表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

3

 アパレルショップに着くと、冬華は店舗の入口近くにある棚へ迷わず進んでいく。


「えっと……まずはこのシュシュよね」


 ……もう言葉が出ない。


 買い物に付き合って欲しいって言うから『似合う?』くらいは聞かれるものかと思ってたけど。


 全く迷いなどない。これっぽっちもないんだが?


 買うものがあらかじめ決まっているんじゃないかってくらい、次々と手に取っていく。


 女子の買い物は長くなるって話……あれは嘘だったんだろうか?


「おまたせ、陽太」


「いや、全然待ってないぞ……」

 

 結局、冬華の服選びは3店舗どころか、この店で完結。選ぶのだって5分もかからなかった。


 むしろ会計待ちの時間の方が長かったんじゃないか?


「そういえばあっちのメンズコーナーに陽太が欲しそうなコートあったよ」


「え、この店ってメンズも売ってるのか」


 冬華の買い物が早すぎて、まったく店内を把握しきれていない。


 それなのに冬華の記憶力の良さって、異常だろ。


「あ、たしかにこのコートすげー良いかも……」


 冬華が勧めてきたコートは、見たら欲しくなるようなデザインだった。


 サラサラした生地なのも良いし、袖が少し広がっているところにも惹かれる。


「気に入ったんだったら、試着してみたら?」


「でも、そんなに金持ってきてないしなあ……」


「着るだけだならタダだよ。色は黒でサイズはLがいいね」


「いや俺、普段Mなんだけど……」


「このデザインだったら、少しダボッと着るほうが良いから……」


「そうなのか?」


 冬華に上着を持ってもらって試着してみると、確かにLサイズでちょうどいいかもしれない。


「うん、やっぱり陽太はこのコート似合うよね」


 気がつくと、冬華は俺の後ろから鏡を覗き込んでいた。


「うわっ、顔が近いって」


「ふふっ、驚いた?」


「マジでビビるからやめろって……心臓に悪いわ」


「別に良いじゃん、私だよ?」


 冬華みたいな綺麗な女子に近寄られると、友達だと思ってても少しドキッとするんだって。


「っ……たしかにコートいい感じだな」


「そうでしょ? あ、襟のところ変だよ。動かないで、直してあげるから」


「おっ。悪いな」


 冬華が甲斐甲斐しく襟を直してくれる。いつもこんな感じだったか?


 今日はやけに距離が近いような気がする。

 

 次に立ち寄った本屋は大手チェーン店なだけあって、売り場面積がアパレル店舗よりかなり広い。


 それによく見ると本だけじゃなくて、文具やコスメ、雑貨なども取り扱っている。


 もはや本屋と呼んで良いのかわからないレベルだ。


「私、あっちの方見てるから、また後でね」


「オッケー、じゃ後でな」


 冬華はここで女子向けの雑誌や料理本、小説の新刊とかをチェックしたいらしい。


 女子向けの雑誌コーナーとか、居づらいことこの上ないのでここでは別行動だ。


 俺は漫画雑誌を物色することにした。


 少年誌や、青年誌が陳列されているが……少し離れたところにあるグラビア雑誌の水着のお姉さんの方が色々と気になってしまう。


「…………」


 いやいや、女子と来てるのにこんな雑誌なんてガン見してたら、さすがにヤバいだろ。


 じゃあ、少年誌を読んでる振りをしつつ……目線だけをそっちに向けたらどうだ?


 うん……いい案かも。


 俺はそっと少年誌を手に取って少し移動する。そしてパラパラとページをめくり……不自然にならない様に目線だけを――

 

 すると、誰かが俺の袖を軽く引いた。


「うぉい!」


「いや、驚きすぎだって……陽太って毎回そのリアクションだよね」


「なんだよ、冬華か……いや、毎回ってなに?」


「別に〜。はい、これ」


「ん、なんだ……うそっ、これ新刊?」


 冬華から差し出されたのは、俺が好きで読んでいるミステリー作家の新刊だった。


「陽太、この作家さん好きでしょ?」


「あれ? なんで俺が赤山三郎の黒猫探偵シリーズ好きだって知ってるんだ? 前に言ったか?」


「ふふーん。超能力って言ったら信じる?」


 冬華は、悪戯っぽく笑って目を細める。


 冗談っぽく言ってるけど、なぜか冗談に聞こえない。


「信じてやるよ……しょうがねーな」


 だって、ここまで来たら超能力でしょ?

