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(冬華視点)


 陽太と付き合い始めて、最初の週末がやってきた。


 今日は恋人同士になってから、初めてデートをする記念すべき日。


 彼氏……とのデート、だよ?


 いや待って。彼氏だからね?


 人生初の彼氏なんです!


 しかも相手は、私がずっと推していた陽太。


 攻略のためのデートなら何度もやってきた。


 公園デート、買い物デート、ランチデート。フラグ回収のために陽太をあちこち連れ回したものだ。


 今思えば、あの時の私は恋愛というよりも、攻略のことばかり考えていた気がする。


 こうすれば好感度があがるとか、選択肢の最善はこっちだとか、ここでフラグが立つはずだとか。


 そういう見えないことを計算するのに集中していた。


 私は攻略のことばかり考えていて、付き合った後のことを全く考えていなかったのだ。


 でも今は完全に恋人同士になった。


 ただ、陽太と一緒に居たい。同じ時間を過ごしたいから会う。


 ただそれだけ。


 ……それだけのはずなのに。


「はあ……何を着ればいいのかな」


 気づけばクローゼットの前で、もう2時間が経過していた。


 陽太との待ち合わせは1時間後。準備時間としてはそろそろギリギリ。


 私の服は全部「陽太に可愛いと思われるため」に選んだもので揃えてあるけど、それでも悩んでしまう。


 例えば、この組み合わせだと頑張りすぎに見えるわけです。


 かといって、カジュアルすぎると手を抜いてると思われたりするんじゃないかと心配になるし。


 でも気合い入れすぎたら、逆に引かれるかもしれないという不安もあって。


 でもでも、初デートなんだからできるだけ可愛くみられたいし。


 でもでもでもでも――


「ど、どうすればぁぁ!」


 ループの合間に雑誌は何回もチェックしている。デートの服装特集なんかは頭にインプットされていた。


 コーデのパターンだって何通りも頭に入っている。


 知識だけは完璧なのに。いざ自分のこととなると、全く活かせない。


 結局、散々迷った末に決めたのは「ちょっとお出かけします」感のあるワンピースだった。


 無難すぎる……すごく無難だ。


 でも、これ以上悩んでいたら遅刻する。


 陽太は待ち合わせの15分前には来てしまうタイプだ。しのごの言っている場合じゃない。


 もうこれで行くしかない。


 ◆


 冬華との待ち合わせは駅前だ。


 俺はうずうずしてしまって家にいられず、約束の時間の15分前に着いていた。

 

 しばらく待つことは織り込み済みだ。だけど家でジッとしてるのもなんかムリっていうか。


「陽太……おはよう」


「あっ、冬華! おはよう」 

 

「ご、ごめん……お待たせした、かな?」


「いや、俺も今来たところだし。それに待ち合わせの時間じゃないぞ。謝ることじゃないって……それより、えっと、その――」


「ん? ……どうしたの?」


「い、いや。その……すげー、かわいいなって」


「はぅ……っ!」


 冬華の格好は白いワンピースに、淡いブルーのカーディガン。


 いつも綺麗だけど、今日は特に……かわいく見える。


 もしかして髪型も違うのか? だめだよく分からん。

 

 でも、いつもと雰囲気がどことなく違うのは分かる。


 何が違うのか分からないけど、いつもより大人っぽくて……とにかくドキッとしてしまう。


「あ、ありがとう……その……陽太が喜んでくれたら……って思って、がんばってみたの」


「すげーいいよ……冬華。その……めっちゃかわいい、です」


「あっ……そ、その……陽太もかっこいいよ」


「マジ? だいたいいつもこんな感じなんだけど……」


 冬華が恥ずかしそうに頬を染めるが、俺も多分似たようなものだろう。


「じゃ、行くか……って、そういえば冬華、今日どこ行くか考えるって言ってたけど」


「うん! えっとね、時間にもよるんだけど……」


 冬華は「私がプラン考えるから、陽太は安心してね!」と張り切っていた。だけど俺だって、なんとなく考えてきている。


 全部彼女に任せっきりにするのも、なんか違うっていうかさ。俺も冬華を喜ばせたいし。

 

「えっと、まず駅ビルの中の雑貨屋さんに行って、それからカフェに行って……その後に公園に……えっと、あれ……違う? どっちが先だっけ……」


「はは、完璧じゃない冬華もいいじゃん。いつも完璧すぎて少し心配してたんだ」


「え、そ、そうなの?」


「そうだよ。いつも完璧だと疲れるだろ? 俺は冬華が楽しめればそれで全然いいんだ」


「……陽太」


「じゃあさ、とりあえず駅ビルに行くか? 冬華が考えてくれた雑貨屋も行くけど、途中で気になった店に適当に入ってみようぜ」


「……えっ、そんな行き当たりばったりでいいの?」


「おう。いいじゃん。俺は冬華がいればそれで楽しいし」


「はぅん……」


 俺は冬華の手を引いて歩き出した。


 男とは違う、女子特有の柔らかくて小さい手。


 手を掴んだ時、冬華は一瞬驚いたような顔をしていたが、その後は嬉しそうだった。

 

 ◆


(冬華視点)


 結局、完璧に組み上げたプランは忘却の彼方へ行方不明になった。


 陽太に手を引かれるまま、目についた店に適当に入って、気になったものを見て笑って。


 途中で見つけたクレープ屋で買ったチョコバナナクレープを2人でシェアしたりした。


 陽太がクレープを一口食べて。その後を私が食べる。


 陽太を攻略しようと、以前は強引にやってきた『間接キス』なのに……


 恋人になった瞬間、私は固ってしまうほど意識してしまう。


 陽太が「え、どうした?」って無自覚に聞いてくるけど、私は「……なんでもない」って逃げた。


 思ったんだけど……これってさ。


 攻略されてるの……私の方じゃない?


 もともとは私が陽太を攻略してたはずの私が、完全に手のひらの上で転がされてるんだけど。


 しかも陽太はまったく意図していない。


 これ天然だよね。天然で女を狂わせるタイプだよ。


 もともとの陽太は「受け身で優しい」性格だったのに……


 彼氏になった陽太は、無自覚に破壊力を振りまく最強の戦士だった。


「お、いいとこ空いててよかったな。冬華、ここに座ろうぜ」


「うん……」


 一通り遊んだ私たちは公園のベンチに座った。すると気を利かせた陽太が、近くの自販機で飲み物を買ってきてくれた。


「ほら。冬華。炭酸好きだろ?」


「ありがとう……」


 隣に座った陽太と、少しだけ肩が触れている。


 いつもなら私から距離を詰めていたのに。今日は陽太の方が自然に近づいてきている。


「……なあ、冬華」


「ん?」


「俺さ……今日、めちゃくちゃ楽しいんだ」


「……うん。私も」


「また一緒に来てくれるか?」


「……うん、もちろんだよ」


 それだけの会話なのに、胸がいっぱいになる。


 策略も計算もない必要ない。


 恋人ってこんな感じなんだ。


 これが……普通のデートっていうものなんだ。

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