二歳の秋の決意はいつか
今日のお茶はフォゲルの花の茎が入った、甘い香りのするお茶だ。菓子はそれに合わせるように、サクッとした食感の薄く甘味のついた菓子に蜂蜜を乗せたものだった。
「ばあば、早く食べよう!」
待ちきれないように目を輝かせてフィンラが言うと、ばあばは苦笑して、
「じゃあいただきましょうかね。食をつかさどる神、アステランに感謝を」
「アステアンに感ちゃを」
「アステラン神に感謝をささげて」
それぞれ感謝をささげると、お茶を一口飲む。
これがこの世界の風習なのだ。
「ばあば、フォゲルの花って病気に効くんだよね」
「えぇ、そうよ」
目をきらきらと輝かせてフィンラは言う。答えながらも不思議に思ったばあばは、
「フィンラ?」
「えっと、あのね、フィンラはね、お薬作ってポーコ治したいんだ」
ポーコとは、近所に住む野良の馬のことだ。数週間前から病気になり、すぐに死ぬ病気ではないにしろ残り数年の命だろうといわれていた。日に日に衰弱していくポーコの姿を毎日見ている彼女だからこそだろう、真剣な顔で言うフィンラに驚きつつも、ばあばは冷静に、語りかけた。
「フィンラ、お前はみんなの病気を治したいかい?」
「うん、フィンラみんなが苦しいの嫌だから……。みんな笑顔になってほしいもん!」
フィンラの純粋な願いにばあばは顔をほころばせた。
「そうかい。お前は薬の作り方を覚えたいかい?」
「うんっ!」
瞳を輝かせてうなずくフィンラに、ばあばは喜びとともに複雑な感情を持った。
人から恐れられるはずの魔王が人の笑顔を願う……。
そんな皮肉な状態に思わず嫌気が差してしまったのだ。そして魔王というくくりからいまだ抜けられていない自分にも。
「そうだねぇ……。今フィンラは二歳だよね?じゃあ三歳になったら教えようか」
「えぇー……。フィンラもっと早く作りたいよ」
「いいかいフィンラ。何事にも時期というものはあるんだよ。フォゲルの花が今の時期しか咲かないように、薬の作り方も知るのも時期というものがあるんだ。お前にはまだ早い。もう少しフィンラが成長したらきっと時期が来る。そのときには必ずフィンラに教えよう。それまで待てるね?」
「……うん、わかった!」
少し残念そうにだがうれしそうにフィンラはうなずいた。
そして四ヵ月後にくる三歳の誕生日を心待ちにした。
「さて、お菓子もなくなったし、お茶も飲んで休憩もした。また集めるか!」
「うんっ!早く行こう、じいじ!」
あっという間にお菓子を食べたフィンラはまた元気いっぱいに『じいじ』とともに庭へと飛び出した。そんなフィンラの後ろ姿を『ばあば』は目を細めながら見つめていた。
その目は間違いなくわが子を愛する目だった。
「さて、これを片付けたらまたやりましょうか」
一人でそう呟くとおもむろに食べたときに使った食器を台所へと持っていった。
カチャカチャカチャ、と皿の当たる音が家に響く。食器を洗いながら『ばあば』は考えた。
あの子に薬を教えてよいのだろうか、と。
どこからか不安がこみ上げてきた『ばあば』はフィンラへと目線を向ける。
そこで『ばあば』は見ていた。フィンラの周りで『白き魔』や『漆黒の魔』や『紅の魔』や『紫色の魔』などたくさんの『魔』が共にあるのを。
それはまさに、『ばあば』の望んだどおりの様子だった。
「まったく、何を悩んでいるのでしょうね、私は」
こっそり涙をぬぐいながら『ばあば』は、呟く。フィンラのまわりでは多くの魔たちが共存している。それを知っていながら不安に思ってしまった自分を叱りながら。
しばらくフィンラを見つめていると、それに気づいたフィンラが大きく手を振った。
『ばあば』は優しく手を振りながら思った。
(全く真実というものは……)
あけましておめでとうございます。
だいぶ時間が空いてしまいました。申し訳ございません。
ようやくでてきました、タイトルにもある『魔』。
とりあえず魔と属性について書いておきます。魔とはなにか、等についてはまた進んでからということどうぞよろしくお願いします。
表
光属性・白き魔
炎属性・紅の魔または赤き魔
氷属性・白水の魔
水属性・青き魔
雷属性・黄色の魔
風属性・黄緑の魔
土属性・茶色き魔
裏
闇属性・漆黒の魔
地属性・灰色き魔
化属性・紫色の魔
星属性・紺の魔
空属性・無色の魔
天属性・空色の魔
時属性・黒銀の魔
狭間
界属性・無属性・癒属性・魔なし
この世界の魔法は表属性、裏属性と狭間属性の三種類があります。
一月十一日 後書きの説明を訂正および追加しました。
五月十一日 後書きの説明を訂正しました。