラははじかれたように立ち上がると、走って声の下へと向かった。


「転ばないでくださいね」


「大丈夫、わかってる!」


その後ろからオクレル夫人が心配そうに声をかけるとフィンラは振り向かず答えた。


全く……、と少し困ったような顔をしながら、オクレル夫人は届けられた手紙を手に取る。軽く封のされた封筒を開けると、そこにはこまかな字でびっしりと埋め尽くされた便箋があった。

彼女ーサキュアース夫人らしいその手紙にオクレル夫人は苦笑すると少しずつ読み進めていった。


最初は軽く微笑を浮かべながら読みすすめていたオクレル夫人だったが、手紙が後半に差し掛かるにつれてその表情は厳しく、険しいものへと変わっていった。




「そうですか……」


長い手紙を読み終え、オクレル夫人はため息とともにそう呟いた。そして、届け物にかかっていた紐を解き、中身を取り出した。小さい袋の中に入っていたにもかかわらず大きい荷物をオクレル夫人は難なくとりだした。そして、それを見た瞬間彼女の顔は驚愕に染まった。


「なっ……」


それは彼女も、そしてその夫ももう二度と触れるまいと固く誓ったものであった。

平たく言えば、


剣と杖


さらにいえば、彼女たちが昔使っていたもの。


多くの人々を血にそめた、彼女たちの武器。忌まわしき道具。


「なぜ今更このようなものを……」


へなへなと、その場に崩れ落ちるようにして座り込んだ彼女はショックから立ち直ることなくそう口にした。迷いをあらわにする彼女の瞳に写りこんだのは一文。それは唯一手紙と別にされていた紙に書かれていた。


『きっと必要になるから』



秋ばかりでほかの季節はないのか?否である。


本当に秋ばかりでなにやってるんだ自分、という感じでございます。

ちゃんとほかにも季節はあります。すみません。


ゴードンさんを出すだけのつもりが何かフラグをたててしまった感が半端じゃありません。行き当たりばったりなのでフラグ回収忘れ多しな私ですが、忘れないようにいたしますのでどうぞよろしくお願いします(泣)


四歳編も二話で投稿させていただきます。次回はフィンラの薬とおじいさんおばあさんの話し合いの予定でいます。

あ、ちなみに本編にでてきたフォキラの薬とはフォゲルの花とアキラスの実を混ぜ合わせることによってできる薬です。実際には存在しません、多分。そしてネーミングセンスのなさが情けない……。

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