駆引
「ほら、ここがわたくし達の教室でしてよ」
リエローラが人のよさそうな微笑をたたえてそう紹介する。フィンスは、軽く会釈し中へ入る。
扉さえもが高級そうな装飾を施された一品で、この学園が帝国にとって如何に大切にされているかが伺えた。
「……あぁ」
「……」
フィンスを迎えたのは二組の沈黙だった。誰かと疑い、つい先ほど強い殺気を放った人物だと合点しすぐに納得したように声を漏らす者。そして、まるで興味がないかのように誰かが来たことさえ無視し続ける者。
「始めまして。本日よりこの特Aクラスに編入してきました、フィンス。ヴィーヴェレと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
フィンスは柔らかな微笑みをたたえて、小さく頭を下げる。このクラスに教師はいない。学園で最高峰の実力を持つものたちだからこそ許される特別待遇だ。
「あぁ、よろしく。自分は遠距離攻撃を専門にしてるホリカっていうんだ」
納得した表情でいた女性がほぼ表情を変えずに自己紹介する。肩より短い黄緑の髪をさらりと揺らすホリカは、一瞬男性と間違えそうなほど女性らしさを感じさせなかった。中世的な美しさ、とでも言うのだろうか。
「ン。あぁ、ついでに言っとくとホリカの二つ名は『神々の眼』だ。なンでも見通せるからついたらしいがな」
「エル!?そ、そういう恥ずかしい名前を広めないでくれっ!」
「ホリカさん、ですね。よろしくお願いします」
あわてたように否定するホリカの顔は真っ赤に染まっており、それを見てフィンスはクスクスと面白そうに笑い、軽く頭を下げると、もう一人のほうへと向き直った。
「……」
フィンスが向きなおったところで、その人物の無視は変わらない。フィンス達の間にほのかな警戒心を含めた微妙な空気が流れる。
「……わりぃ、そいつ」
エルセが見かねたように口を開く。フィンスが少しつらそうに顔を歪めて、気にしないでほしいというように首を振る。
「いえ、大丈夫です」
みなまで言うな、とばかりにフィンスはエルセの言葉を遮りその人物に向けて軽く頭を下げ――
「一回寝ると、全然起きねえンだ」
「はい!?」
フィンスの首ががくりと落ちる。深刻そうな空気を感じたのだが。
「え……」
「わりぃ、起こすわ」
エルセは笑いをかみ殺すようにしてその人物へ向かう。それと同時に他の面々も含み笑いを始める。それを見てフィンスは初めて自分が面白がられていたのだと気づき、顔を真っ赤に染める。
「な、なんなんですかもう……」
恥ずかしそうにフィンスはぶつぶつと言うが、その様子がさらに笑いを誘ったのか他の面々は笑いを隠しきれない。ホリカに至ってはもう爆笑している。
「おい、起きろ」
エルセがその人物の肩を揺すって起こそうとする。それでもおきないため、しびれを切らしたのかエルセはニヤリと笑うと動かすのをやめ、肩の上に手を構える。
「え、ちょ、それって」
フィンスの静止の声が届くことなく、エルセの手刀は振り下ろされる。
「いたぁっ!!」
悲鳴と共についにその人物が目を覚ます。むー、とでもいうかのようにエルセをにらむ『彼』は、ふとフィンスに気がついてスッとその表情を消す。
「…………あぁ、そういうこと」
驚くほど冷たい声が彼からこぼれ、フィンスが背筋をゾッとさせる、とその時には彼はニコリと笑って言った。
「始めまして、フィンス・ヴィーヴェレ。ボクはリェル。よろしくね」
「始めまして。よろしくお願いします」
お互いが何かを隠しているような、そんな感覚を覚えながらフィンスは返す。
「はい、皆さん自己紹介も終わったようで何よりです」
ぱたん、と扉を開けて一人の女性が入ってくる。ふっと全員の視線がそちらへ向く。
「……ああ」
女性はかすかに首をかしげたものの、すぐに合点がいったように頷く。
「話は聞いています。はじめまして、フィンス・ヴィーヴェレ。ワタシはメリフィル。ここ、特Aクラスの魔法実技の担当をしています。どうぞよろしくお願いしますね」
柔らかな微笑みを浮かべて優雅にお辞儀すると、メリフィルは6人に向き直っていう。
