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 俺たちは教室を出て、中庭に面したピロティへ移動した。


「ねえねえ、ここいいんじゃない?」


 姫川さんが相変わらずの無邪気さ全開で、楽しそうに両手を広げる。

 

「うん、人も少ないし、さっきよりいいかも」


「そうだな。日陰もあって涼しそうだ」


 冬華もこのピロティで食べることに賛成のようだ。


 俺としては、嫉妬と殺気の入り混じった視線が集中しなければどこでも良いと思っていたが、ここは雨の日だって問題なさそうだし、場所として好条件なんじゃないか?


「じゃあ、ここに決定だね!」

 

「お、こっちのベンチが空いてるぞ」


「ここなら、風が気持ちよさそうだね……」


 冬華はそう言うと、何の迷いもなくベンチの中央に腰を下ろした。


「えっ!? 上原さん……?」


「どうしたの姫川さん?」


「あの……こういう時は端から座るものじゃ?」


「じゃあ、姫川さんが端に座ったらどう? ほら空いてるよ」


「そ、そうだね~。じゃあ、端に座ろうかな!」


 姫川さんは冬華の真横に座らず、なぜか距離を取るようにして、ベンチのギリギリ左端に座った。


 え? なになにケンカですか?


 と思ったが、そうでもないらしく姫川さんは笑顔で俺に話しかけてくる。


「さ、藍沢くんも座ろう?」


「ふぇ?」


 思わず変な声が出てしまう。


 だって……ギリギリ端っこに座っている姫川さんが、冬華との間に空いた狭いスペースをポンポンしているからだ。


 冬華がベンチの真ん中に座っているせいで、そこは……つまり2人の間はかなり狭いけど……俺、本当に座るの?


「ほら、早く早く! 昼休み終わっちゃうよ~」


「あ、ああ……そうだな」


 促されるまま2人の間に座るが……いや、やっぱり狭いよ!?


 結果として……冬華が真ん中、俺がその隣、姫川さんがさらにその隣という、キッツキツ配置。冬華の右隣は誰も座ってないのに広々と空いているという謎の完成形に決まった。


 肩が密着するのは当然として、足だって当たってるし。ここは満員電車か?


 かわいい女子たちと密着するのは全然嫌じゃないけど、ここまで狭いとさすがに食べにくいんじゃ?


「冬華……あのさ」


「どうしたの陽太?」


「いや、なんでもない……」


 冬華が右端にズレてくれればこの問題は解決するのだが、そのつもりはなさそうだ。むしろ『何か問題でも?』みたいな顔をされた。


 こんなにも狭いのに姫川さんはニコニコしているし……マジで意味がわからない。


 なんで誰も止めないの? 我慢比べとか?


 でも……1番苦しいの、挟まれた俺っぽいんだけど。

 

「それじゃ、食べようか。いただきまーす!」


 姫川さんが手を合わせ可愛らしい弁当箱を開けると、茶色系のおかずが並んでいるのが見えた。アイドルみたいな見た目に反して、どうやら肉食派らしい。


 俺と冬華もそれぞれの弁当を広げる。と言っても俺はコンビニで買ったおにぎりとサンドイッチだが。


 隣りにいる冬華は、相変わらず彩りの良いおかず構成だ。


「ほんといつも思うけど、それ全部自分で作ってるなんて、すげーよな」


「え? 上原さんって自分でお弁当作ってるの?」


「うん。私、1人暮らしだから。自分で作るしか無いじゃん?」


「「え!?」」


 俺と姫川さんの声が重なった。思わず目を合わせてしまう。


 そりゃ……驚くよな。高校生で1人暮らしってなかなか聞かないから。

 

「あれ? 陽太にも言ってなかった?」


「ああ……初めて聞いたよ」


「いろいろあってね、アパートを借りてるんだ」


「…………」 


 冬華って……もしかして、結構苦労してるんじゃないか?


 だから、こんなにも大人っぽいのかも知れない。

 

「そっか、藍沢くんも初めて聞いたってことは……上原さんの部屋に行ったことないんだね?」


「うえっ!? あ……まあ、そうだな」


「そっか、良かった!」


 いや、良かったってなんだ?


 俺が冬華の部屋に行くと問題あるみたいな話し方だったけど。


「ところで藍沢くん、意外と少食なんだね。それで足りるの?」


 鮭おにぎりとツナマヨのサンドイッチ。食べ盛りの男子としては少なめかもしれない。


 だが――

 

「ああ……いや。これには理由があって――」


「陽太、はい。あ~ん」


 いつものように冬華がおかずを分けてくれる。


「……うまっ!」

 

 久し振りに食べたけど、やっぱり冬華手作りの玉子焼きは美味い。味付けも焼き加減も俺の好みのもので最高だ。


「え? なにそれ……上原さんって、藍沢くんの彼女になったの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……いつもこんな感じっていうか」

 

「ふーん、いいなあ~。私も上原さんのおかず食べてみたいな。ねえ、これとなにかトレードしない?」


 姫川さんはメインのおかずであろう、生姜焼きを差し出すようだ。


 だが、冬華は迷っている。


「うーん、どうしようかな……」


「ぐぬぬ……じゃあ、このミートボールも付ける!」


「……仕方ないなあ。姫川さん、なにが食べたいの?」


「やったあ! じゃあね~このハンバーグにしようかな」


 姫川さんは肉食派だ。これは間違いない、だってトレードするおかずが全部肉だ。肉を肉とトレードしてる。


 すると、冬華が俺の顔を見て呟いた。

 

「あ……陽太ちょっといい?」


「ん、なんだ?」


「口の端、ついてるよ」


「まじで?」


 冬華は自分の箸を置くと、ポケットからスッとティッシュを取り出し、俺の口元に手を伸ばした。


 聖母みたいな落ちついた雰囲気と優しい力加減で、俺の口元を拭き取ってくれる。


「もう、子供みたいなんだから……」


「あはは……わりぃ」


「…………藍沢くんっ!」


「お? どうした、姫川さん」


「その、こないだの遊園地、楽しかったね」


 急に話題が変わるな……。


 姫川さんはマイペースな人だし、特に不思議はないけど。


 遊園地と言えば、こうやって一緒にご飯食べたことが思い出される。


「そうだな……あれは楽しかったな!」


「じゃあさ、また今度みんなで出かけようよ」


「ああ、俺はいいけど……冬華はどうだ?」


「もちろん、陽太が行くなら私も行くよ」


「やったあ! じゃあ、決まりね」


 どうやらまた3人で出かけることに決まったみたいだ。姫川さんも冬華と仲良くなりたいって言ってるし、2人に付き合うのも悪くない。

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