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漆黒の魔に愛されて  作者: 亜瑠那
序章(後) 最後の涙
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十三歳の春の深夜に始まる『終わり』

それは、何の前触れもなく突然やってきた。


その日の前日の夜、寝る前に私はいつも・・・どおりの日々をすごし、いつも・・・どおり布団に入り、いつも・・・どおり、『いつも』が続くことを祈って眠りに落ちたはずだった。


だが、そんな私を目覚めさせたのはけたたましい警戒音。


初めて聴くその音に私は真っ先に飛び起き、そして事態を悟った。


――――――あぁ、ついに恐れていたときが来たのだ



だが、一度悟ってしまえばそのあと私が取るべき行動は単純明快で以前からずっと決めてあった。

私は一瞬で着替えを終え、黒マントをその身に羽織った。そして高速で武器庫へと向かうと私の武器を手に取り、身につける。ここまでの作業を一分も掛からず終わらせると私は即座に両親と合流するため動き出した。


探知サーチを使うまでもなく二人とは合流できた。


そして現在の状態を知る。


ガンガイル帝国軍はついに時の止まった世界クロック・ワールドに干渉することに成功した。

今のところ集まっているのは五万の軍。とりあえずその全軍をここへと突撃させんがために着々と準備を整えているところだ。手に入った情報では完全突撃はおそらく午前四時程度。包囲網を縮めつつ突撃をする作戦らしい。目標は私、魔王の討伐。


今は午前二時四十七分。完全突撃まで多く見積もっても残り一時間ちょっと。……時間が足りない。


「つまるところこれから一時間の間に何をすべきかってことよね?」


「あぁ、今のところリェコン殿がこの世界への干渉を妨げるために色々と工作をしているようだが……」


聴いた私に祖父は苦々しい表情で返答した。あまり効果は期待できなさそうだな。

となると、村の人々をどこへ逃がすかだけど。


「ここから四千リセルメートル程度はなれていれば無関係で済むと思うからそっちは気にしなくていいかな。一番大きいところは四千リセルメートル以上離れてるし気にしなくてよし。それに、それだけ離れていれば時の止まった世界クロック・ワールドにも入らないしね。問題は……」


ぎゅっと眉を寄せて言葉を濁すと、私の言葉を感じ取ったのか祖母がその続きを言った。


「私たちと関係が深かった、ゴードンさん、コルティス君、リェコンさんあたりね」


そのとおりなのだ。そもそも家々が隣り合っていないため対して関係を持っている人がいないのが幸いした、というよりはそういうように過ごして来た。

だが、それは逆に言ってしまうと関係が深い人は深くなってしまうということだ。


「私たちを知っているリェコンさんとコルティスはまぁいいとして、ゴードンさんは……?」


唯一心配な人間、それがゴードンだ。郵便屋として私たち家族に親しく接してくれたある意味唯一の人間。彼を巻き込むわけにはいかない。


「そうね……。彼に連絡してみましょうか」


祖母はそういうと『風の便り』を使い、手短に現在の状況を知らせた。

そして、数分も待たないうちに連絡が来た。


それは、私たちにとって何よりも大きなことを物語っていた。


「っ――!」




『俺は貴方たちのことを知っていた。けれど離れなかった。今さら俺だけ助かるなんて虫が良すぎますぜ、オクレル夫人。俺も、フィンラちゃんを守るために働かせてもらいますぜ』


彼らしい、豪快な筆跡で描かれたその文字。


私たちはそれに、何よりも大きな衝撃を受けた。


「何故、彼が……?」


知らせた当人である祖母が衝撃に目を見開きそう呟いた。

それは私たちも同じだった。私の脳裏に今まで話した彼との会話が思い出される。

豪快な笑みで笑う彼の姿はそんな闇は何一つ持っておらず、純粋な光のみを連想させた。


「私を、守る……?」


最後の一文に私は目を留め、思わずそう呟いていた。馬鹿らしい、そう思えればよかったのだ。何もわかっていない人間の自己満足だ、と。だが、私は今までの彼との付き合いで、彼がそういった冗談は決して言わない人間だということを知っていた、否、知ってしまっていた。だからこそ否定できなかった。


