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事故物件の解体現場で働いていたら、国家機関にスカウトされました。

作者: 真白みこと
掲載日:2026/07/03

「長谷ぇーーー!そっちの水道管の交換は終わったかーーーー?」


「まだっすー!元の図面より地中深くにあったんで、今作業員が土を掘り起こしてますーー!」


東京駅の再開発地区にある大きな廃ビルの最下層で長谷は声を張り上げた。

やたらと広いため、工事用の照明を複数吊るしていても薄暗い。そのうえ地下特有のじめっとした空気が、作業の士気を下げていた。


簡単な土魔法を使える作業員たちを、切り取ったコンクリートの上から見下ろす。

長谷は幸運なことに一般家庭出身だが、魔力が多く、使える魔法の幅もあるため、キャリア組として採用された。

ちょうど昨日で国土建設局の現場監督として働き始めて、半年が経った。


(泥まみれにならずに済むのはありがてぇけど、ハァ...今日の現場はいつにもまして気味わるいな...)


チラッとフロアの奥を見やる。

いつも見ないようにしているが、それでも、どうしても視界の端に入ってしまう。

黒い何かが、ゆっくりとうごめいている。

人の背丈ほどある黒い塊は、煙のように揺らめきながら、ゆっくりと膨らんでいた。


時たま、街や特に事故物件の現場などで目にする”それ”がなんなのか長谷にはわからない。

だから幽霊か何かだと思っていた。

でも。

今日の"これは"

なんとなくだが、”違う”と感じる。


(...うぇぇぇ、やっぱ見ないでおこ。)



♪チャラララ〜チャラララ〜♪


この場に似合わない音楽が流れてきた。現場用エレベーターで交代要員がやってきたのだ。

さっさとこの気味の悪い空間からは退散してしまおう、と長谷は”それ”から目を背けた。


ーー翌日ーー


今日も夜勤担当の長谷は、現場へとやってきた。


「おはようございまーーっす」


元気よく現場に入ると、何やらトラブルがあった様子で上司たちが集まっていた。

どうしたのだろう、と長谷はその輪の中に入っていく。


「ああ、長谷か。夜勤だったな、おはよう。」


工事現場特有の、夜でも「おはよう」という挨拶を交わす。何かあったのだろうかと上司の面々を見ると、彼らは難しそうな表情をしていた。


「...なんか、あったんすか?」


「ああ、日勤から夜勤への作業員の交代確認を行なっていたんだが、数人足りないんだ。」


「あ〜、遅刻か欠勤っすかね〜。最近の作業員の方はみなさん無遅刻だったんで珍しいっすね。」


「いや、違うんだ。交代"前”の奴が足りないんだよ。トランシーバーにも応答がないんだ。」


それはおかしい。作業員は先ほど長谷が乗ってきたあのうるさいエレベーターでなければここから出入りが出来ない。


「変っすね〜。そうだ!トランシーバーを繋げたまま近づくと、音がハウったり、キーンってなるじゃないですか。あれで探してみましょうよ!」


長谷の提案に皆が頷き、早速試してみることになった。


ピー..... ザザザザ.....  キィィィィ..... キィィィィ.....


長谷がトランシーバーを持ち先頭に立ってフロアをウロウロと歩く。

だんだんと耳が痛くなるような高音がトランシーバーから大きくなってきた。


「こっちの方っすね....」


フロアの角の、昨日長谷が監督していた一角に近づいていった。

すると、水道管工事の穴からうめき声が聞こえてきた。


「おいっ、大丈夫か.....!!!」


上司たちが長谷を追い越して穴の空いているほうへ向かう。

どこか怪我でもしたのだろうか、長谷は応急処置の道具と担架を持ってこようときびすを返した。


その瞬間


「うわあああああああああーーー」

「おっおい、何かに引っ張られているぞーーーうぐっ」


助けに行ったはずの上司たちの叫び声がした。


(ーーーーーーえ?)


長谷が振り向くと、気を失った上司たちを黒い獅子の形をしたあの”黒い何か"が咥え、穴へ引き摺り込んでいる。


(な、なんだよあれ.....昨日はあんな形してなかったぞ....)


どうやったら皆を"あれ”から助けられるのだろうか。いや、そもそも自分はここから逃げられるのだろうか....。背中に冷たいものが流れ落ちる。


(ああ、もう絶体絶命だ、っていうかあれ、俺の気のせいじゃなかったのかよ...)


