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漆黒の魔に愛されて  作者: 亜瑠那
序章(前) 温かき日々
11/37

十一歳、岩穴の中で聴く声は

途中にある歴史の話はほぼ読まなくても問題ないです。飛ばしたい方はどうぞ。


「まぁ、入りなよ」


そう促されて二人はログハウスの中に入った。のだが。




「今度は何にはまったんですか、リェコンさん?」


呆れた顔でフィンラが見つめるのは、岩壁と焚き火。名を呼ばれた男―リェコンは悪びれる風もなく笑うと何のためらいもなく言い切った。


「そんなの、決まってるだろう?」


小さな子供のようにニンマリと笑うとリェコンはごつごつとした岩の地面に座り込む。ふぅっとフィンラとコルティスは二人そろってため息をつくとリェコンにならって床へと腰を下ろした。


「洞窟野宿さ!」


「……そうですか」


ログハウスの中にある洞窟。一見すればあまりにも矛盾しすぎた光景だが、フィンラとコルティスの顔には呆れと落ち込みがあるだけで、戸惑いはなかった。それもそのはず、二人は週に三回この場所を訪れているのだが、くるたびにログハウスの中の空間が変わっているのだ。最初のころこそ驚きと好奇心があったものの、三年間も訪れるとリェコンの尽きることなき好奇心にただただ呆れるばかりだった。


「そもそもねぇ、洞窟って言うのはロマンの塊のようなものだと思うんだ。暗がりの中に光る何か!不可思議な音!そして闇が視界を覆うその瞬間に訪れる心の煌き!それこそが未知の神髄じゃないか?なぜなら――」


一人で語りだすのは完璧にうっとりとした表情のリェコン。そのあまりにも見慣れた光景に飽き飽きしてきたフィンラは周りを観察することで暇をつぶした。


「ま、そんなことは置いといてだよ」


本当にどうでもよさそうに話を聞いていた―ように見せかけて聞いていなかったフィンラとコルティスだったが、その言葉に真剣さを取り戻す。思わずバッと顔を上げた二人にリェコンは悲しそうに下を向いた。


「できれば僕の話もそんな風に聞いてくれると嬉しいんだけど……」


「そんなどうでもいいことは置いといて、今日は何を話してくれるんですか?」


最高の笑顔でリェコンの言葉を切り捨てて問うフィンラにコルティスは後ろで思わず苦笑。リェコンは後ろを向いていじいじと何か言っていたが無視される。


「さて、前回話したのはどこだったかな?」


さらりと突然前を向き聞きだした彼の目は確かに教師の目――――。思わず二人が(変わり身早っ!)と思ってしまったのも無理がないほどの変わりようだった。


「えぇと、魔法が生まれたところまでだったと思いますけど」


「そう、それだ!そして君が言ったとおり魔術・・ではなく魔法・・だ。今日は魔術まで話せるといいんだがな。魔法と魔術ではすこしばかり仕組みが違うのでね。人間たちはあまり気にしないようだが」