「本日は校庭を使って対魔王の実戦形式の模擬戦を行います。5分以内に校庭に集合。よろしいですね」
6人とも返事はない。だが、全員に漂う空気が肯定を示していた。
***********
「実戦形式って何をするんです?」
女性は来た時と同じようにあっさりと扉から出て行った。フィンスらはそれを視線で見送り、出て行ったのを確認するとようやく口を開いた。
「あぁ、そうでしたわね。まぁ簡単に言うと過去のデータから魔王を模した人形を作り、それを相手に勝て、というやつですわ」
「つってもそのデータとやらが数年前のやつだからな。それよりも強くなってるって考えて作戦をねらねェと普通に実践じゃ死ぬだけだがな」
「数年前……?」
エルセをリエローラがなれたように軽く説明するが、何を感じたのかフィンスは一言つぶやく。疑問系で放たれたつぶやきだが、それは誰かへの質問ではない。むしろ何かを思い出しているかのような響き。
「あぁ、数年前にあった事件のときの魔王のデータを参考にしているんだ。ほら、帝国が魔王の隠れていた場所を攻撃したこと、あっただろう?」
ホリカがフィンスの疑問の声にこたえるような形で説明を補足する。すっとフィンスの表情が陰ると同時に鋭くなる。
「あのときのデータですか」
苦々しげな声音で吐き捨てられた言葉に他の面々は小さく眉を潜める。ピリリ、とした空気が漂い始めたとき。
「あのさー、そろそろ5分たつよ?」
リェルの間延びした声がその空気を切り裂いた。エルセがはっとしたようにリェルをみたが、のほほんとした顔で笑うリェルに脱力したように小さく笑った。
「ン、だな。行こう」
傍らにおいてあった短剣をつかみ、エルセは窓を開ける。目の前にあるのは校庭。
「え、そこから行くんですか!?」
フィンスが驚愕をあらわに叫ぶ。エルセは平然とした顔で
「ン、あぁ、そうだが」
頷く。フィンスは笑顔をこわばらせ、声を出さずに、うわぁ……とつぶやいたがそれに気づくものなどいるはずもなく。
「……行く」
ついぞ無言だったレスターが一番に駆け出し、窓の枠を踏み切って校庭へ身を躍らせる。……窓の枠が悲鳴をあげて大きくゆがんだのはご愛嬌である。
「あれほど強く踏み切るなといいましたのに……」
あきれたように肩をすくめるリエローラもまた、飛ぶ。いつの間に持ったのか、小型の鎌を手に握って。着地する寸前にくるりと一回転、鎌を回す。小型だったはずの鎌は初めて出会ったときに持っていた、死神のような鎌へと変化する。
「まぁ、しょうがないってことだろう?」
ホリカは楽しそうに笑って軽やかに飛び出す。それはまさに鳥のように。かなりの距離を飛んだにもかかわらず、着地したときはまるで音を立てない。狩人のような身のこなしだった。
「どうにもなンねえってことだろっと」
持ち前の素早さを生かして風のようにかけるエルセは、弾丸のように飛び出して着地する。ホリカとは対照的に轟音を立てて着地するものだから、あたりに風が吹き起こる。
「先にどうぞ?」
リェルが、そういって笑った。フィンスは、その言葉にしかし動こうとしない。どちらかが殺気を出しているわけでもない、武器を持っているわけでもない。だが、にらみ合い。
「……何を知っている?」
口を開いたのはフィンスのほうだった。それまで取り繕っていた敬語をはずし、警戒をあらわに鋭く問う。リェルはそれを聞いても笑みを消さない。答えない。
ただ、フィンスのことを見ているだけ――。フィンスも口を開かず、リェルの目だけをにらむようにしてみる。笑わない、冷たい瞳。
「……ふふふ」
こらえきれなくなったかのようにリェルが笑い声をもらす。楽しげだが、冷たい笑いだった。リェルが笑みを消す。つくり笑いを消し去る。
「君って本当に聡い。聡すぎて逆に困ることが多いんじゃないかな」
口調はあくまで親しげ。だが、その声に宿る色は最初と同じ――非情なまでに冷たい。フィンスはむしろそちらのほうがやりやすいのだろう、裏にいろいろなものを含んだ苦笑を浮かべて答える。
