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漆黒の魔に愛されて  作者: 亜瑠那
第一章 矛盾の少女
28/37

とある町の少女の部屋で

PV15000感謝です!

『みぃ~つけた!』

『アハハッ!楽しい時間の始まり~!』

『どうしようか』

『どうしてやろうか』

『どうしたらいいかな』


『キャハハハッ!!』


ぞわりぞわりと影が揺れる。部屋の中心でぼんやりとあたりを照らす火が揺れるたびに楽しそうな声が部屋に響く。

そのうち、影が自然に動くようになった。影の中から何かが飛び出してくる恐怖。


「何?なんなのよぉ……!」


その部屋の主たる少女はそういったありえない現象に震えながら泣いていた。

だが、影は当然答えない。ただ楽しげに影に潜み、少女の心を恐怖に包む。


「お母さん、お父さん……!なんで気づかないの!?」


そんな恐怖を隠そうという気持ちからか、少女は部屋の外へ向かって泣き叫ぶ。だが、それに答えるものはない。少女の姿を嘲笑うかのようにゆれる影があるのみ。


「っそうだ!」


少女は影におびえながらその部屋のドアへと走る。ドアノブへと少女が必死に手を伸ばす。


「開いてっ!!」


祈るように叫ばれた少女の声は届かず。少女の手がドアノブに触れる前に、少女の体に黒い影がまとわりついた。そして、その影は少女の体を無理やりに引き戻す。


「いやぁぁっ!!」


絶望からか、少女は叫ぶ。恥もなく少女はドアノブへと手を伸ばすが、それを影が許すわけがない。

少女の手がドアノブに届くことはなく、ずるずると部屋の中ほどへと戻される。


唯一の希望であるドアが目の前から離れていく光景は少女にどれほどの恐怖をもたらしたのか。


黒い影から開放された少女は真っ先に火のそばへと向かった。そして、それに縋りつくようにして近づくと震える手で火の台座をつかむ。


だが、部屋の中心に置かれていたそれを少女が手に取るころには部屋の状況はさらに悪化していた。


『君が、わるいんだよ』


暗い喜びを押し殺したような声が少女の背後から聞こえる。ハッとして少女が振り返ればわずかに白みがかった黒の髪の少年。


『貴女が、姫のことをいじめるから』


次は少女の右斜め後方から。腰まで伸びるストレート、同じような髪色の少女がいる。


『だから、ちょっと教えてあげに来たんだ』


右斜め後方から明るい声が。肩口で切りそろえられたショート、少女はにこりと笑った。


『ねぇ、アソボ?』


三つの人影が溶ける。靄のように漂う。


影による、恐怖の時間が始まる。


『アハハハハハハッ!!!』

『キャハハハッ!キャハハッ!』


黒い靄が部屋の中を縦横無尽に飛びまわる。その靄は空気のように軽く見えるが、靄は当たる物すべてをなぎ倒して飛ぶ。少女を中心に、少女を囲むかのように。


「いやあああああああっ!やあああああああっ!!!!」


少女は頭を抱え絶叫する。瞳は大きく開けられ、瞳孔は縮まっている。狂ったように叫ぶ少女を楽しそうに笑う靄に少女はさらに狂う。


『さあ始めよう、黒い遊戯パレード

『隣、後ろ、目の前、上!』

『ほらほら迫る、君の恐怖』


靄から発生した歌声は不可思議に部屋の中で反射し、膨張していく。

歌声が少女に迫り、包む。耳をふさいでも消えることはなく、そして聞こえなくなることもない声に少女は追い詰められていく。


右、左に視線を動かせば、ベッドに並べたぬいぐるみがニタリと笑っているように見える。

上に視線を向ければ天井が大きく歪んでいるように見える。

下を向けば、板張りの床が端から一枚ずつパキパキと音をたてて剥がれ落ちていく・・・・・・・・


「あぁぁ。あぁぁぁぁぁ……」


叫ぶ気力さえもなくしたのか、少女は虚ろな目で床を見つめ、震える手で必死に床を這わせる。その姿に、生気はなかった。


『……もう、おわり?』

『つまんない』

『人間って弱いね』


少女が虚ろに目を開き、生気をなくした体で地面にはいつくばっていると、いつのまにか黒い靄の舞は終わっていた。

少女らは一番最初に少女の前に姿を現したときと全く変わらない位置でつまらなそうに佇んでいた。


「ヒッ」


だが、少女にとってそれは恐怖の対象に他ならない。小さく悲鳴のようなものを上げて少女は小さく縮こまる。


ぐしゃぐしゃに破壊された部屋。


だが、それは今の少女にとってはただ視界にうつる景色でしかない。少女の頭にあるのは生命いのちの危機に対する恐れだけなのだから。


『まぁ、いいよね』

『殺っちゃう?』

『ううん、面倒だから魂抜いちゃおうよ』


少女の頭上で軽い声で交わされる言葉。それは少女の知る現実とは遠く離れていて、目の前で起こっている光景なのにどこか板の向こう側で起こっているように感じた。


『えぇ~、それこそ面倒だよ』

『っていうか、そこまでやったら姫様だけじゃなくて三柱様とか、もしかしたら王まで怒るかも……』

『そ、それはいや』


生気を失った少女は頭上の会話に耳を傾ける。そして、気力も残っていないからだがピクリと動いたのを感じた。


(そんな……、こいつらが恐怖を感じる存在って……!)