生き生きとした表情で語るリェコンに二人は次第に引き込まれていく。そしてリェコンは語りだす。小さな岩穴に響くテノールの声に二人は目を閉じ、静かに耳を傾けた―――。







――――其れは昔。

魔の始祖たる大いなる魔、スティーベルの生きし時代。

人間が生まれ、知恵をもち、やがて世界へと出て行き魔と出会い。

そうしてその中で人間たちは魔の力を知った。

そして共存する方法を考えた。そして編み出した。


魔法―――。


初期の其れは大きく魔力を喰うなんとも不便で危ういものだったという。

だからこそだろう、進化は続いた。人間たちは次々と新しき魔法を生み出し、それらを広めていった。

だが、それには『魔』という協力者の存在が不可欠だったのだ。

その均衡が崩れたのはいつだったのか、ある日一人の人間が『魔』の力の正体を知った。

『魔』達は焦った。

しかし実際には『魔』と共に行う魔法のほうが強く根付いており其れは広まることはなかった。

だが、その一人の人間は正体の研究をやめることはなかった。

そして突き詰め死ぬ間際、ついに見つけたのだ。『魔法』の正体を。


魔法術式


そう名づけられ世に広められた一冊の魔術書・・・は大きく人間と『魔』の関係を崩した。

もちろん魔術と魔法では比べ物にならないほどの差があった。

必要時間、使用者の魔力、前兆……。

しかし魔術は次々と変化していき、少しずつ魔法との差を埋めていったのだ。

唯一埋まらないものがあった。それは使用者の魔力だった。

人間たちはだんだんと『魔』に対し、嫉妬、嫌悪、恐怖を抱くようになった。

それと同じように『魔』達もまた人間に対し、忌避感を抱くようになっていた。

自然と二つの種族はわかれ、前者は世界を開拓し、後者は自然と溶け合うようになった。

以来、少しずつ二つの種族は相手を忘れていった。すべての者が忘れたのはもう二つの種族が別れてからもう何百年もたったときだった。人間は『魔』を認識できなくなり、『魔』は人間の存在を忘れていった。

本来なればそれですべては終わるはずだったのだ。

だが――――。


事件が起きた。

一人の人間と、魔が出会い、そして恋に落ちた――――。

それがきっかけで二つの種族は相手のことを知った。

相手のことを忘れあっていた二つの種族はまるで始めて出会ったときのように交流を始めた。

そしてちらほらと、また魔法が生まれ始めた。

過去が、再来されようとしていた。嘆くべき過去。それを知るものは誰一人としていなかったが。

そして、ついに見つかってしまった。


魔法術式の本が。


人間達は沸いた。そして、『魔』たちも沸いた。過去に交流があったことを知り喜んだ。

そして二つの種族は友となり、互いに相手を認め合いそして多くの思いを生んだ。

だが、それは一つのヒビとなった。ヒビの入ったガラスはもろい。

少し叩かれれば―――――。


すべてが壊れる


そんな危うい状態が続いた。

そしておきてしまった、小さな小さな一つの事件ハンマー

ガラスは割れた。すべては壊れた。



ハジマッタノハナニ?




「と、まぁなるわけだが」


静かにその語りに耳を傾けていた二人は不意に聞こえた普通の声におもわずかくっとよろける。


「いや、そこいいところじゃないの?」


「いやいや、歴史だからさ。結構推測とか多いしあんまりこれ以上詳しくやっても意味ないかな?って思ってさ。どちらかというと僕的にはそろそろ魔術と魔法について話したいころだし」


けろっとして言うその声は先ほどまで聞こえていた語り部の声とは思えずフィンラは呆れた。


「それにこのあとは魔戦争とかあって長いし、そろそろ歴史は終わろうかなぁ、って思ってるんだけどフィンラちゃん的にはどう?」


「ん~、終わったら何やるんですか?」


「あぁ、そろそろ本題に入ろうかと思ってるんだけど。まぁつまり世界と君のことだね」


「あっ……」


おもわず声を漏らしたフィンラ。そう、実はフィンラは今までなぜ彼の話を聞きたいと思ったのか、そもそも最初は何を聞きに来たのかをリェコンの語りに引き込まれすっかり忘れていたのだった。


「……忘れてたなんて、言う?」


「……」


無言で首を縦に振る。そして微妙に遠慮がちに聞いてきたリェコンに小さな闇の光で狙いを定める。もちろんただの照れ隠しだが、おびえた様子でぶんぶんと首を横に振るリェコンに小さくため息をつくとフィンラはそれを消した。それを見たコルティスは苦笑すると小さくリェコンに呟いた。


「あんまり刺激しないほうがいいと思うな……」


それを聞いてさらにおびえた様子のリェコンがぎこちない笑みを浮かべてフィンラに聞いた。


「う、うん。まぁ結局どうするの?」


「そうですね。やっぱりそろそろ入りたいです」


淡々と冷静にそう答えると、リェコンは驚くべき変わり身の速さで大きくうなずいた。それはもう、きらきらとした目で。


「よしわかった。じゃあまず、世界について説明しようか






ここはね、時の止まった世界クロック・ワールド。この世界の外の名前は……ないね。どちらかというと大陸に名前がついてる感じだ。外の世界には大陸が四つ。島々が無数にあるって感じかな。大陸の名前はユフォーゲル大陸、サンライト大陸、ミョニール大陸、ゲルイオン大陸の四つ。この世界が在るのはユフォーゲル大陸だね。その中にも色々と国があったりしてごたごたがあるんだけど、まぁそれはいいや。

