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神前迷と帰り道

少し長くなってしまったかも^^;

「はぁー」


下校途中、深いため息をつかずにはいられなかった

高校2年生になり、文月高校では速い段階で生徒を文系か理系かに分ける作業が始まっていた。

1年生の時のように文系の生徒も等しく数学を習わされ、理系の生徒は古典を習わされるようなほとんどの生徒にとって非効率的な授業設計ではなくなったものの、理系と文系では授業の終わる時間が違い、以前に比べて下校風景は閑散としたものになった。

比較的に理系の友達が多い文系の俺はクラスの中に元々できていた一年の頃の仲良しグループに途中から割り込む様に入るのもなんだかなぁと思い、かといって新しい友達を作ろうとあくせくするのも性に合わないとかいう怠惰極まりない理由もあり、2年生になってからは専ら一人で下校するのが当たり前の日常を送っていた。

それは4月15日のように午前中で授業が終わろうが、どれだけ授業が長引こうが変わりはしないのだが、今日は少し違っていた。


幼馴染の神前迷かんざきまよいと出くわしたからだ。

「あー。ため息一回つくと幸せが十個逃げちゃうんだよー」



神前迷はおどけたように笑う。

どうやら幸せの数え方は「個」単位らしい。

高校になっても一度も染められることのない黒髪が肩の方まで伸びていて歩くたびに揺れていた。


「大丈夫だって。今吸ったから。プラマイ0だろ」


そういって大袈裟に深呼吸してみせる。


「あはは。むしろマイだろー(笑)」


『痛っ。いっとくけどもう誰にも理解されないギャグだからなそれ。ていうか一発すら当てられなかったエンタ時代の芸人のギャグをいつまでも使ってんじゃねぇよ。』


『理解してんじゃん。』


『…凄く不本意だよ』


迷は小学校時代からの幼馴染で同じマンションの住人でもある。

こんな今となっては仲間内でしかわからないようなマイナーなボケツッコミ?を平気でかますのも彼女の特徴かもしれない。

高校になってから前に比べてあまり話さなくなってはいたものの、俺が用事で帰るのが遅くなる時には妹の未来みらいの面倒を何度か見てもらったりもしていた。

「それに今日は仕方ないの。お前に今日の俺の出来事を追体験さしてやりたいよ」

クラスの奴らに出くわさないかをキョロキョロ確認しながら、俺は己に降りかかった不運を懇切丁寧に幼馴染へと説明し始めた。


「あはは。フミ君は相変わらず運悪いよねー。何?運の貯蓄でもしてるわけ?」


そう言うと迷はまた笑った。ちなみに未だに俺のことを「フミ君」と呼ぶのは迷ただ一人である。

迷は長袖のセーラー服に赤のリボン、黒のカーディガンを羽織り、丈の短い黒のプリーツスカートを身に纏っている。

スカート丈は少し短いけれどいわゆる清楚系女子にギリギリ仲間入りを果たせそうな格好かもしれない。

実際、ウチの学校には年頃なのか、流行なのか、周りに影響されたのか知らないが、高校生になったからギャル始めました!みたいな、化粧の濃いやつらがわんさかいるからその中に紛れたら迷の格好は清純そのものだろう。

我が文月学園は生徒の自由を学校の理念の一つに加えているらしく数年前に生徒の有志が集まって学校に抗議した結果、文月学園から制服はなくなった。

生徒達は原則私服で登校していいことになっているのだが俺を含めたほとんどの生徒が標準服と名を変えた学校推薦の制服に身を包んでいる。結局はみんな自由って言葉に酔ってるだけでいざ牢屋から出されてみれば牢屋の中の暖かさが恋しくなるもらしい。

ちょっと詩人風になったけど、実際、標準服には大いに感謝している。毎日私服で登校しなくちゃいけないないんて、服のレパートリーの少ない俺にとってはただの辱めみたいなものだしね。


「ていうか話かわるけどフミ君、天笠さんどうしてる?席となりなんでしょ?」


「えーと、あまがささん。…だれですかそのお方は?」


迷が呆れたようにこっちを見てくる。


「ひっどいなー、同じマンションに住んでる子なのに。ていうか自分の隣の席の人のことを他クラス私の方が知ってるっておかしくない?」


「まぁお前無駄に顔広いからなぁ。」


「無駄じゃないよ!」


幼馴染はぷくーという擬音がよく似合いそうな表情でこっち見る。

迷との会話には基本デリカシーは必要ない。

これはもう幼馴染だからなのか神前迷だからなのか、アニメや漫画みたいな幼馴染どうしで恋愛とかには決して発展しそうにはないものの大体のことは気兼ねなく喋れるし俺が言う下ネタにも呆れずに付き合ってくれる。

そうゆう女の子が近くにいるってのは実際嬉しい。

それに今ではもう意識すらしないが、平均的に女子のレベルが高い文月高校の中でも迷はかわいい方だ。

俺は一度立ち止まって迷の膨らんだ頬を右手で潰してから再び歩き出した。


別に俺はその生徒の存在を忘れたわけじゃない。

最初から知らなかったのだ。

この点において俺にそこまで非があるわけではない。

というのも同じマンションといっても俺や迷が住んでいるのは高度経済成長期の終わりのころに建てられたらしい荒川団地の一角にあるマンションで、巨大な長方形のコンクリートの中に百人以上もの人がびっしり詰め込まれている。それに長年住んでいたとしても住人は不定期に入れ替わる、顔を覚えてる人なんて精々同じ階の人だけで精一杯だ。