「さぁ、ね。必要ならばその困りごともしょうがないと思うけど。むしろ貴方のように道化を演じることのほうがよっぽど大変だと感じるね」
自嘲と相手に対する嘲り、両方をこめた言葉が皮肉気に放たれる。それを受けてなお、リェルは冷たい表情を消さない。むしろ、その言葉を鼻で嗤う。
「道化、道化、道化。ボクを知る人はみんなそう言うんだよ。まぁ、そもそも知っている人自体が少ないわけなんだけど。ボクのことを知っている?ボクが自分からバラしたのを除けば君は一番早かったね、気づくのが。まさかそんな早く気づかれるとは思ってなかったけどまぁ、ボクが最初に変な態度とったのが原因かな」
フィンスは無言でリェルの言葉に耳を傾ける。と、同時に強いデジャヴを感じていた。
「……ひとつ聞きたい」
「ん?手短にね」
「貴方は、シュト・ルートゥを知っているか」
道を視る者。リェルの口調や話し方、すべてが似通っていた。尤も―シュトのほうがよっぽど回りくどい言い方をしていたけれど。
「……沈黙は肯定っていう言葉もあるけど、別にそういうわけじゃないってことを前置きさせてもらって、だ。ボクは確かにシュト・ルートゥを知っているよ。だが、シュトのその役割として接したことは、ない。ただ少し……シュトの言い方を借りるなら、因果によって、道同士がたまたまつながった、そんな関係だよ」
ま、だから少し口調とかは似てるかもね。リェルはそう付け加えて口を閉じた。
フィンスは少し目を閉じて考える。リェルの言ったことを、すべて。
「……と、いうわけだよ。君のことも聞かせてもらいたいところだけど、残念ながらタイムオーバーだ。そろそろ降りないと。まぁひとつだけいうならば?」
リェルは今度こそ、笑った。冷たい笑みでもなく、作り笑いでもなく。ただ、とても楽しそうに。窓の枠に足をかける。
「ボクらは別に魔王を倒すためにこの学園にきているわけじゃないよ」
「っ――!」
さらりとそう言ってリェルは窓の枠を蹴る。他の4人とは違う、優雅な飛び方。運動神経がどうこうではなく、ただ飛んでいる姿が美しい。だが、フィンスはその姿さえきちんと見れずに知らず息を止めていた。
「気づいていた、ということですかね」
力を抜くと、フィンスは小さく呟いた。クス、と声を漏らすと窓からリェルを見下ろす。リェルの顔からは何の考えも読み取れなかったが、フィンスはふっと肩をすくめる。そのしぐさには、不安や心配などなかった。
「さて、行きますか。5分たってしまってますが」
窓の枠を蹴り、フィンスは虚空へ体を躍らせる。視認しているよりも高いそれに、しかしフィンスは焦らない。空を飛んだことなど、何度もある。
それに比べれば、短い飛行の後フィンスは地面に着地する。
「遅かったですわね」
リエローラが首をかしげて声をかける。フィンスは申し訳なさそうな顔をすると、
「すみません、飛び降りる準備がうまくできなくて……」
小さな嘘をついて、誤魔化した。リエローラは少し訝しげに首を傾げたものの、大して触れることもなく肩をすくめた。
「ようやく皆さんそろいましたね」
唐突に声がかけられ、全員の視線が集中する。いつの間にか現れていたのは先ほど教室に来た女性。全員の視線をものともせず、女性はあたりを見渡し、小さく呟いた。
「一応張っておきますか」
無詠唱。
女性はいとも簡単そうに結界を張る。物理的、魔術的ダメージを周囲にもらさないための結界。
「珍しいな」
エルセがそれを見て、ぽつりと漏らす。ホリカがそれに同意するように首を傾げるが、他の面々はなんともいわず、女性をにらむようにしてみている。
「さて、皆さんわかっているように。ここでは模擬戦をしてもらいます。制限時間は10分。いいですね」
フィンスという新しい生徒がいるにもかかわらずそれに関する説明はなしで、女性は話を進める。試合前の5分、といのはフィンスに説明する時間も含めていたのだと暗に告げる。
「それでは。始めなさい」
静かなる宣告をして、女性はきえる。おそらくここの情景を見れる場所へ移ったのだろうが、今はもう関係ない。女性が消えると同時、彼らはスッと臨戦態勢に入る。
