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エンドロールが流れ終わると、ゆっくりと照明が戻っていく。
「面白かったね~! 犯人、まさかあの人だと思わなかった!」
姫川さんが伸びをしながら出したのは、興奮を隠しきれない声。
「そうだね。あれが伏線だったんだね。途中で忘れてたけど、気がついた時にゾクッとしちゃった」
冬華も満足そうに感想を言うと、俺の方を向いた。
「陽太は、どうだった?」
「あ、ああ。……もちろん良かったよ」
ハッキリ言うと、映画の内容なんて半分くらいしか頭に入ってない。
後半はしっかり見れたけど、前半が……ちょっと考え事してたっていうか。
主に冬華のことだけど。
「どうする〜このまま解散する?」
「せっかくだし、どこか寄っていかないか?」
「じゃあさ~。新しく出来たカフェとかどう?」
「へえ、カフェか……」
「うん、見てこれ!」
姫川さんがスマホを取り出して画面を見せてくる。
「ここのケーキセットが美味しいって評判みたいなんだよっ!」
「……ケーキ!?」
さっきまで静かだった冬華が、明らかに反応した。
一瞬、目がキラッと光った様に見えたのは気のせいじゃなさそうだ。
……てっきり帰りたいのかと思っていたけど。そうでもないらしい。
「姫川さん。そのお店……本当に美味しいのよね?」
「うん『甘すぎなくて、見た目もかわいくてペロッと食べれました』って書いてあるよ!」
「いいね……行こう! 私も行ったことないし、陽太もそれで良いよね? ねっ?」
……冬華って、もしかしてケーキ好きなのか?
いつもよりグイグイ来る感じがする。何ていうか熱量があるというか……
「も、もちろん。冬華と姫川さんが行きたいなら、行ってみようぜ」
「じゃあ、決まりね!」
「うわぁ~! いつになく上原さんが乗り気だ~」
俺は正直なところ、ケーキにさほど魅力を感じないが……冬華と姫川さんが楽しめるならいくらでも付き合う。
映画館と同じビル内に新しく出来たというカフェは、木の質感を活かした落ち着きのある内装だった。
入ってみると、外から見たよりも中は広く感じる。
店の前を通った時からコーヒーのいい香りが漂っていたが……奥の方でサイフォンからコポコポと湯気が立ち昇っているのが見えて納得した。
「わあ……いい匂い~」
「内装、すごくオシャレだね」
「ねっ、なんか大人っぽい感じで最高じゃん!」
「ああ、なんか高級感あるよな……」
姫川さんが目を輝かせて店内をキョロキョロしている。
店員さんが「お好きな席へどうぞ」と言ってくれたが、どの席も良い雰囲気で逆に迷ってしまう。
「どこがいいかな。ソファー席も捨てがたいし、あぁ……窓側もいい感じだよ~」
「あそことかどう?」
冬華が指さしたのは窓に近いソファー席だった。
外が見えて開放感もあるし、姫川さんが気になっていたソファー席でもある。いいとこ取りみたいな場所だ。
「お、いいじゃん。そこにしようぜ」
さっそく腰を下ろすと、ソファーの座り心地がいい。
柔らかすぎず、硬すぎず。でも柔らかめのクッション。ずっと座ってられるタイプのやつだ。
テーブルに置かれたメニューを開くと、姫川さんと冬華が同時に「うわ~」と声を上げた。
「ちょっと見て! ケーキの種類、多くない?」
「これは……期待できるわっ!」
メニューの写真には、表面の焦げ目がきれいなバスクチーズや真っ白なレアチーズのケーキ。
淡いピンク色の層が綺麗なミルクレープ。
濃厚そうなチョコレートケーキに、ベリーぎっしりのフルーツタルトなどが写っている。
「この苺タルト、美味しそう〜!」
「こっちのガトーショコラもコーヒーと合いそう……でもバスクチーズも捨てがたいし……ああ、どうしたら」
「……値段、けっこうするんだな」
姫川さんと冬華は目の色を変えてメニューに食い入っているが……俺はケーキセットの値段に驚いた。
メニューに載っているので1番安くて980円だと?
中央レンジがだいたい1200円くらいだろうか。高いものだと1480円とかもある。
ケーキセットの値段がさっき見てきた映画より高いという事実に、俺は軽くカルチャーショックを受けていた。
だが、2人の認識は違うらしい。
「ケーキにドリンク付きなら、どこもこんなものじゃない?」
「そうだよ~、上原さんが正しい! もっと高いところもあるんだから、この値段は良心的な方だよ?」
マジですか。良心的なんだ。
「そ、そっか……俺、あんまりこういうところこないからな」
「そうなんだ~。あっ見てこれも美味しそうだよ!」
「うわぁ……この断面。素敵」
2人ともテンション高いな……
「決めた。私……このバスクチーズケーキにする」
「じゃあ〜私、苺タルト!」
2人が即決するけど、俺は少し迷ってしまう。
「じゃあ、俺は……シフォンケーキで」
「うん、良いチョイスだね。陽太」
「そ、そうか……?」
よくわからないから、一番安いのを頼んだだけなんだけどな。
注文を終えて一息ついていると姫川さんがニコッと笑う。
「こういう時間、なんかいいよね。そういえば、さっきの映画のラスト。主人公がヒロインの手を引いて走るシーン、良くなかった?」
「分かる。あれ、絶対泣かせにきてるよね」
姫川さんが楽しそうに映画の感想を話し、冬華が相槌を打つ。
最近よく見かけるようになった2人で談笑する光景が微笑ましい。
そうこうしていると、ケーキが運ばれてきた。
「はぁ……おいしそう」
冬華が小さく息を漏らしながら、バスクチーズケーキを一口食べる。
すると、パァっと表情が明るくなった。
「うん。これ、好き……」
「こっちのタルトも美味しい〜!」
姫川さんも満足そうにフォークを口に運んでいる。
なんとも平和な時間が流れているけど。
でも、もしも……
もしもあの時。冬華が告白を受けていたら?
冬華はここに居なかっただろう。
今のこの時間は……存在しなかったのかもしれない。