「ばっかじゃないの……?」


震える声でそう呟けば、頬に雫が流れる。知らず知らずのうちに涙がこぼれていた。

何も知らないと思っていた、だから私も純粋なフィンラとして接した。そして彼はそんな私を見て、言ってくれたのだ。


守る、と―――。


それはきっと彼の本心。だからこそ、無下にできない。だからこそ、



哀しい。



「本当に馬鹿みたいだね。だけど、今は……」


ポトリ、と風の便りの中に宿った文字に涙がたれる。にじんでぼやけてしまっても、その中にある思いは消えない。――――だから、私もその思いに応えよう。


「嬉しいよ」


見えるはずのない相手に向けて、涙に濡れた最高の笑顔を向けた。


「あぁ、彼の選んだ道に我々が反対することは、できない」


祖父が私の肩に優しく手を置いた。私はそれに微笑みで応えると一度目を閉じた。



生まれてから一番親しかった人間だった。多くのことでお世話になった。今まで見てきた彼の姿を思い出し、それを脳裏に刻み付けた。ぎゅっと唇を引き、心に刻み付ける。


―――――そして、漆黒の瞳を開ける。



その瞳に迷いはなかった。


「時間をずいぶん無駄にしちゃった。早く決めよう。リェコンさん以外にここに集まるように連絡して一度作戦を決めましょう」


私がそう祖父母に呼びかけると、その反応は意外なところからあった。


「その必要はないよ、フィンラ」


「もういるからよ!」


聴きなれた少年の声と豪快な男の声。

後ろから聞こえたその二つの声にはっと振り向けば、そこには優しげな微笑を浮かべたコルティスとニカリと笑うゴードンがいた。


「時間を無駄にはできないんだろう?……正直この人がいるのは予想外だったけど、それは僕らにとってプラスの方向にしか働かない、そうだろう?」


大人びた口調でそういうコルティスに私は小さく首を縦に振った。

小さくうつむくと、長く伸ばした黒髪が私の表情を隠した。今はそれが有り難かった。胸からこみ上げる感情に心が揺さぶられ、視界がぼやける。


こんな表情かお、見せられない。


「さぁ、そうと決まったらお邪魔しますぜ!ちゃっちゃと決めちゃいましょう!」


いつもどおりの豪快な様子で家の中に上がりこむゴードンにコルティスが少し呆れたようにため息をついているのがわかった。彼らはいつも・・・どおりなのだ。いつもどおりでないのは―――私だけだった。


こみ上げてきた悲しみを首を振って忘れながら私は席に着いた。



「じゃあ、作戦を話すわね」


そういって口火を切ったのは祖母だった。引退以前も作戦指導役をしていた祖母のことだ、きっといい作戦を考えてくれるに違いないと思い、私は静かにその言葉を待った。


「一言で言ってしまうと、二手に分かれて逃げる、よ」


「二手に……?」


告げられたあまりにもあっけからんとした作戦に思わず呟きがもれる。

そんな私の様子とは裏腹に周りの人々は納得した様子で首を縦に振っている。


「詳しく説明するわ。今一番の優先課題は本来追われているフィンラを逃がすこと。そしてその間、他の人が軍を引き止める。安全地帯に逃げられたことが確認され次第引止め役は逃げて、フィンラたちと合流する。そして、リェコンさんに了解が取れたならばこの時の止まった世界クロック・ワールドを破壊する」


「ちょ、ちょっと待って!」


その作戦に私は思わず異議を唱えていた。


「それじゃ、私はどうするのっ!?」


「だから、逃げるのよ」


真剣な表情で言われたその言葉に一瞬気落とされる私は食い下がった。


「この中で魔と武両方あわせれば一番強いのは私でしょう?!なんで私が戦わないの!?」


「貴女が強いのは個対個でしょう!」


鋭く叫ばれたそれに私は息を止める。確かにその通りだ。私は今まで多対個なんてやったことがないのだから確かに強くないかもしれない。だが、それは祖母が知っている範囲では、ということだ。


「そうかもしれないけど、私だって今まで一人で修行してたんだから、大量殲滅魔術なら扱える!私一人で残って使えばっ!」


必死で食い下がって私はそう叫んだ。事実、私の生み出した世界では最近新しい魔術の開発と殲滅魔術の練習をしていた。いくつもの練習を積んだ事で今では制御も可能だ。そのうえ、この世界を破壊するための術式も完成している。


「少しは考えろっ!」


叱責の声は意図していたところとは別のところから聞こえた。


「コルティス……?」


「お前はこれから『魔王』の枠を出て、未来の愛されし子が同じ目にあわないようにするんだろう?!今お前が大量殲滅術式で一人でも殺してみろ!お前の目的は決して達成できなくなる」


普段から冷静なコルティスが、声を荒げて怒鳴り、すさまじい剣幕で私をにらみつけた。


「そっ、それはそうだけど……」


コルティスの言っていることに間違いはなかった。その通りだとわかっていた。けれど、それを認めることは絶対にできなかった。叶わない夢ならそれでいい。




『守りたい』と、そう願ったのだから。




叶わないかもしれない夢のために捨てていいものではなかった。

私にとって、守れる力があるのに、守らないというのは五年前に思った決意と矛盾する。



「異論は認めないわ、フィンラ。ここにいる誰もが貴女のためにいる。それを無碍にするようなことは止めて頂戴」


静かな声で告げられたそれは宣告。

知らず知らずのうちに立ち上がっていた私はゆっくりとうつむき、腰を下ろした。


「……わかった」


小さくそう呟くとその場の誰もがほっとしたように息をついた。まるでそれまで息を止めていたかのように。


「二手に別れるとは言ったものの、その構成はどうするんだ?」


祖父がもはや過去の会話には意味がないという様子で祖母に聞いた。

祖母もさすがの頭の切り替えで静かに目を閉じたが、すぐに開けた。


「そうですね……フィンラについていくほうがゴードンさん、コルティス君で。リェコンさんと私たちは残って引き止めましょう」


「そうだな」


自分たちが死ぬかもしれないという作戦を平然と言う祖母に、祖父も平然と冷静に頷いた。



―――――嫌だと、いいたかった。一緒に逃げようといいたかった。



けれど、それはいえなかった。二人が静かに私を見つめていたのと、その決意に満ちた瞳を。






止めることは、できなかった。






運命のときまで残り三十分。


多くの思いを抱えた中で、始まるそれは―――――。



十三歳の春です。

文中にはそれを示す言葉がないですが、題名から読み取りをどうぞよろしくお願いいたします。


中途半端なところで終わってしまって申し訳ありません。

話のきり方に困り、このようなことになりました。


最近は魔法ではなく魔術のほうを練習している模様です。

魔法はなかなか使い勝手がわからず混乱してきております。


探知サーチとか身体強化とかってどっちに入るんだろう?と悩んでいたり(おい


設定が甘い部分もあるため、あれ?と思ったところがあれば是非教えてください。

よろしくお願いします。


感想批評など、お待ちしております。


三月十六日 ルビにおかしいところがあるとご指摘をいただいたため修正。

五月二十二日 魔法に関する語彙等を修正

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