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 短かったゴールデンウィークが終わり、学校に来ればあっと言う間に日常に引き戻される。


 チャイムがなり、俺と冬華は向かい合わせで昼食を食べ始める。これが俺の日常だ。


 俺にとって昼食の時間は、1日の中で最も楽しみにしている瞬間でもある。


「ねえ陽太、連休中って遊園地以外にどこかに出かけたの?」


「それがさ……家でゴロゴロして終わっちゃったんだよな。ははは」


「そうなんだ~。でも、私もそんな感じだったよ」


「え、冬華も? 意外だな……」


「そう? だいたい休みの日はそんな感じだけど」


「てっきり、冬華ってアクティブに出かけるタイプなのかと思ってたからさ」


「ふーん。じゃ、私がアクティブに陽太を誘ったら、一緒に出かけてくれたかな?」


「え……あ、えーと……そう、かもな」


「ふふ。思い切って、誘えば良かったかな?」


「ちょ……冬華、あんまりからかうなよ!」


 悪戯っぽく笑う冬華に恥ずかしくなって茶化してしまったが、もし誘ってもらえたら嬉しかっただろう。


 いや、俺から誘えば良かったのか?

 

 と、考えていると俺たちに声がかかった。

 

「やっほー、お2人さん。楽しそうだね!」


 5月の陽気をそのまま声にしたような、柔らかく明るいトーン。姫川さんだ。


 以前の俺たちは姫川さんとそこまで関わりが無かったが、連休中に遊園地に行ったことで心の距離はぐっと縮んでいる。


 こんな感じで姫川さんから積極的に声を掛けかけてくるくらいには。


「お、姫川さん。どうしたんだ?」


 よく見ると、姫川さんは弁当袋を手にしている。


 まさか、俺たちと一緒に…………いや、考えすぎか。


「上原さんたちって、いつも一緒にお昼食べてるよね?」


「そうだけど?」


「まあ……そうだな」


「私もさ、一緒に食べてもいいかな?」


 その一言で、クラスの男子の視線が俺たちに集まったのが分かる。


 ――おい、マジかよ。


 ――クラスのツートップが、藍沢の席に集結するってなんなん?


 ――藍沢って、チートスキル持ちの主人公なのか?


 とにかく周囲がざわついている。


 でも、俺にだってこの状況が分からない。俺の心もざわついてるんだが……


 姫川さんはクラスのざわめきなどまったく気にしていないのか、ニコニコと微笑んでいる。


 ――俺はなんて答えたら良いんだ。


 冬華と2人で飯を食うだけでも夢のような時間なのに……さらに学年屈指の美少女である姫川さんが加わるのか?


「ダメ……かな?」


 首をかしげて、ちょっと困った顔をしているが、それも反則級のかわいさだ。


 姫川さんの言葉で、教室中の空気がさらにピリついたのが分かる。


 男子たちの嫉妬は殺気を放つレベルにまで達し、女子たちの好奇の視線が俺にグッサグッサと突き刺さる。


 俺は助けを求めるように冬華を見たけど、冬華は何も言わない。


 だが、冬華の箸を持つ手が止まった。


「…………」


 表情はいつも通り、大人っぽくて綺麗な彼女だが、一瞬だけ姫川さんを視線で捉えた。


 そしてすぐ俺に戻ってきて、無言でニッコリと微笑む。


 なんだ……この圧は。


 顔を歪めるわけでも、刺すように睨むわけでもない。優しい笑顔なのに……やたらプレッシャーを感じる!


 そして謎の寒気が押し寄せてくる。


 これは……遊園地でも味わった、極寒の冷気。


 冬華の笑顔から察するに『判断は任せる』ってところだろう。


 それとも『分かってるわよね?』っていう無言の牽制なのか?


 なぜか、冷や汗が止まらない……!


「その上原さんの笑顔は……オッケーってことだよね!」


「………………」


「私たち3人って、仲良しだもんね!」


 クラスメートのざわめきが、さらに大きくなる。


 姫川さんの無邪気さが怖い……ナチュラルにみんなを煽らないでくれよ。


「じゃあ、ここに座ろ~っと」


「……仕方ないわね。姫川さんのことだから……ここで断っても、毎日つきまとったり、無理やり一緒に食べたりするだろうし」


「もう、やだな~上原さん。それじゃまるっきりストーカーじゃん。それに無理やりってなにかな? 私のこと何だと思ってるんだよ~。あはは」


「…………」


 普通に仲良しっぽい会話だけど……微妙に空気が重いような気がする。


 なんだろう。周囲の視線のせいかも知れないな。


 冬華と姫川さんが一緒にいることなんてほぼ無かったから、クラス中の視線が集まっていてのんびり飯を食うような雰囲気じゃない。


「な、なあ。ちょっと場所変えないか? なんていうか、ここだと目立ち過ぎるっていうかさ」


「そうね。陽太の言うとおりかも」


「うん! 賛成! どこ行く?」


 冬華は俺の意図を読み取ってくれたみたいだが、姫川さんは無邪気に喜んでいて意味を分かっているかは疑問だ。


「とりあえず、教室を出ようぜ」

 

 どこに行くかは歩きながら決めればいい。まずこの重苦しさから逃げたい。

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