そう、少女をここまで追い詰めた三つの人影の声にはまぎれもない『恐怖』があった。それを敏感に感じ取った少女はその想像もつかない存在に打ち震えた。


『どうしよっか?』

『……もういいんじゃない?』

『選ばせてあげても?』


三つの人影は笑う。すっと円を描くように動き、少女の目の前には少年が立つ。

ぼんやりとした瞳で少女が見上げれば、少年はニタリと笑って――


『死、殺、虚……どれにする?』


囁いた。右手にはどろりとした液体の入ったビン、左手には黒く鈍く輝くナイフ、そしてその体からは途方もなく濃い靄を出しながら。


「……!」


少女が虚ろだった目を無理やりに開き、ふるふると首を横に振る。そのまま力が抜けたかのようにすぅっと後ろへと倒れこんだ。


無力だった。どれだけ逃げたいと思っても自分には決して勝てない、逃げられないことを悟った少女はあえてなのか、すべてを受け入れる。


ただ、後悔の念を滲ませながら。



『さよなら、人間』


少年が一声呟けば、体から放たれる濃靄が少女の上に布のように広がり、


『――虚』


そっと包みこむように覆いかぶさる。少女はそれをゆっくりとした時間で感じ取った。実際には数秒の出来事であったけれど。

目を開き、自分が自分として存在した最後の光景をこの目に焼き付けようと少女は最後まで見つめる。


部屋の中心から円形に広がった黒々とした農靄は少女めがけて舞い降り――


『ぁ……!』





霧散した。





『う、嘘……!』

『あ、ぁ……』

『なんで……!?』


ぐしゃぐしゃに破壊された部屋。だが、その一角に不自然に全く壊れていない本棚があった。

三つの人影はそこを凝視し、それぞれが恐怖をあらわに驚きの声をあげた。中でも、少女を農靄で覆おうとした少年は、小刻みに体を震えさせていた。



『で、お前ら。これは何のつもりだ?』


それは十五歳程度の少年。黒の髪を長く伸ばし、先のほうで結んだその姿は一見すると少女にも見える。そして、その黒は三つの人影とは比べ物にならないほど暗く、深い。


『いえ、あのっ……!』


肩口で髪を切りそろえた少女は震える声で言いかける。だが、その瞳に事情を聞く気はないことに気づいてしまったのだろう、口を動かしながらも声がでない。


『お前らは、姫の思いを考えたことはあるか』


淡々とした、怒りを押さえつけているかのような口調。


『あれだけの憎悪にさらされ、あれだけのことをされて、姫は何も思っていないと?平気だと?』


『ぃいえ……』


『そうだ、知っているはずだ。姫の思いも、辛さもすべて知っているはずだ。そうだろう?』


決して怒鳴り散らしてなどいないのに、その一見華奢に見える体からは平気でいることなどできない、押しつぶされそうな迫力が見える。


『姫は、こんなことは望んでいない。むしろ、嫌っている。……浅はかだったな』


最期に一言吐き捨てるようにして言うと、少年は本棚から飛び降りる。そのまま無造作に足を進め、近づいた。地面に這い蹲り、何も出来ずにただ見ていた少女へと。

三つの人影は近づかれるのも恐ろしいらしく、少年が一歩近づくと共に後ろへと下がっていた。


『こちらのものが、失礼をした。それはお詫びしよう。……だが』


少女をまっすぐに見据える瞳に鋭い光が灯る。少女がその光に息をとめるが、それにかまうことなく少年は続ける。


『次があると思うな』


少年の背後に見えた黒。人を価値あるものと認めていない冷たい瞳。

少女は思わず空気を求めて喘いでいた。


少年は近づいたときと同様に少女からは無造作に離れた。そのままに、いつの間にか少年から距離を取っていた三つの人影に目を向ける。