 

 ほんと今日の買い物……違和感しかない。


 本屋を出るとちょうど昼時だったので、ランチを食べにフードコートに向かったのだが……


「これは……座るところあるのか?」


 かなり混んでいて、座る場所なんてなさそうだった。


 日曜の昼時だ。こうなることはなんとなく予想できていたが、ここまで混雑しているとは……


「うーん、そのうち空くから大丈夫じゃない?」


「冬華って、意外と楽観的なんだな……」


「だって本当だもん。席なんてそのうち空くでしょ? 私並んでるから、陽太は席を探してきてくれる?」


「了解、任せとけ」


 冬華が有名なハンバーガーチェーンの店に並んでいる間に、俺は空いている席を探して歩き回ることにした。


 でも……どの席も埋まっているな。


 2人掛けのテーブル席はダメか……4人がけのテーブル席も……ああ、荷物が置いてある。


 ――空いてる席があったと思ったのに、すでに予約済だったか。


「お、あそこは?」

 

 観葉植物近くのカウンター席が2つ空いている。


「よし、ギリ確保できた……」

 

 俺はその席を急いで確保すると、ハンバーガー屋の列に並んでいた冬華のところへ向かった。


「冬華、なんとか席を見つけたぜ。カウンター席だけどいいよな?」


「座れればどこでも良いよ。ありがとう、陽太」


「冬華は何食べるか決めたのか?」


「私はダブルチーズにしようかな、陽太はテリヤキ玉子のセットでいいんでしょ? コーラとポテトはLで、追加でコーンかな?」


「よく俺が食べたいものわかったな……」

 

 俺が何も言う前に、食べたいものをピタリと当てられてしまった……俺ってそんなに単純か?


 なんとなくショックだったりする。

 

「うーん、なんとなくかな?」


「なんとなく?」


 なんとなくで、そこまでピタリと当たるか?


 番号を呼ばれてトレイを受け取り、俺たちはさっき確保したカウンター席に戻った。

 

 席に並んで座ると、冬華の距離が近い。


 いや、何だってんだ一体。これって友達の距離じゃないだろ。

 

 さっきから肩とか当たってるし。ちょいちょい意識がバーガーから冬華に引っ張られるんだけど。


 冬華の肩、柔らけえな……とか余計なことを考えてしまう。


「…………」

 

 気分を変えようとポテトに手を伸ばそうとした瞬間――

 

「はい、あーん」

 

 絶妙なタイミングで、冬華からポテトが差し出された。


「え、あ、うん……」


 冬華って――すごく気が利くんだよな。

 

「……どう? 美味しい?」


「ん、ああ。普通にうまいけど?」


「……よしっ!」


 もう……なんか、ノルマを達成したみたいに聞こえるから不思議だ。


 昼食を食べ終えた俺たちは、そのまま予定通りにオシャレ雑貨屋をブラブラして回った。


 気がつけば、外はほんのりと夕方の色に変わり始めていて、冬華に感じた違和感は、その頃には無くなっていたのだけど……問題なのは帰り際だった。


 帰り道で冬華は歩きながら、俺の顔を伺うようにチラチラと見てくる。


「なあ、さっきからどうした? なんか付いてる?」


「ううん……今日のイベント、どうだった?」


「イベント? 買い物のことか?」


「そ、そう買い物……楽しかった? 私、どうだったかな?」


「お、おう。すごかったぞ」


 いい意味でも、悪い意味でもな。


「ちゃんと出来てたよね?」


「完璧すぎて、逆に怖いくらいだったな」

 

「そっか……完璧だったんだ」


 満足そうに冬華が笑った後、小さく呟いたのが聞こえた。

 

「……これでフラグ立ったよね?」

 

 フラグ……その言葉が妙に引っ掛かった。


 冬華の独り言なんだろうけど、俺にはその言葉がまるで『予定通り』みたいに聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