あたりの気配を読むために気を広げて気配で周囲を視る。――ぴりりとした空気が、校庭をめぐる。常人が入ったら、息もつけなくなるような、そんな空気。
静寂。
「っ」
一瞬の気合と共に人影が動く。当然のように先駆けるのはエルセ。右手に握った短剣を突き出すようにしてふる。
ぴっ、と小さく赤い線が空中に走り潜伏がとける。
「すばらしいですわ、エル」
リエローラが聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声で呟き、好戦的な笑みを浮かべて死神の鎌を担ぐ。
ホリカは銃を構えて出てきた実態に向けて引き金を引く。流れるような動作で行われた其れは、まさに精密射撃。実態の現れたそこ、寸分違わず弾が貫く。そう、現れた実態は、もう動いていた。
レスターが動いた先に向けて突進する。右手を引き、必殺の一撃を放てる体勢になる。だが、何を感じ取ったのか、当てる寸前でその拳を引いて後ろに下がる。
レスターがいた場所、そこを死神の鎌が切り裂く。レスターが不満気に上空のリエローラをにらみつけるが、戦闘態勢に入ったリエローラはそれも気にせずに死神の鎌を再び振るう。
実態はそれを避けると魔術の詠唱に入る。短縮化された魔術がリエローラに牙をむく。闇の魔術がリエローラに向かって放たれるが、横から振るわれた短剣がそれをあっさりと切り裂く。
最初の一撃以来刃を潜めていたエルセが再び動き始める。だが、その動きに最初の機敏さはなくどこかに不調を抱えていることをうかがわせた。
一方、動かない二人は。
「うんうん、やっぱりそこはそう来るよね」
とても楽しげに頷くリェルは傍観者然として眺める。戦闘に参加する意思が感じられない。一方、フィンスはというと。
ただ、その戦いぶりを見ていた。おそらくもう動けるのであろうことは察せるものの何かを考えて動かない。時々、魔術式がフィンスの周囲で光るものの攻撃系ではないのかそのまま光を失って消えるものばかりである。
「あけて」
無言だった戦闘に一つの声が混じる。ホリカの、戦闘前には考えられないほど鋭い一声。それだけで他の面々はホリカと、実態の間をあける。それは見事なコンビネーションだった。
エルセが短剣を振るい、実態のバランスをわずかに狂わせる、とそこへリエローラの鎌が振るわれる。上と右から迫った二つの刃に、しかし実態は反応してみせる。だが、それが限界。その外から振るわれた一撃必殺のレスターの拳が下腹部に深々と突き刺さる。一瞬の反応の遅れ。それだけで充分だった。
ホリカが引き金を引いて弾がでる。それはまっすぐに実態の額に当たる部分を目指す。それにダメ押しするようにエルセが心臓めがけて短剣を投げる。
――だが。
すべてが決まるように思われたそれは、裏切られる。
「っ!?」
実態の前に出現した魔術式がすべての攻撃を、阻む。4人が、驚きに一瞬身を固くする。
その瞬間。
「展開」
一つの、少女の声が戦場を駆け巡る。と、同時に展開される、巨大な魔術式。当然のように、中心にいるのは、フィンス・ヴィーヴェレ。
「土の縄」
一言呟き、それで終わりだった。魔術式から現れたのはチェーンの形をした土の縄。それが生き物のように動いて実態を捕らえる。あっさりと、そうあまりにもあっさりとその実態はその縄に絡まる。
トン、とフィンスが地面を一度軽く踏みなおす。それが、何に作用したのかは誰にもわからなかった。フィンス以外の誰にも。
動けなくなってもがいている実態に向けて、地面から鋭い杭のようなものがのびて、突き刺さる。現れた4本の杭によって実態は串刺しになり、そしてがくりと力を抜いた。
『模擬戦終了』
の、文字が空中に踊り結界が解除される。
「……なめてませんかね」
その文字を無感動に眺めてフィンスはぽつりと呟く。全員の訝しげな視線が刺さるものの、フィンスはそれに対して何かを起こすわけでもなく、変わらずに言う。
「先日、王国で私は魔王を目撃しています。彼女の動き、魔力。この程度ではありませんでしたよ。この程度ならば。私でも瞬殺できる。数年前の記録のようですが、古すぎます。弱すぎます。せめて私程度に合わせてください」