『ネロ様……』

『……』

『申し訳、ありま……』


ようやくなれたのか小さな声で口々に何かを言いかける彼女らをネロと呼ばれた少年は冷たく一瞥すると不意に掌を向ける。


『っ!』


その中の一人が何かを言う前に少年は行動を起こした。彼女らは全く前兆なく吹き飛ばされた。


物の散乱した部屋の中で派手に吹き飛ぶ三つの人影。ガラガラと音をたてて着地すると彼女らは痛みに顔を歪めながら体を起こす。


『愚かだな。そんな魔が人間の前に立つなど有り得ない。……もう、戻れ』


軽蔑の声を呟き、少年は小さく指を鳴らした。


ピィン、という澄んだ音色が不自然に響きわたる。


その音が消える前に三つの人影は黒い球体に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。


「あ、の……」


少女はようやく声を出す。少年はその声に首だけを回し少女にその先を促す。

少女はビクンと体を震わせたが、強ばった口をぎこちなく動かしやっとのことで一言告げた。


「ありがとう、ございました」


『貴様のためではない』


だが、その少女の言葉を少年は即答で否定する。


「え……?」


少女はその言葉が理解できずに驚いた顔で声を漏らす。少年はそんな少女の様子に軽くため息をつき、少女に背を向ける。


『今回は特例だ。本来ならば殺している。祈るがいい、二度と会わぬことを。次にあったときは――』





殺す。





無音の殺意が少女に突き刺さる。


少女が声にならない息を出すのと同時に少年は前触れもなく――




消えた。







それと同時に少女は周りが明るくなったのを感じた。ふと周りを見渡せば、破壊されつくされていたはずの家具はそんなことなどなかったかのようにごく普通に佇んでいる。


「本当に、なん、なのよ……」


少女はそんな普通に不気味さを感じて声をこぼす。だが、その言葉とは裏腹に少女は顔に引きつった笑みを浮かべていた。

少女は気づいていた。生き残った奇跡に。


「リエラ~?どうかした?」


部屋へと近づいてくる足音と、温かい母の声。

少女―リエラはやっと体中の力を抜いた。


「あら、どうしたの床に座り込んじゃって」


母はドアを、あれだけ開けたかったドアをあけるとひょいと顔を覗かせた。何も知らない母の顔に緩んだ笑みを浮かべると、リエラは聞いた。


「ねぇ、お母さん。変な音、しなかった?」


「えぇ?変な音?しなかったわよ~」


「だよ、ね」


あっさりとした返答にリエラは知らず顔を、体をこわばらせる。母はそんなリエラをどう勘違いしたのか、ポンッと背中を叩き言った。


「きっと怖い夢でも見たのね。そろそろ朝食よ、着替えたら降りてきなさい」


笑顔でそういうと母は部屋から出て行った。取り残されたリエラは呆然と固まった。

だが、首を何度も小刻みに横に振り、一人で誰へともなく呟いた。


「夢……?有り得ない。あれは、現実ほんとう


ふ、ふふ。


リエラは笑った。その瞳から一粒、光る雫を流しながら。


自分の体をぎゅっと抱きしめて。


話がぶっ飛びまくってます。

そして魔王の出番が少なすぎです。


そんな言い訳はおいておき、次回からはきっと魔王サイドに移ります。


後書きが長すぎると指摘をもらった(友達から)のでこれくらいで。


感想、星の評価お待ちしています!


六月二十九日 本文修正

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