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「へ~、ちょうどいいじゃん。冬華さんにゲーセンとはなにか。俺が教えて差し上げましょう。てなわけで、ちょっと覗いてみようぜ」


「……うん。じゃあ、行ってみたいかも」


 ふざけて俺がそう言いうと、冬華はOKしてくれた。でも、少しだけ緊張してるみたいだった。


 ゲーセンに入った瞬間、ゲーム特有の電子音が俺たちを出迎えた。


 入り口付近にあるのはクレーンゲームとプリクラ。少し奥の方には対戦ゲームなどの筐体が並び、最奥にはメダルゲームコーナーがある。


 冬華はキョロキョロと辺りを見回している。普段は完璧超人みたいなのに、初めての出来事に完全に緊張しているのかもしれない。


 その姿が……とても新鮮で、見ていて妙に胸が高鳴る。


「へえ~。ゲーセンって、こんな感じなんだ……!」


「そう。ちょっとうるさい場所だけど。どうだ?」


「うん。たしかにうるさいかも。でも……なんか、ワクワクするね……」


 その中でも、冬華はあるクレーンゲームを食い入るように見ていた。


 デフォルメされたクマのぬいぐるみが中央に置かれていて、ライトに照らされて光っている。


「これ……かわいい、かも」


「……欲しいのか?」


「え、陽太取れるの?」


「んー、どうだろな。試してみるか?」


 俺は財布を取り出すと、コインを入れた。


「クレーンゲームってのはさ。まずはアームの強さが――」


 説明している途中で気づいたんだが、冬華……クレーンじゃなくて、俺の顔を見ているような?


「ん……なんだ、どうかした?」


「あの、その……」


 なにかを言いかけた冬華は、少しだけ顔を赤くして視線を逸らす。


 やっぱり、いつもと雰囲気が違う。


 普段なら自信満々で落ち着いているのに、妙に恥じらってる様な。


 まあ……気のせいか!


「陽太が、イキイキして説明してる姿って……とっても新鮮で」


「し、新鮮?」

 

 冬華の口からそんな言葉が出てくるなんて意外だ。普段の冬華は、俺の考えなんて全てお見通しみたいな感じなのに……

 

 俺が冬華の様子が新鮮だって思ったみたいに、冬華も俺を見てそう感じたのかもな。


「うん。なんか……楽しい!」


「そっか、じゃあ……もっと楽しくしようぜ!」


 俺はクレーンゲームのボタンを押してクレーンを動かす。


「クレーンゲームってのは、アームの強さと重心の移動、それに筐体の設定が絡んでるってのは説明したよな? このクマは見るからに重心が頭に寄ってるから、胴体を掴む選択肢は無い。だから、左のアームで首の隙間を突いてやって、テコの原理でこうやって——」


「……陽太、楽しそう」


 自分でも少し早口になってる自覚はある。正直、ちょっとキモイかも知れない。


 だけどそれ以上に、俺はこのクマを取りたい。冬華のために取ってあげたい。


 冬華を笑顔にしてあげたい……。


 頼む、ゲームの神さま! 俺にパワーをくれ!


「見てろよ……」


 その時……ガコンと取り出し口で小気味よい音が響いた。


「わあ! すごいよ、陽太!」


「――まあな……」


 マジか、本当に取れた。


 ぶっちゃけ、俺が1番驚いている。


 実はさっきの知識は、ネット動画の受け売りなんだ。


 まさか……暇つぶしに見てた動画が、こんなところで役に立つなんて。


 筐体の設定のおかげなのか、それとも奇跡的に上手くできたのか。


 謎だらけだけど、一発で取れた……これがビギナーズラックってやつか?


「このクマさ、冬華にあげるよ」


「えっ、私にくれるの?」


「もちろん……そ、そのために取ったんだからな」


 恥ずかしいこと言わせないでくれ……冬華の顔をまともに見れないじゃんかよ。


 俺は横を向きながら「ほらよ……」と冬華にクマを渡す。


 横目で確認すると、冬華は受け取ったクマを嬉しそうに両手で抱きしめていた。


 ……良かった、喜んでくれてるぞ!

