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(冬華視点)


 あれ……何してるんだろう、私。


 自分の部屋の前で鍵を探しながら、私の頭の中は大パニックに陥っていた。


 男の子を? 家に? 上げる??


 男性を自宅に招く時の心得くらいは、雑誌で読んだことがある。


 部屋は清潔に。軽く飲み物を出す。変に期待させすぎない。適度に距離感を保つ。


 ――知識だけはある。


 でも、経験はゼロ。


「冬華、俺……こんなずぶ濡れのままで良いのか?」


「うん、大丈夫っ。大丈夫だから……」


 OL時代だって、男性を自宅に招いたことなんてなかった。


 男の人と付き合ったことだってないのに、家に男の人を連れ込むなんて、あるはずがない。


 ああ――それなのに。


 なんで私は、陽太を家に誘ってしまったのだろう。


「ちょっと待ってね……今、鍵を……もう……どこかな?」


 いや、理由なんて分かってる。


 陽太が私を庇ってくれて。そのせいでずぶ濡れになっちゃって。


 このまま帰したら、絶対に風邪を引かせちゃうから……なんだけど。


 だからって、男の子を家に誘って良かったの?


 ああもう。正解が分からない!


「あった……」


 なんとか鍵を見つけた私は、扉をガチャと開いた。


 ホッとして隣を見ると、陽太が服を絞っている。


 変にテンパったせいで、鍵を探すのに時間がかかったからだろう。


 陽太を待たせてしまったのかも知れない。


「あ、開いたよ……どうぞ。狭い部屋だけど」


「お、お、お邪魔します」


 陽太が、少し緊張した声で言った。


 だけど、私の方が絶対に緊張してるはず。いろいろと舞い上がって、とにかく訳がわからない。


 ふと陽太を見ると、髪から水がポタポタと落ちていた。


 ……そうだ。タオルよ。まずタオルを出さなきゃ。


「今、タオル持ってくるから!」


 私は急いでクローゼットに向かい、バスタオルを探す。


「ええと……これでいいよね?」


 適当なバスタオルを持ってダッシュで戻ると、玄関先で落ち着かない様子の陽太が立っていた。


「はい、これ。……とりあえず拭いて!」


「ありがとな……助かるよ」


「ううん、私のせいで陽太が濡れちゃったんだもん……このくらいさせてよ」


「………………」 

 

 陽太がタオルで髪を拭き始める。

 

 ぐしゃぐしゃと無造作に、男の子らしい乱暴な力強い手つき。


 なにこのご褒美……こんな至近距離で?


 だめだめ……見ちゃダメ。


 濡れた制服が肌に張り付いて、体のラインがいつもよりくっきり見える。


 普段は制服に隠れている肩が、想像してたよりもたくましくて。


 ああ……見ちゃダメって言ってるでしょ!


 なにしてるのよ、私。

 

「あ、あの。濡れた制服、このまま着てたらダメだよね。……その、き、着替える?」


「着替えるって? 俺、替えの服ないけど」


「私の服貸すから、その間にドライヤーで乾かそうかなって……」


「え? いや、そこまでしてもらわなくても――」


「ダメ。陽太を風邪引かせたくないの!」


「ん……じゃあ……おねがいします」


 あれ……でもどこで着替えさせたら?


 私の部屋はワンルームなわけだし、玄関で着替えてもらうしかないか。


「服持ってくるから待ってて!」


 こういう時は、メンズサイズの大きめなTシャツを貸して――。


「って……ない。そんな服、ない!」


 焦って声が裏返ってしまう。


 私がこの世界で揃えたのは、すべて「陽太にかわいいと思われるための、完璧な女子の服」だけ。


 結局、私が選んだのは中学時代の使い古したジャージと、パジャマとして使ってるキャラもののTシャツだった。


「……陽太。着替え、これしかなくて。ちょっと、小さいかもだけど」


「ありがとな冬華……あの、俺、着替えるから。その……」


「うん、いいよ着替えて?」


「いや、そうじゃなくて……」


「…………あっ! ごめん!」


 そうだよ。着替えるのに私が見ててどうするの!


 これじゃ、変態みたいじゃん。


 私のほうが陽太よりも、精神年齢はひと回り以上も上のはずなのに。


 さっきから全然、大人の女子ムーブが出来ない。


「あ、あ、あの! じゃあ私、向こう行ってるから、終わったら言ってね」


 ――数分後。


「冬華、終わったぞ」


 玄関へ続くドアを開いた私は、一瞬言葉を失った。


 パツパツのTシャツに丈の足りないジャージ。そして、気まずそうに視線を逸らす陽太。


「冬華……ごめん。服、伸びちゃうかもしんない」

 

 ……だめだ。


 腕から肩にかけてのたくましいライン、男性ならではの首筋も。全部が生々しすぎて直視できない。


「……最高……かも……」


「そんなわけないだろっ!」


 思わず本音が漏れたけど、陽太は冗談として受け取ってくれたみたいで助かった。


 でもヤバい、顔が熱い。


 はっ……見とれてる場合じゃないでしょ!?


 早く服を乾かさないと。いや、それより先に陽太を乾かさないと。


 ああ……どっちを先に乾かせば良い?


 とりあえず私は、陽太の服をハンガーに掛けて、エアコンのスイッチを入れた。


 そしてドライヤーを準備して……と。次は陽太だよね。


「じゃあ……ここ座って」


「ん……おう?」


 陽太がおずおずとカーペットに腰を下ろす。


 私はその後ろに回り込んで、ドライヤーのスイッチを入れた。


 温風で陽太の濡れた髪を乾かしていく。


「…………」


「…………」


 ブオーンというドライヤーの音だけが部屋に響いている。

 

 あれ……思ったけど、自分で乾かしてもらえばよかったんじゃ?


 でも、こうして陽太の後頭部を間近で見ていると新しい発見がある。


 つむじの位置とか。うなじの髪の生え際とか。そういう、今まで見たことのない細かいところが、はっきり見える。


 それと、もうひとつ分かったことがる。


 陽太って、思ってたより髪が柔らかいんだ……


 ゲーム画面越しじゃ、絶対に見えなかった陽太の個性。


 知らないうちに、ドライヤーを持つ手が震えていた。


「……冬華」


「ひゃい!? な、なに。なにかな?」


 やましいことを考えていたせいか声が裏返った。最高にかっこ悪い。


「いや……ありがとな。こんなことまでしてもらって」


「べ、別に~。これくらい、ふ、普通のことじゃない?」


 これ……普通ですか?


 絶対、普通なわけないよね!


 付き合ってない男の子を部屋にあげて、濡れた髪をドライヤーで乾かしてあげてるなんて。


 今までの私の人生で考えても異常事態だっつーの!


 なにこれ? 大人の恋愛漫画?

 

 私ってば……ハレンチな世界の住人なの?


「冬華の家って、綺麗にしてるんだな。これ、1人で住んでるんだよな……すごいよ」


「……そんなことないよ。ワンルームだし、狭いから出来るだけで」


「でも、ちゃんとしてる感じがするよ。俺、すごいなって感心した」


 陽太の声が、自然体だった。


 まるで、お世辞じゃなくて、本当にそう思っているみたいな話し方。


 今日の陽太……本当になんなの?


 私を不意に庇ってきたり、何気ない一言で、私の心をグラグラ揺さぶってくるんだけど!



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