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俺は駅前の広場で1人、ボーッと立っていた。
家に帰るのが気まずい……とか、家の鍵を無くしたわけでもなくって――
「……おはよ、陽太!」
私服姿の冬華がこっちに向かって小さく手を振っているのが見えた。
「オッス、冬華」
冬華に応えるように、俺も小さく手を上げる。
そう。俺は冬華と待ち合わせをしていたのだ。
俺たちが休日に合うのは珍しいことだが、これにはちゃんとした理由がある。
今日は冬華の買い物に付き合う約束をしたからだ。
『ねえ、陽太。今度の日曜日なんだけどさ、買い物付き合ってよ。どうせ暇でしょ? 待ち合わせは駅前ね。じゃ、よろしくね』
ってな具合で、俺の意思なんて関係なく強引に予定を入れられた。それでも不思議と嫌な感じはしなかった。
俺たちは仲の良い友達だし、このくらいの頼みを聞くのは特に問題ないのだ。
「相変わらず陽太は来るの早いね」
「なんだよ。悪かったな……」
「別に責めてるわけじゃないけど……もしかして、結構待ったりした?」
冬華は別に遅れてきたわけじゃない。まだ約束の時間の5分前だし、むしろ早く着いたほうだ。
単純に、俺がクソ真面目に約束の15分前に来ていただけの話だったりする。
「いや、そんなことないぞ……ん? 相変わらずっていったか?」
俺と冬華が外で待ち合わせなんて、初めてだったような気がするけど。
「はい、そこ。細かいこと気にしない~」
冬華はクラスの中でも1,2を競うほどのかわいさだが、彼氏がいるとかそういう浮いた噂を聞いたことがない。
こんなにもかわいいんだから、俺なんかと遊んでる場合じゃないぞ、と友達として心配に思ったりもするけどな。
「つーか、その格好……寒くないのか?」
「え、大丈夫だよ。あ、私のこと心配してくれてる?」
制服じゃない冬華を見るのは、これが初めてだ。
ロング丈のコートは良いとして、その下に着ているVネックのニットから少しだけ鎖骨が見えているし、チェック柄のミニスカートとニーハイソックスの間からも白い肌が見えている。
すごくかわいい格好だけど、寒そうに見えるのは勘違いじゃないと思うが。
「冬華が寒くないなら、別にいいけど」
「そうでしょ? それより……どうかな、この格好」
そう言って冬華は自慢げに両手を広げて見せる。
服装にそこまで興味のない俺でも、結構洒落た格好なんじゃないかというのは分かる。詳しいことは……まあ、知らんけど。
「大丈夫じゃないか」
「もう陽太……大丈夫って何よ?」
「全然変じゃないから気にするなってことだ」
「陽太、それ本気で言ってるの?」
冬華がジト目で俺を睨んでくる。こういう時は言い直した方が良いってことだ。
「えっと、似合ってる……ぞ?」
「ブブー、不合格。女子が服装について質問したら『最高にかわいい、付き合ってくれ』とか『世界一似合うぞ、結婚しよう』って答えるのが正解なんだけど」
「あり得ないだろ、その答え……」
「はあ……こないだ学校で習ったでしょ?」
「習わねーよ、そんなのっ!!」
冬華の考えが飛躍しすぎてて怖いわ!
そんなヤバいセリフ、頭の中お花畑なメルヘン王子様くらいしか言わないって。
「なあ、いつまでもここに居たって仕方ないし、そろそろ行こうぜ」
「私は別にこのままでも良いけど?」
「いや、冬華が買い物したいって言ったんじゃねーか」
「そう言えばそうだったね。じゃ、いこうかっ」
それにしても冬華は妙に気合の入った格好をしているな。
これじゃまるで――
「よし。デー……じゃなくて、買い物へレッツゴー!」
「…………」
もしかして、今「デート」って言おうとしなかった?
俺もデートみたいだなと思ったけど、冬華もそう思ってるのかも……って、そんなわけ無いか。デートするなら、気になる人と来たいし。
ショッピングモールというと郊外にあるイメージが強いが、今から向かうのは比較的駅の近くにある場所だ。
駅前の広場から普通に歩いていける距離なので、俺と冬華はこのまま歩いて向かう。
いくつか信号を渡り、コンビニのある交差点を右に曲がると目当てのショッピングモールが見えてきた。
「で……冬華はどの店に行くつもりなんだ?」
「うん、今日はねえ――」
冬華のプランでは、オシャレ雑貨をメインに販売する店舗、大手チェーンの本屋、女子向けのアパレルショップを回りたいらしい。
そうこうしているうちに俺と冬華はショッピングモールへたどり着いた。
ショッピングモール自体の面積も広いし、道路を挟んだ反対側には公園があったりして、一日中遊べそうな感じだ。
「じゃあ私、最初に服を見たいな」
「服か……」
女子の服選びというのは3軒くらい回った後に、最初の店に戻るものだ。と、なにかの雑誌で読んだ記憶が蘇る。
長期戦を覚悟するか……
「あれ、違う店の方が良い?」
「いや、最初は服を見に行くのが正解だな」
「陽太なら、そう言うと思った……」
「さてと、行きたい店はどこら辺にあるんだろうな?」
かなり広い敷地なので、目当ての店舗を探すのも苦労しそうだ。なにせ店舗の数も100以上ある。
ところが――
「ほらこっちだよ、陽太」
このショッピングモールは先週完成したばかりなのに、不思議と冬華の足取りは迷いがない。
当然の様にエスカレーターを登り、2階に着くと躊躇せず左へ曲がって歩いていく。
「よく迷わないで歩けるな……」
「そう? 作りは結構単純じゃん」
「単純かどうかもわかんねーけど?」
これだけ広いと、どこに目当ての店があるのか迷いそうなものなのに、冬華はフロアマップすら見ないでズンズン進んでいく。
「ほら、私ってすごいから」
まるで、どこにどの店があるか……全部知っているみたいだ。
「はいはい……すごいですねっと」
「もっとちゃんと褒めてよ~」
迷いそうだなと心配になってる俺だけが、そわそわして恥ずかしい。
いや、どっちかっていうとおかしいのは冬華の方だ。
「なあ冬華、このショッピングモール最近できたばかりだろ?」
「うん、そうだよ。綺麗でいいよね」
「ああ、そうだな。冬華……やたら詳しくないか。お前だって初めて来たんだよな?」
「そっか。そうだよ……でもね」
そこで冬華は振り返ってこう付け加えた。
「私……すっごく調べてるから」
なんだろう……妙に含みのある言い方で、背筋がブルっとする。
新しく出来たショッピングモールだし、女子はこういう場所が好きなんだろう。道に迷わないほど調べてるんだろうな……そこは感心する。
俺なんか冬華に誘われたって、調べもしなかったのに。
……にしても、詳しすぎないか?