 

「ありがとう陽太。一生大事にするね」


「一生は……言いすぎじゃね?」


「ふふ、そうだね。じゃあ、少しだけ大事にする……」


「ああ……そ、そんくらいでいいよ」


 ――よかった。


 冬華、さっきまでの暗さが全然なくなってる。


 ゲーセンで楽しそうに遊んでる、普通の女の子の顔だ。


「すごく嬉しいよ……」


 ギュッとクマを抱く冬華の仕草が、あまりにも――ああ! わかんねえ。


 なんだか胸の奥の方がやけにくすぐったい。


 俺は冬華から目を逸らして、コホンっと軽く咳払いをしてから言った。


「じゃ、次。行ってみるか……」


「うん……!」


 クレーンゲームの並びを抜けると、すぐ近くにプリクラコーナーがあった。派手な音楽に、綺麗な女子の写真がバーンと大きく写った見本。


「これって……プリクラ?」


「ああ、そうだな」


 冬華が足を止めて、プリクラの筐体を見ている。もしかして……撮りたいのだろうか?

 

「陽太はプリクラ……撮った事あるの?」


「俺はないな。こういうのって女子が撮るやつだろ? 冬華……プリクラ気になるのか?」


「えっ、いやその……ただ見てただけで」


「そっか、こういうのって恋人同士で撮るイメージがあるし……俺たちはまだ友達だから、まだ早いもんな」


「………………」


 ん? 急に冬華が黙ってしまった。しかも、ちょっと様子がおかしい。


 あ――そういうこと? 言ってから気がついた。顔が一気に熱くなっていく!


 ヤバっ……『俺たちは』ってなんだよ!!


 しかも『まだ早い』って何?


 一体何を前提に話してんだよ俺は!


「いや……ちがっ、別に変な意味じゃなくて! その……ほら、お、俺ら今んところまだ友達だろ?」


 クソっ、説明しようとすればするほど、墓穴を掘ってる気がする!


 これ、変な意味にしか聞こえないんじゃ……「今んところ友達」ってなんだよ?


 冬華を見ると、彼女も頬をうっすら赤くして、下を向いてしまっている。


 うわ~、気まずいっ!


「……う、うん。そうだよね。まだ……早い、よね」


 冬華の声が少し上ずってるじゃんか。絶対に変な空気になってるって!


「…………」 


 おかしな沈黙が続いちゃってるし……どうすんのこの空気?


 俺は自分で作り出した空気に耐えきれず、冬華とプリクラの筐体を視線に入れないようにそっぽを向く。


「つ、次! 次、行こうぜ!」


「……うん」


 俺は、無意味に明るく促して、その場を誤魔化した。


 誤魔化せてるか分かんないけど。

 

 冬華は少しプリクラをチラチラ見ていた様子だったが、俺の後に付いてきてくれている。


 少しは空気……落ち着いたかな?


「じゃあさ、次はメダルゲームでもやろうぜ……」


「――メダルゲーム?」


「そっ、奥にあるから行ってみようぜ」


 ゲーセンに来たことがない人に対戦ゲームなんてハードルが高いからな。


 ここは自分のペースで出来るメダルゲームが良いだろう。


「じゃあ、これやってみるか?」


 俺が選んだのはプッシャーゲーム。


 投入したメダルでスロットを回し、前後に動くプッシャーで、メダルの山を押し出すやつだ。


 このゲームは光の明滅が綺麗で、それを反射するメダルが一層輝いて見えてカジノみたいな雰囲気がある。


 まあ……カジノ行ったこと無いけど。


「これどうやるの?」


「簡単に言うとメダルを落としていくゲームだ。あそこにメダル入れるとスロットが回って、そろうとメダルがドバーッと落ちてくる」

 

「……難しくない?」


「大丈夫。やることってメダル入れるだけだし、結構単純だぞ」

 

「じゃあ……やってみる!」


 話し合った結果、俺と冬華で500円ずつ出し合って千円分のメダルを2人でシェアすることにした。


 カップの中にはそこそこのメダルがある。これなら結構な時間、遊べるかも知れない。


「よし、やるか」

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