今一番魔術が発展してるのがエクシール聖市国。この世界があるセレモニカ王国のすぐ隣だね。歩いて数分くらいしかかからないと思うよ。で、君が一番警戒しなきゃいけない国が、『ガンガイル帝国』だよ。魔王探しに躍起になってる国で他の国の干渉を許さないほどの軍事力と権力が在るんだ。幸いここは僕があまり干渉を許してないから見つかってないけどね。まぁ、君にはユフォーゲル大陸にある大国だけ覚えてもらえればそれでいいや。

 まずセレモニカ王国。民主主義の平和な国だよ。僕はこの国が一番好きだね。王様も平和主義だし他国との戦争はできる限り避ける。黒髪でうろつくのはお勧めしないけど、うん、いい所だね。

 次、聖アルティカーナ連合国。周辺の小国が集まってできたほやほやの国だね。聖ってついてるところから予想できると思うけど『光』を最大の神として仰ぐ、まぁ一種の宗教国家だね。君はできる限り行かないほうがいいと思うね、僕は。

 三番目、エクシール聖市国。魔術がすごく発展してる、ちょっと小さめの国だね。でも魔術師の質はいいから魔術を知りたいならこの国に行くといいかもね。たいして魔王に偏見はないし。あんまりいい顔もされないかもしれないけど。

 四番目、ミンティーナ共和国。この国はうぅ~ん、大して特徴がないね。しいて言うなら闇魔法が大して気にされないから黒髪でも大丈夫かもってところかな。黒っぽい髪の人多いし。

 五番目、レングリアル邪国。絶対行かないほうがいいよ。99%死ぬから。なんであそこが国なのかわからないね、僕には。魔族の国。死ぬから絶対行かないで。

こんなものかな。あとの小国はまぁ自分で必要があったら覚えてよ」


「まる投げですね、リェコンさん」


長い説明を終え、最後の言葉に少し感じるものがあったのかフィンラは呆れたように言った。その言葉に苦笑いしてリェコンは言った。


「いやぁ、僕自身そんなに詳しいわけじゃないしね。どちらかというと僕は時の止まった世界クロック・ワールドのほうのつなぎ役だからね。あんまり外の世界には興味ないんだ。と、まぁ世界についてはこんなものでいいだろう」


「もう終わりですか?」


フィンラは驚き目を見開く。歴史の話だけで二年も使ったのだから世界もそのくらいの時間はかかるのではないかと思っていたのだ。しかしリェコンはどこか不敵な笑みを浮かべて縦に首を振った。


「あぁ、世界っていうのは見てみないとわからないものだしね?……それに僕としても漆黒の魔達のほうを優先して説明したいし」


途中で笑みを消し、真剣な表情でそう言った。リェコンは普段はへらへらと好奇心満載な男ではあるが、ふとこのような真剣な表情になるときがある。その時は必ず何かあるのだ、ということを二年の付き合いで知ったフィンラも自然と真剣な表情になる。


「漆黒の、魔」


「そう、君を君にした唯一の要因。……聞きたい?」


すぐに答えようとしてフィンラは一瞬躊躇った。そして時計を取り出すとその時刻を見て驚いた。


「やばっ!そろそろ帰らないと術式の論理の勉強が夕飯までに終わらない!……リェコンさん、その話どれくらいで終わります?」


恐る恐る、といった様子でフィンラが聞くと、リェコンは少し悩むように首をかしげた。


「う~ん、十分あれば大体は話し終えられるかも。細かい話は今度でもいいけど、ね?」


フィンラはそのあとに続く言葉を容易に想像することができた。大体は今話さなきゃダメなんだ。と。

十分、それくらいの時間なら少し加速して飛べば簡単に稼げる。そう判断したフィンラはリェコンのほうへ向いた。


「お願いします」


「うん、それじゃあ。



漆黒の魔っていうのは闇属性をもつ魔だって言うのは知ってるね?漆黒の魔の王って言うのはすごく気まぐれでね、普通の魔には想像もできないことをいとも簡単にやってのけたりする。かと思えば低級の魔にもできることを失敗したりもする。そういう不思議な魔なんだ。彼女―あ、王は今女性の形だから。

