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 というわけで、俺たちはチュロス片手にブラブラと歩いている。


「んふ〜っ! 美味しい。チョコの濃厚さが最高だよ~!」


 姫川さんはガブッとチュロスにかじりつくと、幸せそうな声を上げていた。


 姫川さんのかわいい食べ方のせいか……チョコチュロスがめっちゃ美味しそうに見える。

 

 俺もチョコを選べば良かったかも、とさえ思えてくるから不思議だ。


 イチゴもうまいんだけどな!

 

「ねえ藍沢くん、一口食べてみない?」


「え?」


 俺が見すぎていたからだろうか、姫川さんから思わぬお誘いがきた。


「ほら、私のおすすめのチョコ味だよ? ほぉら、あーん」


 姫川さんがニコニコしながら、チョコ味のチュロスを俺の口元に突き出してくる。


 もう、口にあたりそうなんだけど……


 チョコの香りが漂ってきて美味しそうだ。あれ、でもここって……姫川さんが口をつけた場所じゃないか?


「えっと……俺、食べて良いの?」


「もちろんだよ。後で藍沢くんのも貰うから安心して! ほら、口開けて」


 キラキラした笑顔なのに、断ることを許さないような圧を感じる……なぜだ。


 良いのかな……と悩んでいると、横にいる冬華の視線がやけに刺さる。


 冬華とは普通に間接キスしているし、姫川さんだけ拒否するのはおかしいってことか?


 俺は観念して口を開けた。


「じゃあ……いただきます」


 パクりとかじりついてみると、濃厚なチョコの甘さが一気に広がる。


「どう? 美味しいかな?」


「チョコも美味いね!」


「でしょ? えへへ」


 姫川さんは満足そうに微笑むと、俺の食べた部分から平然と食べ始めた。


  姫川さんも冬華と同じで、間接キスとか気にしないタイプなのか?


 俺ばかりが意識してしまっているのだろう。きっと高校生はこれが普通なんだな。


「…………っ!」


 なんだ……この寒さ!


 急に反対側から、極寒の冷気が押し寄せてくる。5月は結構暖かいはずなのに、真冬と間違えそうになる程の圧倒的な冷気。


 身震いしながら、恐る恐る振り返ると……冬華がジト目で俺たちを見ていた。


「と、冬華……ど、どうしたんだ?」


「……陽太」


 冬華は一歩、俺に詰め寄ると、自分のシナモン味のチュロスをスッと差し出す。


「こっちも、味見しなさい……」


「…………」


 冬華って……こんなに声低かったか?


 それになんか……命令されてるみたいな感じなんだけど。いつもと雰囲気が違うような。


「チュロスのスタンダードはシナモン味と決まってるの。絶対に美味しいはずだから……食べて」


 気のせいか、冬華の瞳に光が無い。


 それに言葉にも、有無を言わせない強制力みたいな響きを感じる。


 これは『食べてみる?』という女子特有のかわいい提案じゃない。


 絶対的強者による『食べなさい』という命令だ。


 まるで、パワハラ上司が部下に有無を言わさず仕事を押し付けるみたいなプレッシャーが……俺、高校生だから想像だけど。


 冬華の食べかけを貰うのは初だが、姫川さんのチュロスを食べた以上、断るなんて選択肢は無い気がする。

 

「あ、ああ……じゃあ、一口もらうよ」


 俺は謎の寒気でガタガタ震えながら、冬華のチュロスにかぶりついた。


 すると、心なしか空気が軽くなったような気がする。


 口の中にシナモンの香りと砂糖の甘さが広がっていく。これも普通にうまい。


 スタンダードな……みんなが想像するチュロスそのものの味だ。

 

「……どう?」


 冬華が光を一切宿さない瞳で、俺の反応を待っている。


 無表情過ぎて、どういう感情なのか読み取ることが出来ない。


 冬華はもともと大人っぽいせいか、闇の魔女みたいな雰囲気だが……これはこれでかわいいな。


「やっぱ、シナモンも美味いな。冬華、ありがとな」


「うん……そうでしょ。ふふ」


 おお……なぜだ?


 冬華が笑顔になったら急に暖かくなったぞ。


 まるで陽だまりの様にポカポカする。さっきまでの寒気は何だったんだろうか。


 やっぱり冬華も俺が食べた箇所にかじりついた。


 それを見ていた姫川さんの雰囲気が急変した。


 ずっと変わらず、楽しそうな笑顔のはずなのに……殺気みたいなものを感じる。


 かわいい女子2人から『あ~ん』されるという、全男子が泣いて喜ぶシチュエーションのはずなのに。


 ――めちゃくちゃ、居心地が悪い。


 なんで俺は……こんなに冷や汗をかいているんだろう。


 さっきから喉がカラカラだ。もしかして、チュロスに口の中の水分を持って行かれたのだろうか?


「ねえ陽太、喉乾いてるでしょ?」


「うん、実はそうなんだ。チュロスのせいかな?」


 俺が水を受け取ろうとした時、横からスッと手が伸びてきた。


「あ、私も一口ちょーだい!」


 姫川さんは俺が取ろうとしたペットボトルをヒョイっと奪うと、ゴクゴクと飲みだした。


「うん! 美味しい~」


 それ……俺が飲むつもりだったやつで、さらに言えば冬華が口をつけていたやつなんだけどいいの?


 チラリと冬華を見ると、笑顔のままの固まっている。


 いや、あれは笑顔なのか?


 目が笑っていないような……微妙に頬の辺りがピクピクしている。


「はいどーぞ、藍沢くん!」


 俺が姫川さんからペットボトルを受け取ろうとすると、また横からスッと手が伸びてくる。


「私も喉が乾いちゃったかもっ」


 冬華は、俺が取ろうとしたペットボトルをサッと奪うと、上品に飲みだした。


 あの……俺も喉乾いてるんだけど?


 なんて、言えない雰囲気だ。


「さ、どうぞ陽太。殺菌し……じゃなくて美味しい水だよ」


「お……ありがとう」


 今度こそ飲める……と思いきや。姫川さんが冬華から強引にペットボトルを奪う。


「なんだか、もっとお水飲みたくなっちゃったな〜!」


「あ……えっと……」


 姫川さんが喉を鳴らしながら、ゴキュゴキュと音を鳴らし豪快に水を飲む。


 元気があってとてもよろしいが、俺の飲む分ってどうなるの……


「はいどーぞ、藍沢くん!」


 あ、良かった。飲ませてもらえるらしい。


「私も、もっと飲もうかな!」


 だが、姫川さんから差し出された水は、当然の様に冬華が飲む。


 なんだこりゃ……


 これって、永遠にループして終わらない奴じゃ?


 いったい何が、彼女たちの闘争心に火を付けたんだ。


 それとも、新しい漫才のネタ合わせなのか?


 頼む、誰か説明してくれ……

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