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漆黒の魔に愛されて  作者: 亜瑠那
序章(後) 最後の涙
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十三歳、動き出す舞台

久しぶりの三人称です。

キンッと刃のぶつかる音が森の中に響く。


静かで穏やかな森に似合わない物騒な音を響かせるのは漆黒の髪を持つ少女とその仲間。そして敵対するは少女を倒さんと追ってきた帝国軍。


フィンラたちは善戦しているもののやはり五対三という状況に苦戦している。

そもそもがゴードンを除く二人がまだ子供なのだ。それに対し大人五人で互角と言うのは二人がどれだけ規格外なのかを物語っているだろう。


フィンラ、またはコルティスが一瞬でも魔法か魔術を繰る暇があれば状況は変わっていたのだろう。

だが、五対三という数の差によってそれができない。二人はそんな歯がゆさを感じながら戦いは膠着していった。


「むんっ!」


掛け声と共に等身大のハンマーを振り回すのはゴードンだ。筋肉の付いた体によって大きすぎるはずのハンマーは軽々と扱われ、敵の追撃を許さない。

ちなみにゴードンは二人の帝国軍兵士を相手にしている。本職相手にそれだけの活躍。一体昔は何をしていたものなのか、聞く時間ができたら聞こうと心に決めた二人だった。


「……ッ!」


それに対し無言で気合を放ち、次々と相手にかすり傷を負わせているのはフィンラだ。フィンラはコルティスと協力し、二人で三人を相手にしている。

ゴードンに比べればわずかに個々の負担は少ないものの、たいした違いはない。フィンラは相手の中に飛び込み、撹乱。その隙をついてコルティスが攻撃する、という方法がずっと続いているのだが、さすがは本職といったところか、致命的なダメージを与えることなく、ただ体力が減っていった。


魔法さえ繰る余裕がない。


その状況にフィンラは歯噛みしていた。魔術とは違い魔法はもはやフィンラにとっては意識せずとも発動できるほどに慣れている。だが、それには当然今どういう魔法を使うべきか、という一瞬の思案が必要となる。だが、今戦っている相手はその一瞬さえも与えてくれない。


ほんの一瞬でも気を抜けば、やられる。


そう思わせるほどの太刀筋だった。


「がっ!!」


戦いが始まり、初めて武器を浴びる鈍い打撃音とうめき声が聞こえた。その声に思わず全員が音のした方向を振り返る。そして、そこには――――。


「ウィードルっ!」


絶望的な声が一人の帝国軍兵士から放たれた。そう、攻撃され倒れたのは帝国軍側だったのだ。

それをやった当の本人はすぐに残りの一人に向かったものの、その動きは最初に比べると格段に鈍く、肩で息をしている。満身創痍といった様子で放たれた一撃はわずかなところではずれ、相手に反撃カウンターのチャンスを与えてしまう。


だが、フィンラたちにとっては今この状況が一番望んでいたものだった。


土束縛アース・バインド!」


コルティスの土属性の魔術、土束縛アース・バインド。その名の通り相手を束縛する効果がある。

地面から茶色い鎖が伸び上がり、男たちの体に巻きついた。


睡眠スリープ


それを見たフィンラは睡眠の魔法をかける。鎖を断ち切ろうと暴れていた男たちはあっさりと魔法にかかり、深い眠りに堕ちた。

それを確認すると二人はほっとため息をつき、警戒を緩めた。


「ふぅ……。フィンラ、さっきの魔法で周りを見てくれる?」


コルティスが呼びかけると、フィンラは頷くと、目に流す魔力量を増やした。

フィンラの視界が蒼く染まり、あたりの景色は変わる。


警戒心を大幅に上げながら注意深くフィンラは周囲を見渡したが、幸い動くものはいなかった。

だが――――


潜伏ハイドだね」


先ほど奇襲を受けたフィンラは周囲の様子を見切っていた。そう、動くものこそいないが周囲は十二人程度の集団に囲まれているのだ。


「やっぱりか……」


諦めを含んだ口調でコルティスが軽くため息をつく。そもそもがおかしかったのだ。つい先ほどの奇襲はどう考えても時間的に無理があった。だが、相手が潜伏ハイドしていたというのならば頷ける。


