表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/37

33

(冬華視点)


 告白から数日後。


 私は今、藍沢陽太の彼女である。


 ……もう一回言っていいかな?


 私は今……藍沢陽太の彼女です。


 私が陽太の彼女!?


 何度繰り返しても信じられない。夢じゃないか不安になって、何回も起きてスマホを確認してしまったくらいだ。


 手元のスマホには、陽太とのトーク画面が表示されている。


 最後のメッセージは昨日の夜の「おやすみ。また明日な」だ。


 くぅ~~っ


 ……これ、付き合ってる人のやつだよね?


 ネットとか少女漫画とかでよくみたやつだよ!


 あの時は、なんだよこのラブラブども。見せつけやがって『爆発しろ』 とか思っていたりしたけれど……


 まさか……私がそのメッセージを受け取る側になるなんて。


 ――ほんと『◯ね』 とか言ってごめんなさい。私が間違ってました。


 今が1番最高です。生きていて良かった……


 それはそうと。


 今日の昼休みに、私たちのことを姫川に報告することになったのだった。


 私と陽太が付き合い始めたことを、姫川にキチンと報告するのだ。


 正直、私は戸惑っている。


 単純に……怖いのだ。


 姫川が陽太に好意を持っていたことは、私が一番よく知っている。今までずっと戦っていた相手だから。


 姫川も陽太もそのことは知らないだろうけども。


 隠し続けるのは姫川に対して不誠実だ、と陽太は言った。


 今回の姫川とは正面から陽太を取り合っていたにも関わらず、なぜか仲良くなってしまっていた。


 私としては不本意だったけど、陽太の言ってることに同意してしまったのも事実。


 陽太と相談して、ちゃんと姫川にも伝えようということになったのだから、しっかり伝えないといけない。



 ◆


 昼休み。ピロティのいつものベンチ。


 今日の姫川さんは遅れてやってきた。


「おまたせ~! 購買混んでてさっ」


 珍しく弁当じゃなかった姫川さんは、購買にパンを買いに行っていたのだ。


 いくつかのパン袋を片手に、姫川さんが元気よく走ってきた。


「思ったより早かったよ。俺たちも今来たところだし。なっ?」


「うん……そうだね」


「ほんと? よかった~」


 いつも通りの口調を心掛けたけど、冬華はは微妙に声が硬いかもしれない。

 

 それも仕方ないことだと思う。


 これから姫川さんに言うことを考えたら……やっぱり緊張してしまうだろう。


 隣に座った姫川さんがパンを開けながら、「ね~今日もどうしたの? 2人ともなんか表情が固いけど~。またケンカしたの?」と笑っている。


 多分だけど……姫川さんも俺たちに気を使ってくれているのかもしれない。

 

 だから、ここで誤魔化しちゃいけない。正直に言わないと。


「……その。姫川さん……あのね……」


「ん?」


 冬華が切り出すが、緊張しているのか次が続かない。


 ここは、俺が言うべきだろう。


 冬華に目配せをして、この先を引き継ぐことにした。


「姫川さん。少し、話があるんだ。聞いてくれないか?」


 俺が真剣な口調で言うと、姫川さんはウィンナーマヨがサンドされたパンを頬張りながらこちらを向く。


 姫川さんの目が、何かを察しているみたいだった。


 さっきまでの笑顔が消えている。


「うん……何、どうしたの?」


 隣にいる冬華が、少し緊張しているのがわかる。


 俺は姫川さんに見えないように冬華の手を握った。


「その実は……俺たち、付き合うことになったんだ」


「……うん。そうだよね。実はさ、なんとなく、分かってたかな……」


「え……?」


「だってさ〜昨日から、2人ともおかしかったもん……」


 あれ……バレてた?


