表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

7

 ここで「じゃあな」で終わったら、ダメなんじゃないか?


 男としてさ。これでいいのか?


 昨日からずっと、冬華には世話になりっぱなしだ。


 しかも全部、彼女から言わせてしまっている。


 正直、俺はこの2日間で冬華に好意を持ってしまった。それは隠しようもない事実で。


 この気持ちがなんなのか……それはまだわからない。


 ……けど、2人きりのこのチャンス、逃したくない。

 

「待ってくれ、冬華!」


「ん、どうしたの陽太?」


「その、良かったら……明日も一緒に帰らないか?」


「…………」


 あ、ヤバい。冬華が固まってしまった。


 あり得ないことを言われた時みたいに、目を見開いて完全に固まっている。


 あれは……意味わかんないコイツ、調子乗るなよ。って顔だよな……


 俺のバカ……勘違いクソ野郎。


 また、空気読めなかったよ。


 かわいい女子に少し優しくされたからって、調子に乗って、不用意に一歩踏み込んでしまった。


 ここは……男らしく、素直に謝ろう。


「ごめん。嫌だったよな――」


「うそっ!? 陽太が……私を? 自分から誘ってくれた……!」


 嫌がってたわけじゃない……のか? 驚いただけ、ってことでいいのか?


 それなら、もう少し勇気出して――


「ああ、そ、そういうことなんだけど。そ、その……だ、だめか?」


 もう、緊張して……喉がカラカラだ。水飲みてぇ~!

 

「こんなの、今までなかったじゃん……何がキッカケなの?」


「あーいや、その……1人で帰るのもなんだしさ。冬華さえ良ければどうかなって」


「うん! 一緒に帰る……帰りたい。明日も一緒に帰ろうね、陽太っ!」


 それだけ言うと、冬華は嬉しそうに走っていってしまう。振り返りもせずに。


「あ……冬華……?」


 途中で話が噛み合わなかった気もするけど……明日も一緒に帰る約束を取り付けることはできた。


 ――うまくいったってことだよな。


「……やった」


 でも――


「あ……別れの挨拶するの忘れた……」


 それでも俺は、冬華の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、家路についた。

 

 ◆


 (冬華視点)


 ……行っちゃった。


 陽太と向き合うのが恥ずかしくて、その場から逃げちゃった。


 胸の奥と頬が、じんわりと温かい。とても変な感じがする……


 間違いなく、今までで1番成功した攻略だった。それなのに、どうして心が落ち着かないの?


「どうしよう……すごく上手くいってる!」


 昼休みも、放課後も想定通り……ううん、想定以上に陽太の反応がいい。


 攻略としては最高の滑り出し、好感度の上がり方も文句なし。


 やっぱりイベントなんて無視して正解だったんだよ!


 ちょっと強引だったかもしれないけど……陽太と一緒にお昼を食べて、帰り道を並んで歩いて。


 しかも……最後は陽太から「明日も一緒に帰ろう」なんて言わせることができた。


 ――完璧! これ以上ない理想的な展開だ。


 いつものようにセーブしないと……この最高の状態を保存するために。


 少し視線を落として、意識を集中させる。

 

 すると目の前に、見慣れた半透明のウィンドウが浮かび上がる。すこし色合いが、いつもと違う気がしたけど、そのままセーブの項目を選ぶ。


「……あれ?」


 文字の色がいつもと違う。普段は白いのに……今は灰色になっている?


 嫌な予感がしたけど、そのまま『ファイル1』を選んだ。


 だけど、浮かび上がったのは見たこともない真っ赤な文字。


『能力の使用限界を超えました。セーブ機能は使用できません』


「……え? 冗談でしょ。使用できないってなに?」


 私の脳が、意味を理解するのを拒んでいる。


 こんなのは何かの冗談だ。ありえない。

 

「……能力の限界ってなによ! そんなの、聞いてないんだけど!」


 私はウィンドウに表示されている『セーブ』をもう一度選んでみたが、さっきと変わらず反応がない。


 よく見ると、ロードとリセットの項目も――表示が灰色になっている。


 つまり、モブの私が唯一頼りにしていた能力を失ったってこと?


 ――能力が使えない。


 そう思うと、指先の痙攣が止まらない。


 冷や汗が、吹き出してきて止まらない。


「う……嘘でしょ」


 だって、この能力があったから。


 これがあったから、このゲームのおかげて私は――


 社会人になって、思い描いてたのと全然違う毎日に、心が潰れそうになって。

 

 仕事も、人間関係も、全部うまくいかない。


 恋愛なんて全く出来ない日々。

 

 マチアプ?


 もちろん試したよ。でも、あんなに盛った画像……私じゃない。


 もう完全な別人だった。罪悪感から途中で辞めてしまった。

 

 大人になれば、そのうち恋人が出来る?


 気づいたら結婚してる?

 

 そんなの幻だよね。私の世界には恋愛なんて世界は一度も訪れなかった。


 私を支えてくれたのは――スマホの恋愛ゲームだけだった。


 恋愛ゲームは、こんな私でも受け入れてくれた。


 画面の中にはかっこいい男子が、いっぱい待ってくれている。何度でもやり直せて、失敗しても、選び直せる。

 

 ちゃんと頑張れば……いっぱい課金すれば、男子に振り向いてもらえる平等な世界。


 気がついたら、給料のほとんどをゲームに注ぎ込んでいた。

 

 ハマっていたゲームの中でも推していたキャラが……陽太だった。


 不器用だけど優しくて、気づくと優しくしてくれる男の子。


 私の理想を絵に書いたような人。


 ずっとゲームしていたかったけど、陽太に課金するためには、会社に行かなきゃダメで。


 会社と恋愛ゲームだけが、私の世界だった。

 

 そんな生活をしばらく続けていた朝、目が覚めたら私はこの世界ゲームにいた。

 

 あこがれの世界にこれたのに……この世界でも私は主人公じゃなくて、上原冬華というモブだった。


 まず私は、ぱっとしない冬華の見た目をかわいく見えるように努力した。


 モブでも陽太を攻略したかったからだ。


 推しが目の前にいるのに、黙ってみているなんてできない。


 陽太の好みを把握して最適解をすぐ出せるように練習し、慣れた頃には先回りできるようになった。


 やれることは全部やってきた。


 私には能力があったから――セーブして、ロードして、リセットして。


 何度でもやり直せるゲームのプレイヤーみたいな能力。


 だけど……どれだけやり直しても、必ず主人公に陽太を持って行かれる。


 モブの私は、いくら頑張っても陽太に振り向いてもらえなかった。


 私はゲーム世界に行ってもモブだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