同じマンションで同じ学校で同じクラスだろうが会わなければ知りようがない。

ましてや2年になってから一度も学校に来てない女の子の事なんて知る由もない。

だから俺に非があるわけではない。

神前迷の顔が、人脈が、バカみたいに広いのだ。

同学年はもちろん、現1、3年生の中でも神前迷の存在を知っている生徒は多い。

本人の前ではこんなこと口が裂けても言わないけれど

迷は基本的に落ち着いた性格なのだがだからといって気取ってる感じはないはしノリもよく何より面倒見がいい。

それに加えて迷は驚くほど多趣味だ。

本人いわく色んな人とお喋りしたいかららしいが。

音楽でいえばマイナーからメジャーまであらゆるジャンルのアーティストを網羅しているし(これは今時の高校生なら普通?)、サッカー、野球、テニス、バスケ、もう覚えてはいないがとにかく部活動でできる範囲ぐらいのスポーツなら小中高までの10年間の間にほとんどをこなしている。

だが、彼女の本当にすごいところはそれらを一つとしておざなりにはしないことにある。

全力でやって最後は涙の引退。

それが幼馴染。神前迷のスタイルだった。

名前とは裏腹に彼女の人生にはまるで迷いはない。

そんな彼女のまわりに人が集まるのは当然であり必然だと思う。

幼馴染の少女は、同年代の奴らに加えて武居マンションの大家さんからちびっ子にまで大人気である。


ちょっと褒める過ぎたようだけど、それでも俺みたいな奴からしたらホントどういう風に時間を割り振ったらそれだけの人数の人間と知り合えるのか不思議なくらいに迷の人望は厚かった。



「1年の時までは普通に来てたよ?学校。最近いきなり来なくなっちゃたんだよねーあの子、

まぁ元々、ツンツンした子だったからあんまり友達はいなかったみたいだけどね」


「ふーん。そうなんだ。まぁまだ学校始まったばかりだしね、ただ体調崩してるだけじゃないの?」


「それがさぁ……フミ君だから言うけど、噂によると他校にいたっていう親友が交通事故で亡くなっちゃたのがキッカケらしいんだよね。」


迷はわかりやすく周りを少し見渡してからそういった。


……?


「フミ君!誰にも絶対言っちゃ駄目だからね。フミ君を信用してるから言ったんだよ?」



少し上目遣いだ。

俺は幼馴染の視線がちょっと恥ずかしくなって目をそらした。

……正直こうゆう時の迷はすごくかわいい。

特に自分に信頼を置いてくれているってところがすごくかわいい。たまにエレベーターの中かなんかでパジャマ姿の迷に会うと後ろから抱きつきたいって衝動に本気で駆られるんだよな。(パジャマは俺の趣味だが)

小さい頃から大の仲良しの幼馴染として過してきたし。別に恋愛感情があるってわけではないけど、迷のそうゆうたまにみせる弱さは素直にかわいいと思う。

目をそらして視線を下に向けていた俺の脳裏に黒いひらめきがよぎる。


…うん?……待てよ。……むしろ幼馴染だからいいんじゃないだろうか?

そうだ逆転の発想だよ。

コペルニクス的転回だ。

欧米ではハグなんて挨拶として当たり前の文化だし。

日本でもそうゆう文化は積極的に取り入れるべきだと常々思っていた。

それに迷は女友達だ!恋愛感情はない!

……そしてなにより九条文也にやましさしさなんていっさいないのだから!


「ねぇフミ君聞いてる?」


「….え?なに?誘ってんのか?」


「なにをですか!?」


幼馴染が一歩下がって身構えた。

……ふぅ。危ない危ない。

危うく全てを失うところだった。

身の危険を感じて俺はなんとか我に返った。

自分でも運動神経は別に悪くない方だとは思うけど,もしガチンコのケンカになった時、幼いころからスポーツ全般に加えて空手を現在進行形で習っている迷に対して中学からずっと帰宅部の俺。

結果は火を見るより明らかだ。

もちろん俺の圧勝に決まっている。ていうか完全勝利だ。

……だが、俺も女子高生なんかとケンカするほど子どもではないつもりでいる、大人として今回のところは見逃すことにしようと思う。

命拾いしたな迷。早く高みへ上がってこいよ?

それにこのままでは折角今まで積み上げてきた信頼が水の泡になる可能性もある。慎重に誤魔化かさなくては。

そう極自然に。


「っく…。また幻聴か……この頃ひどいな。」


視線は右斜め上だった。

迷は何も言わずにこっちの方を見ている。


「っく…。その反応を見るところまた第二人格が覚醒してたようだな…ッ。」


「あのさ、基本厨二病で乗り切ろうとするのやめてくれないかな?」


と迷。すごい目だ。こんな目も出来るのかこいつ。

末恐ろしい奴め。

だがまだだ。


「……ちゅうにびょう?えーなにそれー?おいしいの?」


「うん。確信犯だよね?」


「……あー、あれか。知ってる知ってる中二の頃に特有の性病だろ?あの痒くなるやつ?俺もなったなった。」


あははは。


「……………………………………………………………………」


親しき仲にも礼儀あり。いつだって口は災いの元だよね?

ところで幼馴染から溝内に正拳突きをくらうというのは新鮮な感覚だった。

具体的に言うとすごく苦しかった。

俺の下ネタにも呆れずに付き合ってくれはするがそれには痛みを伴うらしい。

……そうか。

これが等価交換というやつか。



九条文也の人間としての信用が地に落ちたところで会話は元に戻る







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