長谷に気がついた黒い獅子が、こちらに向かって来た。慌ててエレベーターへ乗って上階へ逃げようと長谷は走る。

しかし、相手は獅子の形をしているのだ、素早さは格段に上だ。


(追いつかれる.....っ!)


長谷が自分の最後を覚悟したその時、


ーーービーッ ビーッ ビーッ ビーッ

       - レベルDの穢れを感知しました - ビーッ ビーッ....ーーー


急にどこからかけたたましいアラームが鳴った。


すると、


ドゴッ!!!


と大きな音を立てて、エレベーター近くの上階の床が落ちてきた。


「あちゃぁ〜、おい恭弥、派手に壊しすぎんなよ〜」


「フン、この探知機の精度が低いせいでここに辿り着くまでに無駄に時間がかかったんだ。このくらい許容範囲だろ。」


落ちてきた床の上には真っ白い制服を着た二人組がいた。


「すぐに浄化するぞ。すでに被害者が出ているようだ。」


「はい、はい。」


彼らは腰を抜かして座り込んだ長谷のそばを通り過ぎ、あの黒い物体に一直線に向かっていった。


赤髪の人は大振りの剣を、キラキラとした金色が混じった黒髪の人は銀色の直剣を構えた。


二人の剣が紫色の光を纏う。


「いくぞ。」


一閃。

空気が裂けた。

黒い獅子の首が宙を舞う。

一拍遅れて、その巨体が真っ二つに崩れ落ちた。


『ギェェェェェェェ』


君の悪い物体は雄叫びを上げながら灰となって消えていった。





(ほ... よ、よかったぁぁ〜〜〜、ありがとう!神様!)


なんだかよくわからないが、奇跡的に助けが来たことに長谷は心の底から感謝した。


先ほどの二人組は、怪我をした上司たちや、穴から行方不明だった作業員を運び出している。


「医療班、ひと班だけ呼べば足りるか?」

「いや、被害者の人数も多いし、穢れの深度も深そうだ。ふた班呼ぼう...。」


おそらく救急隊を呼ぶ相談をしているのだろう、長谷は彼らに話しかけた。


「あの、危ないところを助けていただいて本当にありがとうございました!自分、国土建設局の者です。」


この後の処理について上に相談しなければいけない。とにかく彼らから情報をもらおう、と考えた。

しかし、二人組は目を丸くして長谷を見つめている。


「....?どうしたんすか?」


「.......君、見えてたの?」


「エッ、あ、はい。まあ......」


同じ人間だからそりゃ見えるだろう、何を彼らは驚いているんだろうか。

今度は赤髪の人が長谷に問いかける。


「ええと、もしかしてさっきの黒い物体とか、俺たちがあいつを倒したのとか、全部見えてた?」


「はい。あの虎みたいなライオンみたいな黒い奴ですよね?ほんと助かりました〜ありがとうございますっ!」


二人はしばらく黙り込んでしまった。

黒髪の人が長谷に尋ねる。


「国土建設局の所属って言ってたね...名前を教えてもらえるかい?」


「はい!自分、長谷和馬っていいます!」


「わかった、長谷君。今日のところはもう帰っていいよ。後処理が少々厄介だからね...僕たちの方で国土建設局にも報告を上げておくから。」


「いいんすか?!ありがとうございます!」


(やったぜ!面倒な報告書の作業がなくなった!)


「ただ、今日見たことは、誰にも話さないで欲しい。約束してくれるかな?」


金色の瞳を細めて黒髪のその人は長谷を見つめた。

端正なその顔に男ながらドキッとしてしまうが、長谷は早く帰れることに浮かれ、もちろんっす!と元気に返事をしてその場を後にした。


これが自分の人生の大きな分岐点だったこととは知らずに


ーーー


翌朝、国土建設局の本部に呼ばれた長谷は一通の異動辞令を受け取った。


【長谷 和馬 殿 

 右の者を本日付で 環境保全局 局員への移動を命ずる】


(...ん?環境保全局ってなんだ...?)


それは人知れず"穢れ"という異形と戦う機密国家機関への切符だった。


そして長谷はまだ知らない。

あの日見た二人と、

これから何度も肩を並べて戦うことになるとは。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

この作品は『環境保全局の浄化師』のスピンオフ短編です。

本編では、新人浄化師・霧島灯里を主人公に、長谷たち第七戦闘班の活躍を描いています。

もし「この世界観、好きかも」「長谷のその後も読んでみたい」と思っていただけたら、本編ものぞいていただけると嬉しいです。

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