『この人数相手に逃げ切るのは?』


フィンラが念話を使い、頭に直接問いかけてきた。コルティスは首を振ることでそれに答える。


不可能だ。


先ほどの五人でも逃げ切れなかったのだ。その倍以上の相手に逃げなど通用するわけがない。

精々が回り込まれて今より状況を悪くするのがオチだ。


「さて、それじゃあ本領発揮と行きますか?」


「ですねー」


少しばかり気の抜けた会話をあえて口にだす。それにようやく気づいたのだろう、ばらばらと人影が迫ってくる。


「遅いんだよ」


不敵な笑みを隠そうともせずフィンラはぽそりと言った。


点尾ホーミング点尾ホーミング点尾ホーミング


三度詠唱をすると、同時に迫りくる男たちの足元に光の輪が現れた。男たちが動いて振り切ろうとするも光の輪は男たちの足元について離れない。


だが、さすがは精鋭というべきか彼らは決してフィンラに迫る足を緩めなかった。

そして、一人の男の刃がフィンラの胸に届く、その時。






轟っというすさまじい音と共に男の体を炎が包んだ。






そして、炎が消えた瞬間周りの男たちは目を見張った。男が消えていたからだ。まるで今まで存在していなかったかのようにあっさりと消えた男。周りの男たちは驚愕に目をみはり、動きが止まった。


「う、うわあああああああああっ!!!!」


一体誰の叫び声だったのか、一人の叫び声が聞こえると共に我先にとほとんどの男は武器をその場に投げ捨て、逃げた。何かに追われているかのように猛烈な勢いでプライドも何もすべて捨て去り、ただ逃げた。




「使えないなぁ」


だが、そんな彼らの中でも逃げ出さなかった者も何人かはいた。それは腰がぬけそれでも剣を構えている者がほとんどだった。


その中で、一人、否、二人。平然とした顔で剣を構える男と剣を持っていない男。


周りの状況に『使えない』という判断を下した剣士は一人悠然と剣を構えた。


『フィンラ、気をつけろ。あいつはレベルが違うっ!』


コルティスが緊迫に満ちた声でそう警告した。だが、フィンラはその声を聞く余裕すらなかった。

ゆったりとした笑みでフィンラを見つめる男、おそらく魔術師。


だが、その体から放たれる魔力は人のそれを超えていた。


『こいつら、他のとは比べ物にならない……』


思わずコルティスにフィンラはそうもらしてた。一対一でも戦って勝てるかどうか。それだけの強さを相手の魔術師に感じていた。そして、コルティスにもまた相手の剣士に半端ではない殺気とそれに伴う実力がひしひしと伝わってきていた。


「「さて、始めようか」」


二人の実力者イレギュラーから放たれた言葉にゾッとした瞬間、それぞれの体が目の前に迫っていた。





****************************



一方のセレスティーナ達は相手にたいした腕利きはいないものの、数の差に押され始めていた。


「……あぁ、くそっ!」


後方で魔術攻撃と支援を同時に行っているセレスティーナはそう吐き捨てた。

どんなに倒しても減らないのだ、数が。

もちろん一人ひとりに対する攻撃は通用しているし、当たった相手は戦線離脱せざるを得ないほどの傷を与えている。だが、いかんせん数が多すぎるのだ。

それに加え、今回の戦いでは相手側に絶対に死者を出さないことが重要となっている。

せめて、死者を出していいのならもう少しやりようはあるのだが。


土の棘アース・ソーンっ!」


そんなセレスティーナから数十メートル離れたところではリェコンがやけくそ気味に土の魔術や土による魔法を放っている。

今もまた、リェコンの詠唱によって放たれた攻撃が敵陣へと突入する。リェコンのサポートも初期のようなお茶らけたサポートではなく、相手に確実に重症を負わせることのできるサポートへと変わっている。


