表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

35

 翌週の月曜日。


 教室で普通に過ごしていた時だ。


「なあ、藍沢。ずっと聞きたかったんだけど。お前さ、上原さんと付き合ってるのか?」


「え? ああ。付き合ってるけど?」


 普通に答えただけなのに、教室が一瞬シーンとなった。


「えっっっっ!!?」


「マジ!?」


「藍沢くんが上原さんと!?」


「やっぱそうなんだ!」


 教室中が妙にざわついた。


 えっと……どうした?


「よ、陽太っ!? 何言ってるの!?」


 冬華が顔を真赤にして俺のところに来た。


「え? 別に隠すことじゃなくないか?」


「そうじゃなくて……!」


「冬華が俺の彼女だってこと、分かってもらったほうが俺も安心するし」


「安心する……?」


「おう、冬華が他の奴に狙われる心配しなくていいだろ?」


「はぅぅん……」

 

 なんだろう。周りの視線が一斉にこちらに集まったような。


「おい藍沢ー! いつからだよ! お前いつから上原さんと?」


「あー、先週くらいから?」


「マジかよ、上原さんってすげー美人だもんな~羨ましいぜ!」


「美人? 俺はかわいいって思ってるけどな」


「「「おおーっ!!!」」」


「ちょっっ……陽太ぁぁーっ!!」


 なぜか大声で叫ぶ冬華。


 急にどうした? 発作か?


 聞かれたから答えただけなんだけど……もしかしてマズったか?


「ちょっと……陽太ぁ~、恥ずかしいよ……」


「え? なんで?」


「まーまー。みんな落ちついてって。私は前から知ってたよ」


 あ、姫川さんが割り込んできた。


「そこんとこ詳しく教えてくれ、姫川さん!」


「はっは~。知りたければ、私に焼き肉を奢りなさい」


「奢るっ、奢るから、今度俺と一緒に行こう!」


「バカか? 俺も行くぞ」


「はあ? 俺も同行させてもらうが?」


 いつの間にか、姫川さんにクラスの男子が群がっていて、めちゃくちゃ盛り上がっていた。

 

 ◆


(冬華視点)


 ああもう……


 なに普通にみんなの前で『かわいいって思ってる』とか言ってるのよ。


 空気を読んで控えめだけど優しい『私の陽太』はどこへ行ったのよ。


 今思い出しても恥ずかしいよ……


「それでね、こんど焼き肉に行くことになったんだ~」


 姫川は「しかも贅沢コースだよ?」と得意げに笑っている。


 うん……姫川に関しては、私たちのことを話すと言うより、単純に肉が食べたいだけだと思うから心配ないだろう。


 昼休みのピロティの空気は、不思議と以前と変わらなかった。


「でもよかったね〜、上原さん。藍沢くんとお似合いだってみんな言ってたよ」


「そう? その……ありがとう、姫川さん」


「ま、私は最初から藍沢くんには興味なかったし!」


「えっ。バリバリあったんじゃ……」


「なかったの……そう! なかったことにしたの!」


「……そっか。ありがとね」


 意外だったことだけど、姫川は私と陽太の仲を応援してくれている。


 ライバルから友達になったのだ。そのことが心地よかった。

 

「はい、その話おわり〜! それよりもさ、また3人で遊ぼうよ!」


 強引に話題を変える姫川に、私も陽太もつられて笑ってしまう。


 3人の関係は、変わったけど……壊れてはいない。


 むしろ、前よりも自然になった気がする。


 私は昼食の弁当を広げながら、こっそりと陽太を横目で見た。


 シーチキンおにぎりを口に運んでいるところだ。


 前髪が少しだけ目にかかっている。


 なんだろう……ただおにぎり食べてるだけなのに、かっこいいな。好きだな〜。


 私の彼氏として、こうして隣にいるのが、たまらなく嬉しい。


「……上原さん」


「ひゃいっ!?」


「さっきからずっと藍沢くんのこと見てるけど~。ていうか、見すぎですけど~」


「ご、ごめんね姫川さん。さあ陽太、男らしくビンタされて!」


「え!? あれマジの話だったの?」


「あはは。しないよ、あんなの冗談だし。でも……ほんと、ごちそうさまです」


「っ……!」


 姫川が「にひひ」と笑い、陽太が「助かった」という顔をしている。


 なんか……幸せかも。


 ただ、幸せなだけなのに。


 妙に不安に感じるのは……きっと今までの人生で、こんな幸せを経験したことがないからなんだろうか?


 ◆


(冬華目線)


 翌週の金曜日。


「なあ冬華、明日なんだけどさ。よかったら冬華の家行ってもいいか?」


「……えっ」


 いつもの放課後の帰り道。


 陽太からの突然の申し出に、私の脳みそが一瞬フリーズした。


「い、いいよっ! うん! 全然いいよ! えっと……何しに来るの?」


「え? 遊びに……だけど?」


「あっ……あ、遊びに。うん。遊びにね。うん。そうだよね」


 ……ヤバい。


 意味不明なくらい、ぎこちない返事をしてしまった。

 

 前回は『ずぶ濡れの陽太を乾かす』という目的があった。そう、大義名分があったのだ。


 でも今回は違う。


 私の彼氏として、彼女の家に遊びに来るシチュエーション。


 ……ど、ど、ど、どうすればいいのー!


 そもそも恋人同士って、家で何をして遊ぶの?


 テレビ? ゲーム? 映画?


 それとも……


 えっ、もしかして……陽太……!?


 そ、そういうことーっ!?


 私たち、もうそんな関係になっちゃうの?


 ちょっと……は、早くない?


 こ、心の準備がまだ…… 


「あ……あわわ……」


「ん、なに? なんか言ったか?」


「えっ……うん。うん、なんでもない! 気にしないで!」


 どうしよう……


 帰宅してから、急いで陽太を迎え入れる準備を開始した。


 まずは掃除だ。


 部屋を片付け、掃除機をかけていく。


 もともと綺麗にしている方だけど、それでも彼氏が来るとなると、気になる箇所が……。


 洗面台の水垢。カーテンの皺。冷蔵庫の中のストック。ティッシュの残量。


 そしてクローゼットの中には、いつ陽太と『そういうこと』になっても大丈夫なように『コンドーム』を準備しておく。


 ……完璧。


 あとは……行為の最中、天井のシミを数えてればいいのよね。


 天井は……何個かシミがあるみたいだし、コレなら大丈夫。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