最後の言葉は表れた女性に向けて。一組の冷たい目が女性を貫く。フィンスは無駄なことをしている、とわかっていてなお言葉を紡いだのだから。
「……そのようですね。私達のほうのミスです。すみません、データを変更したらまた戦ってもらいます。今日のところはこれで終了とします」
女性が小さく息をついて終了を告げる。張り詰めた空気がわずかに緩むのを感じて、フィンスはほっと息をつく。
「さて」
ぱっと表情を入れ替えてフィンスがクラスの面々に語りかける。だが、その次に紡がれた言葉に表情が凍る。
「リェルはなんで戦闘に参加しないのですか?」
全員が、感じていてなお発さなかった疑問。つまり、言ってみれば全員からの疑問の視線を受けて、リェルは困ったように笑う。
「あぁー、そうだよね、疑問に思うよね。ボクは別に戦闘得意なわけじゃないんだ。というかその」
リェルはその笑顔を少し悲しげにゆがめる。地面を指差し、すっと軽く振る。
地面から持ち上がる土が、あまりにも少ない。
「今、あんまりボクの力は発揮できないんだ」
フィンスの目がすっと細められる。
「ちょっと、まあ色々あってね。あんまり話したいことでもないから、気にしないでくれるかな」
「ええ」
フィンスはニコリと笑って即答した。他の面々も納得したように頷いて了解の意を表す。リェルも少し嬉しそうに笑って返す。
「さて、そろそろ教室に戻るか」
エルセが気楽そうに誘いをかける。リエローラが肩をすくめて返答。その場から跳躍して窓に飛び込む、ということはしない。ごく普通に、普通の生徒のように正面から入って階段をのぼり、教室に帰るのだ。
エルセ、リエローラ、レスター、ホリカ、フィンス、リェルの順番で並んで帰る。
「やれやれ、今回は本当に何もすることがなかったな」
「何を言うんですの、ホリカ。むしろ大活躍だったではありませんの」
「そうだな、どっちかっていうと死神が何をしてたのか俺はわかンねえンだが」
「なんですって!」
「まぁまぁ……どっちにしろ、今回のトリはフィンスちゃんに持ってかれちゃったわけだし」
「まぁそうですわね。今回は少し鎌の使い方を間違えましたわ」
「最初の一刀くらいしか俺は本当に何もしてねえンだが」
「ふふふ、でもあれを見つけたのはお手柄だったと思うよ」
「そりゃどうも」
「……むしろ、……見つけたことは、……誇るべき」
「あぁ?あンなもん俺の得意分野だっつうの」
「謙遜しなくていいんですのよ」
「そうそう、見つけたことは事実なんだから、さ」
「ふうン……」
「……魔式使いにあったのは初めてなのですが、そういうこともあるんですね?」
それぞれが、気ままに雑談をする中、腹に何かを含んだ会話を後ろで交わす。フィンスが質問を投げかけて、リェルがそれに答える。
「そうだね、そういうこともある。何が原因、っていうのははっきりしてないけどね」
ストレートでありながら、複雑なカーブをえがいているような、そんな会話。
「ふふ、初めての模擬戦でしたが楽しかったですよ」
「そりゃよかった。ボクもそろそろ参加してみようかな」
あ、とリェルがふと声を上げる。フィンスがそれに気がついて後ろを振り向くがリェルはクスリと笑って、
「気にしないで。―――ねえ、エル!」
「ン?」
フィンスを通りこして、エルセに向かって走り、何を話して笑った。それはとても心地よい笑顔で――だが、それ見つめながらフィンスは一人小さく呟いた。
「……偶然か、それとも否か。かな」
笑うリェルをまっすぐに見つめながら。真意の読み取れない言葉を放つ。誰にも聞かれないその呟きが、校舎に入る彼らの背中をなでて、過ぎ去っていった――。
とんでもないペースアップ。一話にどんだけ内容詰め込んでんだよ、というツッコミを自分で行いながら書きました。
8000字突破。わーい。じゃなくて、
新キャラ
リェル、ホリカ。色々含ませてる、現段階で『何かあるな』と思わせるのがリェル。朗らかなおねえさんキャラがホリカ。
シュトとリェルがキャラかぶってますが、とりあえず放置。今のところは特に問題ない、はずです。