 って、さすがにバレるか。昨日の俺たちは明らかに挙動不審だった。


「……そっか。でも付き合うことにしたのはその後なんだ。で、まあ……姫川さんには、ちゃんとこのこと伝えたくてさ」


 俺がそう言うと、姫川さんは一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、目を伏せた。


 長い睫毛の奥にある瞳が、沈んでいるようだった。


 手に力が入っているのか、パンも少し潰れていた。


 でも、その変化は本当に一瞬のことだった。


「良かったじゃん!」


 次の瞬間には、いつもの太陽みたいな笑顔が戻っていた。


「……おめでとう! 2人とも、お似合いだと思ってたんだよ!」


「姫川さん……」


「やだなあ、上原さん。そんな顔しないでよ~。私は大丈夫だってば」


 少し潰れてしまったウィンナーマヨパンを持ったまま、姫川さんは笑った。


 笑っていたけど――


「そっかぁ……私、上原さんに敵わなかったかぁ……」


 小さく、そう呟いた。


「なんとなく、分かってたんだ。上原さんの方が、私よりも藍沢くんのこと好きなんだろうなって」


「…………」


「藍沢くんも……私より、上原さんのことが好きだったってだけでしょ?」


「姫川……さん……」


「そりゃ、悔しいよ。悔しいけど……しょうがないじゃん? でも私、ちゃんと負けたんだなって。そう思ったの……」


 声は明るい感じなのに、ほんの少しだけ震えている。


 いつもの姫川さんなら絶対に見せないような、小さな小さな動揺があった。


「……ごめん」


 俺は、反射的に姫川さんに頭を下げた。


「やめてよ、藍沢くん! ここは謝るところじゃないんだって!」


「でもさ……」


「いいんだよ。藍沢くんは、自分の好きな人を選んだだけでしょ? それは、すごく正しいし、ごく普通のことだよ」


 姫川さんの声は、強かった。そこに卑屈さなど微塵もない。


 冬華を認めて、そして潔く負けを認めたのだ。


 すごく心が強い女子だと思った……素直に感心した。


 もし逆の立場だったとしたら、俺はこんな風に振る舞えただろうか?


「それに、私だって上原さんのこと好きだしね……あっ、友達としてって意味だからね? 藍沢くんと上原さんを取り合うとかじゃないから安心して。あはは」


「はは。姫川さんと冬華を取り合うとか勘弁だしな」


「姫川さん、ありがとね……」


「いいんだよ~。私、上原さんのこと好きだし」


 冬華と姫川さんの間には、俺には分からない女同士の友情がある。


 ふとした瞬間に女子トークをしていたりと、女子同士で価値観が合うのだろう。


 俺には踏み入ることの出来ない、2人の世界がある。


 この関係を、俺のせいで壊したくなかった。


 ……壊れなくて良かったと思う。

 

「でも、ひとつだけ条件がありまーす!」


「ん?」


 姫川さんがビシッと人差し指を立てた。


「これからも3人でお昼食べようね! それだけは続けたいんだ。これからも友達として仲良くして欲しいの」


「……うん。もちろんだよ!」


「なんだよ。そんなの当たり前だろ!」


「やったぁ! でも……あんまりラブラブなの見せつけるのNGね? そしたら藍沢くんのこと、思いっきりビンタするからね!」


「えっ……何で俺だけ?」


「だって、上原さんは私の友達だし……叩くわけにいかないじゃん?」


 姫川さんが勢いよくパンにかぶりついた。


「そーだな……」


 なんか腑に落ちないけど、まあいいか。


「楽しそうだね……私も一緒に陽太のこと叩きたいな」


「いや、ダメだろっ! そこは守ってくれよ」


「いいね、それ!」


「よくねえしっ!」


「ふふっ」


「あはは」


 いつの間にか固い雰囲気はなくなっていた。

 

 俺の隣では冬華が微笑んでいる。


 好きな女子が幸せそうにしているのを見ると、心が温かくなる。


 そして、友達である姫川さんの楽しそうな姿も、同じくらい俺の心を満たしてくれる。


 俺はこの関係を守りたい。


 恋人も友人も、どちらも俺にとって大切な存在なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