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 それから数日後の放課後だった。


「陽太ごめん、今日はちょっと用事があってさ」


 帰り支度をしていると、冬華はいつもと少し変わった様子でそう言った。


「もしあれなら、先に帰ってていいよ?」


「ああ……いや、少しなら待ってるよ」


「本当? じゃあ、急いで用事済ませてくるね」

 

「おぅ……」

  

 さて……どこで待つべきか。


 無難に教室で時間を潰すか?


 ふと、窓の外に目をやると、見慣れた女子生徒の人影が目に入った。


「あれは、冬華……?」


 用事って外でだったのか?


 てっきり職員室か何かだと思っていたのだが。


 冬華は1人で体育館へ向かっていたが、体育館の中には入らずに裏の方へ歩いていく――


 植え込みや壁に挟まれた、人目につきにくい体育館の裏へと。


「何であんなところに…?」


 わざわざ人目につかない場所に行くなんて、どうしたのだろうか。


 ……まさか、トラブルに巻き込まれたとか?


 居ても立っても居られず、俺の足は体育館裏へと向かっていた。


 急いで体育館裏へ行くと、冬華の後ろ姿が見えた。


 どうやら……誰かと向かい合っているみたいだ。

 

 相手は、少し背の高い男子生徒。だが、クラスの奴じゃない。


 あの顔には見覚えがない。


 それでも同じ制服を着ているからウチの生徒なのは間違いないだろう。


 同じ学年か、それとも先輩か……見た目じゃ、判断がつかない。


 だけど険悪な雰囲気とかじゃなさそうなので、今飛び出していく必要はなさそうだ。


 もし冬華が危険な目に合いそうなら……その時に割り込めばいい。


 ひとまず、壁に隠れて様子見することしにした。


「上原さん……その! 来てくれてありがとう……」


 なるほど、相手の男子が冬華を呼び出したみたいだ。


 だが、なんか雰囲気がおかしい。


 やたら恥ずかしそうにしているというか……


「実は…………ひと目見た時から……」

 

 ――おいっ!? これって告白じゃないか。

 

 あれ、じゃあ今俺がやってることって……覗き見じゃん!


「俺……上原さんのことが……」


 男子生徒の声には恥ずかさがあるが、必死さと真剣さも混じっている。間違いなく、本気の告白だ。


 ダメだ、これは見世物じゃない。すぐに戻るべきだ。


 頭では分かっているのに、胸の奥が妙にざわついて、足が動かない。


 冬華は、何も言わず男子の話を聞いている。こっちからは後ろ姿しか見えないので、冬華がどんな表情なのか、読み取ることができない。


 だけど、背筋はシュッと伸びているので真摯に対応しているのが分かる。


 それが余計に胸をざわつかせる。


「好きです! よかったら……俺と、付き合ってください!」


 ついに、相手の男子が決定的な言葉を口にした。


 男子生徒は緊張して顔が真っ赤だ。


 俺は見てるだけなのに……息がうまく吸えない程に、気持ちが掻き乱されていた。


 よく考えたら、冬華が告白されるのなんて、当たり前なのに。


 どこから見たって可愛いし、大人っぽくて綺麗だ。もちろん性格だっていい。優しくて、気が利いて、勉強だって出来て……モテて当然だ。モテない方がおかしい。


「………………」


 冬華は真剣に考えているのか、告白にはすぐに答えなかった。

 

 たった数秒のはずの沈黙が、やけに長く感じる。


 頼む、断ってくれ。


 自分でもよく分からないけど……そう思ってしまった。


 そのうち冬華が小さな声で何かを喋りだした。


 だが俺に背中を向けているせいか、冬華の声は俺の耳に届かない。


「気持ちは嬉しいけど……付き合えません」


 この言葉は、ちゃんと聞き取れた。冬華は相手の告白を断ったようだ。


「そ、そうか……。急に呼び出してごめん。時間を割いてくれて、ありがとう」


 男子生徒は冬華に頭を下げて、立ち去ろうとするが――


 ヤバい! こっちくる。


 俺はダッシュでその場を離れると、なぬくわぬ顔で昇降口まで戻って、冬華を待つことにした。


 平然を装っているけど、俺の心は平常心じゃいられなかった。

 

 冬華が告白を断ったという事実に、安堵している自分がいるのは確かだ。


 だけど、胸の奥に残ったこの感じは、なんなんだ?


 安心……とは違う別の感情。


「あ、陽太! ここにいたんだ」


「お、おう。教室で待つよりも、ここが良いかなってさっ」


 嘘だ……。俺は冬華の後をつけてきたからここにいるんだ。


「じゃあ、帰ろっか?」


「そうだな!」

 

 冬華は、当たり前みたいに俺の隣りにいてくれるけど……俺の彼女じゃない。


 とっても魅力的な女子で、誰かに取られてしまうかも知れない存在なんだ。


 そんなこと、最初から分かっていたはずなのに。俺は……その現実を見ないようにしていただけだ。

 

 冬華が、他の誰かの彼女になる可能性を、どうして今まで考えなかったんだ。

 

 そう考えると、俺の胸に……得体のしれない苦しさが押し寄せてきた。

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