と、そんなリェコンの元へ多くの攻撃を振り切り突入してきた一人の兵士がいた。


「貴様ぁ、なめやがって!!」


そう叫びながら一直線に駆けてくる。どうやら初期のリェコンのサポートが気に喰わなかったらしい。それも当然ではあるが。リェコンは相手をいらだたせるようなサポートばかり行っていたのだから。


リェコンはそんな男に黙って手を向ける。


「もがぁっ!」


不思議な声を上げながら吹っ飛ぶ男の口には大量の土。リェコンは土の魔。すなわちこの場にある土すべてを操れるといっても過言ではないのだ。


「さて、そろそろ本気出すかなぁ」


リェコンはそういい小さく笑った。そしてその瞬間―――――






「うわああああああああああああっ!!!!」






敵陣から絶叫が響く。突然足場が崩れたのだ、彼らにとっては驚き以外のなんでもないだろう。

そう、リェコンは自らの土の魔としての特性を生かし、敵の足場のみを崩壊させた。しかしもちろん、実際に崩壊するのは難しい。なぜなら地面の土というのは土属性だけでなく地属性も掌っているのだから。


ならばなぜ帝国軍は地面が崩壊したと感じたのか。


リェコンは土属性の魔として最も簡単な手を使ったのだ。すなわち、地面に含まれる土の減少という手を。


『リェコンさん……そんなにいい手があるならなぜ最初から使わなかったのです?』


セレスティーナは遠くから念話を使い、リェコンに呆れを交えてそういった。

だが、リェコンはその念話を無理やり断ち切る。その行動に驚愕したのだろう、セレスティーナが直接リェコンを見つめた。

だが、リェコンはセレスティーナを見ていなかった。その目は、






フィンラたちが去った森の方角へと向けられていた。






セレスティーナもリェコンの視線の先にあるものに気づいたのだろう、はっとしたように息を呑むと走りだしそうになっていた。


『待て』


だが、リェコンの声がそれを許さない。一方的に念話をつなぎなおし、セレスティーナの行動を阻むように長く壁を作り上げる。その腕前は土の魔としても相当な腕前だった。


『でもっ!』


顔に焦りをあらわにしセレスティーナは単身で突破しようとする。


『今ここで放り出したらカーセルはどうなる?』


静かな、厳かとも言っていいような声がリェコンから聞こえる。その声はいつものリェコンと変わらないはずなのに、どこか畏敬の念に打たれるような、そんな感触を覚える。


そんなリェコンの説得にセレスティーナはうなだれる。


『……わかったわ』


しぶしぶ、あきらめきれないといった様子ではあったがセレスティーナは了承した。リェコンは頷くと瞬く間に壁を消した。その腕前に内心舌を巻きながらセレスティーナは戦況を確認した。


そして、信じられない光景を目にした。





「っ……カーセルッ!!!!」


セレスティーナの悲鳴が、戦場に響き渡った。


そして、そんな彼女をリェコンはただ黙って、冷酷に





視ていた―――――。





帝国軍側、死者数0、重軽傷者数50000。

魔王側生存者、魔王1、人間3、魔1、ハーフ1。


少しずつ、舞台は動き始めた……。

三人称です。なかなか久しぶりなものでうまく書けたか不安です。


今回は要領少し短めでの投稿です。

内訳的にフィンラ側が多すぎる気がしなくもありませんが、次回はセレスティーナ側中心なのでそちらで均等がとれるかと。


少し微妙なところで終わってしまいましたが、次回あたり急展開……できたらいいなぁ。

キャラの口調が少し変わっているのは仕様です。戦闘中なので皆さん真剣なんです。


読んでいただけたら感想など、いただけると嬉しいです。


五月二十二日 魔法に関する語彙等を修正


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