職業:中の人
ここだけの話なんだが、俺の仕事は「中の人」
オンラインゲームで、ボスキャラを実際に操作して、プレイヤーと戦う仕事だ。もっと、詳しく知りたい?。それなら、これを読んでくれ。
オンラインゲームの見せ場といえば、何といってもバトルだろう。
信頼できる仲間たちと共に、強大な敵と戦い、勝利する…。
…というのが、理想的な「シナリオ」だろうか…。
とはいえ「強大な敵」というものの、
実際は、プログラムされた動きをする敵であり、
それで「強敵感」を出そうとした結果、
回避が難しい特定のパターン攻撃を繰り出すものが多くなっていき、
多くは「避けゲー(避ける事を楽しむゲーム)」と化している。
プレイヤーに求められるのは、仲間たちとの連帯感などではなく、
投稿されたクリア動画を見て、攻撃パターンを覚え、
「ミスなく避ける操作が出来る技量」をもつ人とプレイする事につきる。
故に、それが出来ない者が参加しようものなら…
「攻略動画見て出直して来なよ…」
「なんで避けれもしないのにパーティに参加してるんだよ。このグズが…」
などと、暴言を吐かれる事も珍しくない。
こうして、パーティ戦がイヤになり、オンラインゲームを嫌いになった諸氏もいる事だろう。
そんな現状を打開すべく開発された一つのゲームがあった。
敵の強敵とされるボスキャラをAIが担当し、
ボスキャラは、強大なステータスと、強力なスキルを持っているが、
ボス自身の「プレイヤースキル」というべき動きが素晴らしく、
避けゲーのような作りにしなくても、とても、強いラスボスを演じる事が可能になった。
しかし、このAIは「中の人」というシステムを採用していた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺の仕事は「中の人」だ。
俺たちは、24時間交代制で待機し、AIが受けた「仕事」を、
俺たちが操作して、お客さまの満足を勝ち取っている。
これは、社外的には内緒の話なので、ここだけの秘密という事にしておいて欲しい。
「中の人」の仕事は、社内のテスターの中から、
毎年、社内の検定資格に合格する事で与えられる選ばれた職種だ。
この仕事は「年俸制」で、強いキャラを担当出来る資格を持ってる程、高い給与が得られる。
反射神経、判断力、勝率、お客様の満足度などなどを総合的に判断して合否が決まる。
1度試験に受かっても、
来年試験に受からなければ、資格が剥奪されるので、毎日、精進が欠かせない。
それと、他社に転職する際「中の人」やってましたと言ってはいけない決まりがある。
まぁ、言ったところで、何言ってんのこの人って思われるだけだろうけど…。
この資格には「ボスキャラ1級~9級」「ラスボス1級~9級」と段階化しており、
上の資格を有しているほど、より強力なボスキャラに割り振られる。
同じラスボスでも、1級~9級までクラスがあるし、
その時々で、空いている有資格者の中から「中の人」が割り振られるので、
プレイヤーにとっては「今日のボスはあまり強くなかったね‥」という日もあれば、
「前はこんな事なかったのに…」と苦い経験をする事もあるだろう。
特に俺は「ラスボス1級」より上の「ラスボス・マスター」の資格を持ってる。
この資格は、プレイヤーに3回負けると剥奪されてしまう。
だから、俺が「中の人」として「ラスボス」として戦う時は、絶対に負ける訳にはいかないのだ。
ピピピ…。
おっと、呼び出しがかかった。「中の人」の出番だ。
えーと、今日の仕事は「ラスボス:エターナル・キング」か…。
これに勝てば、プレイヤーは「強くてカッコイイ装備品」をゲット出来るやつで、
うちの会社はプレイヤーに対し「8勝10敗」で、ここのところ連敗中らしい。
俺が割り振られるって事は、
ゲームバランス的に、これ以上「強い装備品」を渡したくないって事だろう。
いいだろう、やってやる。
今回のパーティで注意すべきは、2勝5敗のタンク、5勝8敗のヒーラーか…。
他は1勝も出来てないプレイヤーの集まりだ。
まずは、定石通り、ヒーラーを潰しにいく。
しかし、流石は5勝しているヒーラーだ。見事に俺の攻撃をかわした。
けれど甘いな、そこに避けるだろうという事は予想済みだ…。
俺の攻撃を5勝8敗のヒーラーにヒットした。
おや?、思った以上にHPが減らない。
エターナル・キング戦でドロップする装備品「リボン」を装備してるな…。
確か1回だけ、攻撃を半減するアイテムだったか…。
驚かされたので、あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押す。
「やるじゃないか…」
こうして、ゲームがより盛り上がるような、いいタイミングで発声させていく事も重要な仕事だ。
俺は、くど過ぎないようにしつつも、出来る限りう使うようにしてる。
そう思ってると、2勝5敗のタンクが、俺にクリティカルヒットをぶち込んできた。
なんだこいつ、タンクなのに、アタッカー並みの攻撃じゃないか…。
この部屋に入って来た時には、盾を装備してたと思ったのだが、2刀流で攻撃してきやがる。
しかも、使ってる剣は、エターナル・キング戦でドロップする装備品か…。
あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押す。
「ほぉ…?」
基本的に「中の人」では、強すぎず弱すぎない絶妙なバランスが大事だが、
しかし、今日は、ラスボス担当だから負ける訳にはいかない。
実は、俺のラスボスでの勝率は、4勝2敗だ。
3敗すると「ラスボス・マスター」の資格が剥奪されてしまうので、絶対に負けられない。
一番動きが悪かったアタッカーに、クリティカル攻撃を喰らわす。
案の定、こいつは避けられず、HPを7割ほど減らした。
5勝8敗のヒーラーが、それを半分予想してのか、回復モーションに入っていた。
そう、それを待ってたんだよ。
5勝8敗のヒーラーに、俺の一番強い攻撃をぶつけた。
モーション中は、回避行動が出来ないのを知っての…行動だ。
もちろん、あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押すのも忘れない。
「それを待っていたぞ…」
これで、5勝8敗のヒーラーは、死亡した。
1勝もしてない他のヒーラーが蘇生モーションに入るが、それこそ、カモだ。
攻撃の連打を加えていくが、
あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押すのも忘れない。
「甘いな…」
2勝5敗のタンクが、ヒーラーを守ろうとする。
おいおい、盾に持ちかえるのを忘れてるぞ…。
2勝5敗のタンクが、大きくHPを削られ、残りのヒーラーも潰した。
あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押す。
「フハハハハ…。どうした、その程度か…」
さぁ、あとは、こっちの一方的な蹂躙だ。
2勝5敗のタンクを沈めると、残りのメンバーは、大混乱に陥った。
動きもバラバラで、連携もなってない。
あらかじめ声優さんが吹き込んでくれていた声を発声するボタンを押す。
「いいのか?、そんな調子で…」
こんな感じで、このパーティを全滅させる事が出来た。
戦闘に勝つと、特別ボーナスが出るおいしい仕事だ。
じゃあ、興味があったら、うちの会社に応募してくれ。