 彼女は人の子を愛するのが他の王に比べて多くてね。普通は数百年に一回あればいいほう、ってくらいなんだけど。王はとにかく愛するに値する人間に出会うとすぐに契約を交わしてしまうんだ。あ、別にだからといって愛した人間に対して愛情を持ってなかったとかじゃないよ?彼女は毎回契約者が死ぬたびに苦しんでるんだから。苦しんで、嘆いて、また新たな契約者を見つけて。その繰り返しだよ。彼女の心には今まで契約して死んでいった契約者達のことが今でも残っている。それは確かな事実だよ。

 彼女は多分君が赤ん坊のときに一度だけ姿を現しているはずだ。そして今は見守っている……」


不意に、語尾をぼやかしてどこか切なげな表情をしたリェコンにフィンラは小さく呼びかける。


「リェコン、さん……?」


「ん、あぁ。僕が今日君に知っておいてほしいのはね」


言葉を切ると、リェコンはまるで深い悲しみに耐えているかのように顔を歪めた。そして、震える声で先を告げた。


「彼女もまた、少女なのだよ、ということ」


くるり、とリェコンは後ろを向いた。肩が、小さく震えていた。あんなに生き生きとしていたリェコンは今、小さく震えていた。そのただならぬ様子にフィンラはおもわず息を呑む。始めて見るリェコンの異様な姿に声が出なかった。


「……すまない、もう今日は帰って大丈夫だ」


後ろを向いたままリェコンは二人にそういった。一人にしてほしい、そんなリェコンの声が聞こえたような気がしてフィンラは自然と立ち上がっていた。


「また、来ますね」


そう声をかけて岩穴から出た。最後に聞いたのは、嗚咽を漏らすリェコンの声だった――――。






二人は無言で昼に待ち合わせた場所へと向かった。コルティスも初めてだった。父親のあのような姿を見るのは。あの声に含まれていたのは、紛れもない悲しみと嘆き。

長かった。行きにあれほどすぐに感じたその道がまるで何キロもの長さに延びたようだった。坂道を上る。そして二人は来たときであった場所へと戻った。


「じゃあね、フィンラ」


「うん、バイバイ」


言葉少なに別れを告げると二人はそれぞれ別の方向へと歩き出す。

コルティスの姿が見えなくなるとフィンラは自らに加速と飛行の魔法をかけ、飛んだ。リェコンの話は十分もなかった。普通に歩いて帰っても充分間に合うはずだっただった。だが、フィンラは飛んだ。低く低く全速力で。途中でウサギを掠めた。遠くに人が見えた。

だが人に見られてもかまわない、と思った。今はただ逃れたかった。この身にまとわりつく何かから。



最後に聞いたリェコンの声が、まだ耳に残っていた―――。



ぶっちぎりで長いです、すみません。


完璧に説明回です。色々と説明しようと思ったらこうなった。

前半コメディ後半ちょいシリアスですかね。途中の歴史はまぁ魔と人間は色々あったんだよ的なことが伝われば問題ないです。


世界の国の名前はぼんやりと。


リェコンさんはどう考えてもフィンラちゃんにいじめられてますね。ちょっと書いてみたかったこんなキャラ。十一歳編まだまだ続きます。序章がまだ終わらないですが、本編の内容は大体決まりました。


最後のほうの意味深な言葉は序章の終わりらへんで明かせるかと。


今度からは一週間に一度更新を目指します。


感想批評誤字脱字等々、何でもお待ちしております!


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